はじまりの朝

さくら乃

文字の大きさ
116 / 185
第二十ニ章

 2

しおりを挟む
「それはなかなかつらそうだぞ~七星~」
 涙声で言う。
「でも、本当は樹もななちゃんのこと思ってると思うよ~だってライン繋げたままだもん。きっと樹も捨て切れないでいるだ。だから……いつか……」
「メイさん……ありがとう……」
 ぎゅーっと何故か男三人で抱き合った。


 少し気持ちも落ち着いて、二人が持ってきてくれたものを食していた。
 口が空いた時に明が「そう言えばさ」と話し始めた。
「BITTER SWEET来月中に再開出来そうだよ」
「え? ほんとに?」
 6月の初め。
 樹に会いに行った時の酷い有り様を思い出す。
 樹は『俺のせいだ』と悔しげにし、店長もかなり気落ちしていた。
「樹も辞めて、店も休業の張り紙出して、落ち着いたらしい」
「俺は全然行ってなかったけど、かなり酷かったんだろ?」
 僕と明は同時に頷いた。
 明と店長は親戚で仲も良いので、事情も良く知っているようだ。
「……いっくんは……」
 戻ってくるのだろうか。そう明に訊きたくて、でもそれはすぐには無理だろうと、途中で口を閉じた。
「うん……叔父さんは、樹に連絡したけど、戻る気はないようだって。辞める時に『もっと早く辞めるべきだった』とめちゃめちゃ悔しそうにしてたから……なかなか……本当になんの危険もないと思えるまでは、ムリかな……」
「そうですよね……いつか、そんな日が来るといいいな……」


(儚い願いかも知れないけど)



 七月三十一日の僕の誕生日が過ぎ、八月一日。
 今日は樹の誕生日だ。

『いっくん。お誕生日おめでとう』

 朝一番でラインした。
 勿論返信は来ない。
 でも既読はついている。


 この間一人で水族館に行った。
 二人で回った時のこと、プレゼントを貰った時のことを思い出しながら。
 そして、海月のチャームを二つ買った。樹が何か気にしていたから、大地たちとは違うもの。
 自分で箱とリボンを買ってラッピングをした。
 もう一つは自分の机の引き出しの中へ。
 
 
 ラッピングされた小さな箱は、城河家の玄関のドアノブに掛けた。
 それが午前中のこと。
 昼食を食べ、自分の部屋に戻る。
 ふと、窓の外を見ると、ドアノブには何も掛かってなかった。


(いっくん……受け取ってくれたのかな?
 それとも、捨てられちゃったかな……)


 繋がったままのライン。
 プレゼントは受け取ってくれたと、良いほうに考えることにした。



★ ★



 夏休みも終わり頃。
 僕はBITTER SWEETの前に立っていた。
 勿論ここに、樹はいないだろう。
 それでも、元の姿に戻ったBITTER SWEETが見たかった。
 白い塀には落書き。電飾は飛び散り、看板やメニューは壊された。それと樹の辛そうな顔が一緒になったままでは。
 僕もやりきれない。

 塀は元の白い色に。
 今は昼間で光は見えないけど、また新たなイルミネーションの飾りが施されていた。
 門の前の看板やメニューも一新されていた。

    
しおりを挟む
感想 39

あなたにおすすめの小説

ショコラとレモネード

鈴川真白
BL
幼なじみの拗らせラブ クールな幼なじみ × 不器用な鈍感男子

【完結済】俺のモノだと言わない彼氏

竹柏凪紗
BL
「俺と付き合ってみねぇ?…まぁ、俺、彼氏いるけど」彼女に罵倒されフラれるのを寮部屋が隣のイケメン&遊び人・水島大和に目撃されてしまう。それだけでもショックなのに壁ドン状態で付き合ってみないかと迫られてしまった東山和馬。「ははは。いいねぇ。お前と付き合ったら、教室中の女子に刺されそう」と軽く受け流した。…つもりだったのに、翌日からグイグイと迫られるうえ束縛まではじまってしまい──?! ■青春BLに限定した「第1回青春×BL小説カップ」最終21位まで残ることができ感謝しかありません。応援してくださった皆様、本当にありがとうございました。

嫌いなあいつが気になって

水ノ瀬 あおい
BL
今しかない青春だから思いっきり楽しみたいだろ!? なのに、あいつはいつも勉強ばかりして教室でもどこでも常に教科書を開いている。 目に入るだけでムカつくあいつ。 そんなあいつが勉強ばかりをする理由は……。 同じクラスの優等生にイラつきを止められない貞操観念緩々に見えるチャラ男×真面目で人とも群れずいつも一人で勉強ばかりする優等生。 正反対な二人の初めての恋愛。

【完結】君を上手に振る方法

社菘
BL
「んー、じゃあ俺と付き合う?」 「………はいっ?」 ひょんなことから、入学して早々距離感バグな見知らぬ先輩にそう言われた。 スクールカーストの上位というより、もはや王座にいるような学園のアイドルは『告白を断る理由が面倒だから、付き合っている人がほしい』のだそう。 お互いに利害が一致していたので、付き合ってみたのだが―― 「……だめだ。僕、先輩のことを本気で……」 偽物の恋人から始まった不思議な関係。 デートはしたことないのに、キスだけが上手くなる。 この関係って、一体なに? 「……宇佐美くん。俺のこと、上手に振ってね」 年下うさぎ顔純粋男子(高1)×精神的優位美人男子(高3)の甘酸っぱくじれったい、少しだけ切ない恋の話。 ✧毎日2回更新中!ボーナスタイムに更新予定✧ ✧お気に入り登録・各話♡・エール📣作者大歓喜します✧

キミがいる

hosimure
BL
ボクは学校でイジメを受けていた。 何が原因でイジメられていたかなんて分からない。 けれどずっと続いているイジメ。 だけどボクには親友の彼がいた。 明るく、優しい彼がいたからこそ、ボクは学校へ行けた。 彼のことを心から信じていたけれど…。

あなたのいちばんすきなひと

名衛 澄
BL
亜食有誠(あじきゆうせい)は幼なじみの与木実晴(よぎみはる)に好意を寄せている。 ある日、有誠が冗談のつもりで実晴に付き合おうかと提案したところ、まさかのOKをもらってしまった。 有誠が混乱している間にお付き合いが始まってしまうが、実晴の態度はいつもと変わらない。 俺のことを好きでもないくせに、なぜ付き合う気になったんだ。 実晴の考えていることがわからず、不安に苛まれる有誠。 そんなとき、実晴の元カノから実晴との復縁に協力してほしいと相談を受ける。 また友人に、幼なじみに戻ったとしても、実晴のとなりにいたい。 自分の気持ちを隠して実晴との"恋人ごっこ"の関係を続ける有誠は―― 隠れ執着攻め×不器用一生懸命受けの、学園青春ストーリー。

【完】君に届かない声

未希かずは(Miki)
BL
 内気で友達の少ない高校生・花森眞琴は、優しくて完璧な幼なじみの長谷川匠海に密かな恋心を抱いていた。  ある日、匠海が誰かを「そばで守りたい」と話すのを耳にした眞琴。匠海の幸せのために身を引こうと、クラスの人気者・和馬に偽の恋人役を頼むが…。 すれ違う高校生二人の不器用な恋のお話です。 執着囲い込み☓健気。ハピエンです。

逃げるが勝ち

うりぼう
BL
美形強面×眼鏡地味 ひょんなことがきっかけで知り合った二人。 全力で追いかける強面春日と全力で逃げる地味眼鏡秋吉の攻防。

処理中です...