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アトリエ・フィオナと始祖の祝福 ~幻の食材と、笑顔を巡る冒険~
第37話 分け合うパンと長老の涙、そして聖なる酵母
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「さあ、皆さん。この大きなパン、どうやって分けるのが一番公平で、みんなが笑顔になれるかしら?」
フィオナの優しい問いかけに、さっきまで協力し合っていた子供たちは、一瞬、はっとしたように動きを止め、再び互いの顔を見合わせた。東組のリーダー格の少年が「ぼ、僕たちが一番たくさん木の実を採ったんだから、僕たちの方が大きいのに決まってる!」と言いかければ、西組の勝ち気な少女が「な、なんですって! あなたたち、途中でサボってたじゃない! 私たちの方が一生懸命こねたんだから!」と負けじと反論する。またしても、広場にはピリピリとした険悪な空気が漂い始めた。
「まあまあ、二人とも、ストーップ、ストップ!」
その空気を打ち破ったのは、エリィの明るい声だった。彼女は両手を広げて二人の間に割って入ると、にっこり笑って提案した。
「ねえねえ!みんなで大きな輪になって、順番に一切れずつ取っていくのはどうかな? それなら、喧嘩にならないでしょう?」
「そ、そうだぜ!それが一番公平だ! 文句のある奴は、この俺様が岩をも砕く拳で…いや、まあ、とにかく、それがいい!なっ!」
ルーカスも、ここぞとばかりに腕組みをして子供たちを睨む(ただし、その目は優しく笑っている)。
エリィとルーカスのナイスアシストに、子供たちは顔を見合わせ、やがて相談を始めた。そして、東組のリーダーの少年が、少し照れくさそうに言った。
「…わ、分かったよ。じゃあ、一番小さい子から順番に…。それで、俺たち年上の奴らが、みんなの分を上手に切り分けてやるんだ。それで、どうだ?」
その提案に、西組の少女も「…まあ、それなら、いいわよ」と頬を赤らめながら頷いた。
かくして、子供たちによる「分けっこパン大作戦」が再び始まった。年上の子たちが、ぎこちないながらも真剣な表情で、大きなパンナイフを握りしめる。
「もうちょっと右よ!厚さが違うじゃない!」
「う、うるさいな!手が震えるんだよ!」
そんなやり取りをしながらも、彼らは年下の子たちのために、一生懸命パンを切り分けていく。そして、全員分のパンが切り分けられると、誰からともなく声が上がった。
「「「いただきます!」」」
広場に、幸せな沈黙が訪れた。自分たちの手で、いがみ合っていた相手と力を合わせて作ったパン。その味は、格別だった。
あちこちから、「おいしい!」「今まで食べたどんなパンよりも、ずーっと美味しい!」という歓声が上がる。
そして、自然と、子供たちの間に言葉が交わされ始めた。
「…お前の採った木の実、甘くて美味しいな」
「…あんたこそ、パンをこねるの、上手だったじゃない」
「さっきは、ごめんね…」
「ううん、こっちこそ…」
いがみ合っていた子供たちは、パンを片手に、いつの間にか肩を叩き合い、笑い合っていた。その光景は、まるで固く閉ざされた蕾が、一斉に花開いたかのようだった。
その様子を、物陰からじっと見つめていた谷の長老が、ゆっくりとフィオナたちの前に進み出てきた。その深い皺が刻まれた目には、涙が光っている。
長老は、フィオナの前に立つと、深く、深く頭を下げた。
「よそ者などと…なんと愚かで、無礼なことを言ってしまったか…。お嬢さん、あんたのパンは、この谷の子供たちの心だけでなく、ワシら大人の凝り固まった頑なな心さえも、優しく溶かしてくれた。心から…感謝申し上げる」
長老は、フィオナたちを谷の奥深く、月光を浴びて青白く輝く、天を突くような巨大な古木の元へと案内した。その場所は、清らかで神聖な空気に満ちている。
「これが、我ら霧守の一族が代々お守りしてきた、聖なる木『ルナリア』じゃ。そして、この木の洞(うろ)に溜まる雫こそが…」
長老は、特別な儀式の後、木の洞に溜まっていた、まるで真珠のように美しく輝く乳白色の液体――幻の食材「朝露酵母」を、小さな水晶の瓶にそっと移し、フィオナに手渡した。
「始祖の祝福を求める者よ。これを受け取るが良い。ただし、くれぐれも気をつけるんじゃぞ。
食を力としか見ぬ輩に、この聖なる酵母を渡してはならん…」
長老は、美食家同盟がこの谷に不和の種をまいたこと、そして、次の目的地である「灼熱火山」にも、彼らの仲間がいるやもしれぬ、と警告してくれた。
翌朝。フィオナたちが谷を立つ時、そこには谷の村人全員が見送りに来ていた。
「エリィお姉ちゃん、また遊びに来てねー!」
「ルーカスお兄ちゃん、かっこよかったよー!」
子供たちは、涙ながらに手を振っている。ルーカスはすっかり英雄気取りで「おう、任せとけ!」と手を振り返し、マルセルは手帳に「霧守の一族の社会構造と伝統的酵母培養技術に関する考察(第二版)」と書き込んでいる。
エリィは、子供たちと再会の約束を交わし、もはやどちらが子供か分からないほどに泣きじゃくっていた。
活気と笑顔を取り戻した谷を後にし、一行は再び馬車に揺られる。
フィオナは、手に入れたばかりの「朝露酵母」の小瓶を、大切に胸に抱きしめた。それは、ひんやりと、しかし確かな生命の温もりを伝えてくる。この聖なる酵母が、どんなパンを生み出すのだろう。
長老の警告を胸に、フィオナは次なる冒険への決意を新たにするのだった。
フィオナの優しい問いかけに、さっきまで協力し合っていた子供たちは、一瞬、はっとしたように動きを止め、再び互いの顔を見合わせた。東組のリーダー格の少年が「ぼ、僕たちが一番たくさん木の実を採ったんだから、僕たちの方が大きいのに決まってる!」と言いかければ、西組の勝ち気な少女が「な、なんですって! あなたたち、途中でサボってたじゃない! 私たちの方が一生懸命こねたんだから!」と負けじと反論する。またしても、広場にはピリピリとした険悪な空気が漂い始めた。
「まあまあ、二人とも、ストーップ、ストップ!」
その空気を打ち破ったのは、エリィの明るい声だった。彼女は両手を広げて二人の間に割って入ると、にっこり笑って提案した。
「ねえねえ!みんなで大きな輪になって、順番に一切れずつ取っていくのはどうかな? それなら、喧嘩にならないでしょう?」
「そ、そうだぜ!それが一番公平だ! 文句のある奴は、この俺様が岩をも砕く拳で…いや、まあ、とにかく、それがいい!なっ!」
ルーカスも、ここぞとばかりに腕組みをして子供たちを睨む(ただし、その目は優しく笑っている)。
エリィとルーカスのナイスアシストに、子供たちは顔を見合わせ、やがて相談を始めた。そして、東組のリーダーの少年が、少し照れくさそうに言った。
「…わ、分かったよ。じゃあ、一番小さい子から順番に…。それで、俺たち年上の奴らが、みんなの分を上手に切り分けてやるんだ。それで、どうだ?」
その提案に、西組の少女も「…まあ、それなら、いいわよ」と頬を赤らめながら頷いた。
かくして、子供たちによる「分けっこパン大作戦」が再び始まった。年上の子たちが、ぎこちないながらも真剣な表情で、大きなパンナイフを握りしめる。
「もうちょっと右よ!厚さが違うじゃない!」
「う、うるさいな!手が震えるんだよ!」
そんなやり取りをしながらも、彼らは年下の子たちのために、一生懸命パンを切り分けていく。そして、全員分のパンが切り分けられると、誰からともなく声が上がった。
「「「いただきます!」」」
広場に、幸せな沈黙が訪れた。自分たちの手で、いがみ合っていた相手と力を合わせて作ったパン。その味は、格別だった。
あちこちから、「おいしい!」「今まで食べたどんなパンよりも、ずーっと美味しい!」という歓声が上がる。
そして、自然と、子供たちの間に言葉が交わされ始めた。
「…お前の採った木の実、甘くて美味しいな」
「…あんたこそ、パンをこねるの、上手だったじゃない」
「さっきは、ごめんね…」
「ううん、こっちこそ…」
いがみ合っていた子供たちは、パンを片手に、いつの間にか肩を叩き合い、笑い合っていた。その光景は、まるで固く閉ざされた蕾が、一斉に花開いたかのようだった。
その様子を、物陰からじっと見つめていた谷の長老が、ゆっくりとフィオナたちの前に進み出てきた。その深い皺が刻まれた目には、涙が光っている。
長老は、フィオナの前に立つと、深く、深く頭を下げた。
「よそ者などと…なんと愚かで、無礼なことを言ってしまったか…。お嬢さん、あんたのパンは、この谷の子供たちの心だけでなく、ワシら大人の凝り固まった頑なな心さえも、優しく溶かしてくれた。心から…感謝申し上げる」
長老は、フィオナたちを谷の奥深く、月光を浴びて青白く輝く、天を突くような巨大な古木の元へと案内した。その場所は、清らかで神聖な空気に満ちている。
「これが、我ら霧守の一族が代々お守りしてきた、聖なる木『ルナリア』じゃ。そして、この木の洞(うろ)に溜まる雫こそが…」
長老は、特別な儀式の後、木の洞に溜まっていた、まるで真珠のように美しく輝く乳白色の液体――幻の食材「朝露酵母」を、小さな水晶の瓶にそっと移し、フィオナに手渡した。
「始祖の祝福を求める者よ。これを受け取るが良い。ただし、くれぐれも気をつけるんじゃぞ。
食を力としか見ぬ輩に、この聖なる酵母を渡してはならん…」
長老は、美食家同盟がこの谷に不和の種をまいたこと、そして、次の目的地である「灼熱火山」にも、彼らの仲間がいるやもしれぬ、と警告してくれた。
翌朝。フィオナたちが谷を立つ時、そこには谷の村人全員が見送りに来ていた。
「エリィお姉ちゃん、また遊びに来てねー!」
「ルーカスお兄ちゃん、かっこよかったよー!」
子供たちは、涙ながらに手を振っている。ルーカスはすっかり英雄気取りで「おう、任せとけ!」と手を振り返し、マルセルは手帳に「霧守の一族の社会構造と伝統的酵母培養技術に関する考察(第二版)」と書き込んでいる。
エリィは、子供たちと再会の約束を交わし、もはやどちらが子供か分からないほどに泣きじゃくっていた。
活気と笑顔を取り戻した谷を後にし、一行は再び馬車に揺られる。
フィオナは、手に入れたばかりの「朝露酵母」の小瓶を、大切に胸に抱きしめた。それは、ひんやりと、しかし確かな生命の温もりを伝えてくる。この聖なる酵母が、どんなパンを生み出すのだろう。
長老の警告を胸に、フィオナは次なる冒険への決意を新たにするのだった。
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