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2章 俺の特別 side.理久
3 新しい関係
しおりを挟む周りの子たちの新汰へのあたりが変わったのは、ちょうどその頃だった。
これまで無表情で図体ばかり大きいと勝手に評価していたくせに、年齢が上がるにつれその評価軸が一気に変わったらしい。なんて理不尽だろう。
確かに剣道を始めて新汰は変わった。
普段から背筋がぴんと伸びるようになって、自信のようなものが湧き出ているように見えた。新汰の大人びた雰囲気も相まって魅力的に見えるのは確かに分かる。
ただ、まさかそれだけで手のひら返しをするとは思わなかった。
これまで新汰のことを怖いと言い、忌避していた人たちが口を揃えて新汰のことを最近かっこよくなったと言う。ほかの男子と比べて寡黙で大人、落ち着いていていい、そう言って。
今さら何を言っているのだろう。正直、俺は信じられなかった。
新汰の何がわかる?何も知らないくせに外側だけ見て評価してばかり。
新汰の魅力は優しさと広い心、それに包容力。どれも内面にある。それに気付けない奴らは新汰に近寄らないでほしい。
いや、そもそも気付く必要なんてない。
新汰の魅力は俺だけが知っていればいい。
そう思ってこれまで平穏にすごしていたのに、高校一年の冬に事件が起きた。
まだ肌寒い日の放課後のこと。母に、西脇家に渡すものがあるから家に寄ってと言われた俺は、せっかくだから新汰と一緒に帰ろうと図書室で時間を潰していた。
そして終わる頃を見計らって道場へ向かい、外でスマホをいじりながら待っていたときだった。
引き戸が開き中から出てきたのは女子たちで、新汰はまだかと俺が扉の陰から出るのをやめたとき、偶然こんな話し声が聞こえた。
『先輩。西脇くんって彼女いるんですか?』
『えー?なに突然。それになんであたしに聞くの』
『だって。知ってそうだと思って』
西脇くん――その言葉に、俺は耳を澄ませてしまう。
『まあ、いる雰囲気はないよね』
『そうなんですか?』
『なになに?理沙ちゃん、西脇狙いなの?』
理沙ちゃん――隣りのクラスの剣道部の子だった。
俺の胸は次第にどくんどくんと音を立てる。
『……最初、大人っぽくて怖いと思ってたんですけど、西脇くん人のことよく見てくれてるし、教え方もすごく優しいじゃないですか。それで――』
『うわー、もう惚れてるじゃん!』
『えへへ』
俺の中で黒いものがどろどろと渦を巻き、腹が猛烈に熱かった。
声を出さないよう必死に自分を抑えていたのを、俺はよく覚えている。
『先輩、なら西脇くんってどんなタイプが好きだと思いますか?』
『ちょっとあたしに聞かないでよー。そうだなあ……清宮くんならきっと知ってるんじゃない?よく西脇とつるんでるみたいだし』
唐突に出てきた自分の名前に気付き、俺は息を潜めて柱の陰に身を隠した。
『え、清宮ってあの清宮くん?』
『ね。意外だよね。正反対そうなのに、よく一緒にいところ見るんだよね』
『西脇くんて、実はああ見えて面食いとか』
『大丈夫。理沙ちゃんも綺麗系だし、いけるいける』
そう笑いながら部室棟へ歩いていく後ろ姿を見ながら、俺はぞっとした。
新汰に彼女ができることなんて、これまで少しも考えたことがなかったから。
――まずい、新汰が取られる。
咄嗟に浮かんだ危機感は心の中に大きなしみのように広がっていった。
新汰は優しくていい奴だ。だからきっと告白されたら断らないだろう。いや、新汰のことだから断れない。
そうして首を縦に振ってしまったら、そのまま気に入られてしまう。そして関係は続き、最悪そのままいってしまう――。
そんな恐ろしい未来を思い浮かべてしまった俺は、どうやら翌日から鬱々としていたらしい。
部活に行った新汰を笑顔で見送る俺に、声をかけたのは髙橋良悟だった。
『理久、お前今日どうした?』
『え、別に何もないけど』
『嘘言え。昨日何かあっただろう』
良悟は体操教室に通っていたときからの知り合いで、今はこうして同じ高校に通う友人だ。
学校では昔からバスケ部に所属していてキャプテンも務めるせいか、こうして周囲の変化に目ざといところがある。
自分も部活に行かなくてはいけないのに、わざわざこうして声をかけてくれる良悟に、俺は話さずにはいられなかった。
新汰の名前は出さずにひととおり話し終えると、なぜか良悟はにやにやと笑った。
『ふーん。なるほどね』
『……何?』
『いやあ、天下の清宮が高校になっても少しも彼女作らないと思ったら、初恋の相手をずっとずっと想ってうじうじしていた訳か』
『お前…………言い方』
むかつく奴だと思っていると、良悟はきりっとした目を俺に向けて言う。
『好きなら言わないと、簡単に横取りされるぞ』
その言葉は正論すぎて胸が痛かった。
ため息をつく俺に向かって良悟は容赦なく続ける。
『その子と知り合って長いんだろう?きっとお前のこと友達としては好いてくれてるんじゃないのか?』
『……まあ、多分』
『多分!?ははは。お前も弱気になるんだな。そもそもお前の誘いを断る奴なんかいないだろ』
そう言われれば、確かに女子なら落とせる自信は無きにしもあらずだった。
剣道部女子たちが話していた通り、なぜかこの高校での俺の女受けはすこぶるいい。ただ今回の相手は女子ではないし、ましてや新汰だ。
友人として好かれてる自信は誰よりもある。それでも――。
『ならいいのか?お前の大事にしていたものを、目の前で赤の他人にかすめとられて』
良悟はまるで挑発するように言う。
『勢いがお前の取柄みたいなものだろ?』
そう良悟にせっつかれた結果、二年になって初めての日に俺は新汰に告白していた。
急がなければというこれまでの焦りと、この日クラスが分かれてしまった事実が俺の中で大きな転機になった。
気持ちを伝えた時の新汰は、これまで俺が見たことのない顔を見せた。
それは不快感を表すものでも恐怖でもなく、どこか焦っているような落ち着きのない顔。
それを前に、俺は安心すると同時に期待してしまった。
もしかするとこれからうまくやれば可能性はあるかもしれない。
恋人として新しい新汰の顔を見ながら、ずっと新汰の隣りにいられるかもしれないって。
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