【完結】お父様。私、悪役令嬢なんですって。何ですかそれって。

紅月

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魔族襲来の裏側で

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「なに、あれは何なの。前には居なかったしゲームでもあんな化け物出てこなかったわ」

ミルフィリア達がベヒーモスを消滅させアーモンを封印した頃、ベヒーモスの恐ろしい姿に腰を抜かしたエリスは、誰よりも早く安全な場所に逃げ、ガタガタ震えていた。

「エリス・ガストン。そんな所で何をしているの。聖属性の魔法が使える者は怪我人の手当てに行くのが役目の筈よ」

ユーリアや他の聖属性の魔法が使える者達が、呆れた顔でエリスを見ていた。

「こっちにだって怪我人、居るんだから良いでしょ」

逃げた事を指摘され、腹を立てたが、ふん、と顔を背けながら言い訳をした。

「なんで貴女みたいな怠け者が聖属性の魔法を使えるのか疑問ですわ」

候補生の1人が口を開けば、ユーリアが冷ややかな目でエリスを見据え、ふぅ、とため息を吐いた。

「此処で話をしていても、意味はありません。私達は怪我人の手当てに行きましょう。聖女アリアンナ様もじきに到着されるようですから」

ユーリアは、役立たずは切り捨てて、職務を全うする事を優先した。

「聖女……聖女の杖さえあれば、怪我人なんか全員、私1人で治せるわ」

エリスは以前使用人に持って来させようとしたが見事に失敗した事を思い出し、今奪い取ろうと密かに考え、強気な発言をした。
だが、エリスの妄言にユーリア達は鼻で笑った。

「おめでたい人ね。聖女の杖は、謂わば権威の象徴のような物。おとぎ話に出てくるような、力なんてないわ」
「あんたみたいな半端な力じゃ使えないだけよ。アタシなら、怪我なんて、ちゃっちゃと治せるのよ」

エリスの妄言はユーリア達からしたら、ただの妄想に過ぎない。
否定しようとした時

「面白い事を言うのね。ならば使ってみたら?」

と、アリアンナの声がした。

『前言撤回。こんなのに力を貸すなんて、一回でも絶対嫌』

ついさっき、杖の精霊がアリアンナにだけ聞こえる声で、文句を言っていたせいか、アリアンナの肩が笑いを堪える為小さく震えていた。

その震えを自分の力に嫉妬した、と受け取ったエリスが勝ち誇ったように笑うが、ユーリア達は、嫌悪感の視線を向けた。

「ユーリア、今回、死者が出なかったですが、怪我人は多数居ます。1人の力で怪我人が全て治るなら、それはいい事よ」

肩の震えも治まり、アリアンナが聖女らしい笑顔でエリスに視線を向けた。

「……そうですね。では、お力を拝見したいわ」

そう言い、エリスを怪我人が運ばれている講堂に案内した。

怪我人と言っても様々だ。
転んで怪我をした軽傷者から、ベヒーモスの毒で負傷した重症者まで居る。

毒で負傷した者の患部を見たエリスが嫌そうに顔を顰めるが、アリアンナが聖女の杖を差し出した。

「では、やってみて」

杖を受け取ったエリスは、馬鹿にしたような顔でユーリア達を見てから、杖を振り上げ完全回復の魔法を掛けた。

ゲームでは怪我人などあっという間に直したし、前回でも何の問題も無かった。
が、杖は何も応えず、魔法は発動されず怪我人達の呻き声しか聞こえない。

「こんな筈じゃない。今までだって何度も使えたのに」

エリスは必死に杖に自分の魔力を注ぎ込んだが、一向に魔法が発動されない。

「何度も?貴女、その杖を持てる身分じゃないでしょ」
「きっと妄想よ。聖女の杖は権威の象徴だと言ったのに、おとぎ話の読み過ぎではなくって?」
「普通、杖を使わなくても聖魔力は使えるのに、全く発動しないのね」

完全にユーリア達に役立たず、と決め付けられ、エリスは怒鳴り散らした。

「あんた達が偽物持ってくるのが悪いのよ。アタシの力は本物なの、杖が悪いのよ」

ユーリア達が言った、杖が無くても、の言葉は耳に入っていない様だ。

「それだけ声が出せるなら、自分の魔力で治療しなさい。杖は……」

返せと差し出されるアリアンナの白い手がエリスの苛立ちを増幅させた。

「こんなニセモン」

杖を折ろうと、床に叩き付けようとした途端、杖が光り、雷がエリスに襲い掛かった。

「ぎゃあ、何すんのよ」
「あら、杖は意志を持っているようね」

アリアンナがするり、と杖をエリスから取り上げ、そっと魔力を注いだ。
アリアンナの魔力を受け、杖にはめ込まれている宝石が柔らかな光を放ち、完全回復魔法の魔法陣を怪我人の頭の上に描き、サラサラと光の粒を降り注いだ。

光の粒が触れると怪我が治り、痛みに呻いていた者達が、ホッとした顔でアリアンナを見詰める。

怒り狂っていたエリスが呆然とした顔でアリアンナを凝視した。

「嘘よ。嘘よ。アタシにだってそんな力、無いのに」
「何が嘘なのかしら?聖女アリアンナ様は類い稀なる聖属性の魔法使い。半端な力じゃ太刀打ちなんて、出来ないのですよ」

ユーリアより学年が上の候補生が、呆れたようにエリスを見る。

「トーラス侯爵令嬢は、私よりも更に高い次元の魔法をお使いになるのよ。あまり私を持ち上げないで」

ホホホ、とアリアンナが笑うと、ユーリアが嬉しそうに頷いた。

「さっきもそうでした。ミルフィリア様は魔族を捕縛して、水晶球に封印してました」
「魔族を捕縛!素晴らしいことです。魔族の魔力は我々よりも遥かに強いから、捕縛するなんて、神に匹敵する力だわ」

上級生の候補者達が驚き、声を上げると周りに居た怪我人達も驚いた顔でユーリアを見ている。

「う、嘘よ。アイツは悪役令嬢で、そんな力、なかった筈」

今までの展開でも、ミルフィリアが強い魔力を持っていることはなかった。

「またアクヤク令嬢?貴女、頭は大丈夫?」

ユーリアの侮蔑のこもる視線さえ気が付いていないのか、エリスは嘘だ嘘だと怒鳴り散らした。
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