【完結】幼馴染に告白されたけれど、実は俺の方がずっと前から好きだったんです 〜初恋のあわい~

上杉

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2章 俺の特別 side.理久

2 弱い自分

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 一度だけ、俺は新汰を悲しませてしまったことがある。
 小学二年の夏休みのことだった。
 連日外を歩けないような暑い日が続いていて、その日も朝から新汰の家でふたりゲームをしていたときだった。
 とある面の中ボスが倒せなくて、ふたりでそれっぽい作戦を練りながらおやつを食べ、もう一回――そんなときに新汰はふと言った。

『そういえば、昨日、道場の見学に行ったんだ』

 その言葉に俺は驚くと同時にショックを受けた。
 俺たちは幼稚園で出会ってからこれまでずっとふたりでいてこうして遊んで、新汰も楽しそうにしていると思っていた。
 だから突然そう言われ、俺は否定されたと思ったのだろう。これまでの俺との時間も、俺自身のことも。新汰はそんなこと一言も言っていなかったのに。
 衝動的に胸にこみ上げたのは怒りだった。
 なぜそんなことを言うのか。俺と一緒に遊ぶのが楽しくないのか。
 俺のこと、嫌いになったのか。

『理久?』

 新汰がそう心配そうな声を出したことに俺は気付いていた。ただ俺はそのときもうどうしようもなくて、新汰を突き放してしまった。
 
 家に帰ってから俺はひとり悶々としたのを覚えている。
 小学生の俺には、新汰がただ俺に伝えようと言っただけだということが理解できなかった。
 そんな俺は見るからに落ち込んでいたらしい。出された夕食を淡々と食べ、早々にリビングでテレビに視線を向けていると、晩酌する父に心配されてしまった。

『理久、今日元気ないな。何かあったか?』

『……うん』

 とりあえず頷くも答えられずにいると、奥のキッチンで母が食器を洗いながら反応する。

『どうせ新汰君のことじゃないの』

『えっ』

 なんで分かるの――そう思った俺はぱっと顔を上げてしまった。母のにやりとした笑顔が見えた。

『理久が毎日遊ぶの新汰くんしかいないでしょ。瑤子ちゃんにいろいろ聞いてるんだから』

 新汰のお母さんの瑤子さんは、専業主婦で基本的に家にいる。だから俺は昔からよく面倒を見てもらっていて、今思えば母同士しょっちゅう連絡を取り合っていたのだろう。
 ばれてしまってはしょうがない。そう思った俺は渋々口を開いた。

『その…………新汰が道場に通うって、それで――』

『ああ、その件ね。あたしが瑤子ちゃんに紹介したの』

『…………え?』

 思わず俺が言葉を失っていると、ビールをごくりと飲み干した父も聞く。

『道場?』

『そう。あなたも知ってるでしょ。新汰くん。あの子すごく静かで落ち着いてるでしょ。だからきっとぴったりなんじゃないかってあたしが瑤子ちゃんに紹介したの』

『なるほど。落合さんのところだろ?確かに、新汰くんは体格いいからもったいないと思ってたんだ。落合さんのとこならぴったりじゃないか』

『ふふふ。そうでしょう』

 なんて余計なことを。

『理久、あんたまさか……新汰君を取られたと思ってる?』

 母に言われ俺はぎくっとした。それを隠すように必死になって反論した。

『……は?何言ってんの。そんな訳――』

『あなたもしたらいいじゃない。習い事』

『……え?』

『あんた昔からいろいろとありあまってるじゃない。まあ、あたしたちが構ってあげられなかったんだけどね』

 正直、今そんなことを言われてもと思ったものの、母はそんなこと気にせず続けた。

『大丈夫。あたしも父さんも運動神経よかったから、何初めても楽しいと思うわよ』

 そう言われて紹介してもらったのが地元の体操クラブだった。
 球技というよりは木登りや鉄棒が得意だったからお試しで体験参加したところ、確かに自分に合っている気がした。
 弾む床はもっとと俺に応えるように力を貸してくれるし、しなる鉄棒も大きな跳び箱もそうだった。
 もっと、もっと。そう自分を試されるような感覚が気に入って、俺は流されるまま入会を決意した。
 実際母の言っていたとおり、夏休み中に俺は水を吸うように技を覚えていった。
 小学生低学年にも関わらず基本の床運動だけでなく鉄棒や跳馬、円馬など見たことのない器具も触ることになり、いろいろな技を教えてもらうことができた。
 そんな時間はほかのことを忘れられるくらい集中できるの、新汰と離れている時間は大抵教室に足を運んでいた。
 そうして体操ばかりが上達し、問題が一向に解決しないことに気付いたときには、もう夏休みの終盤だった。

 結局、新汰にどうやって謝ったらいいかわからなかった俺は、学校が始まる頃に母に背中を押される形で顔を合わせた。
 そのときの新汰の顔を俺は今でも覚えている。
 かつて俺をきらきらと見ていた黒の瞳はどこかぼんやりと虚ろで、ただこちらを心配させまいとぎこちない笑みを顔にのっぺりと貼り付けていた。
 俺はやってしまったと思った。
 新汰の前ではなんとか普通を装ったものの、その裏では罪悪感で死にそうだった。
 悲しませたくないとずっと思っていたのに、俺がその立場になってしまった。子どものようなことをして新汰を傷付けてしまった。
 そのときに俺は思った。
 もうあんな顔は絶対にさせない。
 俺は弱い自分から強い自分になって、今度こそ新汰を守るんだって。

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