元大魔導師、前世の教え子と歳の差婚をする 〜歳上になった元教え子が私への初恋を拗らせていた〜

岡崎マサムネ

文字の大きさ
58 / 64

57.僕の気持ち

しおりを挟む
 禁術を使ってしまったノアへのお咎めは、非常に軽いものだった。
 あと半年で終わる予定だった謹慎が、もう半年伸びただけだ。

 緊急事態だったという状況と、私を助けるためだったこと、それからマンドラゴラの違法栽培の現場を押さえた功績を差し引いた結果であるらしい。

 そもそも時間停止は禁術の中では「軽い方」だ。
 呪術と同様、使用した前例も多い。昔は特に規制もされていなかったと聞く。

 時をさかのぼって現在を変えてしまうような時間遡行は大罪という扱いだけれど、これはそもそも成功例がなかった。
 ノアの前科、死者の蘇生に比べればちょっとしたオマケ程度のものである。

 それでも、この騒ぎは私の両親の耳にも入った。
 魔法警察から連絡を受けた両親は、私とノアが帰った森の家に飛んできた。
 日が暮れかけた庭でノアと2人、両親を出迎える。

 繋いでいたノアの手を、ぎゅっと握った。
 彼は私の顔を見て――顔を上げて、私の両親に向き直ると、深々と頭を下げた。
 そして手を離すと、そっと私の背中を押す。

 私は一人、一歩、二歩と両親に歩み寄った。

「アイシャ! ああ、無事でよかった」
「怖かっただろう、可哀想に」

 そう言って駆け寄ってきた両親は私を抱きしめた。
 いつの間にか強張っていたらしい身体から、ふっと力が抜けた。
 アイシャとして過ごした6年間の記憶がある。身体は両親を安心できる存在として認識しているのだ。

 自分でも意識していなかった緊張が緩んだ途端に一度引っ込んだはずの涙がまた零れてきて、私は泣き止むまで、たっぷりと両親によしよししてもらうことになった。

「アイシャ、うちへ帰ろう」

 お父様が私の背中を撫でながら、優しく言う。
 そっと肩に手を添えて、まっすぐに私と向き合った。

「もう十分だよ。アイシャはたくさん頑張った。だからもう、帰ってきていいんだ」
「え、」
「神託のことも、――ヴォルテール家のことも。お父様たちが何とかする。もういいんだよ、アイシャ」

 お父様は真剣な瞳で、私に言い聞かせるように語り掛けた。
 お母様も、隣で何度も頷いている。

 2人の眼差しから、言葉から。確かな愛情を感じた。
 私のために、立ち向かってくれるつもりでいるのだ。
 ノアのお母さんのことを思い出す。人の親というものは――やっぱり、強い。

 だけれど、私は。
 まだ、今世でなすべきことを、何も出来ていない。

 ちらりと、背後のノアに視線を向けた。
 黙って私たち親子の様子を見ていたノアが、私と目が合ったのを確認すると、ゆっくりとこちらに歩み寄ってきた。

「アイシャ」

 ノアが跪いて、私と視線を合わせる。
 ノアの深紅の瞳が、まっすぐに私を見つめている。

 両親が私から少しだけ離れて、私とノアの姿をじっと見守った。

「怖い思いをさせたことは、謝る。ごめん」

 ノアが頭を下げる。

 怖い思いなどしていない。もともとは私が勝手に走り出して、首を突っ込んだことだ。彼には何の責任もない。
 それなのに私は——いざという場面で、ノアを呼んだ。
 そうしたら、彼はちゃんと来てくれた。助けてくれた。

 それだけで十分だ。十分すぎて、おつりがくるくらいだ。
 それを伝えるために、私は首を横に振った。

 彼は私の反応を見て、わずかに口元を緩ませる。
 そして手を伸ばして、そっと、私の手を取った。

「でも、僕は……君の将来が見たくなった」

 彼の大きくて暖かい手が、私のそれを包み込む。
 将来という言葉に、思わず彼の瞳をじっと見返す。

「君がどんな魔法使いになるのか、知りたい」

 ふわりと、気分が浮き立つような心地がした。

 私も見たい、と、思ったからだ。
 私が、アイシャがどんな魔法使いになるのか。そして――ノアが、どんな魔法使いになるのか。

「君といると、分かる気がするんだ。僕と一緒にいたときの、先生の気持ちが」

 ノアが優しく私を見つめながら、静かに、でもはっきりと私に聞こえるように続ける。

「魔法を『楽しい』って思っていた頃の……僕の気持ちが」

 瞬間。

 あたりに暖かな光が、ぱっと広がった。
 ノアと私の間に、灯の灯ったランタンが現れたのだ。
 ランタンがふわりと空へ浮かび上がる。

 つられて、顔を上げる。
 空には――無数のランタンが、ふわふわと浮かんでいた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

天然だと思ったギルド仲間が、実は策士で独占欲強めでした

星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー本編8話+後日談7話⭐︎ ギルドで働くおっとり回復役リィナは、 自分と似た雰囲気の“天然仲間”カイと出会い、ほっとする。 ……が、彼は実は 天然を演じる策士だった!? 「転ばないで」 「可愛いって言うのは僕の役目」 「固定回復役だから。僕の」 優しいのに過保護。 仲間のはずなのに距離が近い。 しかも噂はいつの間にか——「軍師(彼)が恋してる説」に。 鈍感で頑張り屋なリィナと、 策を捨てるほど恋に負けていくカイの、 コメディ強めの甘々ギルド恋愛、開幕! 「遅いままでいい――置いていかないから。」

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件

三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。 ※アルファポリスのみの公開です。

『階段対策会議(※恋愛)――年上騎士団長の健康管理が過剰です』

星乃和花
恋愛
【完結済:全9話】 経理兼給仕のクラリスは、騎士団で働くただの事務員――のはずだった。 なのに、年上で情緒に欠ける騎士団長グラントにある日突然こう言われる。 「君は転倒する可能性がある。――健康管理対象にする」 階段対策会議、動線の変更、手をつなぐのは転倒防止、ストール支給は防寒対策。 全部合理的、全部正しい。……正しいはずなのに! 「頬が赤い。必要だ」 「君を、大事にしたい」 真顔で“強い言葉”を投下してくる団長に、乙女心を隠すクラリスの心拍数は業務超過。 さらに副団長ローレンは胃薬片手に「恋は会議にするな!!」と絶叫中!? これは健康管理?それとも恋愛? ――答え合わせの前に、まず“階段(概念)“をご確認ください。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

勘違いで嫁ぎましたが、相手が理想の筋肉でした!

エス
恋愛
「男性の魅力は筋肉ですわっ!!」 華奢な男がもてはやされるこの国で、そう豪語する侯爵令嬢テレーゼ。 縁談はことごとく破談し、兄アルベルトも王太子ユリウスも頭を抱えていた。 そんな折、騎士団長ヴォルフがユリウスの元に「若い女性を紹介してほしい」と相談に現れる。 よく見ればこの男──家柄よし、部下からの信頼厚し、そして何より、圧巻の筋肉!! 「この男しかいない!」とユリウスは即断し、テレーゼとの結婚話を進める。 ところがテレーゼが嫁いだ先で、当のヴォルフは、 「俺は……メイドを紹介してほしかったんだが!?」 と何やら焦っていて。 ……まあ細かいことはいいでしょう。 なにせ、その腕、その太もも、その背中。 最高の筋肉ですもの! この結婚、全力で続行させていただきますわ!! 女性不慣れな不器用騎士団長 × 筋肉フェチ令嬢。 誤解から始まる、すれ違いだらけの新婚生活、いざスタート! ※他サイトに投稿したものを、改稿しています。

行き遅れのお節介令嬢、氷の公爵様と結婚したら三人娘の母になりました

鳥柄ささみ
恋愛
お節介焼きで困っている人を放っておけないシアは、数多のご令嬢達から人気の令嬢だ。毎日ファンレターが届き、社交界に出れば令嬢に取り囲まれるほどである。 けれど、それに反比例するように男性からの人気はなく、二十七だというのに嫁の貰い手もないため、毎日母から小言をもらっていた。 そんなある日のこと、突然公爵家から縁談の話が。 シアは公爵家がなぜ自分に縁談など持ち掛けるのかと訝しく思いつつ話を受けると、なんと公爵の後妻として三人の娘の母代わりになれと言われる。 困惑するも、自分へ縁談を持ちかけた理由を聞いて、お節介なシアは嫁ぐこと決めたのだった。 夫になるレオナルドはイケメンなのに無表情で高圧的。三人の娘も二女のアンナを除いて長女のセレナも三女のフィオナもとても反抗的。 そんな中でもお節介パワーを発揮して、前向きに奮闘するシアの物語。 ※他投稿サイトにも掲載中

枯れ専モブ令嬢のはずが…どうしてこうなった!

宵森みなと
恋愛
気づけば異世界。しかもモブ美少女な伯爵令嬢に転生していたわたくし。 静かに余生——いえ、学園生活を送る予定でしたのに、魔法暴発事件で隠していた全属性持ちがバレてしまい、なぜか王子に目をつけられ、魔法師団から訓練指導、さらには騎士団長にも出会ってしまうという急展開。 ……団長様方、どうしてそんなに推せるお顔をしていらっしゃるのですか? 枯れ専なわたくしの理性がもちません——と思いつつ、学園生活を謳歌しつつ魔法の訓練や騎士団での治療の手助けと 忙しい日々。残念ながらお子様には興味がありませんとヒロイン(自称)の取り巻きへの塩対応に、怒らせると意外に強烈パンチの言葉を話すモブ令嬢(自称) これは、恋と使命のはざまで悩む“ちんまり美少女令嬢”が、騎士団と王都を巻き込みながら心を育てていく、 ――枯れ専ヒロインのほんわか異世界成長ラブファンタジーです。

処理中です...