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3.赤の大魔導師、グレイス
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事態についていけずに混乱しているうち、結婚式は幕を閉じた。
そして家に戻る彼に連れられて、転移の魔法陣に乗る。
「《転移》」
ふわりと体が浮く感覚がして、咄嗟に目を閉じた。
前世では何ともなかったのに、その浮遊感が妙に不安で、酔いそうだ。ぎゅっと固く目を閉じて、転移が終わるのを待つ。
地に足がついた心地がして、目を開く。目の前に広がっていたのは……屋敷というにはこじんまりとした建物と、深い緑の広がる森の風景だった。
「先に言っておくけど」
ノアが私と繋いでいた手を離す。
そして棒立ちで突っ立ったまま、私を見下ろした。
最後に彼と会ったのは、まだ彼が魔法学園の学生だった頃だろうか。あの頃から比べると、ずいぶん背が伸びている。私が縮んでいるのもあるだろうけれど。
見上げるのが辛くなって、一歩後退りをした。
「僕の謹慎が解けたら、好きに出て行っていいから。それまでのものだと思って我慢して」
「え?」
「僕、興味ないんだ」
吐き捨てるように言うノア。
こちらを見つめる瞳は冷え冷えとしたもので、記憶の中の彼とのギャップに戸惑ってしまう。
いつもきらきらした目で私のことを見上げて、「先生、先生」なんて、新しい魔法を教えて欲しいとせがんでいたのに。
「私に、ですか?」
「この世のすべてに」
彼がため息混じりに言う。
私にはそれが理解できない。
この世の中には楽しいものがたくさんある。
魔法とか、魔法とか、……魔法とか。
ノアはまだ若い。私が死んだ時の年齢よりも若いはず。私は死ぬまで、いや、今もずっと、魔法への興味を失ったことなどない。
彼だって大魔導師になるまで魔術を極めたのだ。魔法を教えている時の彼はいつも楽しそうにしていた。
あんなに楽しいものに触れて、夢中にならないはずがないと思うのだけれど。
「禁術の件は家族に迷惑をかけたから。神託通りに結婚すれば謹慎期間を短縮するって言われて、それで受けただけ」
今の彼は、あの頃とは違う、生気の宿らない目で淡々と、そんな言葉を口に上している。
表情も暗く落ち込んでいて、私の知るノアとは別人のようだった。
「謹慎が終わったら、僕も消えるつもりだし」
「ど、どこにですか?」
「……どこだろ」
彼はふいと私から視線を逸らす。
その横顔が何故か少し寂しげに見えて、私は彼をじっと見上げてしまう。
「もうどうでもいいんだ。何もかも」
そう告げる彼の声は、すべてを諦めたようなものだった。
悲しそうな瞳は、目の前にいるのに……私のことも、景色すらも映していない。どこか遠くを見ているようだった。
「あの人のいない世界に、僕は興味が持てない」
「あの人?」
「……先生」
ノアがぽつりと呟く。
ざぁと吹いた風が、夕闇の迫る森の木々を揺らした。
「僕の、魔法の先生。赤の大魔導師、グレイス」
その名前に、聞き覚えがあった。
すごく聞き覚えがあった。
聞き覚えというか、呼ばれ覚えというか。
「術式は全部正しかった。それでも、先生は生き返らなかった」
彼が俯いて、悔しそうに言う。
生き返る。
その言葉で、彼が手を出したという「禁術」が何なのか、推測できてしまった。
禁術の中でも最も禁忌に近いと言われるものの一つ。生命を操る、神の御技への冒涜とも言える術。死者を蘇らせる魔法。彼はそれを実行したのだ。
前世の私……赤の大魔導師、グレイスを、生き返らせるために。
そして家に戻る彼に連れられて、転移の魔法陣に乗る。
「《転移》」
ふわりと体が浮く感覚がして、咄嗟に目を閉じた。
前世では何ともなかったのに、その浮遊感が妙に不安で、酔いそうだ。ぎゅっと固く目を閉じて、転移が終わるのを待つ。
地に足がついた心地がして、目を開く。目の前に広がっていたのは……屋敷というにはこじんまりとした建物と、深い緑の広がる森の風景だった。
「先に言っておくけど」
ノアが私と繋いでいた手を離す。
そして棒立ちで突っ立ったまま、私を見下ろした。
最後に彼と会ったのは、まだ彼が魔法学園の学生だった頃だろうか。あの頃から比べると、ずいぶん背が伸びている。私が縮んでいるのもあるだろうけれど。
見上げるのが辛くなって、一歩後退りをした。
「僕の謹慎が解けたら、好きに出て行っていいから。それまでのものだと思って我慢して」
「え?」
「僕、興味ないんだ」
吐き捨てるように言うノア。
こちらを見つめる瞳は冷え冷えとしたもので、記憶の中の彼とのギャップに戸惑ってしまう。
いつもきらきらした目で私のことを見上げて、「先生、先生」なんて、新しい魔法を教えて欲しいとせがんでいたのに。
「私に、ですか?」
「この世のすべてに」
彼がため息混じりに言う。
私にはそれが理解できない。
この世の中には楽しいものがたくさんある。
魔法とか、魔法とか、……魔法とか。
ノアはまだ若い。私が死んだ時の年齢よりも若いはず。私は死ぬまで、いや、今もずっと、魔法への興味を失ったことなどない。
彼だって大魔導師になるまで魔術を極めたのだ。魔法を教えている時の彼はいつも楽しそうにしていた。
あんなに楽しいものに触れて、夢中にならないはずがないと思うのだけれど。
「禁術の件は家族に迷惑をかけたから。神託通りに結婚すれば謹慎期間を短縮するって言われて、それで受けただけ」
今の彼は、あの頃とは違う、生気の宿らない目で淡々と、そんな言葉を口に上している。
表情も暗く落ち込んでいて、私の知るノアとは別人のようだった。
「謹慎が終わったら、僕も消えるつもりだし」
「ど、どこにですか?」
「……どこだろ」
彼はふいと私から視線を逸らす。
その横顔が何故か少し寂しげに見えて、私は彼をじっと見上げてしまう。
「もうどうでもいいんだ。何もかも」
そう告げる彼の声は、すべてを諦めたようなものだった。
悲しそうな瞳は、目の前にいるのに……私のことも、景色すらも映していない。どこか遠くを見ているようだった。
「あの人のいない世界に、僕は興味が持てない」
「あの人?」
「……先生」
ノアがぽつりと呟く。
ざぁと吹いた風が、夕闇の迫る森の木々を揺らした。
「僕の、魔法の先生。赤の大魔導師、グレイス」
その名前に、聞き覚えがあった。
すごく聞き覚えがあった。
聞き覚えというか、呼ばれ覚えというか。
「術式は全部正しかった。それでも、先生は生き返らなかった」
彼が俯いて、悔しそうに言う。
生き返る。
その言葉で、彼が手を出したという「禁術」が何なのか、推測できてしまった。
禁術の中でも最も禁忌に近いと言われるものの一つ。生命を操る、神の御技への冒涜とも言える術。死者を蘇らせる魔法。彼はそれを実行したのだ。
前世の私……赤の大魔導師、グレイスを、生き返らせるために。
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