【完結】幼馴染に告白されたけれど、実は俺の方がずっと前から好きだったんです 〜初恋のあわい~

上杉

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1章 告白は突然に side.新汰

3 なぜそこに

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 どういうことだか少しも頭が追いつかない。
 俺を悩ませていた諸悪の根源(?)清宮理久がなんと玄関の目の前にいる。しかも一緒に登校しようと誘ってきている。

「あっ、りっくんおはよう!お兄、いってらっしゃい」

 茜は相変わらず空気を読んでくれない。
 そう言われ背を押されてしまえば、俺はどうしようもない。
 いってきますと言い、鞄を持ち理久に従う。

 春の穏やかな朝日は心地いい。時折車が脇を通りすぎ、どこかの家から朝の支度をする子どもの声が聞こえる。
 そんな穏やかな朝はいつもと変わらないはずなのに、なぜか今日は静まり返っているように感じられた。
 俺の心臓は絶えずばくばくと音を鳴らす。
 そもそも高校に入ってからは朝練があるから、もっと早い時間にひとりで学校に向かっている。
 だから一緒に登校するのはかなり久しぶりで、こうして隣りを歩くとき、理久は大抵勝手に喋り始めているのに――。
 隣りをちらりと見ると理久はどこか晴れやかで、さっぱりと満足げな顔をしている。

「新汰、どうした?」

 思わず目が合い、俺はびくりとする。

「な、なんでもない」

「ふーん。まあいいんだけど」

 そうにやにやしながらこちらを見て、なぜか不意にその手をこちらに延ばした。
 思わずびくりと身を引くと、理久は何故か嬉しそうに笑う。

「ふふっ。新汰、意識してくれてんでしょ」

 その言葉に俺の頬はみるみる赤くなる。
 理久は昔から、こうしてすぐに思っていることを言葉にするやつだ。それはいいところでもあり悪いところでもあって、大人になるにつれ次第に周りの空気を読むようになったと思っていたのに。

 ――これは……まずい。

 火の玉ストレートで気持ちを伝えられるのは、想像以上だ。
 そもそも俺は理久の顔が好きなのだ。それを知ってか女子がきゃあきゃあ言う爽やかなスマイルを向けて、甘く微笑んでくる。
 これまで見ていたやんちゃな顔ではなく、どこか誘うような色気のある眼差しに、俺は崩れ落ちそうになる。

 ――なんて破壊力だろう。

 そんな俺の考えを見通しているのだろうか。理久は歩きながら優しく言う。

「……新汰。ああは言ったけど、新汰はこれまでどおり普通にしてもらって構わないから」

 それができればいい。できないから困ってるんだ。
 お願いだから、それ以上意識させないでくれ。
 その思いを、俺は結局言葉にすることができなかった。
 
 俺たちはそのまま無言で学校までの道を歩いた。
 正門を通り、裏の昇降口へ向かう。まだ早い時間だからだろうか、学生はまばらだった。
 本当にこれでよかったのか――そう疑問に思いながら理久の方を見ると、相変わらずどこか浮足立ったような笑顔を浮かべている。
 どうやら、本当に昨日の告白は俺の空耳でも気のせいでもなかったらしい。

 ――理久は……本当に、本当に俺のこと……。

 そう自覚した途端、すっかり落ち着いていた胸の鼓動は再び早くなりはじめた。
 これじゃあもうきりがない――俺がそう焦り始めたときだった。
 並ぶ下足箱を前に、理久は突然振り返り――。

「新汰、

 そう言ってすぐに行ってしまった。
 俺はひとり上履きに手を掛けたまま理久の言葉を反芻していた。

 ――また昼って……どういうことだろう。


 そうして困惑したまま本格的に新学期は始まった。
 見ない顔の多い新クラスのなかで、理久のいない環境のまったく新しい生活だ。
 これまでほかの人とのコミュニケーションのほとんどを理久に依存していた俺は、このクラスに馴染めるのか、やっていけるのか不安で仕方がなかった。
 しかし朝の理久との騒動が功を奏したのだろうか。俺はそれどころではなくなっていて、淡々と授業をこなすだけだった。
 そうして気付けばすでに四限が終わり、昼休みを迎えていた。

「……はあ」

 ――授業を受けていただけなのに、なぜこんなに疲れているんだろう。

 絶対に理久のせいだ――そう思いながら、ふうと息を吐いて机につっぷそうとしたときだった。

「……どうしたの?西脇くん」

 脇から聞こえた声に俺は顔を向ける。
 こちらを心配そうに見ていたのは、隣の席の女子だった。 

「ええと…………牧田まきただっけ?」

「そう。覚えてくれてたんだね」

 嬉しそうにはにかむ女子は牧田まきたなぎさだ。
 名前を憶えていたのは去年も同じクラスだったからで、去年の秋に確か理久と一緒に美化委員をしていた気がする。
 どちらかというと小柄で線が細く、か弱い印象の女子で、正直こういうタイプとはあまり関わりたくなかった。
 だから内心声をかけられるなんてと俺は驚いていた。

「えっと……何?」

「うん。西脇くん、体調大丈夫かなって」

「……え?」

 何故と思っていると、牧田はどこか恥ずかしそうに続ける。

「……最初は機嫌悪いのかなって思ってたんだけど……その、消しゴム……………落としすぎだから気になって」

「え」

 確かに授業中ずっと手持ち無沙汰で、絶えず消しゴムを触っては床に落としてしまっていた気がする。どうやらそれを牧田に見られていたらしい。

「……ごめん」

「ううん。何でもないならいいの」

 牧田は両手を振って大げさに言う。
 その仕草からこちらに対する恐怖は伝わってこなくて、俺は思わず安心して礼を言う。

「牧田。ありがとう。その……気を付けるよ」

 そのときだった。

「……新汰!」

 教室の入口から理久の声が響いた。
 手をひらりと上げ入って来たと思えば、何故か俺ではなく牧田に言う。

「新汰、借りていい?」

「えっ、え…………うん」

 その返事を聞いた途端、理久は俺の手首をぐっと掴んだ。
 思わぬ力の強さに俺は驚く。

「理久!ちょっと」

「昼飯」

「え」

「昼飯行こ」

 急いで机の脇に下げていた弁当を取り、俺は言われるがまま理久のあとをついて行く。
 理久は何故か自分の教室を通りすぎると、校舎の奥へ奥へと進んでいった。

 ――どこへ行くんだろう。

 そう困惑する俺を連れ、理久が足を運んだのは旧校舎だった。
 今も使われているものの、ちょっとした少人数授業が行われる教室と、赤本が保管された進路指導室しかない。
 元から人があまり訪れない薄暗い建物のどん詰まり――理久が足を止めたのは、そんな旧校舎奥の階段の踊り場だった。

「え、ここ?」

「うん。静かでいいでしょ」

 さらりと言われ俺は思わず納得してしまった。
 そこは本校舎の物音がかすかに聞こえるだけの、静かで穏やかな場所だった。
 これまでの昼飯はというと、理久と同じクラスだったから教室でそのまま食べたり、時に食堂へ行くこともあった。
 そのたび感じていたのが、周囲の――特に女子からの焦がすような視線だった。
 理久はとにかく目立つしモテる。
 だから何をしていても注目の的で、理久に向けられたその熱い視線を俺は少しだけ怖いと思うこともある。
 それを理久は気付いてくれたというのだろうか――。
 理久はこっちと言い、外へ繋がる引き戸の前の数段階段になっているところを指差した。
 その扉はどうやら外の非常階段に繋がっているらしい。そこだけ窓から入る光でぼうっと照らされていて、静かで落ち着く気がした。
 扉を背にし、段になっているところに座り込む。弁当を脇に置き、理久に感謝を伝えようと口を開こうとしたときだった。
 理久は突然俺の隣りにすとんと腰掛けた。
 これまで教室で食べていたときは正面だったので、その思わぬ距離の近さに俺は動揺する。

「!?」

「……そんなに驚かなくていいのに」

「そ、そ、そりゃあ……驚くって」

 これまでずっと片思いしてきた相手が、突然自分のパーソナルスペースに入ってきたようなものだ。
 すぐ、目の前に理久がいる。
 理久の匂いとシトラスのビターな香りが混ざりあい鼻に届き、くらくらする。
 そんなことなどお構いなしというように、理久は得意げに笑う。

「ふーん。じゃあ意識してくれてるってことか」

 そりゃあ当たり前だ。
 この状況で意識しないほうが無理だろう。
 理久の長いまつ毛が光できらりと輝く。今にも触れそうなところにあるそれに気を取られていると、栗色の瞳がいたずらそうに細められて――。

「まあいいか」

 理久はよっこいせと腰を上げ、階段を下りて俺の正面に座りなおす。そして手にしていた弁当を開き言う。

「よし、頂きまーす」

 新汰も食おうぜ、そう軽く声をかけてくる理久が腹立たしかった。
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