75 / 78
spin-offージェイクと騎士ー
23
しおりを挟む
「ジェイクさん、僕……」
「どうしたの? とにかくこっちへ……」
思い詰めた様子のルイを誘導しようと腕に手を伸ばした瞬間、ルイが俺の手を跳ね返した。
「ルイ?」
「あの、田舎に帰ります。今までお世話になりました」
お辞儀をすると、ルイはホテルを飛び出して行った。
「え? ねぇちょっと待って!!」
追いかけようとしたが、ルイは大荷物をものともしない速さで人混みに姿を消した。
「副支配人、ちょっと良いですか?」
こんなタイミングで従業員に呼び止められてしまった。会場の準備も大詰めだ。
賄いも早く食べてもらわないといけない。でも……。
「え、いや……ちょっと今は……」
「少しだけ確認したいことが……」
「ああ……」
……ルイはわざと俺が仕事の時間を狙って来たのか……。
田舎に帰るなんて、今まで一言も言っていなかった。
急用?
でもすぐこっちに帰ってくるなら、わざわざ俺の所なんて寄らないだろう。
「……人? ……副支配人?」
「す、すまない。このまま進めてくれて大丈夫だ。厨房には、一応声をかけておいてくれ」
「承知しました」
さっきのルイはやはり変だ。
……まさか……俺と別れるっていう意味で……?
それはない!! もうすぐ番うんだ。
最近だって変な様子はなかった。むしろ、ようやく少し甘えて来てくれるようになったほどだ。
(騎士団で何かあったのか……?)
胸騒ぎが消えない。。
「ジェイク!! ここにルイが来なかったか!?」
「ベルガルドさん!! ついさっき来ました! 田舎に帰るって言って、そのまま走って逃げてしまったんです。何かあったんですか?」
ベルガルドさんが息を切らしている。
雨の中、きっとルイを探し回っていたのだろう。全身びしょ濡れだ。
近くの従業員にタオルと水を持ってくるよう頼んだ。
「ジェイク、ここで出来る話じゃねぇ。二人きりになれる場所はねぇのか?」
「ええ、こちらへ……」
慌てて従業員が持って来てくれたタオルと水を受け取ると、そのまま会議室へと急いだ。
ベルガルドさんは一気に水を飲み干し、髪をタオルで豪快に拭きながら、大きく息を吐いた。
「ジェイクは勿論、ルイがオメガだと知ってて付き合ってるんだよな?」
突然、ベルガルドさんが衝撃的な内容を口にした。
騎士団で知っているのは、リアム様だけのはずなのに……。
「はい、次の発情期に番になる約束をしています。ベルガルドさんはなぜルイがオメガだと知っているんですか?」
「ヒートを起こしちまったんだよ。騎士団員の前で」
「なんだって!?」
薬は前の物より負担の少ないものの、効果は十分あるはずだ。医務室の先生の見立てが間違うはずはない。
「ルイのやつ、ジェイクと会う日はどうも薬を飲まずに行っていたみたいなんだ。それで、いつもは帰ってすぐに自分の部屋に入るんだが……」
「……いつの、話ですか?」
全身が震えてきた。
手から体温が奪われていく感覚に陥った。
そんなの、聞いていない。
ルイがヒートを起こした?
それはきっと、フェロモン過剰分泌症のことだろう。
誰かが、ルイに触れたんだ。
それで、ルイからフェロモンが出て、ヒートだと勘違いしたに違いない。
「五日前だ」
「……確かに、会っていました……」
「これだけは安心してくれ。何もなかった!! ジェイクが心配するような事態はどうにか防いだんだ」
フェロモンに当てられた騎士団員は、ルイに抱きついた。
しかし、たまたまベルガルドさんがルイのところを訪ねて来たタイミングだった。
異変に気づいたベルガルドさんは、二人を引き剥がす際、ルイがオメガだと一瞬で判断したらしい。
「手荒ではあったが、ルイを部屋にぶち込んで『中から鍵をかけろ!』って叫んだんだ。でもその事件で、他の騎士団員にもバレちまってな……」
「それで!! それでルイは騎士団を解雇されたって言うんですか!?」
それならば、リアム様に直談判をしに行かなければならない。
「違う!! なってない!! 解雇なんて団長はこれっぽっちも考えてない。それなのに、ルイの方が落ち込んじまって……」
宿舎に置き手紙をおいて、気付いた時には出てしまっていたらしい。
あれだけの荷物を持って、誰も気づかなかったのか、とベルガルドさんは怒鳴ったそうだが、ルイ自身が見つからない時を虎視眈々と狙って出ていったようだった。
「……ベルガルドさん、俺……行ってきます……」
会議室を飛び出した。
まだ、この街から離れられないはずだ。
「ルイ、行くな……」
ルイの走り去った方へと飛び出した。
どんなに人混みでも、見つけ出してみせる。
そうしたら、絶対に離さない。
もう、何も失いたくない……。
「どうしたの? とにかくこっちへ……」
思い詰めた様子のルイを誘導しようと腕に手を伸ばした瞬間、ルイが俺の手を跳ね返した。
「ルイ?」
「あの、田舎に帰ります。今までお世話になりました」
お辞儀をすると、ルイはホテルを飛び出して行った。
「え? ねぇちょっと待って!!」
追いかけようとしたが、ルイは大荷物をものともしない速さで人混みに姿を消した。
「副支配人、ちょっと良いですか?」
こんなタイミングで従業員に呼び止められてしまった。会場の準備も大詰めだ。
賄いも早く食べてもらわないといけない。でも……。
「え、いや……ちょっと今は……」
「少しだけ確認したいことが……」
「ああ……」
……ルイはわざと俺が仕事の時間を狙って来たのか……。
田舎に帰るなんて、今まで一言も言っていなかった。
急用?
でもすぐこっちに帰ってくるなら、わざわざ俺の所なんて寄らないだろう。
「……人? ……副支配人?」
「す、すまない。このまま進めてくれて大丈夫だ。厨房には、一応声をかけておいてくれ」
「承知しました」
さっきのルイはやはり変だ。
……まさか……俺と別れるっていう意味で……?
それはない!! もうすぐ番うんだ。
最近だって変な様子はなかった。むしろ、ようやく少し甘えて来てくれるようになったほどだ。
(騎士団で何かあったのか……?)
胸騒ぎが消えない。。
「ジェイク!! ここにルイが来なかったか!?」
「ベルガルドさん!! ついさっき来ました! 田舎に帰るって言って、そのまま走って逃げてしまったんです。何かあったんですか?」
ベルガルドさんが息を切らしている。
雨の中、きっとルイを探し回っていたのだろう。全身びしょ濡れだ。
近くの従業員にタオルと水を持ってくるよう頼んだ。
「ジェイク、ここで出来る話じゃねぇ。二人きりになれる場所はねぇのか?」
「ええ、こちらへ……」
慌てて従業員が持って来てくれたタオルと水を受け取ると、そのまま会議室へと急いだ。
ベルガルドさんは一気に水を飲み干し、髪をタオルで豪快に拭きながら、大きく息を吐いた。
「ジェイクは勿論、ルイがオメガだと知ってて付き合ってるんだよな?」
突然、ベルガルドさんが衝撃的な内容を口にした。
騎士団で知っているのは、リアム様だけのはずなのに……。
「はい、次の発情期に番になる約束をしています。ベルガルドさんはなぜルイがオメガだと知っているんですか?」
「ヒートを起こしちまったんだよ。騎士団員の前で」
「なんだって!?」
薬は前の物より負担の少ないものの、効果は十分あるはずだ。医務室の先生の見立てが間違うはずはない。
「ルイのやつ、ジェイクと会う日はどうも薬を飲まずに行っていたみたいなんだ。それで、いつもは帰ってすぐに自分の部屋に入るんだが……」
「……いつの、話ですか?」
全身が震えてきた。
手から体温が奪われていく感覚に陥った。
そんなの、聞いていない。
ルイがヒートを起こした?
それはきっと、フェロモン過剰分泌症のことだろう。
誰かが、ルイに触れたんだ。
それで、ルイからフェロモンが出て、ヒートだと勘違いしたに違いない。
「五日前だ」
「……確かに、会っていました……」
「これだけは安心してくれ。何もなかった!! ジェイクが心配するような事態はどうにか防いだんだ」
フェロモンに当てられた騎士団員は、ルイに抱きついた。
しかし、たまたまベルガルドさんがルイのところを訪ねて来たタイミングだった。
異変に気づいたベルガルドさんは、二人を引き剥がす際、ルイがオメガだと一瞬で判断したらしい。
「手荒ではあったが、ルイを部屋にぶち込んで『中から鍵をかけろ!』って叫んだんだ。でもその事件で、他の騎士団員にもバレちまってな……」
「それで!! それでルイは騎士団を解雇されたって言うんですか!?」
それならば、リアム様に直談判をしに行かなければならない。
「違う!! なってない!! 解雇なんて団長はこれっぽっちも考えてない。それなのに、ルイの方が落ち込んじまって……」
宿舎に置き手紙をおいて、気付いた時には出てしまっていたらしい。
あれだけの荷物を持って、誰も気づかなかったのか、とベルガルドさんは怒鳴ったそうだが、ルイ自身が見つからない時を虎視眈々と狙って出ていったようだった。
「……ベルガルドさん、俺……行ってきます……」
会議室を飛び出した。
まだ、この街から離れられないはずだ。
「ルイ、行くな……」
ルイの走り去った方へと飛び出した。
どんなに人混みでも、見つけ出してみせる。
そうしたら、絶対に離さない。
もう、何も失いたくない……。
16
あなたにおすすめの小説
悪役令息(Ω)に転生したので、破滅を避けてスローライフを目指します。だけどなぜか最強騎士団長(α)の運命の番に認定され、溺愛ルートに突入!
水凪しおん
BL
貧乏男爵家の三男リヒトには秘密があった。
それは、自分が乙女ゲームの「悪役令息」であり、現代日本から転生してきたという記憶だ。
家は没落寸前、自身の立場は断罪エンドへまっしぐら。
そんな破滅フラグを回避するため、前世の知識を活かして領地改革に奮闘するリヒトだったが、彼が生まれ持った「Ω」という性は、否応なく運命の渦へと彼を巻き込んでいく。
ある夜会で出会ったのは、氷のように冷徹で、王国最強と謳われる騎士団長のカイ。
誰もが恐れるαの彼に、なぜかリヒトは興味を持たれてしまう。
「関わってはいけない」――そう思えば思うほど、抗いがたいフェロモンと、カイの不器用な優しさがリヒトの心を揺さぶる。
これは、運命に翻弄される悪役令息が、最強騎士団長の激重な愛に包まれ、やがて国をも動かす存在へと成り上がっていく、甘くて刺激的な溺愛ラブストーリー。
【本編完結】最強S級冒険者が俺にだけ過保護すぎる!
天宮叶
BL
前世の世界で亡くなった主人公は、突然知らない世界で知らない人物、クリスの身体へと転生してしまう。クリスが眠っていた屋敷の主であるダリウスに、思い切って事情を説明した主人公。しかし事情を聞いたダリウスは突然「結婚しようか」と主人公に求婚してくる。
なんとかその求婚を断り、ダリウスと共に屋敷の外へと出た主人公は、自分が転生した世界が魔法やモンスターの存在するファンタジー世界だと気がつき冒険者を目指すことにするが____
過保護すぎる大型犬系最強S級冒険者攻めに振り回されていると思いきや、自由奔放で強気な性格を発揮して無自覚に振り回し返す元気な受けのドタバタオメガバースラブコメディの予定
要所要所シリアスが入ります。
【本編完結】転生先で断罪された僕は冷酷な騎士団長に囚われる
ゆうきぼし/優輝星
BL
断罪された直後に前世の記憶がよみがえった主人公が、世界を無双するお話。
・冤罪で断罪された元侯爵子息のルーン・ヴァルトゼーレは、処刑直前に、前世が日本のゲームプログラマーだった相沢唯人(あいざわゆいと)だったことを思い出す。ルーンは魔力を持たない「ノンコード」として家族や貴族社会から虐げられてきた。実は彼の魔力は覚醒前の「コードゼロ」で、世界を書き換えるほどの潜在能力を持つが、転生前の記憶が封印されていたため発現してなかったのだ。
・間一髪のところで魔力を発動させ騎士団長に救い出される。実は騎士団長は呪われた第三王子だった。ルーンは冤罪を晴らし、騎士団長の呪いを解くために奮闘することを決める。
・惹かれあう二人。互いの魔力の相性が良いことがわかり、抱き合う事で魔力が循環し活性化されることがわかるが……。
異世界転移してΩになった俺(アラフォーリーマン)、庇護欲高めα騎士に身も心も溶かされる
ヨドミ
BL
もし生まれ変わったら、俺は思う存分甘やかされたい――。
アラフォーリーマン(社畜)である福沢裕介は、通勤途中、事故により異世界へ転移してしまう。
異世界ローリア王国皇太子の花嫁として召喚されたが、転移して早々、【災厄のΩ】と告げられ殺されそうになる。
【災厄のΩ】、それは複数のαを番にすることができるΩのことだった――。
αがハーレムを築くのが常識とされる異世界では、【災厄のΩ】は忌むべき存在。
負の烙印を押された裕介は、間一髪、銀髪のα騎士ジェイドに助けられ、彼の庇護のもと、騎士団施設で居候することに。
「αがΩを守るのは当然だ」とジェイドは裕介の世話を焼くようになって――。
庇護欲高め騎士(α)と甘やかされたいけどプライドが邪魔をして素直になれない中年リーマン(Ω)のすれ違いラブファンタジー。
※Rシーンには♡マークをつけます。
性技Lv.99、努力Lv.10000、執着Lv.10000の勇者が攻めてきた!
モト
BL
異世界転生したら弱い悪魔になっていました。でも、異世界転生あるあるのスキル表を見る事が出来た俺は、自分にはとんでもない天性資質が備わっている事を知る。
その天性資質を使って、エルフちゃんと結婚したい。その為に旅に出て、強い魔物を退治していくうちに何故か魔王になってしまった。
魔王城で仕方なく引きこもり生活を送っていると、ある日勇者が攻めてきた。
その勇者のスキルは……え!? 性技Lv.99、努力Lv.10000、執着Lv.10000、愛情Max~~!?!?!?!?!?!
ムーンライトノベルズにも投稿しておりすがアルファ版のほうが長編になります。
完結|ひそかに片想いしていた公爵がテンセイとやらで突然甘くなった上、私が12回死んでいる隠しきゃらとは初耳ですが?
七角@書籍化進行中!
BL
第12回BL大賞奨励賞をいただきました♡第二王子のユーリィは、美しい兄と違って国を統べる使命もなく、兄の婚約者・エドゥアルド公爵に十年間叶わぬ片想いをしている。
その公爵が今日、亡くなった。と思いきや、禁忌の蘇生魔法で悪魔的な美貌を復活させた上、ユーリィを抱き締め、「君は一年以内に死ぬが、私が守る」と囁いてー?
十二個もあるユーリィの「死亡ふらぐ」を壊していく中で、この世界が「びいえるげえむ」の舞台であり、公爵は「テンセイシャ」だと判明していく。
転生者と登場人物ゆえのすれ違い、ゲームで割り振られた役割と人格のギャップ、世界の強制力に知らず翻弄されるうち、ユーリィは知る。自分が最悪の「カクシきゃら」だと。そして公爵の中の"創真"が、ユーリィを救うため十二回死んでまでやり直していることを。
どんでん返しからの甘々ハピエンです。
黒とオメガの騎士の子育て〜この子確かに俺とお前にそっくりだけど、産んだ覚えないんですけど!?〜
せるせ
BL
王都の騎士団に所属するオメガのセルジュは、ある日なぜか北の若き辺境伯クロードの城で目が覚めた。
しかも隣で泣いているのは、クロードと同じ目を持つ自分にそっくりな赤ん坊で……?
「お前が産んだ、俺の子供だ」
いや、そんなこと言われても、産んだ記憶もあんなことやこんなことをした記憶も無いんですけど!?
クロードとは元々険悪な仲だったはずなのに、一体どうしてこんなことに?
一途な黒髪アルファの年下辺境伯×金髪オメガの年上騎士
※一応オメガバース設定をお借りしています
転生したらスパダリに囲われていました……え、違う?
米山のら
BL
王子悠里。苗字のせいで“王子さま”と呼ばれ、距離を置かれてきた、ぼっち新社会人。
ストーカーに追われ、車に轢かれ――気づけば豪奢なベッドで目を覚ましていた。
隣にいたのは、氷の騎士団長であり第二王子でもある、美しきスパダリ。
「愛してるよ、私のユリタン」
そう言って差し出されたのは、彼色の婚約指輪。
“最難関ルート”と恐れられる、甘さと狂気の狭間に立つ騎士団長。
成功すれば溺愛一直線、けれど一歩誤れば廃人コース。
怖いほどの執着と、甘すぎる愛の狭間で――悠里の新しい人生は、いったいどこへ向かうのか?
……え、違う?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる