【完結】幼馴染に告白されたけれど、実は俺の方がずっと前から好きだったんです 〜初恋のあわい~

上杉

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エピローグ side.新汰

春はもう一度

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 時間がすぎるのはあっという間で、季節も移り変わっていく。
 冬休みが明けて、四月。また俺たちの新しい一年が始まろうとしていた。
 三年になった俺は手早く身支度をすませ朝食を終えたところだった。今日は早いのね、なんて母の呟きを聞きながら、掃き出し窓から差し込む春の柔らかな光を見る。
 きらきらと温かな光は、まるで世界のすべてが輝いているようだった。

「ごちそうさま」

 俺がそう言って荷物を持つのと、茜がリビングに入ってくるのはほぼ同時だった。

「お兄、おはよー」

「おはよう」

「ねえ、理久くん来てる?」

「ああ。一緒に行くって約束してるんだ」

「はー、羨ましいいい。私も理久くんと学校行きたい!」

 そういうと思っていたから、少し早く出ることにしたのだ。

「もう少し早く起きればいいだろ」

「無理ー。ビジュ整えてたらこれで精一杯だもん。お兄、いってらっしゃい」

「ああ。いってきます」

 名残惜しくリビングに向かう茜を後ろに、俺は玄関を出る。
 そこで待ってくれていたのは理久だ。
 ドアチャイムの音が鳴り俺に気付いたらしい。扉を開けた瞬間理久と目が合い、爽やかな笑顔を向けられる。

「新汰、おはよ」

「ああ、理久。おはよう」

 俺達は言葉を交わして、すぐに学校へ向かう。


 今日からいよいよ三年の生活が本格的に始まろうとしている。
 気持ちを伝え合ったあの冬の日以降、俺達の関係は良好だ。あのすぐあとは期末試験もあり俺の試合も忙しく、時間はあまり取れなかった。ただ終わってからの冬休みを俺達は満喫した。
 デートと称し買い物に出かけたり、一緒に勉強したり。クリスマスはクラスみんなですごすことになり、理久はみるからに嫌そうな顔をしていたけれど。
 夜、イルミネーションが綺麗だという駅前に行って、あの公園でまたキスをした。あれはなんていい日だったろう。
 理久に思いを伝えてから、すべてがうまくいっている。そう思うのは、きっと昨日の始業式の件も関係しているだろう。

「……それにしても、まさか同じクラスになるとはな」

 隣りでにまにまと笑う理久の言う通り、俺たちは高校最後の一年を再び同じクラスですごすことになった。
 正直、去年のことがあまりにも衝撃的すぎて、想像していなかったというのはある。それに修学旅行はもう終わったし、これから受験勉強もはじまってしまう。
 それでも今年は最後の体育祭があるし、同じように文化祭もある。また秋以降は部活も終わり毎日理久とすごす時間が取れることになる。突然やってきたとんでもなく嬉しい出来事に、俺の頭はお花畑になりつつある。
 ただ、浮かれてばかりもいられない。
 あのあと、俺達は将来のことについても話し合った。結局俺も理久も将来のことはあいまいで、大学入学後に学部学科を決められる総合大学に進学しようと計画することになった。
 ただ、そういうところは狭き門だ。だから俺たちはこれからの一年必死に勉強しなければならない。
 だからそういう意味では、違うクラスがよかったのかもしれないと思ってしまう。

「どうした、新汰?」

 不思議な顔をして理久が言うので、俺は思っていることを口にする。

「いや、違うクラスの方がよかったのかもって思って」

「……は?何でそんなこと言うんだよ!せっかく一緒になったのにありえないだろ!」

「いや、理久とずっと一緒で勉強身に入るかなって……」

 すると理久は途端に赤い顔をし始めた。

「…………確かにな。それは俺も怪しいかもしれない」

 ぼそりと恥ずかしそうに言う理久はとてつもなくいとおしい。みんなには見せない理久の俺だけの姿を前に、咄嗟に周りに人がいないことを確認してしまう。

 ――大丈夫。まだ人通りは少ない。

 俺はすぐに理久の手を取った。
 ごつごつとした俺の手とは少し違う、骨ばった手を優しく包み込む。

「…………新汰、朝から大胆だな」

 その声はどこか呆れていたものの、ぱっと離されることはなかった。

「理久がして欲しそうな顔してたから」

 思わずそう言うと、理久は怪訝な顔をしてこちらを見た。

「…………最近、お前性格違くない?」

「気のせいだろ」

 去年、同じ道を歩いていたときの俺とは確かに違う。牧田の言ってくれた通り、俺は成長しているのかもしれない。


 学校の近くまでは、大抵こうしてふたりで通学している。
 ただ最近は理久の匂いに身体が反応してしまうようになった。だから互いにべたべたしすぎないように気をつけている。
 正式に付き合うことになった俺たちだが、まだ肝心な事はなしていない。
 もちろん、互いにしたいという思いは強い。しかししてしまったら互いに抜け出せなくなるとも思っている。だから互いに我慢している訳だ。
 学校はまだ少し早かった。人の少ない廊下を、三年の同じ教室へと向かう。俺がその喜びを密かに噛み締めていたときだった。

「おふたりさん、おはよ!」

 後ろからやってきたのは高橋だった。
 その晴れ晴れとした笑顔に対し、理久は苦々しい顔をする。

「良悟……」

 実は高橋も同じクラスで、昨日からこうして賑やかな毎日が始まっているというわけだ。

「お前、朝早くない?去年はこんなに早くなかっただろ?」

「三年だからさ、真面目に勉強しようと思って。ふたりもそうなんだろ?」

「いや、まあ……そうなんだけど」

 理久は二人きりの時間を高橋に邪魔されるのが嫌らしい。明らかに不機嫌な顔をするも、高橋はそれを狙っていたかのようににやにやしている。
 このふたりの仲のよさが、俺は少しだけ羨ましい。ただその気持ちよりも、高橋と気軽に話せるようになった嬉しさの方が勝る。

「西脇君おはよ」

「ああ、高橋。おはよ」

 そんなとき、後ろから甲高い女子の声が響き渡った。

「みんなおはよー!早いね」

 それはジャージに身を包んだ牧田だった。
 実は牧田も俺たちと同じ二組になった。俺は心から嬉しかったものの、理久はそれに対して不満らしい。
 疑念を抱いた顔を向け牧田に声を掛ける。

「牧田、朝練は?」

「ちょっと書類の忘れ物しちゃって、取りに来た!」

「……は?そんなんで大丈夫なの?お前部長だろ?」

「うるさいなあ。大丈夫だから部長なの。赤の他人に言われたくないんだけどー!」

 こんな感じでふたりはしょっちゅう言い合いをしている。ということは高橋と同じで、理久は牧田に心を開いているということだ。
 理久はあまのじゃくなところがあるからな――そう思っていると。ふと理久と視線が合った。

「え、理久……何?」

「いや、新汰にすげえ笑われたなと思って」

「え、俺笑ってた?」

 みんなに頷かれてしまったので、俺は思っているままを言う。

「そりゃあ……ふたりが楽しそうだから」

「「いやいや、楽しくないって!」」

 こんな感じで、俺の賑やかな三年の生活は始まっている。

 二組の教室に入り、それぞれの席に着く。
 俺と理久の席は離れている。理久は窓側の結構前の方で、俺はその右斜め後方だ。
 だから授業中は理久の背中だけが見える。俺はそれを前に、好きな人が同じ教室にいる嬉しさをいつも噛み締めている。
 将来のことはまだわからない。ただあと一年間は、こうして理久のことを見ていられるのだ。
 先生がやってきてホームルームが始まった。
 いろんな連絡がだらだらと流れる中で、途端に理久がぱっと後ろを振り返り、こちらを見て微笑む。
 俺は思わず前を向けと促し、そして笑う。
 確かな関係になった理久とすごす高校生活最後の一年。
 春はまだ始まったばかりだ。
 
(終)


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