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7章 互いの行く先 side.新汰
4 告白
しおりを挟む放課後、終礼が終わると同時に俺は二組の教室へ向かった。
「理久!」
まだざわついている教室内を、俺は人目も気にせず理久の元へ向かう。
理久は自分の席に座り、後ろの席の高橋と話しているところだった。
近づく俺に気付いたのだろうか。目を見開いたあとで、ぷいと逸らされてしまう。
「お、西脇君じゃん。理久に用事?じゃあ俺帰るから――」
「……用事なんてないだろ」
「おい、理久!」
高橋が制止するにも関わらず、理久はそう言って立ち上がった。帰ろうと荷物を持とうとしたので、俺はその腕を掴む。
「は?新汰……?」
その顔は不快というよりも、驚きで溢れていた。新汰がそんなことをするはずない――まるでそう言いたげな理久の目を見ながら、俺は言う。
「俺、理久に用事があるんだ。本当に……本当に、大切な話がある。だから聞いてほしい」
そう言ったあとで、目の前で高橋が微笑んでいることに俺は気付いた。
「ごめん、よっぽど大切な用事があるっていうならまた今度にするけど……」
すると口を開いたのは高橋だった。
「西脇くん大丈夫。ないよ、用事」
「……おい、良悟!」
「俺とこれからファミレスでだべろうって話してたくらいだから。思う存分やり合いな」
「良悟!」
理久がそう声を荒らげたあとで、高橋は立ち上がり理久と向かい合う。そして見たことのない怖い顔で言う。
「……理久、お前もお前だよ。なんでそんなに強情なんだよ。話したらいいだろ。そうやって強がってるお前、らしくないぞ」
「…………は?」
「ちゃんと前向けよ。話そうって言ってくれる相手とちゃんと向き合えよ。問題を先送りにして自分ひとりで悶々としてても、どうにもならないってわかってるだろ。今のお前、かっこ悪いぞ」
高橋の鋭い言葉に、理久は何も返せないように見えた。そうして黙り込む理久を前に、高橋はこちらに笑顔を向ける。
「……そういう訳で西脇君、あとはよろしく」
「……あ、ああ」
ひらりと手を振り、ひとり荷物を持って出て言った。
俺は沈黙する理久に声かける。
「理久」
「……わかったよ。公園。あの公園いこう」
理久はため息を付いてどこか諦めるように言った。
向かう先は、帰り道の途中にあるあの公園だった。ただ理久はというと、なぜかコンビニに寄ろうと言い始めるので俺も仕方なく付き合う。
肉まんを一つずつ買うも、俺達はずっと無言だった。まるで互いに思いを伝えるための言葉を探すように。冷たい風が吹く中で、肉まんの温もりが身にしみた。
公園は案の上誰もいなかった。確かにこんなに寒い中、外で遊ぶ人は少ないだろう。
俺達は春にここに来た時に座った、色褪せたベンチを見つけた。そこに腰掛けひと息つく。
手の肉まんはまだ温かい。俺はそれを袋から取り出しながら、言う。
「……あのときはアイスだったな」
すると理久もぽつりと返した。
「……手持ち無沙汰だったんだ。気持ちを伝えるために、ここに連れて来る理由が欲しくて。ちょうど、いつも食べてたアイスが目に入った」
「あれな。理久はいつもバニラの方くれるんだよな」
すると理久は気まずそうな顔をこちらに向ける。
「…………え、まさか好きじゃなかった?」
「いや、全然俺はどっちでも。理久がチョコの方好きなんだなど思ってた」
「ごめん。何も言われてなかったから、てっきり新汰はバニラが好きなんだと思ってた……」
俺達は目を合わせ、途端にくすくすと笑い合う。
今までふたりで何をやってたのだろう。何も言わないでわかったふりをした気になって、満足して。
やっぱり俺たちには――いや、俺には言葉が足りなかったのだ。
俺はずっと理久に甘えていた。俺にはできない、駄目な人間だって自分に言い聞かせて、伝えることを諦めていた。
今の俺は、あの頃の俺とは違う。
だからちゃんと言葉で伝えるんだ。理久に対する気持ちも、そしてこれからのことも――。
「ごめん。俺さ、ずっと理久に甘えてたんだ。言わなくても、理久ならきっとわかってくれるって」
「……新汰」
「会ったときのまま俺はずっと子供で。助けてもらった理久にずっと甘えてたんだ。だから春にここで気持ちを伝えられたときも、俺、なにも返せなかった。お前のことがずっと好きだったのに」
言葉は意外にもするりと口から出た。
だからだろう。理久が一瞬何を言われたのか分からないという顔をしてフリーズする。そしてややあって――。
「え…………それ、まじ?」
俺は思わず恥ずかしくなって下を向いてしまう。ただもう一度顔を上げ、理久の瞳を見つめる。
赤らむ頬の上には、困惑しながらも嬉しさに輝き始めた双眸があった。
それを確認した俺は、頷いたあとで言う。
「昔から。会ったときから俺は好きだった。でも、ここで理久が気持ちを伝えてくれたとき、俺は自分に自信がなくて受け止められなかったんだ。それでお前が俺のこと好きっていうのが信じられなくて。そのあとは今更って言われるのが怖くて、勇気も出なくて。本当、駄目駄目でごめん」
「新汰……」
「……理久。俺は……お前のことが好きだ。お前が告白してくれたずっとずっと前から、会ったときからお前のことが好きだった。だから付き合ってほしい。これからはちゃんと恋人として」
すると理久は無言で下を向いた。
そしてぱっと上げたと思えば、顔を震わせながら言う。
「これ……俺の妄想じゃないよな?新汰の言う好きの意味、本当にあってるよな?」
「あってる。ずっと言いたかったけど、言えなかったんだ。ごめん」
すると理久は今にも泣き出しそうな顔をして俺の手を掴み――。
「わかってる。俺だって……ずっとずっと言えなかったんだから。ずっと傍にいて守れたらいいって思ってた。だけどクラスが分かれてお前が離れて耐えられなかった。それにお前が告白されて、誰かのものになると思うと嫌だったんだ」
「……理久」
「……ごめん。守るって言いながら、俺お前を傷付けてた。俺、お前が大切すぎてときどき駄目になるんだ。最近のお前見てたら、俺がいなくても大丈夫なんだって心配になって……そんな俺でも、大丈夫か?」
心配そうな理久に言う言葉はすでに決まっていた。
涼やかでクールに何でもこなすみんなの前の理久。そんな理久が豹変する姿は俺だけに見せる、俺だけのものだ。
「もちろん。……それにしても、高橋が言ってたこと当たってたな」
すると、理久は怪訝な顔をする。
「何、良悟がなんか言ったの?」
「理久は本当に大切なものに対して豹変するって」
「…………あいつ」
真っ赤になる理久が、なぜか俺の目には愛しく見えた。
すっかり冷え切った肉まんをベンチの上に置き、俺は理久の名前を呼ぶ。
「理久」
こちらをきょとんと見つめる理久はやはり変わらず愛しくて。俺の手は自然と理久の頬に伸び、気付けば唇は触れ合っていた。
互いの温もりが伝わり心地いい。
しばらくそのままでいたあとで、俺から優しく唇を離す。愛しさはもう収まることはない。
あふれるそれを抱きとめるように、俺は目の前の理久を抱きしめる。
「…………好きだ」
思わず漏れた言葉に、理久の身体はぴくりと震えた。
すると理久の手が俺の背中に回される。まるで俺の言葉に応えるように。
「……ありがとう、新汰」
まだ冬は続いていく。
俺たちは互いの熱を感じるようにしばらく抱き合い、再びキスをした。
すっかりしなびた肉まんに気づいたのは、そのあとのことだった。
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