追放された魔女は、実は聖女でした。聖なる加護がなくなった国は、もうおしまいのようです【第一部完】

小平ニコ

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第29話(デルロック視点)

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「待て、誤解だ! この男は、私が突き飛ばしたから死んだわけではないぞ! この男は、すでに……」

 そこで私は、喋るのをやめた。
 ……『他の者たち』など、誰もいなかったからだ。

 いや、正確に言うなら、いる。さっきこの会議室にやって来た大臣も、使いの者たちも、皆、所定の位置についている。……ついてはいるが、もう『生きた人間』は、誰もいないのだ。

 そう。
 皆、死んでいた。

 ある者は、机に体を預けるように。
 ある者は、地面にへたり込むように。
 またある者は、大の字になって、天井を睨むように。

 私以外は、文字通りの全滅だった。

 何故だ。
 何故こんな……

 そこで、気がついた。

 一度も王宮の外に出ていない私とは違い、大臣たちは、朝の会議の際に外を一往復。そして、今またここに集まるために、再び外に出たのだから、かなりの量の霧を直接吸ってしまったことになる。当然と言えば当然だが、この紫の霧を吸えば吸うほど、体への害は強くなり、死が早まるようだ。

 そうと分かれば、こうしてはいられない。私は門番に命じて王宮の正門を固く閉ざすと、王宮内にいる使用人を総動員し、窓の目張りをさせた。……よし、これで少しは、時間を稼ぐことができるだろう。

 だが、時間を稼いだところで、どうなる? このまま霧が濃くなり続ければ、どんなに窓や戸をふさいだところで、結局は無意味だ。気体の流入を完全に防ぐことなど、不可能だからな。

 知恵袋である大臣たちも、皆死んでしまった。
 だから、自分で解決策を捻りだすしかない。

 ああっ。
 くそっ。

 こんなときに、知識が豊富で、頭の回るマールセンがいたら、何かの役に立ったのかもしれないのに。……いや、よそう。もういない奴のことをあれこれ言っても時間の無駄だ。

 どうする? 籠城していても、いつかは死んでしまうのだから、最も足の速い馬で霧の中を突っ切り、他国に逃れるべきか?

 無理だ。

 大臣たちは、たったの一回半、外を往復しただけで、死んでしまったのだ。この霧がどこまで広がっているか分からない以上、外に出るのは自殺行為に等しい。

 私は絶望感に打ちのめされ、頭を抱えた。

 ガシャン。

 ……なんだ?
 今の『ガシャン』という音は。

 ガシャン。
 ガシャン。

 まただ。
 今度は、二度も続けて……

 そこで私は、青ざめた。
『ガシャン』が、何の音か、気がついたからだ。

 ああ。
 あああ。

 これは。
 ガラスが、割れる音だ。

 王宮の、どこかのガラスが、割れてしまったのだ。

 なんてことを! せっかく目張りをしても、ガラスそのものが割れてしまったら、何の意味もないではないか! いったい、どこのどいつが、こんな馬鹿なことをしでかしたのだ!

 その時、頭から血を流した使用人が、私の元に駆け込んできた。

「陛下! お逃げください! 民衆が暴徒と化し、王宮に入り込もうとしています!」
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