元大魔導師、前世の教え子と歳の差婚をする 〜歳上になった元教え子が私への初恋を拗らせていた〜

岡崎マサムネ

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46.「変なロマンス小説の読みすぎ」

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「アイシャ!」

 ノアの声に、はっと振り返る。
 パーティー会場からこちらに向かって走ってくる彼の姿を見つけてから、男が消えた方向に再度目を戻すけれど……ただ木々が揺れているだけで、背中の影すら見えなかった。
 今のは一体、何だったのだろう。

「こんなとこで何してるの」
「お、お庭を見ていました……?」
「何で疑問系なの?」

 ノアが呆れたようにため息をついた。
 私にもよく分からないのだから仕方がない。むしろあのおじさんそのものが私の見た幻覚なんじゃないかと思ってしまうくらいだ。
 もしかして、神様のお告げ? 虹色のユニコーンが? ――今世のラッキーアニマル、とかかな。

 違うことを考え始めた私を眺めていたノアが、すっと私の前にしゃがみこんだ。
 そして私としっかりと目を合わせて、諭すように言う。

「急にいなくなったら、心配するだろ」

 彼の言葉に、ぱちぱちと目を瞬いた。
 言われてみれば、私は子どもである。迷子になったらそれは保護者である彼は心配するだろう。

 だけれど、呆れたような、困ったような眼差しで見つめられると――何故だか心が落ち着かなくなった。
 悪戯を見つかって怒られる子どもの気持ちと言うのは、こういうものだっただろうか。
 もう、子どもだった時のことなど覚えていないので判断できなかった。

 反応に困って押し黙ってしまう。
 けれどノアが黙って私の反応を待っているようだったので、何とか返事を絞り出した。

「大丈夫です、私は分別のある6歳なので」
「分別があるならいなくならないでほしいんだけど」

 ノアがため息をついて、立ち上がった。そして、私に向かって手を差し出す。

「ほら、行くよ」

 けれど、私はその手を握らなかった。
 ノアの赤い瞳を見上げて、言う。

「旦那さま、ここだけの話ですが」

 私がそう言うと、ノアは怪訝そうに眉根を寄せて、身をかがめた。
 彼にそっと耳打ちをする。

「コブ付きはモテません」
「は?」
「私がいないほうが女性と懇ろになれます」
「はぁ!?」

 ノアが素っ頓狂な声を上げて飛びのいた。
 彼の声に、近くを歩いていた懇ろな感じのカップルが迷惑そうにこちらを睨む。
 それに気づいたノアが、少し声を潜めて私に抗議する。

「君そういうのどこで覚えてくるの!? お父さん? お母さん!?」
「お母様の読んでいたロマンス小説です」
「ちゃんと隠しといてって言っといて!」

 そんなことを言われても、娘にそんなことを言われたらお母様はそれこそぶっとんでしまうのでは。
 実際のところは前世で同僚に「これで恋のときめきを勉強しなさい」と無理矢理貸された本を読んだ知識なので、今世のお母様は無実である。

 ちなみにロマンス小説を読んだ感想が「人間ってすごい」だったので友達には「あなた人間向いてないわよ」と一蹴された。
 今思うと相当ひどいことを言われている気がしてきた。向いていない割には頑張っていた方だと思う。

 こちらを睨んでいたノアが、私の手を取った。そしてパーティー会場の方へと歩いていく。
 引っ張られている形にはなるけれど、彼の歩調はとてもゆっくりで、私に合わせてくれていることが分かった。

「あのね。僕は君と結婚してるの。他の女性と懇ろになっちゃダメなんだよ」

 言い聞かせるように話すノアの言葉に、首を捻る。

「ですが、誰かのものにこそ燃え上がる女性もいるとかいないとか」
「変なロマンス小説の読みすぎ」

 ロマンス小説で得た数少ない知識を披露したところ、一蹴された。
 次にノアがお母様と会った時、お母様に濡れ衣を着せたことがバレないといいな。

「旦那さまは女性と懇ろになりたくないんですか?」
「君ね、……はぁ。僕は興味ないよ」

 歩きながら、ノアに問いかける。
 彼は何か言いかけたが、ため息をついた後でばっさりと切り捨てた。

 さっきもお嬢さんたちから大人気だったし、興味がないというのは何とももったいない話のように感じるのだけれど。

「先生以外はペンペン草にしか見えない」
「ペンペン草」

 もはや植物扱いだった。
 ペンペン草から人気でもそりゃあ嬉しくないかもしれない。
 色とりどりのペンペン草に取り囲まれるノアを想像してちょっと納得してしまった。

「いい子だから勝手に動かないで」
「分かりました!」

 ノアの言葉に頷いた。
 何だかんだ言っても面倒見の良いノアだ。私だってペンペン草の一角のはずなのに、よくしてくれていると思う。

 お嬢さんたちのこともまだよく知らないからペンペン草に見えているだけで、仲良くなったら違う物に見えるかもしれない。
 植物かもしれないし、動物かもしれないし――人間かもしれない。

 ぎゅっと繋いだノアの手を握りしめた。

「じゃあ私が旦那さまの良いところを皆さんに紹介します!」
「やめて」
「お任せください!」
「お願いだからじっとしてて」

 渋るノアを今度は私が引っ張りながら、ずんずんと力強く地面を踏みしめて、パーティー会場に戻った。

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