【完結】幼馴染に告白されたけれど、実は俺の方がずっと前から好きだったんです 〜初恋のあわい~

上杉

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6章 京都への旅 side.理久

4 ひとつ布団の中

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 俺はひとり部屋に戻るも、驚いた。
 そこは二組の男子が寝泊まりする部屋であるはずなのに、なぜか大騒ぎをする声が聞こえる。男子の中に女子も入り乱れ、あまりの無法地帯のありさまに俺は言葉を失ってしまう。

「あ、清宮くんだ!ねえ、一緒にババ抜きしようよー」

 突然声をかけられとりあえず答える。

「え、俺?今日自由時間に結構歩いたから、もうかなり眠いんだけど……」

「それさっき高橋君も言ってたけどさあー、もう男子なんだから頑張りなよ!」

「いやいや……女子、たくましすぎでしょ」

 俺はそう笑って逃げた。
 正直、もう無理だった。
 風呂に入って身体の疲れはある程度癒やせた気がするけれど、今日はもう静かに眠りたい。
 誰かといても気が紛れることはないのだ。どす黒いもやのような気持ちはそのときだけ見えなくなるだけで、あとでまた必ず向き合わなければならない。
 目を背けても、必ず反動はやって来る。

 ――それだったら眠って意識を手放してしまいたい。

 そう思うも、肝心の俺の布団は占拠されている。
 俺は一体どこへ行けばいいのだろう。

「まじで……どこにも逃げ場ないじゃん」

 俺は呆れながら部屋の外へ出た。
 少しでも静かな方へと宿泊棟を当てもなく歩く。
 しかしあたりはカップルや学生たちが未だうろうろしていて、少しもひとりですごせそうにない。
 そうして一階に辿り着いたときだった。
 最低限だけ照明の着いたロビーの前を通り抜けたところで、俺は中庭とそこへ出入りする扉を見つけた。

 ――開いてたりは……しないか。

 そう思いドアノブに手をかけたところ、扉は簡単に開いた。
 俺はほっとした。ここならきっと誰も来ないし、誰にも見つからないだろう。
 少しじめじめとしていたものの、中庭としてきちんと手入れされている。
 そうして俺が草木の陰に小さなベンチを見つけたときだった。
 
「あれ…………理久か?」

 そこにいたのは新汰だった。
 風呂から上がったばかりなのだろうか。まだ湿った髪と上気した頬が薄闇の中に見えた。
 またここにやってくることをあらかじめ決めていたのだろうか。長ズボンにきちんとパーカーを羽織っている。

「……新汰?どうしたこんなとこで」

「ああ、部屋がやばくて……逃げてきた」

 どうやらどこの部屋も同じ惨状らしい。

「俺んとこもそう。男子女子入り乱れてとにかくやばい。これ大丈夫かって心配になるんだけど」

「先生厳しいのに、本当にみんなよくやるよな。巻き込まれないように、俺たちはここでじっとしてよう」

「あれ、本当に収まるのか?……まあ消灯前になればみんな自分の部屋に戻るか」

「それまでの辛抱だな」

 消灯まで、あと一時間だった。
 ちりりと秋の虫の音がかすかに聞こえる簡素な庭で、俺達は待った。
 建物に囲われ日中も日が当たらないからだろうか。じめじめとしたひんやりと空気が辺りを包む。
 俺は新汰の隣りに腰掛け、狭い夜空を見上げながら思う。

 ――まさか………ふたりきりになれる時間が取れるなんて。

 だからこそ、言葉に詰まってしまう。
 さっきまで新汰とだべりたいとかいろいろ考えていたのに。すべてが夜の闇の中に溶けて消えてしまったようだ。
 そんな立ち込める秋の空気に、俺は思わずくしゃみをしてしまう。
 そういえば何も羽織っていなかった――俺がそう思ったときだった。新汰がおもむろにパーカーを脱ぎ始めた。

「理久、これ」

 そう言ってこちらに差し出すので、俺はもちろん拒否する。

「それだと新汰が寒いだろ。俺は別に部活もしてないんだから、少しくらい冷えてもいいんだよ。むしろ冷やしちゃ駄目なのは新汰の方だろ」

「でも……」

「なら……ふたりで羽織るか」

 俺は何を言ってるんだと自分に呆れた。しかし新汰はああと同意したので、忘れることにする。
 小さいベンチでふたり身体を寄せると、肩が触れ腰が当たりなんとも恥ずかしい。
 けれど確かにあったかくて、まるで恋人のようで。
 高鳴り始めた心臓の鼓動に、それが聞こえてしまわないといいと俺が心配していたときだった。

「理久……俺……」

「どうした?」

 下を向く新汰の顔が真っ赤だと言うのは、暗くてもわかった。何故なら新汰の身体は震え、声もかすれていたから。
 今、新汰が大切なことを言おうとしている。それはもう明らかで。
 だから俺は話を聞いてあげないといけないのに。その瞬間、俺は反射的に口を開いてしまう。
 
「俺、新汰に言いたいことがあるんだ」

「え……?」

 まるで先手を打つように言う自分は、なんて駄目な男だろう。
 でも怖いから。
 新汰が今言おうとしてる大切な言葉が、拒絶の言葉でない保証はない。
 今、仮にそんなことを言われてしまったら、俺は京都から無事に帰れるかも怪しくなってしまう。
 だから、俺は自分を守ったようなものだった。新汰の気持ちなんて、まるでお構いなしに。

「新汰。……無理だったら、早く言ってほしいんだ。俺、大丈夫だから。新汰が優しいのはわかるんだ。俺のために付き合ってくれてるの、よく分かる。でも俺、もう耐えられないんだ」

「り、理久!……俺は――」

 新汰が何か言いかけたそのときだった。
 かすかに女子の甲高い声が聞こえたと思えば、次第にばたばたと足音が聞こえはじめた。
 中庭は吹き抜けになっている。まさかと思い俺は新汰に聞く。

「……え、まだ時間まで余裕あるよな?」

「早めに見回りしてるのかもしれない。俺たちも急いで戻ろう」

 そうしてふたりで走って部屋へと戻った。
 あわてふためく人の流れから察するに、男子の部屋の一組から順に回っているのだろう。
 すでに先生の怒声が響き渡っており、もう二組男子の部屋は間に合わないように思えた。

「まじかよ……」

 何にもしていないのに、むしろ迷惑を受けていたのになんで俺が怒られないといけないのだろう。
 そんなのやってられない――そうひとり憤っていたときだった。

「理久……こっち」

 新汰が突然俺の手を引いたと思えば、暗闇の中に引き込まれていた。
 そこは三組男子の部屋らしい。すでに先生を迎える準備は万端というようで、すっかり寝静まった相川と、ほかには布団に入ってスマホをいじる男子たちのかすかな光が視界に入った。
 そのときだった。

「……理久、早く!」

 新汰が声を荒らげたと思ったときには、俺は布団の中にいた。
 そしてそこにはもちろん新汰もいる。
 ひとり用の狭い布団の下で。まるで俺を後ろから抱きしめるように新汰がいた。
 密着した互いの熱気が反射しているようで、暑い。
 そうして思わず身体を動かしたとき、腕に――新汰の肌が触れた。

 ――まずい。

 息づかいすら聞こえ、新汰の匂いも充満している。
 こんな狭い空間でこんなにくっついていたら――俺が焦り始めたときだった。ついに扉が開く音がした。

「三組はどうだ……寝てるかな」

 そう言って入ってきた先生にどきどきしたものの、すっかり電気が消えているのを確認して安心したらしい。おやすみとだけ声をかけて、そのまま出て行ってしまう。
 扉が閉まり、足音が遠くなっていく音を聞きながら俺は思う。
 ああ。こんなにも俺達は近づいているのに。まるで恋人のように温もりを分け合っているのに。
 なぜ俺たちの気持ちはまだ離れたままなのだろう。

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