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7章 互いの行く先 side.新汰
1 距離
しおりを挟む修学旅行は無事に終わった。
二日目の奈良でも大事件が起こることもなく、みっちり学んで俺達は日常生活に戻ってきた。
ただ、その残滓だろうか。心にわだかまった靄のようなものは今もまだ消えずに残っている。
思い返すと、俺の修学旅行はなかなか充実していたと思う。
いつもの仲のいいメンバーと班行動できたのは、とてもありがたかった。心配していた自由時間では笑顔がつきなかったし、さらに別クラスであるはずの理久と運良く回ることができたから。
それにはきっと理久のクラスの高橋が関係していると、俺は思っている。
実際文化祭以来、高橋から声をかけられることが多くなっていた。正直ステージ上での一件もあり警戒していたけれど、相川との関係を見ればいい人であることは一目瞭然だった。
あいつはきっと理久と俺がただならぬ関係であることに気付いている。けれど悪くは思っていないように思えた。
だからそんな配慮をありがたく受け取って、俺は理久との修学旅行を満喫した訳だ。
ただまさか、あそこまで一緒にいられるとは思っていなかった。
道中、ふたりきりで言葉を交わすことも叶った上にあの夜の時間だ。
誰も来ないと思った中庭に理久が現れて。ついつい俺は、ずっと伝えたくて伝えられなかった理久への思いを言うべきときが来たと思ってしまった。
正直、焦りもあった。
文化祭のときに身を挺して俺を守り、そして口付けてくれた理久に早く感謝の言葉を伝えなければならなかったから。
はじめはあんな大胆すぎる行動に驚いた。けれど次第に校内で向けられる俺への視線がましになったことに気付いて、俺はいてもたってもいられなかった。
だからあの日、誰にも邪魔をされないと思った俺は、ベンチに座り今だと意を決した。
そうして思いを伝えるはずだったのに。
なんとそれより理久が口を開くほうが早かった。
もう無理。
そう言われたときは、俺は少しも理解できなかった。もちろんあのとき消灯まで急がなければならなかったのもある。
だけど改めてひとりになって、俺は戦慄した。なぜならそれは俺に対する、隠しようもない拒絶の言葉だったから。
要するに、理久は俺のなあなあできっぱりしていないところがもう無理だと感じたのだろう。
だから自業自得だった。
ただ少しも受け止められなかった俺は、修学旅行から家までの帰り際に理久に声をかけることにしたのだ。
『……理久。一緒に帰ろう』
玄関で高橋たち二組の人と一緒にいた理久は、俺に気付くとみんなに別れを告げた。
そうしてふたりで帰路に付くことになった。その日は風が強くて、やけに冷たく感じられた。
『修学旅行……楽しかったな』
『うん。高校はやっぱり違うよな。ただ二日目さ、あんなにがっちり勉強させられるとは俺思ってなかったよ。まあ、修学旅行だからあれくらいでちょうどいいのか?奈良も見どころ多いから、もう少し自由時間欲しかったよな」
べらべら言葉を止めない理久に対し、俺は覚悟を決めて口を開く。
『……理久』
『どうした?』
その言葉はまるで俺が何を聞くか、すでに知っているように思えた。
『その、確認したいことがあるんだ。一日目の夜、理久は俺に無理って言っただろ。あれは、その――』
すると理久は驚いたように目を見開き、突然謝った。
『……ああ、ごめん。無理って言ったのはお前に対してじゃないんだ』
『え、それは……』
どういうことだろう。
そう思っていると、理久はふっと笑みを浮かべて言った。
『……俺だよ、俺。無理なのは俺に対してなんだ。新汰に対してじゃなくて、俺自身の問題ってこと』
理久自身?俺が少しも理解できずにいると、理久は続ける。
『……新汰はさ、この一年ですごく成長したよ。前からずっと思ってたけど、俺とクラスが分かれてから新汰はすごく変わった。もちろん、いい意味で。俺がいなくてもみんなと楽しくやれてるし、前より自己主張だってできるようになってる』
『それは……』
『……俺がさ、それについていけてないだけなんだ。もう、好き以前に人として終わってるよな。お前が成長すること自体がまるで嫌な感じに聞こえるだろ?本当にごめん』
理久の謝罪に対して俺は何も反応できなかった。
『だからさ、ちょっと距離を置いてほしいんだ』
そう言われたあとも、俺はひと言も返すことができなかった。
だからあの日以来、俺は悩みに悩んでいるというわけだ。ただ誰にも相談できずにひたすら自分の中で抱えているだけなので、解決の糸口すら掴めない。
――誰かに相談するわけにもいかないし。
そうして、ひとりため息をついたときだった。不意に隣りの牧田と視線が合ったと思えば、こちらに身を乗り出してくる。
「西脇くん、何悩んでるの?……あ、きっと進路面談でしょ。調査票私も途中なんだー」
その言葉で、俺は自分の進路のことを完全に忘れていた事に気がついた。
先日配られた進路調査票はいまだ白紙のまま鞄に入っている。
やばい、俺が今悩まなければならないことは、理久のこともそうだがこっちもだ。
「西脇くんは確か進学だよね。どこ系行くかもう決めてる?」
「それが……まだ全然で」
本当、進路というのはあまりにも突然やってくる割に、重要すぎるのだ。
これまで俺は小中高となんとなく進学してきた。その基準はもちろん理久で、それで少しも問題なかった。
なのに、突然これからのことは自分で選べと言う。なんて突然すぎるのだろう。
そうして俺は気付いてしまった。これまで少しも選んでこなかったツケが、今になって回ってきたのかもしれない、と。
もしかしたらみんなにとって選ぶことは普通で、すでにやりたいことも行くべき道も見えているのかもしれない。
そう思った瞬間、俺は牧田に聞いてしまう。
「牧田は?」
「私はスポーツ系進むよ。新体操続けたいし、将来はスポーツに携わる人を支えていきたいと思ってるんだよね」
どうやら牧田はすでにやりたいことも選ぶべき道も見えているらしい。
やっぱり、と俺がひとりどんよりしていると、牧田は急いで後ろの二人に声をかける。
「ねえねえ、みんなはどう?」
「……ん?」
眠っていた相川が頭を上げたので、聞いてみることにする。
「相川は動画配信続けるんだろ?」
「ふあぁ。まあ、配信は続けるけど俺どちらかというと成分とか開発の方興味あるんだよね。だから化学系行く予定」
「林は?」
参考書を開いて勉強していた林も答えた。
「大学進学は言うまでもないけど、私は二人みたいに何をやって食べていこうとかはまだ全然」
「……そこまで考えてるだけ、ちゃんとしてる証だよ」
俺がそう言ったときだった。牧田は何かを思い出したようにはっとして言った。
「ねえ、清宮くんは決まってるって?」
「……わからない。最近、前みたいに話してなくて」
そう言葉を濁すと、牧田は残念そうな顔をした。
「そっか。西脇くんも冬の大会で忙しいもんね。……でも相談してみるといいかもよ」
「……どうして?」
すると牧田は笑顔で答える。
「何がやりたいっていうのは本人の意思もそうだけど、意外と第三者の方の方が、そのひとが何が向いてるかってわかるものなんだよね」
へえと声を上げたのは林だった。
「それって、客観視できるってこと?」
「そうそう!だから西脇くんにとっては私たちはもちろん、付き合いの長い清宮くんの視点がいいアドバイスになると思うんだ」
そんな視点もあるのかと俺は妙に納得した。
確かに、小さい頃から俺のことをよく知る理久なら何が向いているのかも知っているのかもしれない。
同時にこれは理久と話す上でいい話題になると思った。距離を置こうと言われて以来どうしたらいいか分からずにいた。けれど、進路の相談ならいいとっかかりになるだろう。
「……なるほど。牧田、ありがとう」
「ふふ。どういたしまして」
早速俺は放課後理久に声をかけることにした。
もうとっくに気付いていたから。
ひとりもやもやと悩んでいても、状況は何も変わらない。
変えるならば、自分から動きはじめるしかないのだ。
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