「醜い」と婚約破棄された令嬢、実は変身の魔法で美貌を隠していただけでした。今さら後悔しても遅いですわ!

ゆっこ

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「……リリアーナ嬢。もしよければ、今度わたくしの館で開催する夜会にぜひ……!」

「いやいや、彼女にふさわしいのはうちの家系だ。我が家の長男は将来、宰相補佐を約束されている」

「それよりも、わたしの領地にお越しいただきたい。湖畔に広がる別荘は、きっとお気に召すだろう!」

リリアーナの応接間には、ひっきりなしに貴族の青年たちが訪れ、彼女を自分のものにしようと必死に言葉を重ねていた。
侍女たちは慌ただしく客をさばき、リリアーナは扇子を手に優雅に微笑みながら、器用に相手をいなしていた。

「まあ、皆さまお優しいこと。ですが……わたくし、まだ決めかねておりますの」

そう言えば、彼らはさらに必死になり、互いに火花を散らす。
争奪戦の中心にいる本人はといえば、涼しい顔でお茶を口にしていた。

(……ふふ。まるで舞台劇のようですわね。わたくしが“醜い”と呼ばれていた頃とは、まるで別世界)

だが、内心では冷静に計算もしていた。
誰と結ぶかによって、自分の未来は大きく変わる。
それを楽しみながら見極めるのも悪くない――そう思っていた。



一方その頃、王宮の執務室。

アルベルト王子は机を叩きつけ、怒声をあげていた。

「なぜだ! なぜリリアーナにあれほどの求婚が集まっている!?」

「お、お待ちください殿下。リリアーナ様は“仮面の美女”として社交界で話題をさらっておられます。むしろ求婚が殺到するのは当然かと……」

家臣の言葉に、アルベルトは苛立ちを募らせる。
思い返せば、あの夜。
自分が「醜い」と断じて捨てた令嬢が、仮面を外した女神のような姿で現れた。
その衝撃はいまだに頭から離れない。

「……俺は、間違っていたのか」

呟いた言葉を、クラリッサが聞き逃さなかった。

「アルベルト様! お忘れですか? あの女は貴方を欺いていたのです! 本来の姿を隠し、殿下を愚弄していたのですわ!」

必死の声。しかしその目には焦燥と嫉妬がにじんでいる。

「……クラリッサ。お前が何を言おうと、私の心は揺らぐ。リリアーナを手放すべきではなかったのだ」

「っ……!」

クラリッサの胸に走るのは、怒りと絶望。
自分の手に入れたはずの王子が、再びリリアーナに心を奪われていくのを、ただ見ていることしかできなかった。



数日後。

リリアーナは社交界で再び人々を魅了していた。
流れるようなダンスのステップ。
扇子越しの笑み。
彼女がいるだけで場の空気が華やぎ、誰もが息を呑んだ。

そんな中、一際視線を集める人物がいた。

「……またお会いできて嬉しい」

隣国ヴェルシュタインの第二王子、レオナルドである。
彼は迷うことなくリリアーナに歩み寄り、自然に彼女の手を取った。

「踊っていただけるだろうか」
「殿下……ふふ、光栄ですわ」

二人が踊り始めると、周囲はため息に包まれた。
銀髪と黄金の髪が、照明の下で絡み合い、まるで絵画のように美しい光景を描き出す。

「リリアーナ嬢。やはり……私は貴女を諦められそうにない」
「まあ……まだそのお話を?」
「私は国に戻れば、いずれ王位を継ぐ身だ。だが、政略のための婚姻など望まぬ。私は心から愛せる人を妻に迎えたい。そして――貴女こそがその相手だ」

真剣な瞳に射抜かれ、リリアーナは一瞬、心臓を高鳴らせる。
(……この方、口先だけではない。真心がこもっている)

けれどすぐに微笑みを浮かべ、視線を逸らす。
「殿下はお優しいのね。ですが……わたくしにはまだ、やり残したことがございますの」
「やり残したこと?」
「ええ。……わたくしを“醜い”と蔑み、捨て去った方々に、思い知らせて差し上げなくては」

リリアーナの瞳に一瞬、冷たい光が走った。
レオナルドは黙り込み、その横顔を見つめた。
やがて彼は、小さく息をつき、彼女の手を握り直す。

「ならば、私は待とう。復讐が終わるまで、どれだけ時を要しても。だが――必ず迎えに来る。それだけは覚えておいてほしい」

リリアーナは驚き、思わず彼を見つめた。
その真剣な表情に、心の奥で熱いものが灯る。

(……なぜかしら。この方の言葉は、わたくしの心を少しずつ溶かしていくようですわ)



夜会の片隅で、その光景を睨みつけている男がいた。

「……許さぬ。リリアーナは……俺のものだ」

アルベルト王子だった。
かつて自ら捨てた令嬢を、今度は執着の眼差しで追い続けている。

その隣では、クラリッサが唇を噛みしめ、震えていた。

(どうして……どうして誰も彼も、あの女ばかりを……! 殿下まで……!)

嫉妬と焦燥、そして恐怖。
クラリッサの心は、少しずつ狂気へと傾いていった。

◇ ◇ ◇

屋敷へ戻ったリリアーナは、侍女たちに迎えられながらも、ふと窓辺で足を止めた。

(殿下の後悔、クラリッサの嫉妬、そして……レオナルド殿下の真摯な想い。すべてが絡み合い、ますます面白くなってきましたわ)

彼女は夜空に浮かぶ月を見上げ、妖艶に微笑む。

「さて……次は誰が、この舞台で踊り狂うのかしら」

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