【完結】幼馴染に告白されたけれど、実は俺の方がずっと前から好きだったんです 〜初恋のあわい~

上杉

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1章 告白は突然に side.新汰

2 清宮理久

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 俺が理久に恋心を抱き始めたのは、小学生の頃だ。
 夏休み、習い事をしてみないかと誘ったのは母だった。俺たちが毎日家に入り浸り、ゲームをしてお菓子を食べてだらだらと生活していたからだろうか。それとも理久以外とあまり好んで一緒にいない俺を心配したのだろうか。
 おそらくは後者だ。
 見学しに行ったのはどこか静謐な剣道の道場で、張り詰めたようなぴりぴりとした空気は意外と心地よかった。
 すでに通っている小学生たちの数も少なく、皆大人びていた。それに皆、竹刀を持った途端に集中し、他人よりも自分と向かい合うようなそんな雰囲気を醸し出していた。
 ここならきっと俺も大丈夫――そう安心した俺は、そのまま道場のことを理久に伝えた。
 あくまで自分の気に入ったものを共有するような、軽い口調で。

『……そういえば、昨日、道場の見学に行ったんだ』

 俺の家のリビングで、対戦ゲームをひととおり終えたあとだった。
 麦茶をごくりと飲み干した理久は、グラスを置いてから口を開いた。

『え……道場?』

『うん』

 途端、理久の声色が変わった気がした。

『何?新汰、道場に通い始めるの?』

『それはまだ考え中。でも、雰囲気はいい感じだった。ひとりだし、チームプレーとかじゃないし、俺もできそうだなって』

 その言葉に理久は答えなかった。
 それまで理久が黙るとこなんて見たことがなかった俺は、背中に汗が流れるのを感じながら聞く。

『理久?』

 結局、理久はそれに答えることはなかった。

『……帰る』

 そうぼそりと言って、なんとそのまま家を出ていってしまった。
 小学生の俺はどれだけショックを受けただろう。
 それは理久との初めての喧嘩で、理久と長い時間離れる初めての時間になった。
 夏休みだったから学校のことは問題なかったものの、玄関の外から「新汰」と呼んでくれる声が聞こえない。
 それが切なくて、悲しくて。
 俺はこのとき理久がいないと駄目だと本能的に気付いたのだ。

 結局、その後母に言われるがまま剣道道場に通うことになった。
 放心状態の俺と竹刀の相性は想像以上によく、このとき始めた剣道を俺は今の今まで続けることになった。
 理久はというと、ようやく学校が始まるという頃になって突然、俺の前に顔を出した。
 以前と何も変わらずに、新汰と俺の名前を呼んで。
 聞けば、理久は理久で体操教室に通い始めて熱中していたらしい。ただ、なぜとかどうしてとか気になっていたことは少しも聞けなかった。俺はそうなんだと肯定するだけだった。
 そうして初めての喧嘩を俺は意識的になかったことにした。
 俺は理久のいなかったあの時間のことを、一ミリも思い出したくなかった。それにこれからも理久の隣りにいたかったから。
 関係が壊れるのが嫌だった。それに俺はもう二度と味わいたくなかった。
 隣りに理久がいないだけで、存在が否定されるようなあの感覚も。すべてがつまらなく見えてしまうことも。
 だからあの夏の苦い記憶はすべてなかったことにして、俺は理久の隣りに居続けることを選んだ。
 そんな俺に残ったのは理久への執着で、あれがきっと恋のはじまりなのだと思う。
 
 洗面台の蛇口をひねり、顔をざぶざぶと洗う。
 残った眠気をすべて洗い流したあとで、タオルで顔を拭いもう一度鏡へ向ける。
 そこには、相変わらず白い顔をする自分が映っていた。
 生気のない、どこか自分に自信のなさそうな姿を前に、俺は疑問に思う。

 ――あの理久に、俺…………告白されたんだよな。

 そう、確かに理久は公園で自分に告白をしてくれた。
 しかし今の自分には、もう信じられなくなっていた。
 昨日、あの公園で確かに理久は言ったのに。
 耳で、そして目で確かに感じたはずなのに、もやもやと考えるたび、空耳だった気すらしてきた。
 こんな状況で俺は理久と、普通に話せるのだろうか。

「俺、まじで大丈夫か……」

 思わずそう呟いたときだった。

「お兄、洗面台長すぎ!暇なの?」

「……あかね

「うわっ酷い顔!」

 現実を鋭く突きつけられて、俺はただ謝ることしかできない。

「ごめん。長居した」

 そう言い洗面台の前を空ける。すると入れ替わりながら妹の茜は、何か言いたげな顔をしてこちらをまじまじと見る。

「……ふーん」

「な、何?」

「兄貴、なんかあったでしょ」

 なぜ一瞬で分かったのだろう。
 驚く俺を前に、妹はうーんと考えたあとで続ける。

「まさか、りっくん?」

 もう、言葉にならなかった。
 西脇家と清宮家は確かに家族ぐるみの付き合いをしているし、茜は俺と理久の仲のよさも知っている。
 ただ、なぜ分かるのだろう。
 そんな俺の沈黙を茜は是と受け取ったらしい。

「やっぱりね。それでそんなにダメージ受けてるんだ」

 茜は洗顔料を泡立て、顔に塗りたくりながら言う。

「喧嘩でもした?なら早くお兄から謝ったほうがいいよ。りっくんがいないと、お兄昔からだめだもん」

「……お前もそう思うのか」

「だって明らかにスペック落ちるじゃん。……確か昔もあったよ。死にそうな目で、あたしが声かけても返事もしてくれなくなってさ」

 きっとあの喧嘩のときだ――そう思いながら、俺はスペックで語られるほどいろいろ駄目になるのかと、自信を失う。

「……最近は、りっくんがいないと突然人殺しそうな圧だしはじめるし」

「そんなことないだろ」

 そう反論すると、妹は泡まみれの顔をこちらに向け歪ませる。

「え?じゃあ、あれ無意識にやってたの?うわー、迷惑な」

「……そもそも、最近っていつだ?」

「え、確か中二」

 正直、全然覚えてなかった。
 顔を洗い始めた茜をあとに、俺はリビングへと戻りながらため息をつく。

 ――茜は言葉の選び方が強すぎる。

 人殺しそうな圧って、俺どんだけやばいやつだよ。
 そう思いながら、ふと気付いてしまう。
 もう、今日から理久は別のクラスで、俺はひとりだ。
 茜が言うとおり、俺が本当に人を殺しそうな圧を出しているのなら、確実にやばい。
 目を付けられ嫌われ、また言いがかりをつけられて問題児にされてしまう。
 もう、息を潜めるようにしてすごすしかない。俺はもうそう諦めるしかなかった。
 朝食を取り、後片付けをして家を出る準備をする。
 まじで憂鬱だ――そう思いながらリビングを出たときだった。
 小綺麗になり、洗面所から戻ってきた茜が――。

「……りっくん」

 突然そう言うので、俺は心臓が止まる気がした。

「何、お兄どうしたの?」

「それこっちのセリフ。突然何だよ……」

 人をいじるとしても限度がある。俺がそう反論しようとしたときだった。

「え、だってそこにいるから」

「…………は?」

「りっくん。多分そこで待ってるんだけど」

「…………えっ」

 俺は靴をつっかけて急いで戸を開ける――。
 なんとそこに確かに理久はいた。
 昨日と同じ、どこか吹っ切れたような爽やかな笑みを向けて。

「新汰、おはよ。一緒に学校行こ」

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