【完結】幼馴染に告白されたけれど、実は俺の方がずっと前から好きだったんです 〜初恋のあわい~

上杉

文字の大きさ
5 / 32
1章 告白は突然に side.新汰

3 なぜそこに

しおりを挟む

 どういうことだか少しも頭が追いつかない。
 俺を悩ませていた諸悪の根源(?)清宮理久がなんと玄関の目の前にいる。しかも一緒に登校しようと誘ってきている。

「あっ、りっくんおはよう!お兄、いってらっしゃい」

 茜は相変わらず空気を読んでくれない。
 そう言われ背を押されてしまえば、俺はどうしようもない。
 いってきますと言い、鞄を持ち理久に従う。

 春の穏やかな朝日は心地いい。時折車が脇を通りすぎ、どこかの家から朝の支度をする子どもの声が聞こえる。
 そんな穏やかな朝はいつもと変わらないはずなのに、なぜか今日は静まり返っているように感じられた。
 俺の心臓は絶えずばくばくと音を鳴らす。
 そもそも高校に入ってからは朝練があるから、もっと早い時間にひとりで学校に向かっている。
 だから一緒に登校するのはかなり久しぶりで、こうして隣りを歩くとき、理久は大抵勝手に喋り始めているのに――。
 隣りをちらりと見ると理久はどこか晴れやかで、さっぱりと満足げな顔をしている。

「新汰、どうした?」

 思わず目が合い、俺はびくりとする。

「な、なんでもない」

「ふーん。まあいいんだけど」

 そうにやにやしながらこちらを見て、なぜか不意にその手をこちらに延ばした。
 思わずびくりと身を引くと、理久は何故か嬉しそうに笑う。

「ふふっ。新汰、意識してくれてんでしょ」

 その言葉に俺の頬はみるみる赤くなる。
 理久は昔から、こうしてすぐに思っていることを言葉にするやつだ。それはいいところでもあり悪いところでもあって、大人になるにつれ次第に周りの空気を読むようになったと思っていたのに。

 ――これは……まずい。

 火の玉ストレートで気持ちを伝えられるのは、想像以上だ。
 そもそも俺は理久の顔が好きなのだ。それを知ってか女子がきゃあきゃあ言う爽やかなスマイルを向けて、甘く微笑んでくる。
 これまで見ていたやんちゃな顔ではなく、どこか誘うような色気のある眼差しに、俺は崩れ落ちそうになる。

 ――なんて破壊力だろう。

 そんな俺の考えを見通しているのだろうか。理久は歩きながら優しく言う。

「……新汰。ああは言ったけど、新汰はこれまでどおり普通にしてもらって構わないから」

 それができればいい。できないから困ってるんだ。
 お願いだから、それ以上意識させないでくれ。
 その思いを、俺は結局言葉にすることができなかった。
 
 俺たちはそのまま無言で学校までの道を歩いた。
 正門を通り、裏の昇降口へ向かう。まだ早い時間だからだろうか、学生はまばらだった。
 本当にこれでよかったのか――そう疑問に思いながら理久の方を見ると、相変わらずどこか浮足立ったような笑顔を浮かべている。
 どうやら、本当に昨日の告白は俺の空耳でも気のせいでもなかったらしい。

 ――理久は……本当に、本当に俺のこと……。

 そう自覚した途端、すっかり落ち着いていた胸の鼓動は再び早くなりはじめた。
 これじゃあもうきりがない――俺がそう焦り始めたときだった。
 並ぶ下足箱を前に、理久は突然振り返り――。

「新汰、

 そう言ってすぐに行ってしまった。
 俺はひとり上履きに手を掛けたまま理久の言葉を反芻していた。

 ――また昼って……どういうことだろう。


 そうして困惑したまま本格的に新学期は始まった。
 見ない顔の多い新クラスのなかで、理久のいない環境のまったく新しい生活だ。
 これまでほかの人とのコミュニケーションのほとんどを理久に依存していた俺は、このクラスに馴染めるのか、やっていけるのか不安で仕方がなかった。
 しかし朝の理久との騒動が功を奏したのだろうか。俺はそれどころではなくなっていて、淡々と授業をこなすだけだった。
 そうして気付けばすでに四限が終わり、昼休みを迎えていた。

「……はあ」

 ――授業を受けていただけなのに、なぜこんなに疲れているんだろう。

 絶対に理久のせいだ――そう思いながら、ふうと息を吐いて机につっぷそうとしたときだった。

「……どうしたの?西脇くん」

 脇から聞こえた声に俺は顔を向ける。
 こちらを心配そうに見ていたのは、隣の席の女子だった。 

「ええと…………牧田まきただっけ?」

「そう。覚えてくれてたんだね」

 嬉しそうにはにかむ女子は牧田まきたなぎさだ。
 名前を憶えていたのは去年も同じクラスだったからで、去年の秋に確か理久と一緒に美化委員をしていた気がする。
 どちらかというと小柄で線が細く、か弱い印象の女子で、正直こういうタイプとはあまり関わりたくなかった。
 だから内心声をかけられるなんてと俺は驚いていた。

「えっと……何?」

「うん。西脇くん、体調大丈夫かなって」

「……え?」

 何故と思っていると、牧田はどこか恥ずかしそうに続ける。

「……最初は機嫌悪いのかなって思ってたんだけど……その、消しゴム……………落としすぎだから気になって」

「え」

 確かに授業中ずっと手持ち無沙汰で、絶えず消しゴムを触っては床に落としてしまっていた気がする。どうやらそれを牧田に見られていたらしい。

「……ごめん」

「ううん。何でもないならいいの」

 牧田は両手を振って大げさに言う。
 その仕草からこちらに対する恐怖は伝わってこなくて、俺は思わず安心して礼を言う。

「牧田。ありがとう。その……気を付けるよ」

 そのときだった。

「……新汰!」

 教室の入口から理久の声が響いた。
 手をひらりと上げ入って来たと思えば、何故か俺ではなく牧田に言う。

「新汰、借りていい?」

「えっ、え…………うん」

 その返事を聞いた途端、理久は俺の手首をぐっと掴んだ。
 思わぬ力の強さに俺は驚く。

「理久!ちょっと」

「昼飯」

「え」

「昼飯行こ」

 急いで机の脇に下げていた弁当を取り、俺は言われるがまま理久のあとをついて行く。
 理久は何故か自分の教室を通りすぎると、校舎の奥へ奥へと進んでいった。

 ――どこへ行くんだろう。

 そう困惑する俺を連れ、理久が足を運んだのは旧校舎だった。
 今も使われているものの、ちょっとした少人数授業が行われる教室と、赤本が保管された進路指導室しかない。
 元から人があまり訪れない薄暗い建物のどん詰まり――理久が足を止めたのは、そんな旧校舎奥の階段の踊り場だった。

「え、ここ?」

「うん。静かでいいでしょ」

 さらりと言われ俺は思わず納得してしまった。
 そこは本校舎の物音がかすかに聞こえるだけの、静かで穏やかな場所だった。
 これまでの昼飯はというと、理久と同じクラスだったから教室でそのまま食べたり、時に食堂へ行くこともあった。
 そのたび感じていたのが、周囲の――特に女子からの焦がすような視線だった。
 理久はとにかく目立つしモテる。
 だから何をしていても注目の的で、理久に向けられたその熱い視線を俺は少しだけ怖いと思うこともある。
 それを理久は気付いてくれたというのだろうか――。
 理久はこっちと言い、外へ繋がる引き戸の前の数段階段になっているところを指差した。
 その扉はどうやら外の非常階段に繋がっているらしい。そこだけ窓から入る光でぼうっと照らされていて、静かで落ち着く気がした。
 扉を背にし、段になっているところに座り込む。弁当を脇に置き、理久に感謝を伝えようと口を開こうとしたときだった。
 理久は突然俺の隣りにすとんと腰掛けた。
 これまで教室で食べていたときは正面だったので、その思わぬ距離の近さに俺は動揺する。

「!?」

「……そんなに驚かなくていいのに」

「そ、そ、そりゃあ……驚くって」

 これまでずっと片思いしてきた相手が、突然自分のパーソナルスペースに入ってきたようなものだ。
 すぐ、目の前に理久がいる。
 理久の匂いとシトラスのビターな香りが混ざりあい鼻に届き、くらくらする。
 そんなことなどお構いなしというように、理久は得意げに笑う。

「ふーん。じゃあ意識してくれてるってことか」

 そりゃあ当たり前だ。
 この状況で意識しないほうが無理だろう。
 理久の長いまつ毛が光できらりと輝く。今にも触れそうなところにあるそれに気を取られていると、栗色の瞳がいたずらそうに細められて――。

「まあいいか」

 理久はよっこいせと腰を上げ、階段を下りて俺の正面に座りなおす。そして手にしていた弁当を開き言う。

「よし、頂きまーす」

 新汰も食おうぜ、そう軽く声をかけてくる理久が腹立たしかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】恋愛初学者の僕、完璧すぎる幼馴染に「恋」を学ぶ

鳥羽ミワ
BL
志村春希は高校二年生で、同い年の幼馴染・須藤涼太のことが大好き。その仲良しぶりといったら、お互い「リョウちゃん」「ハルくん」と呼び合うほどだ。 勉強が好きな春希には、どうしてもひとつだけ、全く理解できないことがあった。それは、恋心。学年一位の天才でもある涼太にそのもどかしさを愚痴ったら、「恋」を教えようかと提案される。 仮初の恋人になる二人だけど、春希が恋を知ったら、幼馴染の友達同士のままではいられない。慌てる春希に「パラダイムシフトを起こそうよ」と提案する涼太。手を重ねて、耳元で囁く涼太。水族館デートに誘う涼太。あまあまに迫られて、恋愛初学者の春希が陥落しないはずもなく……。 恋を知ったら友達でいられない。でもこの思いは止められない。 葛藤する春希の隣で涼太だけが、この関係は両片思いだと知っていた。 幼馴染の溺愛恋愛ケーススタディ、開幕! 最後はもちろんハッピーエンド! ※アルファポリス、カクヨム、小説家になろうへ投稿しています

なぜかピアス男子に溺愛される話

光野凜
BL
夏希はある夜、ピアスバチバチのダウナー系、零と出会うが、翌日クラスに転校してきたのはピアスを外した優しい彼――なんと同一人物だった! 「夏希、俺のこと好きになってよ――」 突然のキスと真剣な告白に、夏希の胸は熱く乱れる。けれど、素直になれない自分に戸惑い、零のギャップに振り回される日々。 ピュア×ギャップにきゅんが止まらない、ドキドキ青春BL!

幼なじみの友達に突然キスされました

光野凜
BL
『素直になれない、幼なじみの恋』 平凡な俺、浅野蒼にはイケメンでクラスの人気者な幼なじみ、佐伯瑛斗がいる。 家族ぐるみの付き合いのせいか、瑛斗は昔から距離感がおかしくて、何かと蒼にベッタリ。けれど、蒼はそれを“ただの友情”だと思っていた。 ある日、初めての告白に浮かれていると、瑛斗から突然キスされて......!? 「蒼のことが好きだ」 「お前が他の奴と付き合うのは耐えられない」 友達だと思っていた関係が一気に変わり、戸惑いながらも瑛人の一途で甘い想いに少しずつ心が揺れていく。 しかし、素直になれない蒼は最後の一歩が踏み出せずにいた。 そんなとき、ふたりの関係に”あるトラブル”が訪れて......。 じれったくて、思わず応援したくなるふたりのピュアな青春ラブストーリー。 「......蒼も、俺のこと好きになってよ」 「好きだ。好きだよ、蒼」 「俺は、蒼さえいればいい」 どんどん甘く、独占欲を隠さなくなる瑛斗に、戸惑いながらも心が揺れていく。 【一途で独占欲強めな攻め × 不器用で素直になれない受け】

殿堂入りした愛なのに

たっぷりチョコ
BL
全寮の中高一貫校に通う、鈴村駆(すずむらかける) 今日からはれて高等部に進学する。 入学式最中、眠い目をこすりながら壇上に上がる特待生を見るなり衝撃が走る。 一生想い続ける。自分に誓った小学校の頃の初恋が今、目の前にーーー。 両片思いの一途すぎる話。BLです。

勇者様への片思いを拗らせていた僕は勇者様から溺愛される

八朔バニラ
BL
蓮とリアムは共に孤児院育ちの幼馴染。 蓮とリアムは切磋琢磨しながら成長し、リアムは村の勇者として祭り上げられた。 リアムは勇者として村に入ってくる魔物退治をしていたが、だんだんと疲れが見えてきた。 ある日、蓮は何者かに誘拐されてしまい…… スパダリ勇者×ツンデレ陰陽師(忘却の術熟練者)

無口なきみの声を聞かせて ~地味で冴えない転校生の正体が大人気メンズアイドルであることを俺だけが知っている~

槿 資紀
BL
 人と少し着眼点がズレていることが密かなコンプレックスである、真面目な高校生、白沢カイリは、クラスの誰も、不自然なくらい気にしない地味な転校生、久瀬瑞葵の正体が、大人気アイドルグループ「ラヴィ」のメインボーカル、ミズキであることに気付く。特徴的で魅力的な声を持つミズキは、頑ななほどに無口を貫いていて、カイリは度々、そんな彼が困っているところをそれとなく助ける毎日を送っていた。  ひょんなことから、そんなミズキに勉強を教えることになったカイリは、それをきっかけに、ミズキとの仲を深めていく。休日も遊びに行くような仲になるも、どうしても、地味な転校生・久瀬の正体に、自分だけは気付いていることが打ち明けられなくて――――。

幼馴染が「お願い」って言うから

尾高志咲/しさ
BL
高2の月宮蒼斗(つきみやあおと)は幼馴染に弱い。美形で何でもできる幼馴染、上橋清良(うえはしきよら)の「お願い」に弱い。 「…だからってこの真夏の暑いさなかに、ふっかふかのパンダの着ぐるみを着ろってのは無理じゃないか?」 里見高校着ぐるみ同好会にはメンバーが3人しかいない。2年生が二人、1年生が一人だ。商店街の夏祭りに参加直前、1年生が発熱して人気のパンダ役がいなくなってしまった。あせった同好会会長の清良は蒼斗にパンダの着ぐるみを着てほしいと泣きつく。清良の「お願い」にしぶしぶ頷いた蒼斗だったが…。 ★上橋清良(高2)×月宮蒼斗(高2) ☆同級生の幼馴染同士が部活(?)でわちゃわちゃしながら少しずつ近づいていきます。 ☆第1回青春×BL小説カップに参加。最終45位でした。応援していただきありがとうございました!

溺愛系とまではいかないけど…過保護系カレシと言った方が 良いじゃねぇ? って親友に言われる僕のカレシさん

315 サイコ
BL
潔癖症で対人恐怖症の汐織は、一目惚れした1つ上の三波 道也に告白する。  が、案の定…  対人恐怖症と潔癖症が、災いして号泣した汐織を心配して手を貸そうとした三波の手を叩いてしまう。  そんな事が、あったのにも関わらず仮の恋人から本当の恋人までなるのだが…  三波もまた、汐織の対応をどうしたらいいのか、戸惑っていた。  そこに汐織の幼馴染みで、隣に住んでいる汐織の姉と付き合っていると言う戸室 久貴が、汐織の頭をポンポンしている場面に遭遇してしまう…   表紙のイラストは、Days AIさんで作らせていただきました。

処理中です...