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精霊に愛された素晴らしき村の終焉 第7話
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だがそれは、性根の腐った二人らしい『よくない余裕』だった。それまで必死にしがみつき、何度も『頑張ってくれ』『あなたの足だけが頼りなのよ』と励ましていた駿馬が、山道で疲労し、明らかにスピードが落ちたのに気付くと、二人は露骨に文句を言う。
「何をとろとろ走っておる。それ、もう少しだ。根性を出さんか。ええい、鞭さえあれば、血が出るほど尻を叩いてやるものを」
「おっそいわねぇ。これ、本当に村長自慢の駿馬なの? あのジジイ、ちゃんと調練してなかったんじゃない? ほら、本気で走らないと馬刺しにして食べちゃうわよ」
カレンの祖父と姉がどう罵ろうとも、この馬は良く調練された名馬だった。なので、慣れない山道を、それでも懸命に、従順に進んでいく。
行く先に、古木で作られた小さな看板があった。誰も手入れをしていないのか、苔だらけなうえ、伸び放題の雑草に遮られており、とても見づらい看板であった。
看板はたった今カレンの祖父と姉が逃げてきた村の方角を指すように立っており、古ぼけた文字でこう案内していた。
『この先、心優しき精霊に愛された素晴らしき土地、クォール村』
そう。あの村の名前は、精霊クォールの名を冠した『クォール村』だった。遥か昔、クォールと交流することのできた人間が、自分たちを守護してくれる彼を敬愛し、その名を村につけたのだろう。
今では、村の名前の由来を知るものはいない。知ろうとするものもいない。というより、村人はもうほぼ全滅だ。現在ここにいるのはただ二人、『心優しき精霊に愛された素晴らしき土地』から逃げ出そうとしている、心の醜い老人とその孫娘だけだった。
その逃避行は、不意に終わる。
道が、なくなっていたからだ。
「う、嘘でしょ……何よこれ……っ!」
他の地域へとつながる唯一の道が、土砂崩れで埋まっていた。山の木をむやみやたらに伐採すると、こういった山肌の崩壊が起こりやすくなる。これまでそれがなかったのは、クォールの守護のおかげだった。
「ふざけんじゃないわよっ! まともな道はここだけなのよっ! 藪の中の獣道なんて進めないわよっ! ここで行き止まりってこと!? くそっ! くそっ! ふざけんなっ!」
一目見ただけで、通行は不可能だと思い知らされる惨状に、カレンの姉はヒステリックに叫び、カレンの祖父は、ただ絶句するしかなかった。
その時、遠くから不思議な音が聞こえた。
どっどっど。
太鼓に似た、不思議な音だった。
どっどっど。
どっどっど。
その音は、どんどん大きくなり、どんどん増えていく。
どっどっど。
どっどっど。
どっどっど。
カレンの祖父と姉の顔が、青ざめる。
なんとなく、わかったのだ。
これが何の音か。
「何をとろとろ走っておる。それ、もう少しだ。根性を出さんか。ええい、鞭さえあれば、血が出るほど尻を叩いてやるものを」
「おっそいわねぇ。これ、本当に村長自慢の駿馬なの? あのジジイ、ちゃんと調練してなかったんじゃない? ほら、本気で走らないと馬刺しにして食べちゃうわよ」
カレンの祖父と姉がどう罵ろうとも、この馬は良く調練された名馬だった。なので、慣れない山道を、それでも懸命に、従順に進んでいく。
行く先に、古木で作られた小さな看板があった。誰も手入れをしていないのか、苔だらけなうえ、伸び放題の雑草に遮られており、とても見づらい看板であった。
看板はたった今カレンの祖父と姉が逃げてきた村の方角を指すように立っており、古ぼけた文字でこう案内していた。
『この先、心優しき精霊に愛された素晴らしき土地、クォール村』
そう。あの村の名前は、精霊クォールの名を冠した『クォール村』だった。遥か昔、クォールと交流することのできた人間が、自分たちを守護してくれる彼を敬愛し、その名を村につけたのだろう。
今では、村の名前の由来を知るものはいない。知ろうとするものもいない。というより、村人はもうほぼ全滅だ。現在ここにいるのはただ二人、『心優しき精霊に愛された素晴らしき土地』から逃げ出そうとしている、心の醜い老人とその孫娘だけだった。
その逃避行は、不意に終わる。
道が、なくなっていたからだ。
「う、嘘でしょ……何よこれ……っ!」
他の地域へとつながる唯一の道が、土砂崩れで埋まっていた。山の木をむやみやたらに伐採すると、こういった山肌の崩壊が起こりやすくなる。これまでそれがなかったのは、クォールの守護のおかげだった。
「ふざけんじゃないわよっ! まともな道はここだけなのよっ! 藪の中の獣道なんて進めないわよっ! ここで行き止まりってこと!? くそっ! くそっ! ふざけんなっ!」
一目見ただけで、通行は不可能だと思い知らされる惨状に、カレンの姉はヒステリックに叫び、カレンの祖父は、ただ絶句するしかなかった。
その時、遠くから不思議な音が聞こえた。
どっどっど。
太鼓に似た、不思議な音だった。
どっどっど。
どっどっど。
その音は、どんどん大きくなり、どんどん増えていく。
どっどっど。
どっどっど。
どっどっど。
カレンの祖父と姉の顔が、青ざめる。
なんとなく、わかったのだ。
これが何の音か。
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