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自ら手放した恋だ。後悔してはいけない。これは叶翔のためでもあるのだ。
伊央が相手になれば、再び獣化してしまう可能性も否めない。そのリスクを冒してまで、番になりたいと言ってくれたのは嬉しかった。けれども万が一、叶翔が再び獣化してしまえば、今度は後遺症がより酷く残ってしまうかもしれない。そうなると叶翔はどうなってしまうのか、伊央には想像もつかないし、責任も取れないと思う。
苦しい治療からようやく解放された叶翔は、元気になったとは言え、痩せてしまったまま、完全に元に戻るまでには時間がかかりそうだ。
もっと早くに叶翔と話ができていれば……と繰り返し思ってきた。
中学生の頃の体質の異変を教えて欲しかった。高校に入って直ぐの検査で、突然変異をしていたと言えば良かった。あの時、こうしていれば……そんなことばかりが頭を過ぎる。今となってはどうしようもないのに……。
そして海星と番になった今、簡単に自分の意思を変えるわけにもいかない。それをしてしまうと、折角支えてきてくれた海星を裏切ることになってしまう。
叶翔の言う「これからも友達で」が本心であるのならば、伊央だって叶翔の側にいたい。
ずっとこれからも変わらない関係なのだとしても、自分は叶翔と過ごす事を優先したい。
これを全て伝えるべきなのは分かっているが、それは伊央にとっては難しい。叶翔を否定するような言葉を、つらつらと話せるわけがない。そうして、言葉足らずの気持ちが叶翔に届いてしまう。悔しくて涙が止まらない。
かといって、自分が楽になる事ばかりを選ぶわけにもいかない。
叶翔から突き放してくれて良かったのだ。傷付けば、もう恋心も芽生えないし、勝手な期待もせずに済む。
今日、思い切り泣こうと思った。
我慢せず泣いて、叶翔への気持ちも流してしまうくらい泣けばいい。
この日、伊央は泣き疲れて眠ってしまった。海星からは、いつでも連絡をくれて構わないと言われている。話し合いが終わった直ぐでもいいし、伊央の気持ちが落ち着いてからでもいいと。今の伊央には、喋る気力も話をまとめることさえも、できる状況ではない。
何とかベッドに這い上がると、鉛のように重い体をマットに埋めた。
翌日も、結局目は覚めたものの体を動かすことは出来ず、学校を休んだ。何となく休んで良かったと思ってしまう。もう少し一人でいたいとぼんやり考える。
放課後に家に寄ると、海星からメッセージが届いた。海星は上手に伊央を導き、心に詰まった感情を全て吐かせてくれるだろう。
これで良かったと自分に言い聞かせても、叶翔を忘れられるはずもなかった。時間が解決してくれるのであれば、いくらでもその時を待つつもりでいる。辛いのは今だけ。自分には海星がついている。
海星に返信を打ちながら寝落ちしてしまった。合間で何度も起きては寝て……を繰り返し、昼休みの時間になった頃、ようやく返信ができた。『待ってるね』と言うような単純な文章であるが、伊央の心からの言葉である。
体はずっと怠くて、発情期がまだ終わっていないのかと疑ってしまう。
伊央は、海星が家を訪ねて来た時まで寝て過ごした。起きていても無気力で何もやる気が出ない。それに体を起こそうとすれば眩暈で視界が揺れ、気持ち悪かった。
子供の頃からよく泣く子であったが、これほど泣いたのは初めてである。
「ん……眠い……」
寝返りを打ち、また眠る。
そうして次に起きた時、海星が伊央の顔を眺めながら髪を撫でていた。
伊央が相手になれば、再び獣化してしまう可能性も否めない。そのリスクを冒してまで、番になりたいと言ってくれたのは嬉しかった。けれども万が一、叶翔が再び獣化してしまえば、今度は後遺症がより酷く残ってしまうかもしれない。そうなると叶翔はどうなってしまうのか、伊央には想像もつかないし、責任も取れないと思う。
苦しい治療からようやく解放された叶翔は、元気になったとは言え、痩せてしまったまま、完全に元に戻るまでには時間がかかりそうだ。
もっと早くに叶翔と話ができていれば……と繰り返し思ってきた。
中学生の頃の体質の異変を教えて欲しかった。高校に入って直ぐの検査で、突然変異をしていたと言えば良かった。あの時、こうしていれば……そんなことばかりが頭を過ぎる。今となってはどうしようもないのに……。
そして海星と番になった今、簡単に自分の意思を変えるわけにもいかない。それをしてしまうと、折角支えてきてくれた海星を裏切ることになってしまう。
叶翔の言う「これからも友達で」が本心であるのならば、伊央だって叶翔の側にいたい。
ずっとこれからも変わらない関係なのだとしても、自分は叶翔と過ごす事を優先したい。
これを全て伝えるべきなのは分かっているが、それは伊央にとっては難しい。叶翔を否定するような言葉を、つらつらと話せるわけがない。そうして、言葉足らずの気持ちが叶翔に届いてしまう。悔しくて涙が止まらない。
かといって、自分が楽になる事ばかりを選ぶわけにもいかない。
叶翔から突き放してくれて良かったのだ。傷付けば、もう恋心も芽生えないし、勝手な期待もせずに済む。
今日、思い切り泣こうと思った。
我慢せず泣いて、叶翔への気持ちも流してしまうくらい泣けばいい。
この日、伊央は泣き疲れて眠ってしまった。海星からは、いつでも連絡をくれて構わないと言われている。話し合いが終わった直ぐでもいいし、伊央の気持ちが落ち着いてからでもいいと。今の伊央には、喋る気力も話をまとめることさえも、できる状況ではない。
何とかベッドに這い上がると、鉛のように重い体をマットに埋めた。
翌日も、結局目は覚めたものの体を動かすことは出来ず、学校を休んだ。何となく休んで良かったと思ってしまう。もう少し一人でいたいとぼんやり考える。
放課後に家に寄ると、海星からメッセージが届いた。海星は上手に伊央を導き、心に詰まった感情を全て吐かせてくれるだろう。
これで良かったと自分に言い聞かせても、叶翔を忘れられるはずもなかった。時間が解決してくれるのであれば、いくらでもその時を待つつもりでいる。辛いのは今だけ。自分には海星がついている。
海星に返信を打ちながら寝落ちしてしまった。合間で何度も起きては寝て……を繰り返し、昼休みの時間になった頃、ようやく返信ができた。『待ってるね』と言うような単純な文章であるが、伊央の心からの言葉である。
体はずっと怠くて、発情期がまだ終わっていないのかと疑ってしまう。
伊央は、海星が家を訪ねて来た時まで寝て過ごした。起きていても無気力で何もやる気が出ない。それに体を起こそうとすれば眩暈で視界が揺れ、気持ち悪かった。
子供の頃からよく泣く子であったが、これほど泣いたのは初めてである。
「ん……眠い……」
寝返りを打ち、また眠る。
そうして次に起きた時、海星が伊央の顔を眺めながら髪を撫でていた。
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