46 / 64
45.フクロウのカゴに頭を突っ込んで寝ていた
しおりを挟む
気になるお菓子を一通り皿に盛ってもらって、会場の隅っこで計画的に食べ進める。
フルーツゼリーから始めて、クッキーやマドレーヌ、クリーム系のお菓子、チョコレートやチーズケーキは後半に。
甘酸っぱいベリータルトで口直しをして、さて次はマロングラッセでも。
皿の上が空っぽになったところで、胃袋の内容量が限界に近いことに気づく。
でもまだ、マカロンもフロランタンも食べていない。
並んだお菓子たちを見渡すと、おいしそう、食べたいと思う一方で、身体がもうお腹いっぱいだと語り掛けてくる。
あんなにたくさんあるのに。目は食べたいのに。
お酒を楽しめないのだから、食べ物くらい好きなだけ食べたいのに。
ふとバルコニーから庭園を見下ろすと――アイシャの実家に負けず劣らずの見事な庭園だ――何組か散歩しているカップルの姿を見つけた。
きちんとランプが灯されていて、パーティー会場の喧騒から少し離れて庭木や花を楽しめるようになっているようだ。
そうだ。私も散歩をしてお腹をこなれさせよう、と思い立つ。
結構広そうだし、一回りする頃にはマカロンくらい入るようになっているはず。
会場を出て、庭園を眺めながら歩く。
あ。あれは古文書に疲労回復効果があると書いてあったから煎じてみたらただただ苦かっただけの草だ。
「疲労回復」という単語が気つけの意味で使われていたのかもしれないと知り合いの言語学者に話したら「食べたの?」と聞かれたのを思い出した。
別に生でむしゃむしゃ食べてない。ちゃんと火は通した。
ぷらぷらと歩道を歩いていると、近くの庭木が揺れた。
風で揺れたのではなく、何かもっと……動物とか。そういうものが動いたような音だった。
屋敷で飼われている犬か猫あたりだろうかと、庭木の奥を覗き込む。
――瞬間、庭木をかき分けて、男が飛び出してきた。
「!?」
驚きに声も出ず、ただ数歩後ずさった。
どこかぼんやりとした目つきの男が、ゆらりと立ちながら、私を見下ろす。
葉っぱやら芝生がついて、髪がぼさぼさな以外は、いたって普通のパーティー出席者といった見た目の、礼服の男だ。
けれど、何となく体がふらついている、ような。
「そ、んなところで、何を?」
恐る恐る問いかけた。
男はしばらく私の顔をじぃっと見つめていたが、やがてへらりと笑って言った。
「虹色のユニコーンがね、いるんだよ」
「にじいろ」
何それ、見たい。
反射的にそう思ったけれど、ユニコーンは清らかな乙女の前以外には滅多に姿を現さない。
このおじさんが見つけたということは、もしかしてそれ、バイコーンなんじゃ?
でもバイコーンであれば体色は黒のはず。虹色というのは、どういうことだろう。
そう思って男の顔を見上げると、へらへらと酩酊したかのように笑っていた。
何だ、ただの酔っぱらいか。気づいてみればちょっと酒臭い気がする。
酔っているなら何かとユニコーンを見間違えるくらいはありそうだ。
「僕は、僕は追われていて、だけどほら、花が綺麗だから」
支離滅裂なことを言いながら、男がふらついた足取りでこちらに近づいてきた。
酒臭いような――甘いような、ツンと鼻につくような妙な匂いがする。
この匂い、何だろう。昔、どこかで。
「だ、ダメなんだ、物陰から見られて、今も」
こちらに手を伸ばしていた男が、はっと後ろを振り返った。
振り返った先に目を凝らしても、何も見つけられない。暗闇だからというわけではない、と思う。
けれど、男は何かに怯えたようにガタガタと震えだした。
「大きな男が来る、大きな、」
「え、」
突如、男は悲鳴と歓声の中間くらいの声を上げながら走り出し、がさがさと庭木の中に分け入っていった。
何だろう。酒に酔っただけにしては様子がおかしかった気がするけれど――私も酔って朝起きたらフクロウのカゴに頭を突っ込んで寝ていたことがあるし、あまり人のことは言えない気がする。
フルーツゼリーから始めて、クッキーやマドレーヌ、クリーム系のお菓子、チョコレートやチーズケーキは後半に。
甘酸っぱいベリータルトで口直しをして、さて次はマロングラッセでも。
皿の上が空っぽになったところで、胃袋の内容量が限界に近いことに気づく。
でもまだ、マカロンもフロランタンも食べていない。
並んだお菓子たちを見渡すと、おいしそう、食べたいと思う一方で、身体がもうお腹いっぱいだと語り掛けてくる。
あんなにたくさんあるのに。目は食べたいのに。
お酒を楽しめないのだから、食べ物くらい好きなだけ食べたいのに。
ふとバルコニーから庭園を見下ろすと――アイシャの実家に負けず劣らずの見事な庭園だ――何組か散歩しているカップルの姿を見つけた。
きちんとランプが灯されていて、パーティー会場の喧騒から少し離れて庭木や花を楽しめるようになっているようだ。
そうだ。私も散歩をしてお腹をこなれさせよう、と思い立つ。
結構広そうだし、一回りする頃にはマカロンくらい入るようになっているはず。
会場を出て、庭園を眺めながら歩く。
あ。あれは古文書に疲労回復効果があると書いてあったから煎じてみたらただただ苦かっただけの草だ。
「疲労回復」という単語が気つけの意味で使われていたのかもしれないと知り合いの言語学者に話したら「食べたの?」と聞かれたのを思い出した。
別に生でむしゃむしゃ食べてない。ちゃんと火は通した。
ぷらぷらと歩道を歩いていると、近くの庭木が揺れた。
風で揺れたのではなく、何かもっと……動物とか。そういうものが動いたような音だった。
屋敷で飼われている犬か猫あたりだろうかと、庭木の奥を覗き込む。
――瞬間、庭木をかき分けて、男が飛び出してきた。
「!?」
驚きに声も出ず、ただ数歩後ずさった。
どこかぼんやりとした目つきの男が、ゆらりと立ちながら、私を見下ろす。
葉っぱやら芝生がついて、髪がぼさぼさな以外は、いたって普通のパーティー出席者といった見た目の、礼服の男だ。
けれど、何となく体がふらついている、ような。
「そ、んなところで、何を?」
恐る恐る問いかけた。
男はしばらく私の顔をじぃっと見つめていたが、やがてへらりと笑って言った。
「虹色のユニコーンがね、いるんだよ」
「にじいろ」
何それ、見たい。
反射的にそう思ったけれど、ユニコーンは清らかな乙女の前以外には滅多に姿を現さない。
このおじさんが見つけたということは、もしかしてそれ、バイコーンなんじゃ?
でもバイコーンであれば体色は黒のはず。虹色というのは、どういうことだろう。
そう思って男の顔を見上げると、へらへらと酩酊したかのように笑っていた。
何だ、ただの酔っぱらいか。気づいてみればちょっと酒臭い気がする。
酔っているなら何かとユニコーンを見間違えるくらいはありそうだ。
「僕は、僕は追われていて、だけどほら、花が綺麗だから」
支離滅裂なことを言いながら、男がふらついた足取りでこちらに近づいてきた。
酒臭いような――甘いような、ツンと鼻につくような妙な匂いがする。
この匂い、何だろう。昔、どこかで。
「だ、ダメなんだ、物陰から見られて、今も」
こちらに手を伸ばしていた男が、はっと後ろを振り返った。
振り返った先に目を凝らしても、何も見つけられない。暗闇だからというわけではない、と思う。
けれど、男は何かに怯えたようにガタガタと震えだした。
「大きな男が来る、大きな、」
「え、」
突如、男は悲鳴と歓声の中間くらいの声を上げながら走り出し、がさがさと庭木の中に分け入っていった。
何だろう。酒に酔っただけにしては様子がおかしかった気がするけれど――私も酔って朝起きたらフクロウのカゴに頭を突っ込んで寝ていたことがあるし、あまり人のことは言えない気がする。
11
あなたにおすすめの小説
天然だと思ったギルド仲間が、実は策士で独占欲強めでした
星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー本編8話+後日談7話⭐︎
ギルドで働くおっとり回復役リィナは、
自分と似た雰囲気の“天然仲間”カイと出会い、ほっとする。
……が、彼は実は 天然を演じる策士だった!?
「転ばないで」
「可愛いって言うのは僕の役目」
「固定回復役だから。僕の」
優しいのに過保護。
仲間のはずなのに距離が近い。
しかも噂はいつの間にか——「軍師(彼)が恋してる説」に。
鈍感で頑張り屋なリィナと、
策を捨てるほど恋に負けていくカイの、
コメディ強めの甘々ギルド恋愛、開幕!
「遅いままでいい――置いていかないから。」
処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜
放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!?
「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」
不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。
『階段対策会議(※恋愛)――年上騎士団長の健康管理が過剰です』
星乃和花
恋愛
【完結済:全9話】
経理兼給仕のクラリスは、騎士団で働くただの事務員――のはずだった。
なのに、年上で情緒に欠ける騎士団長グラントにある日突然こう言われる。
「君は転倒する可能性がある。――健康管理対象にする」
階段対策会議、動線の変更、手をつなぐのは転倒防止、ストール支給は防寒対策。
全部合理的、全部正しい。……正しいはずなのに!
「頬が赤い。必要だ」
「君を、大事にしたい」
真顔で“強い言葉”を投下してくる団長に、乙女心を隠すクラリスの心拍数は業務超過。
さらに副団長ローレンは胃薬片手に「恋は会議にするな!!」と絶叫中!?
これは健康管理?それとも恋愛?
――答え合わせの前に、まず“階段(概念)“をご確認ください。
【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件
三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。
※アルファポリスのみの公開です。
勘違いで嫁ぎましたが、相手が理想の筋肉でした!
エス
恋愛
「男性の魅力は筋肉ですわっ!!」
華奢な男がもてはやされるこの国で、そう豪語する侯爵令嬢テレーゼ。
縁談はことごとく破談し、兄アルベルトも王太子ユリウスも頭を抱えていた。
そんな折、騎士団長ヴォルフがユリウスの元に「若い女性を紹介してほしい」と相談に現れる。
よく見ればこの男──家柄よし、部下からの信頼厚し、そして何より、圧巻の筋肉!!
「この男しかいない!」とユリウスは即断し、テレーゼとの結婚話を進める。
ところがテレーゼが嫁いだ先で、当のヴォルフは、
「俺は……メイドを紹介してほしかったんだが!?」
と何やら焦っていて。
……まあ細かいことはいいでしょう。
なにせ、その腕、その太もも、その背中。
最高の筋肉ですもの! この結婚、全力で続行させていただきますわ!!
女性不慣れな不器用騎士団長 × 筋肉フェチ令嬢。
誤解から始まる、すれ違いだらけの新婚生活、いざスタート!
※他サイトに投稿したものを、改稿しています。
枯れ専モブ令嬢のはずが…どうしてこうなった!
宵森みなと
恋愛
気づけば異世界。しかもモブ美少女な伯爵令嬢に転生していたわたくし。
静かに余生——いえ、学園生活を送る予定でしたのに、魔法暴発事件で隠していた全属性持ちがバレてしまい、なぜか王子に目をつけられ、魔法師団から訓練指導、さらには騎士団長にも出会ってしまうという急展開。
……団長様方、どうしてそんなに推せるお顔をしていらっしゃるのですか?
枯れ専なわたくしの理性がもちません——と思いつつ、学園生活を謳歌しつつ魔法の訓練や騎士団での治療の手助けと
忙しい日々。残念ながらお子様には興味がありませんとヒロイン(自称)の取り巻きへの塩対応に、怒らせると意外に強烈パンチの言葉を話すモブ令嬢(自称)
これは、恋と使命のはざまで悩む“ちんまり美少女令嬢”が、騎士団と王都を巻き込みながら心を育てていく、
――枯れ専ヒロインのほんわか異世界成長ラブファンタジーです。
行き遅れのお節介令嬢、氷の公爵様と結婚したら三人娘の母になりました
鳥柄ささみ
恋愛
お節介焼きで困っている人を放っておけないシアは、数多のご令嬢達から人気の令嬢だ。毎日ファンレターが届き、社交界に出れば令嬢に取り囲まれるほどである。
けれど、それに反比例するように男性からの人気はなく、二十七だというのに嫁の貰い手もないため、毎日母から小言をもらっていた。
そんなある日のこと、突然公爵家から縁談の話が。
シアは公爵家がなぜ自分に縁談など持ち掛けるのかと訝しく思いつつ話を受けると、なんと公爵の後妻として三人の娘の母代わりになれと言われる。
困惑するも、自分へ縁談を持ちかけた理由を聞いて、お節介なシアは嫁ぐこと決めたのだった。
夫になるレオナルドはイケメンなのに無表情で高圧的。三人の娘も二女のアンナを除いて長女のセレナも三女のフィオナもとても反抗的。
そんな中でもお節介パワーを発揮して、前向きに奮闘するシアの物語。
※他投稿サイトにも掲載中
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる