21 / 144
第21話(デルロック視点)
しおりを挟む
王となってから、初めて迎える朝。
邪悪なる魔女と鬱陶しい弟を国外に追放し、憂いなく、晴れやかな気分で目を覚ました私だったが、なんだか妙に体が重い。まるで、深酒した翌日のような体調だ。……おかしいな、昨日は一滴も飲んでいないのだが。
ベッドから起き上がると、鏡台の方に向かい、私は自分の顔を確認した。
「うっ……」
思わず、呻きが出た。それなりの睡眠時間は取ったはずなのに、目の下にはクマができ、ひどく疲れた顔をしていたからだ。いや、まあ、昨日は大変な一日だったからな。一晩寝ただけでは、疲れが完全に取れなくても無理はない。
いかんな、こんなことでは。
これから、王としての激務が待っているのだ。
薬師に命じて、何か、肉体疲労に効く強壮剤を処方させよう。
私は食事もそこそこに、朝から重臣たちを集め、会議を開いた。
今後の政治方針を決定する、重要な集まりであるから、重臣たちにも積極的に意見を求めたのだが、どうも皆、覇気がない。何を問いかけても、いかにもだるそうな様子で、生返事を返すだけである。
その不真面目な態度に、私は憤然とし、声を荒げた。
「お前たち、やる気があるのか! これは、今後の国の行く末を決める、重要な会議だぞ!」
私に一喝され、重臣たちは「ははーっ」と頭を下げたが、だるそうなのは相変わらずである。そんな中、高齢者ぞろいの重臣たちの中でも比較的若い男が、コホコホと咳をしながら、口を開いた。
「国王陛下、恐れながら、申し上げます」
「なんだ?」
「今朝、少々冷え込んだせいもあってか、皆、体調を崩してしまっているようです。本日の会議は、簡潔な内容にとどめ、国の行く末に関する重要議題に関しては、また次の機会に論じてはいかがでしょうか?」
確かに今朝は、春先にしては寒かった。
窓の外に、うっすらと霧がかかっていたくらいだからな。
だが、それにしたって、重臣全員が体調を崩すとは、なんというザマだ。これから新しい国家体制を築かねばならないという大事なときなのに、たるんでいるにもほどがある。
私は腕を組み、重鎮たちをぐるりと見渡してから、厳しい声で言う。
「お前たちは、自分の体調管理もまともにできんのか。こんなことがこれからも続くようだったら、今後の人事についても考えなくてはならんな。体の弱い重臣など、我が国には必要な……コホッ」
私は、驚いた。
言葉の最中に、小さな咳が出たからだ。
咳?
咳だと?
この私が?
別に、むせたわけではない。
肺の底から、私の言葉を遮るように上がって来た、嫌な咳だった。
私は、体力には自信がある。
風邪など、少なくともここ十年間は、一度もひいたことがない。
「コホッ、ゴホッ……」
うっ。
また、咳が出た。
しかも今度は、先程よりも、少し大きい。
『自分の体調管理もまともにできんのか』と叱責を始めておきながら、背中を丸めて咳をする私に対し、重臣たちは少々冷ややかな視線を送って来た。
先程、私に意見した若い重臣が、小さく息を吐き、言う。
「どうやら、陛下もあまりお身体の調子がすぐれぬご様子。やはり、今日の会議はここまでにいたしましょう」
邪悪なる魔女と鬱陶しい弟を国外に追放し、憂いなく、晴れやかな気分で目を覚ました私だったが、なんだか妙に体が重い。まるで、深酒した翌日のような体調だ。……おかしいな、昨日は一滴も飲んでいないのだが。
ベッドから起き上がると、鏡台の方に向かい、私は自分の顔を確認した。
「うっ……」
思わず、呻きが出た。それなりの睡眠時間は取ったはずなのに、目の下にはクマができ、ひどく疲れた顔をしていたからだ。いや、まあ、昨日は大変な一日だったからな。一晩寝ただけでは、疲れが完全に取れなくても無理はない。
いかんな、こんなことでは。
これから、王としての激務が待っているのだ。
薬師に命じて、何か、肉体疲労に効く強壮剤を処方させよう。
私は食事もそこそこに、朝から重臣たちを集め、会議を開いた。
今後の政治方針を決定する、重要な集まりであるから、重臣たちにも積極的に意見を求めたのだが、どうも皆、覇気がない。何を問いかけても、いかにもだるそうな様子で、生返事を返すだけである。
その不真面目な態度に、私は憤然とし、声を荒げた。
「お前たち、やる気があるのか! これは、今後の国の行く末を決める、重要な会議だぞ!」
私に一喝され、重臣たちは「ははーっ」と頭を下げたが、だるそうなのは相変わらずである。そんな中、高齢者ぞろいの重臣たちの中でも比較的若い男が、コホコホと咳をしながら、口を開いた。
「国王陛下、恐れながら、申し上げます」
「なんだ?」
「今朝、少々冷え込んだせいもあってか、皆、体調を崩してしまっているようです。本日の会議は、簡潔な内容にとどめ、国の行く末に関する重要議題に関しては、また次の機会に論じてはいかがでしょうか?」
確かに今朝は、春先にしては寒かった。
窓の外に、うっすらと霧がかかっていたくらいだからな。
だが、それにしたって、重臣全員が体調を崩すとは、なんというザマだ。これから新しい国家体制を築かねばならないという大事なときなのに、たるんでいるにもほどがある。
私は腕を組み、重鎮たちをぐるりと見渡してから、厳しい声で言う。
「お前たちは、自分の体調管理もまともにできんのか。こんなことがこれからも続くようだったら、今後の人事についても考えなくてはならんな。体の弱い重臣など、我が国には必要な……コホッ」
私は、驚いた。
言葉の最中に、小さな咳が出たからだ。
咳?
咳だと?
この私が?
別に、むせたわけではない。
肺の底から、私の言葉を遮るように上がって来た、嫌な咳だった。
私は、体力には自信がある。
風邪など、少なくともここ十年間は、一度もひいたことがない。
「コホッ、ゴホッ……」
うっ。
また、咳が出た。
しかも今度は、先程よりも、少し大きい。
『自分の体調管理もまともにできんのか』と叱責を始めておきながら、背中を丸めて咳をする私に対し、重臣たちは少々冷ややかな視線を送って来た。
先程、私に意見した若い重臣が、小さく息を吐き、言う。
「どうやら、陛下もあまりお身体の調子がすぐれぬご様子。やはり、今日の会議はここまでにいたしましょう」
85
あなたにおすすめの小説
出来損ないと虐げられた公爵令嬢、前世の記憶で古代魔法を再現し最強になる~私を捨てた国が助けを求めてきても、もう隣で守ってくれる人がいますので
夏見ナイ
ファンタジー
ヴァインベルク公爵家のエリアーナは、魔力ゼロの『出来損ない』として家族に虐げられる日々を送っていた。16歳の誕生日、兄に突き落とされた衝撃で、彼女は前世の記憶――物理学を学ぶ日本の女子大生だったことを思い出す。
「この世界の魔法は、物理法則で再現できる!」
前世の知識を武器に、虐げられた運命を覆すことを決意したエリアーナ。そんな彼女の類稀なる才能に唯一気づいたのは、『氷の悪魔』と畏れられる冷徹な辺境伯カイドだった。
彼に守られ、その頭脳で自身を蔑んだ者たちを見返していく痛快逆転ストーリー!
コストカットだ!と追放された王宮道化師は、無数のスキルで冒険者として成り上がる。
あけちともあき
ファンタジー
「宮廷道化師オーギュスト、お前はクビだ」
長い間、マールイ王国に仕え、平和を維持するために尽力してきた道化師オーギュスト。
だが、彼はその活躍を妬んだ大臣ガルフスの陰謀によって職を解かれ、追放されてしまう。
困ったオーギュストは、手っ取り早く金を手に入れて生活を安定させるべく、冒険者になろうとする。
長い道化師生活で身につけた、数々の技術系スキル、知識系スキル、そしてコネクション。
それはどんな難関も突破し、どんな謎も明らかにする。
その活躍は、まさに万能!
死神と呼ばれた凄腕の女戦士を相棒に、オーギュストはあっという間に、冒険者たちの中から頭角を現し、成り上がっていく。
一方、国の要であったオーギュストを失ったマールイ王国。
大臣一派は次々と問題を起こし、あるいは起こる事態に対応ができない。
その方法も、人脈も、全てオーギュストが担当していたのだ。
かくしてマールイ王国は傾き、転げ落ちていく。
目次
連載中 全21話
2021年2月17日 23:39 更新
失われた力を身に宿す元聖女は、それでも気楽に過ごしたい~いえ、Sランク冒険者とかは結構です!~
紅月シン
ファンタジー
聖女として異世界に召喚された狭霧聖菜は、聖女としての勤めを果たし終え、満ち足りた中でその生涯を終えようとしていた。
いや嘘だ。
本当は不満でいっぱいだった。
食事と入浴と睡眠を除いた全ての時間で人を癒し続けなくちゃならないとかどんなブラックだと思っていた。
だがそんな不満を漏らすことなく死に至り、そのことを神が不憫にでも思ったのか、聖菜は辺境伯家の末娘セーナとして二度目の人生を送ることになった。
しかし次こそは気楽に生きたいと願ったはずなのに、ある日セーナは前世の記憶と共にその身には聖女としての癒しの力が流れていることを知ってしまう。
そしてその時点で、セーナの人生は決定付けられた。
二度とあんな目はご免だと、気楽に生きるため、家を出て冒険者になることを決意したのだ。
だが彼女は知らなかった。
三百年の時が過ぎた現代では、既に癒しの力というものは失われてしまっていたということを。
知らぬままに力をばら撒く少女は、その願いとは裏腹に、様々な騒動を引き起こし、解決していくことになるのであった。
※完結しました。
※小説家になろう様にも投稿しています
妹が聖女に選ばれました。姉が闇魔法使いだと周囲に知られない方が良いと思って家を出たのに、何故か王子様が追いかけて来ます。
向原 行人
ファンタジー
私、アルマには二つ下の可愛い妹がいます。
幼い頃から要領の良い妹は聖女に選ばれ、王子様と婚約したので……私は遠く離れた地で、大好きな魔法の研究に専念したいと思います。
最近は異空間へ自由に物を出し入れしたり、部分的に時間を戻したり出来るようになったんです!
勿論、この魔法の効果は街の皆さんにも活用を……いえ、無限に収納出来るので、安い時に小麦を買っていただけで、先見の明とかはありませんし、怪我をされた箇所の時間を戻しただけなので、治癒魔法とは違います。
だから私は聖女ではなくて、妹が……って、どうして王子様がこの地に来ているんですかっ!?
※第○話:主人公視点
挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点
となります。
婚約破棄され森に捨てられました。探さないで下さい。
拓海のり
ファンタジー
属性魔法が使えず、役に立たない『自然魔法』だとバカにされていたステラは、婚約者の王太子から婚約破棄された。そして身に覚えのない罪で断罪され、修道院に行く途中で襲われる。他サイトにも投稿しています。
大自然を司る聖女、王宮を見捨て辺境で楽しく生きていく!
向原 行人
ファンタジー
旧題:聖女なのに婚約破棄した上に辺境へ追放? ショックで前世を思い出し、魔法で電化製品を再現出来るようになって快適なので、もう戻りません。
土の聖女と呼ばれる土魔法を極めた私、セシリアは婚約者である第二王子から婚約破棄を言い渡された上に、王宮を追放されて辺境の地へ飛ばされてしまった。
とりあえず、辺境の地でも何とか生きていくしかないと思った物の、着いた先は家どころか人すら居ない場所だった。
こんな所でどうすれば良いのと、ショックで頭が真っ白になった瞬間、突然前世の――日本の某家電量販店の販売員として働いていた記憶が蘇る。
土魔法で家や畑を作り、具現化魔法で家電製品を再現し……あれ? 王宮暮らしより遥かに快適なんですけど!
一方、王宮での私がしていた仕事を出来る者が居ないらしく、戻って来いと言われるけど、モフモフな動物さんたちと一緒に快適で幸せに暮らして居るので、お断りします。
※第○話:主人公視点
挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点
となります。
宮廷から追放された聖女の回復魔法は最強でした。後から戻って来いと言われても今更遅いです
ダイナイ
ファンタジー
「お前が聖女だな、お前はいらないからクビだ」
宮廷に派遣されていた聖女メアリーは、お金の無駄だお前の代わりはいくらでもいるから、と宮廷を追放されてしまった。
聖国から王国に派遣されていた聖女は、この先どうしようか迷ってしまう。とりあえず、冒険者が集まる都市に行って仕事をしようと考えた。
しかし聖女は自分の回復魔法が異常であることを知らなかった。
冒険者都市に行った聖女は、自分の回復魔法が周囲に知られて大変なことになってしまう。
聖女の力を妹に奪われ魔獣の森に捨てられたけど、何故か懐いてきた白狼(実は呪われた皇帝陛下)のブラッシング係に任命されました
AK
恋愛
「--リリアナ、貴様との婚約は破棄する! そして妹の功績を盗んだ罪で、この国からの追放を命じる!」
公爵令嬢リリアナは、腹違いの妹・ミナの嘘によって「偽聖女」の汚名を着せられ、婚約者の第二王子からも、実の父からも絶縁されてしまう。 身一つで放り出されたのは、凶暴な魔獣が跋扈する北の禁足地『帰らずの魔の森』。
死を覚悟したリリアナが出会ったのは、伝説の魔獣フェンリル——ではなく、呪いによって巨大な白狼の姿になった隣国の皇帝・アジュラ四世だった!
人間には効果が薄いが、動物に対しては絶大な癒やし効果を発揮するリリアナの「聖女の力」。 彼女が何気なく白狼をブラッシングすると、苦しんでいた皇帝の呪いが解け始め……?
「余の呪いを解くどころか、極上の手触りで撫でてくるとは……。貴様、責任を取って余の専属ブラッシング係になれ」
こうしてリリアナは、冷徹と恐れられる氷の皇帝(中身はツンデレもふもふ)に拾われ、帝国で溺愛されることに。 豪華な離宮で美味しい食事に、最高のもふもふタイム。虐げられていた日々が嘘のような幸せスローライフが始まる。
一方、本物の聖女を追放してしまった祖国では、妹のミナが聖女の力を発揮できず、大地が枯れ、疫病が蔓延し始めていた。 元婚約者や父が慌ててミレイユを連れ戻そうとするが、時すでに遅し。 「私の主人は、この可愛い狼様(皇帝陛下)だけですので」 これは、すべてを奪われた令嬢が、最強のパートナーを得て幸せになり、自分を捨てた者たちを見返す逆転の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる