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1章 告白は突然に side.新汰
4 早く、気持ちを
しおりを挟むそれからあっという間に時間はすぎ、気付けば一日が終わろうとしていた。
「はあ……」
終礼を終えた三組の教室で、俺はまた力なく椅子に腰かけていた。だらりと背もたれに身体を預けながらぼんやり考えていたのは、今日から本格的に始まる部活のことだ。
着替えて準備をする時間を考えると、早く移動した方がいいのはわかっている。なのに足も腰もだるく動こうとしない。
それは今日一日理久に翻弄されていたからだと思えた。
――とりあえず一日が終わったけど……このままじゃ俺は本当にもたない気がする。
『新汰――』
そう色っぽく名前を呼ばれて、肩が触れるところまで近寄られるたび身体の奥がむずむずしてしまう。
俺はなぜ、これまで自然に理久の隣りに座っていられたのだろう。今となってはもうわからない。
――そもそも、俺の気持ちはほんの些細なものだったはずなのに。
幼い頃に抱いた小さな願い。理久の隣りにいたい――そんな純粋な思いだけで、隣りで理久のことばに耳を傾けているだけで幸せだった。
それだけで十分だったはずなのに、あの穏やかな気持ちはもうすっかり変わり、なぜか燃えるように自分を焦がしている気がする。
火種のような小さな気持ちは、今はまるで不完全燃焼しているかのようにぶすぶすと燻ぶり胸が痛い。
それは、俺が理久に気持ちを伝えられなかったからだと思えた。
簡単だということはわかっている。理久に俺も好きと言えば、きっとすべてが変わるだろう。
笑顔を向けられるたび苦しくなるのも、身体が触れそうになるたび心臓が爆発しそうになるのも。俺が早く気持ちを伝えればすぐに変わるのだ。
ただそれが分かっていながら、俺はそれができない。
理久に気持ちを伝えることが怖くてたまらない。
だって理久に今更なんて言ったらいい?
今更どうしたってからかわれるかもしれないし、それにずっと好きだったこの気持ちすら信じてもらえないかもしれない。
もちろん理久がそんなことするはずないって分かってる。ただ理久にそうされたら、俺はもう生きていられないだろう。
弱い俺は幼いころのまま少しも成長していない。
そう自責していたときだった。教室にチャイムの音が響き渡った。
周りのクラスメイトたちはそれを合図にするように、散り散りになり移動を始める。
――俺もそろそろ行かないと。
重たい身体をのそりと起こし背伸びをする。
今日からいよいよ部活の新年度が幕を開けるのだ。
南高校剣道部は全国出場を目指し活動していて、7月の地区大会に向けて今日から本格的に始動する。
県内では強豪にあたるもののライバルは多く、今後朝練や夕練も確実に増えることがわかっていた。
だからこそ理久のことが気がかりだった。
前のように教室で会えない今、俺と理久との時間は確実に少なくなる。今日みたいに一緒に昼飯を食べればいいが、翻弄されてそれどころではないかもしれない。
そうして気持ちを伝えるチャンスが確実に減るのだから、できればその前に何としても伝えたかった。
――でも、どうやって。
俺がため息をついた時だった。横から俺に声をかけたのは牧田だった。
「西脇くんも今日から部活?」
そう聞かれ、ふと違和感を覚え聞いてみる。
「ああ。その……牧田は?」
「私も部活だよー!」
確かに牧田は紺色の指定鞄に加え、大きなオレンジ色のナップザックを背負っていた。それが楽器や画材ではないことに気付き、俺は聞いてみる。
「そうなんだ。何部?」
「私、新体操部なんだ。じゃあそろそろ時間だから行くね。西脇くんまた明日」
ひらりと振った手は、指先までぴんと意識が届いているようですごく優雅に見えた。
黙って見送りながら、俺はひとり納得した。
牧田はすごく小柄で細身で見るからにか弱い。にも関わらずこうして偏見なく言葉を交わしてくれるのは、きっと昔から外部のスポーツクラブに通っているからなのだろう。
そこで俺は気付いた。
もしかしたら、牧田みたいな人はほかにたくさんいるかもしれない。理久がクラスにいなくても、そういう人たちと話して少しずつクラスに溶け込むことだってできるかもしれない。
――俺も頑張らなくてはいけないんだ。
理久は勇気を出して俺に気持ちを伝えてくれた。これまでの関係が変わることをいとわずに。そして新しい関係が始まったとしても、それをよくしようと今も努力している。
今は俺ばかりがそれに甘えているのではないだろうか。
――俺も…………勇気を出さないと。
俺は震える身体をなんとか動かして、理久のいるすぐ隣の教室へ向かう。
二組はまだ人が多く、学生たちは集まってはざわついていた。理久はどこの席だろうと中を探すと――。
――いた。
理久は窓際の後ろの方の席で、ほかのクラスメイトたちと楽しそうに話をしていた。
気心しれぬ感じでふざけながら笑う理久は、俺の隣りにいるときと別人のように見えた。
それを見た途端、心臓の音がまるでカウントダウンを刻むように早くなる。
正直、怖かった。
理久はきっとこちらを見てくれるだろう。嬉しそうに顔をぱっと輝かせて。
ただ、周りはどうだろうか。俺が名前を呼んだ瞬間すべての視線がこちらを向くかもしれない。なんだなんだとあの嫌な視線で。
――それでも、俺は。
手をぐっと握りしめ、俺は足を動かす。
二組の教室に入り、理久の席へ近付き、そして――。
「……理久」
そう口に出した途端、理久は驚いたようにこちらを見上げた。
「あ、新汰?」
「ち、ちょっと、話がある」
「ああ、うん」
理久がよっせと立ち上がる最中も、俺は気が気でなかった。
周りのざわめきがどんどん小さくなり、視線が俺の方へ徐々に集中していく気がする。
冷や汗がたらりと背を伝い、たまらず俺は理久の手を取った。小学生の頃、早く行こうと理久を引っ張ったあの頃のように。
そして一歩踏み出したときだった。
「え、何、喧嘩?」
その声に俺は思わずびくりとする。
途端に身体は固まったかのように動かなくなった。俺のそんな様子を察して理久がフォローを入れる。
「ははは。何言ってんの。俺と新汰がそんなことするわけないでしょ。幼馴染なんだって」
「えー、本当?」
周りの女子たちの好奇な問いに、理久は笑って答える。
「本当本当。なあ、新汰――新汰?」
気付けば俺はひとり教室を出ていた。
薄暗い階段の踊り場で、ひとりうずくまりながら思う。
やっぱり人はそんな簡単に変われるもんじゃない。
理久に気持ちを伝えるなんて、到底無理な話なんだ。
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