139 / 185
第二十五章
4
しおりを挟む僕らは砂浜を駅方面に向かって歩いて行く。
樹の歩幅はいつもよりぐっと狭く、速度もかなりゆっくりだった。二人で歩く時は僕に合わせてくれるけど、今はそれよりも遅い。僕もそれに合わせて少し速度を落としているくらいだ。
それでも、水族館から駅まではそれほど遠くないので、そろそろ駅付近になるはず。
「そろそろ駅かな」
「ああ、そうだな」
調度コンクリートの壁が途切れ、歩道に上がる階段のあるところに差し掛かる。樹は方向を変え、その階段に向かった。
(帰るのかな……)
階段を駆け上り歩道を足早に歩く。急に速度を上げた彼のあとを追っていく。
(どうしたのかな、急に。そんなに帰りたかった?)
少し寂しい気持ちになりながら、階段を上り切ったところで樹が引き返してきた。
あれ? と思って、そこで立ち止まっていると、僕の前を通り過ぎまた砂浜に下りて行く。僕は彼の行動を見守った。
樹は砂浜に腰を下ろすと、上着のポケットからハンカチを出し砂の上に敷く。視線で僕に座るように促した。
僕は、女の子への対応みたいで少し気恥ずかしくなりながらそこに座る。
「はい」と手渡されたのは、甘そうなカフェラテの缶。それは冷えた手にとても熱く感じた。
まるで僕の心の中みたいに。
樹は自分のブラックコーヒーの缶を開け、口をつける。
「飲まないのか?」
じっと見ていたのを変に思われたろうか。僕は慌ててプルタブを引いた。一口飲むとほろ苦い味が口に広がる。甘そうだと思ったが、樹が作ってくれるカフェラテのほうがもっと甘い。僕専用の特別仕様だから。
「……いっくんのカフェラテ飲みたくなった」
素直な言葉が零れる。
「あ、ごめん。せっかく買ってくれてのに」
「馬鹿……──ま、そのうちな」
その声は僕仕様のカフェラテと同じくらい甘く響いた。
樹はコーヒーを飲みながら、海を見る。しかし、その視線は海よりもずっと遠くを見ているように思えた。
「──俺、お前に追いつくよ」
「え?」
樹と同じように海を眺めていた僕は、突然の呟きに視点を変える。
決意の色が浮かぶ横顔が見えた。
「お前らがいなくてもちゃんとやる。今までみたいに馬鹿なことはしない。行き過ぎた行動もしない。自然に自分を抑えられるようになる──それで、ちゃんと大学に入って、お前に追いついて…………」
樹はそこで言葉を切り、僕のほうを見る。
片手が伸びてきて。
その手は僕の頬に。
(え……なに……)
間近に樹の顔があって僕を見詰めている。
どきどきと心臓が煩い。
(これって……)
51
あなたにおすすめの小説
【完結済】俺のモノだと言わない彼氏
竹柏凪紗
BL
「俺と付き合ってみねぇ?…まぁ、俺、彼氏いるけど」彼女に罵倒されフラれるのを寮部屋が隣のイケメン&遊び人・水島大和に目撃されてしまう。それだけでもショックなのに壁ドン状態で付き合ってみないかと迫られてしまった東山和馬。「ははは。いいねぇ。お前と付き合ったら、教室中の女子に刺されそう」と軽く受け流した。…つもりだったのに、翌日からグイグイと迫られるうえ束縛まではじまってしまい──?!
■青春BLに限定した「第1回青春×BL小説カップ」最終21位まで残ることができ感謝しかありません。応援してくださった皆様、本当にありがとうございました。
嫌いなあいつが気になって
水ノ瀬 あおい
BL
今しかない青春だから思いっきり楽しみたいだろ!?
なのに、あいつはいつも勉強ばかりして教室でもどこでも常に教科書を開いている。
目に入るだけでムカつくあいつ。
そんなあいつが勉強ばかりをする理由は……。
同じクラスの優等生にイラつきを止められない貞操観念緩々に見えるチャラ男×真面目で人とも群れずいつも一人で勉強ばかりする優等生。
正反対な二人の初めての恋愛。
【完結】君を上手に振る方法
社菘
BL
「んー、じゃあ俺と付き合う?」
「………はいっ?」
ひょんなことから、入学して早々距離感バグな見知らぬ先輩にそう言われた。
スクールカーストの上位というより、もはや王座にいるような学園のアイドルは『告白を断る理由が面倒だから、付き合っている人がほしい』のだそう。
お互いに利害が一致していたので、付き合ってみたのだが――
「……だめだ。僕、先輩のことを本気で……」
偽物の恋人から始まった不思議な関係。
デートはしたことないのに、キスだけが上手くなる。
この関係って、一体なに?
「……宇佐美くん。俺のこと、上手に振ってね」
年下うさぎ顔純粋男子(高1)×精神的優位美人男子(高3)の甘酸っぱくじれったい、少しだけ切ない恋の話。
✧毎日2回更新中!ボーナスタイムに更新予定✧
✧お気に入り登録・各話♡・エール📣作者大歓喜します✧
キミがいる
hosimure
BL
ボクは学校でイジメを受けていた。
何が原因でイジメられていたかなんて分からない。
けれどずっと続いているイジメ。
だけどボクには親友の彼がいた。
明るく、優しい彼がいたからこそ、ボクは学校へ行けた。
彼のことを心から信じていたけれど…。
あなたのいちばんすきなひと
名衛 澄
BL
亜食有誠(あじきゆうせい)は幼なじみの与木実晴(よぎみはる)に好意を寄せている。
ある日、有誠が冗談のつもりで実晴に付き合おうかと提案したところ、まさかのOKをもらってしまった。
有誠が混乱している間にお付き合いが始まってしまうが、実晴の態度はいつもと変わらない。
俺のことを好きでもないくせに、なぜ付き合う気になったんだ。
実晴の考えていることがわからず、不安に苛まれる有誠。
そんなとき、実晴の元カノから実晴との復縁に協力してほしいと相談を受ける。
また友人に、幼なじみに戻ったとしても、実晴のとなりにいたい。
自分の気持ちを隠して実晴との"恋人ごっこ"の関係を続ける有誠は――
隠れ執着攻め×不器用一生懸命受けの、学園青春ストーリー。
【完】君に届かない声
未希かずは(Miki)
BL
内気で友達の少ない高校生・花森眞琴は、優しくて完璧な幼なじみの長谷川匠海に密かな恋心を抱いていた。
ある日、匠海が誰かを「そばで守りたい」と話すのを耳にした眞琴。匠海の幸せのために身を引こうと、クラスの人気者・和馬に偽の恋人役を頼むが…。
すれ違う高校生二人の不器用な恋のお話です。
執着囲い込み☓健気。ハピエンです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる