27 / 32
7章 互いの行く先 side.新汰
1 距離
しおりを挟む修学旅行は無事に終わった。
二日目の奈良でも大事件が起こることもなく、みっちり学んで俺達は日常生活に戻ってきた。
ただ、その残滓だろうか。心にわだかまった靄のようなものは今もまだ消えずに残っている。
思い返すと、俺の修学旅行はなかなか充実していたと思う。
いつもの仲のいいメンバーと班行動できたのは、とてもありがたかった。心配していた自由時間では笑顔がつきなかったし、さらに別クラスであるはずの理久と運良く回ることができたから。
それにはきっと理久のクラスの高橋が関係していると、俺は思っている。
実際文化祭以来、高橋から声をかけられることが多くなっていた。正直ステージ上での一件もあり警戒していたけれど、相川との関係を見ればいい人であることは一目瞭然だった。
あいつはきっと理久と俺がただならぬ関係であることに気付いている。けれど悪くは思っていないように思えた。
だからそんな配慮をありがたく受け取って、俺は理久との修学旅行を満喫した訳だ。
ただまさか、あそこまで一緒にいられるとは思っていなかった。
道中、ふたりきりで言葉を交わすことも叶った上にあの夜の時間だ。
誰も来ないと思った中庭に理久が現れて。ついつい俺は、ずっと伝えたくて伝えられなかった理久への思いを言うべきときが来たと思ってしまった。
正直、焦りもあった。
文化祭のときに身を挺して俺を守り、そして口付けてくれた理久に早く感謝の言葉を伝えなければならなかったから。
はじめはあんな大胆すぎる行動に驚いた。けれど次第に校内で向けられる俺への視線がましになったことに気付いて、俺はいてもたってもいられなかった。
だからあの日、誰にも邪魔をされないと思った俺は、ベンチに座り今だと意を決した。
そうして思いを伝えるはずだったのに。
なんとそれより理久が口を開くほうが早かった。
もう無理。
そう言われたときは、俺は少しも理解できなかった。もちろんあのとき消灯まで急がなければならなかったのもある。
だけど改めてひとりになって、俺は戦慄した。なぜならそれは俺に対する、隠しようもない拒絶の言葉だったから。
要するに、理久は俺のなあなあできっぱりしていないところがもう無理だと感じたのだろう。
だから自業自得だった。
ただ少しも受け止められなかった俺は、修学旅行から家までの帰り際に理久に声をかけることにしたのだ。
『……理久。一緒に帰ろう』
玄関で高橋たち二組の人と一緒にいた理久は、俺に気付くとみんなに別れを告げた。
そうしてふたりで帰路に付くことになった。その日は風が強くて、やけに冷たく感じられた。
『修学旅行……楽しかったな』
『うん。高校はやっぱり違うよな。ただ二日目さ、あんなにがっちり勉強させられるとは俺思ってなかったよ。まあ、修学旅行だからあれくらいでちょうどいいのか?奈良も見どころ多いから、もう少し自由時間欲しかったよな」
べらべら言葉を止めない理久に対し、俺は覚悟を決めて口を開く。
『……理久』
『どうした?』
その言葉はまるで俺が何を聞くか、すでに知っているように思えた。
『その、確認したいことがあるんだ。一日目の夜、理久は俺に無理って言っただろ。あれは、その――』
すると理久は驚いたように目を見開き、突然謝った。
『……ああ、ごめん。無理って言ったのはお前に対してじゃないんだ』
『え、それは……』
どういうことだろう。
そう思っていると、理久はふっと笑みを浮かべて言った。
『……俺だよ、俺。無理なのは俺に対してなんだ。新汰に対してじゃなくて、俺自身の問題ってこと』
理久自身?俺が少しも理解できずにいると、理久は続ける。
『……新汰はさ、この一年ですごく成長したよ。前からずっと思ってたけど、俺とクラスが分かれてから新汰はすごく変わった。もちろん、いい意味で。俺がいなくてもみんなと楽しくやれてるし、前より自己主張だってできるようになってる』
『それは……』
『……俺がさ、それについていけてないだけなんだ。もう、好き以前に人として終わってるよな。お前が成長すること自体がまるで嫌な感じに聞こえるだろ?本当にごめん』
理久の謝罪に対して俺は何も反応できなかった。
『だからさ、ちょっと距離を置いてほしいんだ』
そう言われたあとも、俺はひと言も返すことができなかった。
だからあの日以来、俺は悩みに悩んでいるというわけだ。ただ誰にも相談できずにひたすら自分の中で抱えているだけなので、解決の糸口すら掴めない。
――誰かに相談するわけにもいかないし。
そうして、ひとりため息をついたときだった。不意に隣りの牧田と視線が合ったと思えば、こちらに身を乗り出してくる。
「西脇くん、何悩んでるの?……あ、きっと進路面談でしょ。調査票私も途中なんだー」
その言葉で、俺は自分の進路のことを完全に忘れていた事に気がついた。
先日配られた進路調査票はいまだ白紙のまま鞄に入っている。
やばい、俺が今悩まなければならないことは、理久のこともそうだがこっちもだ。
「西脇くんは確か進学だよね。どこ系行くかもう決めてる?」
「それが……まだ全然で」
本当、進路というのはあまりにも突然やってくる割に、重要すぎるのだ。
これまで俺は小中高となんとなく進学してきた。その基準はもちろん理久で、それで少しも問題なかった。
なのに、突然これからのことは自分で選べと言う。なんて突然すぎるのだろう。
そうして俺は気付いてしまった。これまで少しも選んでこなかったツケが、今になって回ってきたのかもしれない、と。
もしかしたらみんなにとって選ぶことは普通で、すでにやりたいことも行くべき道も見えているのかもしれない。
そう思った瞬間、俺は牧田に聞いてしまう。
「牧田は?」
「私はスポーツ系進むよ。新体操続けたいし、将来はスポーツに携わる人を支えていきたいと思ってるんだよね」
どうやら牧田はすでにやりたいことも選ぶべき道も見えているらしい。
やっぱり、と俺がひとりどんよりしていると、牧田は急いで後ろの二人に声をかける。
「ねえねえ、みんなはどう?」
「……ん?」
眠っていた相川が頭を上げたので、聞いてみることにする。
「相川は動画配信続けるんだろ?」
「ふあぁ。まあ、配信は続けるけど俺どちらかというと成分とか開発の方興味あるんだよね。だから化学系行く予定」
「林は?」
参考書を開いて勉強していた林も答えた。
「大学進学は言うまでもないけど、私は二人みたいに何をやって食べていこうとかはまだ全然」
「……そこまで考えてるだけ、ちゃんとしてる証だよ」
俺がそう言ったときだった。牧田は何かを思い出したようにはっとして言った。
「ねえ、清宮くんは決まってるって?」
「……わからない。最近、前みたいに話してなくて」
そう言葉を濁すと、牧田は残念そうな顔をした。
「そっか。西脇くんも冬の大会で忙しいもんね。……でも相談してみるといいかもよ」
「……どうして?」
すると牧田は笑顔で答える。
「何がやりたいっていうのは本人の意思もそうだけど、意外と第三者の方の方が、そのひとが何が向いてるかってわかるものなんだよね」
へえと声を上げたのは林だった。
「それって、客観視できるってこと?」
「そうそう!だから西脇くんにとっては私たちはもちろん、付き合いの長い清宮くんの視点がいいアドバイスになると思うんだ」
そんな視点もあるのかと俺は妙に納得した。
確かに、小さい頃から俺のことをよく知る理久なら何が向いているのかも知っているのかもしれない。
同時にこれは理久と話す上でいい話題になると思った。距離を置こうと言われて以来どうしたらいいか分からずにいた。けれど、進路の相談ならいいとっかかりになるだろう。
「……なるほど。牧田、ありがとう」
「ふふ。どういたしまして」
早速俺は放課後理久に声をかけることにした。
もうとっくに気付いていたから。
ひとりもやもやと悩んでいても、状況は何も変わらない。
変えるならば、自分から動きはじめるしかないのだ。
12
あなたにおすすめの小説
【完結】恋愛初学者の僕、完璧すぎる幼馴染に「恋」を学ぶ
鳥羽ミワ
BL
志村春希は高校二年生で、同い年の幼馴染・須藤涼太のことが大好き。その仲良しぶりといったら、お互い「リョウちゃん」「ハルくん」と呼び合うほどだ。
勉強が好きな春希には、どうしてもひとつだけ、全く理解できないことがあった。それは、恋心。学年一位の天才でもある涼太にそのもどかしさを愚痴ったら、「恋」を教えようかと提案される。
仮初の恋人になる二人だけど、春希が恋を知ったら、幼馴染の友達同士のままではいられない。慌てる春希に「パラダイムシフトを起こそうよ」と提案する涼太。手を重ねて、耳元で囁く涼太。水族館デートに誘う涼太。あまあまに迫られて、恋愛初学者の春希が陥落しないはずもなく……。
恋を知ったら友達でいられない。でもこの思いは止められない。
葛藤する春希の隣で涼太だけが、この関係は両片思いだと知っていた。
幼馴染の溺愛恋愛ケーススタディ、開幕! 最後はもちろんハッピーエンド!
※アルファポリス、カクヨム、小説家になろうへ投稿しています
なぜかピアス男子に溺愛される話
光野凜
BL
夏希はある夜、ピアスバチバチのダウナー系、零と出会うが、翌日クラスに転校してきたのはピアスを外した優しい彼――なんと同一人物だった!
「夏希、俺のこと好きになってよ――」
突然のキスと真剣な告白に、夏希の胸は熱く乱れる。けれど、素直になれない自分に戸惑い、零のギャップに振り回される日々。
ピュア×ギャップにきゅんが止まらない、ドキドキ青春BL!
勇者様への片思いを拗らせていた僕は勇者様から溺愛される
八朔バニラ
BL
蓮とリアムは共に孤児院育ちの幼馴染。
蓮とリアムは切磋琢磨しながら成長し、リアムは村の勇者として祭り上げられた。
リアムは勇者として村に入ってくる魔物退治をしていたが、だんだんと疲れが見えてきた。
ある日、蓮は何者かに誘拐されてしまい……
スパダリ勇者×ツンデレ陰陽師(忘却の術熟練者)
幼なじみの友達に突然キスされました
光野凜
BL
『素直になれない、幼なじみの恋』
平凡な俺、浅野蒼にはイケメンでクラスの人気者な幼なじみ、佐伯瑛斗がいる。
家族ぐるみの付き合いのせいか、瑛斗は昔から距離感がおかしくて、何かと蒼にベッタリ。けれど、蒼はそれを“ただの友情”だと思っていた。
ある日、初めての告白に浮かれていると、瑛斗から突然キスされて......!?
「蒼のことが好きだ」
「お前が他の奴と付き合うのは耐えられない」
友達だと思っていた関係が一気に変わり、戸惑いながらも瑛人の一途で甘い想いに少しずつ心が揺れていく。
しかし、素直になれない蒼は最後の一歩が踏み出せずにいた。
そんなとき、ふたりの関係に”あるトラブル”が訪れて......。
じれったくて、思わず応援したくなるふたりのピュアな青春ラブストーリー。
「......蒼も、俺のこと好きになってよ」
「好きだ。好きだよ、蒼」
「俺は、蒼さえいればいい」
どんどん甘く、独占欲を隠さなくなる瑛斗に、戸惑いながらも心が揺れていく。
【一途で独占欲強めな攻め × 不器用で素直になれない受け】
【完結済】スパダリになりたいので、幼馴染に弟子入りしました!
キノア9g
BL
モテたくて完璧な幼馴染に弟子入りしたら、なぜか俺が溺愛されてる!?
あらすじ
「俺は将来、可愛い奥さんをもらって温かい家庭を築くんだ!」
前世、ブラック企業で過労死した社畜の俺(リアン)。
今世こそは定時退社と幸せな結婚を手に入れるため、理想の男「スパダリ」になることを決意する。
お手本は、幼馴染で公爵家嫡男のシリル。
顔よし、家柄よし、能力よしの完璧超人な彼に「弟子入り」し、その技術を盗もうとするけれど……?
「リアン、君の淹れたお茶以外は飲みたくないな」
「君は無防備すぎる。私の側を離れてはいけないよ」
スパダリ修行のつもりが、いつの間にか身の回りのお世話係(兼・精神安定剤)として依存されていた!?
しかも、俺が婚活をしようとすると、なぜか全力で阻止されて――。
【無自覚ポジティブな元社畜】×【隠れ激重執着な氷の貴公子】
「君の就職先は私(公爵家)に決まっているだろう?」
【完結】ままならぬ僕らのアオハルは。~嫌われていると思っていた幼馴染の不器用な執着愛は、ほんのり苦くて極上に甘い~
Tubling@書籍化&コミカライズ決定
BL
主人公の高嶺 亮(たかみね りょう)は、中学生時代の痛い経験からサラサラな前髪を目深に切り揃え、分厚いびんぞこ眼鏡をかけ、できるだけ素顔をさらさないように細心の注意を払いながら高校生活デビューを果たした。
幼馴染の久楽 結人(くらく ゆいと)が同じ高校に入学しているのを知り、小学校卒業以来の再会を楽しみにするも、再会した幼馴染は金髪ヤンキーになっていて…不良仲間とつるみ、自分を知らない人間だと突き放す。
『ずっとそばにいるから。大丈夫だから』
僕があの時の約束を破ったから?
でも確かに突き放されたはずなのに…
なぜか結人は事あるごとに自分を助けてくれる。どういうこと?
そんな結人が亮と再会して、とある悩みを抱えていた。それは――
「再会した幼馴染(亮)が可愛すぎる件」
本当は優しくしたいのにとある理由から素直になれず、亮に対して拗れに拗れた想いを抱く結人。
幼馴染の素顔を守りたい。独占したい。でも今更素直になれない――
無自覚な亮に次々と魅了されていく周りの男子を振り切り、亮からの「好き」をゲット出来るのか?
「俺を好きになれ」
拗れた結人の想いの行方は……体格も性格も正反対の2人の恋は一筋縄ではいかない模様です!!
不器用な2人が周りを巻き込みながら、少しずつ距離を縮めていく、苦くて甘い高校生BLです。
アルファポリスさんでは初のBL作品となりますので、完結までがんばります。
第13回BL大賞にエントリーしている作品です。応援していただけると泣いて喜びます!!
※完結したので感想欄開いてます~~^^
●高校生時代はピュアloveです。キスはあります。
●物語は全て一人称で進んでいきます。
●基本的に攻めの愛が重いです。
●最初はサクサク更新します。両想いになるまではだいたい10万字程度になります。
【完結】男の後輩に告白されたオレと、様子のおかしくなった幼なじみの話
須宮りんこ
BL
【あらすじ】
高校三年生の椿叶太には女子からモテまくりの幼なじみ・五十嵐青がいる。
二人は顔を合わせば絡む仲ではあるものの、叶太にとって青は生意気な幼なじみでしかない。
そんなある日、叶太は北村という一つ下の後輩・北村から告白される。
青いわく友達目線で見ても北村はいい奴らしい。しかも青とは違い、素直で礼儀正しい北村に叶太は好感を持つ。北村の希望もあって、まずは普通の先輩後輩として付き合いをはじめることに。
けれど叶太が北村に告白されたことを知った青の様子が、その日からおかしくなって――?
※本編完結済み。後日談連載中。
笑って下さい、シンデレラ
椿
BL
付き合った人と決まって12日で別れるという噂がある高嶺の花系ツンデレ攻め×昔から攻めの事が大好きでやっと付き合えたものの、それ故に空回って攻めの地雷を踏みぬきまくり結果的にクズな行動をする受け。
面倒くさい攻めと面倒くさい受けが噛み合わずに面倒くさいことになってる話。
ツンデレは振り回されるべき。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる