31 / 32
エピローグ side.新汰
春はもう一度
しおりを挟む時間がすぎるのはあっという間で、季節も移り変わっていく。
冬休みが明けて、四月。また俺たちの新しい一年が始まろうとしていた。
三年になった俺は手早く身支度をすませ朝食を終えたところだった。今日は早いのね、なんて母の呟きを聞きながら、掃き出し窓から差し込む春の柔らかな光を見る。
きらきらと温かな光は、まるで世界のすべてが輝いているようだった。
「ごちそうさま」
俺がそう言って荷物を持つのと、茜がリビングに入ってくるのはほぼ同時だった。
「お兄、おはよー」
「おはよう」
「ねえ、理久くん来てる?」
「ああ。一緒に行くって約束してるんだ」
「はー、羨ましいいい。私も理久くんと学校行きたい!」
そういうと思っていたから、少し早く出ることにしたのだ。
「もう少し早く起きればいいだろ」
「無理ー。ビジュ整えてたらこれで精一杯だもん。お兄、いってらっしゃい」
「ああ。いってきます」
名残惜しくリビングに向かう茜を後ろに、俺は玄関を出る。
そこで待ってくれていたのは理久だ。
ドアチャイムの音が鳴り俺に気付いたらしい。扉を開けた瞬間理久と目が合い、爽やかな笑顔を向けられる。
「新汰、おはよ」
「ああ、理久。おはよう」
俺達は言葉を交わして、すぐに学校へ向かう。
今日からいよいよ三年の生活が本格的に始まろうとしている。
気持ちを伝え合ったあの冬の日以降、俺達の関係は良好だ。あのすぐあとは期末試験もあり俺の試合も忙しく、時間はあまり取れなかった。ただ終わってからの冬休みを俺達は満喫した。
デートと称し買い物に出かけたり、一緒に勉強したり。クリスマスはクラスみんなですごすことになり、理久はみるからに嫌そうな顔をしていたけれど。
夜、イルミネーションが綺麗だという駅前に行って、あの公園でまたキスをした。あれはなんていい日だったろう。
理久に思いを伝えてから、すべてがうまくいっている。そう思うのは、きっと昨日の始業式の件も関係しているだろう。
「……それにしても、まさか同じクラスになるとはな」
隣りでにまにまと笑う理久の言う通り、俺たちは高校最後の一年を再び同じクラスですごすことになった。
正直、去年のことがあまりにも衝撃的すぎて、想像していなかったというのはある。それに修学旅行はもう終わったし、これから受験勉強もはじまってしまう。
それでも今年は最後の体育祭があるし、同じように文化祭もある。また秋以降は部活も終わり毎日理久とすごす時間が取れることになる。突然やってきたとんでもなく嬉しい出来事に、俺の頭はお花畑になりつつある。
ただ、浮かれてばかりもいられない。
あのあと、俺達は将来のことについても話し合った。結局俺も理久も将来のことはあいまいで、大学入学後に学部学科を決められる総合大学に進学しようと計画することになった。
ただ、そういうところは狭き門だ。だから俺たちはこれからの一年必死に勉強しなければならない。
だからそういう意味では、違うクラスがよかったのかもしれないと思ってしまう。
「どうした、新汰?」
不思議な顔をして理久が言うので、俺は思っていることを口にする。
「いや、違うクラスの方がよかったのかもって思って」
「……は?何でそんなこと言うんだよ!せっかく一緒になったのにありえないだろ!」
「いや、理久とずっと一緒で勉強身に入るかなって……」
すると理久は途端に赤い顔をし始めた。
「…………確かにな。それは俺も怪しいかもしれない」
ぼそりと恥ずかしそうに言う理久はとてつもなくいとおしい。みんなには見せない理久の俺だけの姿を前に、咄嗟に周りに人がいないことを確認してしまう。
――大丈夫。まだ人通りは少ない。
俺はすぐに理久の手を取った。
ごつごつとした俺の手とは少し違う、骨ばった手を優しく包み込む。
「…………新汰、朝から大胆だな」
その声はどこか呆れていたものの、ぱっと離されることはなかった。
「理久がして欲しそうな顔してたから」
思わずそう言うと、理久は怪訝な顔をしてこちらを見た。
「…………最近、お前性格違くない?」
「気のせいだろ」
去年、同じ道を歩いていたときの俺とは確かに違う。牧田の言ってくれた通り、俺は成長しているのかもしれない。
学校の近くまでは、大抵こうしてふたりで通学している。
ただ最近は理久の匂いに身体が反応してしまうようになった。だから互いにべたべたしすぎないように気をつけている。
正式に付き合うことになった俺たちだが、まだ肝心な事はなしていない。
もちろん、互いにしたいという思いは強い。しかししてしまったら互いに抜け出せなくなるとも思っている。だから互いに我慢している訳だ。
学校はまだ少し早かった。人の少ない廊下を、三年の同じ教室へと向かう。俺がその喜びを密かに噛み締めていたときだった。
「おふたりさん、おはよ!」
後ろからやってきたのは高橋だった。
その晴れ晴れとした笑顔に対し、理久は苦々しい顔をする。
「良悟……」
実は高橋も同じクラスで、昨日からこうして賑やかな毎日が始まっているというわけだ。
「お前、朝早くない?去年はこんなに早くなかっただろ?」
「三年だからさ、真面目に勉強しようと思って。ふたりもそうなんだろ?」
「いや、まあ……そうなんだけど」
理久は二人きりの時間を高橋に邪魔されるのが嫌らしい。明らかに不機嫌な顔をするも、高橋はそれを狙っていたかのようににやにやしている。
このふたりの仲のよさが、俺は少しだけ羨ましい。ただその気持ちよりも、高橋と気軽に話せるようになった嬉しさの方が勝る。
「西脇君おはよ」
「ああ、高橋。おはよ」
そんなとき、後ろから甲高い女子の声が響き渡った。
「みんなおはよー!早いね」
それはジャージに身を包んだ牧田だった。
実は牧田も俺たちと同じ二組になった。俺は心から嬉しかったものの、理久はそれに対して不満らしい。
疑念を抱いた顔を向け牧田に声を掛ける。
「牧田、朝練は?」
「ちょっと書類の忘れ物しちゃって、取りに来た!」
「……は?そんなんで大丈夫なの?お前部長だろ?」
「うるさいなあ。大丈夫だから部長なの。赤の他人に言われたくないんだけどー!」
こんな感じでふたりはしょっちゅう言い合いをしている。ということは高橋と同じで、理久は牧田に心を開いているということだ。
理久はあまのじゃくなところがあるからな――そう思っていると。ふと理久と視線が合った。
「え、理久……何?」
「いや、新汰にすげえ笑われたなと思って」
「え、俺笑ってた?」
みんなに頷かれてしまったので、俺は思っているままを言う。
「そりゃあ……ふたりが楽しそうだから」
「「いやいや、楽しくないって!」」
こんな感じで、俺の賑やかな三年の生活は始まっている。
二組の教室に入り、それぞれの席に着く。
俺と理久の席は離れている。理久は窓側の結構前の方で、俺はその右斜め後方だ。
だから授業中は理久の背中だけが見える。俺はそれを前に、好きな人が同じ教室にいる嬉しさをいつも噛み締めている。
将来のことはまだわからない。ただあと一年間は、こうして理久のことを見ていられるのだ。
先生がやってきてホームルームが始まった。
いろんな連絡がだらだらと流れる中で、途端に理久がぱっと後ろを振り返り、こちらを見て微笑む。
俺は思わず前を向けと促し、そして笑う。
確かな関係になった理久とすごす高校生活最後の一年。
春はまだ始まったばかりだ。
(終)
22
あなたにおすすめの小説
【完結】恋愛初学者の僕、完璧すぎる幼馴染に「恋」を学ぶ
鳥羽ミワ
BL
志村春希は高校二年生で、同い年の幼馴染・須藤涼太のことが大好き。その仲良しぶりといったら、お互い「リョウちゃん」「ハルくん」と呼び合うほどだ。
勉強が好きな春希には、どうしてもひとつだけ、全く理解できないことがあった。それは、恋心。学年一位の天才でもある涼太にそのもどかしさを愚痴ったら、「恋」を教えようかと提案される。
仮初の恋人になる二人だけど、春希が恋を知ったら、幼馴染の友達同士のままではいられない。慌てる春希に「パラダイムシフトを起こそうよ」と提案する涼太。手を重ねて、耳元で囁く涼太。水族館デートに誘う涼太。あまあまに迫られて、恋愛初学者の春希が陥落しないはずもなく……。
恋を知ったら友達でいられない。でもこの思いは止められない。
葛藤する春希の隣で涼太だけが、この関係は両片思いだと知っていた。
幼馴染の溺愛恋愛ケーススタディ、開幕! 最後はもちろんハッピーエンド!
※アルファポリス、カクヨム、小説家になろうへ投稿しています
なぜかピアス男子に溺愛される話
光野凜
BL
夏希はある夜、ピアスバチバチのダウナー系、零と出会うが、翌日クラスに転校してきたのはピアスを外した優しい彼――なんと同一人物だった!
「夏希、俺のこと好きになってよ――」
突然のキスと真剣な告白に、夏希の胸は熱く乱れる。けれど、素直になれない自分に戸惑い、零のギャップに振り回される日々。
ピュア×ギャップにきゅんが止まらない、ドキドキ青春BL!
勇者様への片思いを拗らせていた僕は勇者様から溺愛される
八朔バニラ
BL
蓮とリアムは共に孤児院育ちの幼馴染。
蓮とリアムは切磋琢磨しながら成長し、リアムは村の勇者として祭り上げられた。
リアムは勇者として村に入ってくる魔物退治をしていたが、だんだんと疲れが見えてきた。
ある日、蓮は何者かに誘拐されてしまい……
スパダリ勇者×ツンデレ陰陽師(忘却の術熟練者)
幼なじみの友達に突然キスされました
光野凜
BL
『素直になれない、幼なじみの恋』
平凡な俺、浅野蒼にはイケメンでクラスの人気者な幼なじみ、佐伯瑛斗がいる。
家族ぐるみの付き合いのせいか、瑛斗は昔から距離感がおかしくて、何かと蒼にベッタリ。けれど、蒼はそれを“ただの友情”だと思っていた。
ある日、初めての告白に浮かれていると、瑛斗から突然キスされて......!?
「蒼のことが好きだ」
「お前が他の奴と付き合うのは耐えられない」
友達だと思っていた関係が一気に変わり、戸惑いながらも瑛人の一途で甘い想いに少しずつ心が揺れていく。
しかし、素直になれない蒼は最後の一歩が踏み出せずにいた。
そんなとき、ふたりの関係に”あるトラブル”が訪れて......。
じれったくて、思わず応援したくなるふたりのピュアな青春ラブストーリー。
「......蒼も、俺のこと好きになってよ」
「好きだ。好きだよ、蒼」
「俺は、蒼さえいればいい」
どんどん甘く、独占欲を隠さなくなる瑛斗に、戸惑いながらも心が揺れていく。
【一途で独占欲強めな攻め × 不器用で素直になれない受け】
【完結済】スパダリになりたいので、幼馴染に弟子入りしました!
キノア9g
BL
モテたくて完璧な幼馴染に弟子入りしたら、なぜか俺が溺愛されてる!?
あらすじ
「俺は将来、可愛い奥さんをもらって温かい家庭を築くんだ!」
前世、ブラック企業で過労死した社畜の俺(リアン)。
今世こそは定時退社と幸せな結婚を手に入れるため、理想の男「スパダリ」になることを決意する。
お手本は、幼馴染で公爵家嫡男のシリル。
顔よし、家柄よし、能力よしの完璧超人な彼に「弟子入り」し、その技術を盗もうとするけれど……?
「リアン、君の淹れたお茶以外は飲みたくないな」
「君は無防備すぎる。私の側を離れてはいけないよ」
スパダリ修行のつもりが、いつの間にか身の回りのお世話係(兼・精神安定剤)として依存されていた!?
しかも、俺が婚活をしようとすると、なぜか全力で阻止されて――。
【無自覚ポジティブな元社畜】×【隠れ激重執着な氷の貴公子】
「君の就職先は私(公爵家)に決まっているだろう?」
【完結】ままならぬ僕らのアオハルは。~嫌われていると思っていた幼馴染の不器用な執着愛は、ほんのり苦くて極上に甘い~
Tubling@書籍化&コミカライズ決定
BL
主人公の高嶺 亮(たかみね りょう)は、中学生時代の痛い経験からサラサラな前髪を目深に切り揃え、分厚いびんぞこ眼鏡をかけ、できるだけ素顔をさらさないように細心の注意を払いながら高校生活デビューを果たした。
幼馴染の久楽 結人(くらく ゆいと)が同じ高校に入学しているのを知り、小学校卒業以来の再会を楽しみにするも、再会した幼馴染は金髪ヤンキーになっていて…不良仲間とつるみ、自分を知らない人間だと突き放す。
『ずっとそばにいるから。大丈夫だから』
僕があの時の約束を破ったから?
でも確かに突き放されたはずなのに…
なぜか結人は事あるごとに自分を助けてくれる。どういうこと?
そんな結人が亮と再会して、とある悩みを抱えていた。それは――
「再会した幼馴染(亮)が可愛すぎる件」
本当は優しくしたいのにとある理由から素直になれず、亮に対して拗れに拗れた想いを抱く結人。
幼馴染の素顔を守りたい。独占したい。でも今更素直になれない――
無自覚な亮に次々と魅了されていく周りの男子を振り切り、亮からの「好き」をゲット出来るのか?
「俺を好きになれ」
拗れた結人の想いの行方は……体格も性格も正反対の2人の恋は一筋縄ではいかない模様です!!
不器用な2人が周りを巻き込みながら、少しずつ距離を縮めていく、苦くて甘い高校生BLです。
アルファポリスさんでは初のBL作品となりますので、完結までがんばります。
第13回BL大賞にエントリーしている作品です。応援していただけると泣いて喜びます!!
※完結したので感想欄開いてます~~^^
●高校生時代はピュアloveです。キスはあります。
●物語は全て一人称で進んでいきます。
●基本的に攻めの愛が重いです。
●最初はサクサク更新します。両想いになるまではだいたい10万字程度になります。
【完結】男の後輩に告白されたオレと、様子のおかしくなった幼なじみの話
須宮りんこ
BL
【あらすじ】
高校三年生の椿叶太には女子からモテまくりの幼なじみ・五十嵐青がいる。
二人は顔を合わせば絡む仲ではあるものの、叶太にとって青は生意気な幼なじみでしかない。
そんなある日、叶太は北村という一つ下の後輩・北村から告白される。
青いわく友達目線で見ても北村はいい奴らしい。しかも青とは違い、素直で礼儀正しい北村に叶太は好感を持つ。北村の希望もあって、まずは普通の先輩後輩として付き合いをはじめることに。
けれど叶太が北村に告白されたことを知った青の様子が、その日からおかしくなって――?
※本編完結済み。後日談連載中。
笑って下さい、シンデレラ
椿
BL
付き合った人と決まって12日で別れるという噂がある高嶺の花系ツンデレ攻め×昔から攻めの事が大好きでやっと付き合えたものの、それ故に空回って攻めの地雷を踏みぬきまくり結果的にクズな行動をする受け。
面倒くさい攻めと面倒くさい受けが噛み合わずに面倒くさいことになってる話。
ツンデレは振り回されるべき。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる