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57.僕の気持ち
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禁術を使ってしまったノアへのお咎めは、非常に軽いものだった。
あと半年で終わる予定だった謹慎が、もう半年伸びただけだ。
緊急事態だったという状況と、私を助けるためだったこと、それからマンドラゴラの違法栽培の現場を押さえた功績を差し引いた結果であるらしい。
そもそも時間停止は禁術の中では「軽い方」だ。
呪術と同様、使用した前例も多い。昔は特に規制もされていなかったと聞く。
時をさかのぼって現在を変えてしまうような時間遡行は大罪という扱いだけれど、これはそもそも成功例がなかった。
ノアの前科、死者の蘇生に比べればちょっとしたオマケ程度のものである。
それでも、この騒ぎは私の両親の耳にも入った。
魔法警察から連絡を受けた両親は、私とノアが帰った森の家に飛んできた。
日が暮れかけた庭でノアと2人、両親を出迎える。
繋いでいたノアの手を、ぎゅっと握った。
彼は私の顔を見て――顔を上げて、私の両親に向き直ると、深々と頭を下げた。
そして手を離すと、そっと私の背中を押す。
私は一人、一歩、二歩と両親に歩み寄った。
「アイシャ! ああ、無事でよかった」
「怖かっただろう、可哀想に」
そう言って駆け寄ってきた両親は私を抱きしめた。
いつの間にか強張っていたらしい身体から、ふっと力が抜けた。
アイシャとして過ごした6年間の記憶がある。身体は両親を安心できる存在として認識しているのだ。
自分でも意識していなかった緊張が緩んだ途端に一度引っ込んだはずの涙がまた零れてきて、私は泣き止むまで、たっぷりと両親によしよししてもらうことになった。
「アイシャ、うちへ帰ろう」
お父様が私の背中を撫でながら、優しく言う。
そっと肩に手を添えて、まっすぐに私と向き合った。
「もう十分だよ。アイシャはたくさん頑張った。だからもう、帰ってきていいんだ」
「え、」
「神託のことも、――ヴォルテール家のことも。お父様たちが何とかする。もういいんだよ、アイシャ」
お父様は真剣な瞳で、私に言い聞かせるように語り掛けた。
お母様も、隣で何度も頷いている。
2人の眼差しから、言葉から。確かな愛情を感じた。
私のために、立ち向かってくれるつもりでいるのだ。
ノアのお母さんのことを思い出す。人の親というものは――やっぱり、強い。
だけれど、私は。
まだ、今世でなすべきことを、何も出来ていない。
ちらりと、背後のノアに視線を向けた。
黙って私たち親子の様子を見ていたノアが、私と目が合ったのを確認すると、ゆっくりとこちらに歩み寄ってきた。
「アイシャ」
ノアが跪いて、私と視線を合わせる。
ノアの深紅の瞳が、まっすぐに私を見つめている。
両親が私から少しだけ離れて、私とノアの姿をじっと見守った。
「怖い思いをさせたことは、謝る。ごめん」
ノアが頭を下げる。
怖い思いなどしていない。もともとは私が勝手に走り出して、首を突っ込んだことだ。彼には何の責任もない。
それなのに私は——いざという場面で、ノアを呼んだ。
そうしたら、彼はちゃんと来てくれた。助けてくれた。
それだけで十分だ。十分すぎて、おつりがくるくらいだ。
それを伝えるために、私は首を横に振った。
彼は私の反応を見て、わずかに口元を緩ませる。
そして手を伸ばして、そっと、私の手を取った。
「でも、僕は……君の将来が見たくなった」
彼の大きくて暖かい手が、私のそれを包み込む。
将来という言葉に、思わず彼の瞳をじっと見返す。
「君がどんな魔法使いになるのか、知りたい」
ふわりと、気分が浮き立つような心地がした。
私も見たい、と、思ったからだ。
私が、アイシャがどんな魔法使いになるのか。そして――ノアが、どんな魔法使いになるのか。
「君といると、分かる気がするんだ。僕と一緒にいたときの、先生の気持ちが」
ノアが優しく私を見つめながら、静かに、でもはっきりと私に聞こえるように続ける。
「魔法を『楽しい』って思っていた頃の……僕の気持ちが」
瞬間。
あたりに暖かな光が、ぱっと広がった。
ノアと私の間に、灯の灯ったランタンが現れたのだ。
ランタンがふわりと空へ浮かび上がる。
つられて、顔を上げる。
空には――無数のランタンが、ふわふわと浮かんでいた。
あと半年で終わる予定だった謹慎が、もう半年伸びただけだ。
緊急事態だったという状況と、私を助けるためだったこと、それからマンドラゴラの違法栽培の現場を押さえた功績を差し引いた結果であるらしい。
そもそも時間停止は禁術の中では「軽い方」だ。
呪術と同様、使用した前例も多い。昔は特に規制もされていなかったと聞く。
時をさかのぼって現在を変えてしまうような時間遡行は大罪という扱いだけれど、これはそもそも成功例がなかった。
ノアの前科、死者の蘇生に比べればちょっとしたオマケ程度のものである。
それでも、この騒ぎは私の両親の耳にも入った。
魔法警察から連絡を受けた両親は、私とノアが帰った森の家に飛んできた。
日が暮れかけた庭でノアと2人、両親を出迎える。
繋いでいたノアの手を、ぎゅっと握った。
彼は私の顔を見て――顔を上げて、私の両親に向き直ると、深々と頭を下げた。
そして手を離すと、そっと私の背中を押す。
私は一人、一歩、二歩と両親に歩み寄った。
「アイシャ! ああ、無事でよかった」
「怖かっただろう、可哀想に」
そう言って駆け寄ってきた両親は私を抱きしめた。
いつの間にか強張っていたらしい身体から、ふっと力が抜けた。
アイシャとして過ごした6年間の記憶がある。身体は両親を安心できる存在として認識しているのだ。
自分でも意識していなかった緊張が緩んだ途端に一度引っ込んだはずの涙がまた零れてきて、私は泣き止むまで、たっぷりと両親によしよししてもらうことになった。
「アイシャ、うちへ帰ろう」
お父様が私の背中を撫でながら、優しく言う。
そっと肩に手を添えて、まっすぐに私と向き合った。
「もう十分だよ。アイシャはたくさん頑張った。だからもう、帰ってきていいんだ」
「え、」
「神託のことも、――ヴォルテール家のことも。お父様たちが何とかする。もういいんだよ、アイシャ」
お父様は真剣な瞳で、私に言い聞かせるように語り掛けた。
お母様も、隣で何度も頷いている。
2人の眼差しから、言葉から。確かな愛情を感じた。
私のために、立ち向かってくれるつもりでいるのだ。
ノアのお母さんのことを思い出す。人の親というものは――やっぱり、強い。
だけれど、私は。
まだ、今世でなすべきことを、何も出来ていない。
ちらりと、背後のノアに視線を向けた。
黙って私たち親子の様子を見ていたノアが、私と目が合ったのを確認すると、ゆっくりとこちらに歩み寄ってきた。
「アイシャ」
ノアが跪いて、私と視線を合わせる。
ノアの深紅の瞳が、まっすぐに私を見つめている。
両親が私から少しだけ離れて、私とノアの姿をじっと見守った。
「怖い思いをさせたことは、謝る。ごめん」
ノアが頭を下げる。
怖い思いなどしていない。もともとは私が勝手に走り出して、首を突っ込んだことだ。彼には何の責任もない。
それなのに私は——いざという場面で、ノアを呼んだ。
そうしたら、彼はちゃんと来てくれた。助けてくれた。
それだけで十分だ。十分すぎて、おつりがくるくらいだ。
それを伝えるために、私は首を横に振った。
彼は私の反応を見て、わずかに口元を緩ませる。
そして手を伸ばして、そっと、私の手を取った。
「でも、僕は……君の将来が見たくなった」
彼の大きくて暖かい手が、私のそれを包み込む。
将来という言葉に、思わず彼の瞳をじっと見返す。
「君がどんな魔法使いになるのか、知りたい」
ふわりと、気分が浮き立つような心地がした。
私も見たい、と、思ったからだ。
私が、アイシャがどんな魔法使いになるのか。そして――ノアが、どんな魔法使いになるのか。
「君といると、分かる気がするんだ。僕と一緒にいたときの、先生の気持ちが」
ノアが優しく私を見つめながら、静かに、でもはっきりと私に聞こえるように続ける。
「魔法を『楽しい』って思っていた頃の……僕の気持ちが」
瞬間。
あたりに暖かな光が、ぱっと広がった。
ノアと私の間に、灯の灯ったランタンが現れたのだ。
ランタンがふわりと空へ浮かび上がる。
つられて、顔を上げる。
空には――無数のランタンが、ふわふわと浮かんでいた。
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