いろはにほへと ちりになれ!

藤丸セブン

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三十七限目 友達の両親の馴れ初め

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「なぁ。恋って何だと思うよ?」
 本日は休日。その為暇をしていたいろは、波留は同じく暇していた日華の家に遊びに来ていた。
「恋?急にどうしたの?」
「む。最近色恋沙汰に絡む事が増えたから気になった。私達は恋がどうこうを全く知らない」
 中学三年になり、いろはに恋する本能寺、透に恋する舳螺、波留に恋する莉里斗を見てきて二人はふと思ったのだ。恋とは何だろうと。
「ほう。君達は恋の事が知りたいのか」
 そんな事を話していると興味深そうな顔をしながら日華の父が三人の会話に入ってきた。
「お父さん!女の子の会話に混ざらないでよ!」
「はは。すまない。愛娘とその友人がどんな話をしているのか気になってしまってな」
 日華の父、新田障(にったしょう)は笑いながら空いている椅子に腰をかける。娘の意思を無視して会話に混ざる気満々の様だ。
「そうだ。にっちゃんの親父って今でもにっちゃんのおふくろと仲良しなんだろ?性的な意味で。馴れ初めとか聞かせてくれよ」
「む。昨日もうるさくて眠れなかったってにーから聞いてる」
「「ちょっ!?」」
 いろはからの実に恐ろしい言葉を聞いて日華の顔が一瞬で青ざめる。否。顔が青ざめたのは日華だけではない。三人におやつのケーキを出して、その皿を洗っていた日華の母。新田桃の顔も完全に青ざめていた。
「お父さん!?今のは聞かなかった事にしてね!?親の馴れ初め程聞きたくない話この世に存在しないから!?」
「障さん!?話さないよね!?話す訳ないよね!?絶対ダメだよ!?」
 障の右腕を掴みながら日華が、左腕を泡だらけの手で掴みながら桃が障に訴えかける。が、
「お二人がお望みなら、俺の可愛い妻との馴れ初めを喜んで語ろう」
 障は止まらなかった。なんなら妻と娘に腕を掴まれて心なしか嬉しそうだ。
「あー。忘れてた。この小説に登場する人が普通の人な訳ないよな」
 
 <三十七限目 友達の両親の馴れ初め>
 
 新田障は長い生涯の中であの日の事を忘れる事はないだろう。あれは二〇年以上前の出来事。当時高校教師として働いていた障が何回目かの入学式を見ていた日だった。
「春の訪れが素晴らしいこのよき日に」
 入学生代表の生徒のスピーチを聞いていた障は本日から自分が担任となるクラスの生徒達を眺めていた。顔と名前は昨夜見返した為完全に覚えている。障にとって初めての担任ととなる生徒達の為やはり障にとっては特別な生徒達だ。その生徒達の中で、障は輝く宝石を見つけた。
「あの子は」
 顔と名前は覚えている。平野桃。障の担任をするクラスの一人の生徒だ。しかし、どうしても彼女から目が離せない。名簿で見た時はそんな事は無かったのだが。
「ふわぁ。話長いなぁ」
 欠伸をしてだらっと体を前に倒しながら話を聞くその姿勢はとても素晴らしいものではなく、これまで障があまり好まない傾向のものだった。障は幼い頃から規則には厳しく他人に、それ以上に自らに厳しく規則を守る様言ってきた。そんな自分からは遠い教え子に、障は何故か目が離せなかったのだ。
 (いかん。何を考えているんだ俺は。俺は一人の男である前に教師だ!教え子に欲情するなど!)
 頭を強く振り自身を襲う煩悩を振り解く。障はこれまであまり性欲というものが強くなく、よく女性から交際の申し込みをされてはいたものの女性との交際という契約に魅力を感じていなかったので全て断っていた。だが、あの少女にだけは、どうしても欲望が掻き立てられる。何故かは分からない。分からないが、どうしても目が離せない。自分だけの物にしたいと、考えてしまう。
「新田先生?大丈夫ですか?」
 気がつくと。既に入学式は終わっていて隣に座る教師に声をかけられていた。
「いえ、問題ありません」
 少し間を置いて障は何事も無かった様に立ち上がった。大丈夫だ。彼女は自分が担当するクラスと一員ではあるが、それ以上でも以下でもない。障は部活の顧問などもしていないので彼女がどの部活に所属しようが彼女との関わりはクラスの中でしか起こり得ない。障のこの気持ちもいずれは落ち着くだろう。
 ・・・その筈だったのだが。
「やっほー障さん!今日も暇そうだねぇ!」
 なんと彼女の方から障に接触を図る様になっていた。
「はぁ。平野、俺と君は先生と生徒だ。俺の事は新田先生と呼ぶ様に」
「それじゃあ先生と生徒みたいじゃん!私は障さんと友達になりたいのー」
 放課後、誰もいない歴史準備室の中。障はいつもここで仕事をしたり本を読んだりしていた。ここはとても静かで障にとってかなりお気に入りの場所となっていた。だが、日華の母、平野桃は障がここに入るのを目撃してから毎日の様にここに訪れる様になっていた。
「友人なら君には大勢いるだろう?俺が君の友人になる必要はないと思うが?」
「放課後はみんな部活だのバイトで忙しいんだよ。家に帰っても一人だし、暇だなーって歩いてたら障さんを見かけてさ!これは最早運命だよ!」
 馴れ馴れしく障の肩に触れる桃に障は大きなため息を吐いた。表向きは妙に馴れ馴れしい生徒にどう対処するのか困っている。そして裏向きには溢れる情欲を必死に抑えている。
「障さんは仕事中かな?じゃあ私はその仕事の邪魔をすればいい訳だ!」
「君にも課題が出ている筈だが?」
「あぁそうだった!嫌な事思い出させてくれるなぁ」
「なら家に帰って課題に取り組むといい」
「えー。それは嫌だから。ここでやってっていい?」
 桃は障の言葉を待たずに鞄を開けて教科書とノートを取り出して障の向かい側に座る。
 (なるほど。これが世の男性達が起こす勘違い、か)
 話には聞いた事がある。男性は妙に距離の近い女性や優しい女性を前にすると「こいつ、俺の事好きなんじゃね?」と勘違いする生き物だと。今までの障にはまるで理解できない話だったが今なら理解できる。
 (間違いない。彼女は俺に好意を持っている!でなれけばこの行動に示しが付かないだろう!!論理的に考えてこの結論に至る!!!)
 障は学生時代友人付き合いはしてきたが異性との交友はほとんど無かった。そのせいで女性への扱いが全く分からない為大抵女生徒からは嫌われるか遠目から黄色い声援を上げられるだけだった。が、桃はグイグイ来るせいで、何といえばいいのか。まずい。学生時代はガリ勉生徒会長と言われていた障の語彙力が消えてきた。これが恋。なんと、何と恐ろしい現象なのか!!!
「あり?障さん全然仕事進んでないじゃん。疲れちゃった?それとも集中出来ない?何にしろ今がチャンス!折角なら私と遊ぼうよ!ついでに携帯番号交換しない?」
「・・・息抜きくらいは付き合おう。が、番号は交換しない」
「えー!ケチー!」
 この様に二人は出会った。桃の退屈しのぎは一年の間だけでなく二年、三年の放課後も続いた。その為障も段々と桃の扱いにも慣れたし溢れ出る欲望も抑えられる様になってきた。急に接近してくると溢れ出しそうになるが。
「あーあ。今日で遂に卒業かー!」
「・・・流石に驚いたな。まさか卒業式の日までここに来るとは」
 あっという間の三年が過ぎ本日は桃達の卒業式。障は寂しさと安堵に包まれていつも通りの歴史準備室で読書をしていると、いつも通りの明るい声と共に扉が開いた。
「いやー。卒業したら障さんと会えないなーと思ったらちょっと寂しくなっちゃってさ。卒業後も進路相談とか勉強教えて欲しいから連絡先聞きにきちゃった。迷惑だろうけどさ、可愛い元教え子の為にこれからも力を貸して!お願い!」
 いつもより真剣に手を合わせて障に連絡先を聞く桃。しかし障はその事はあまり気にしていなかった。気にできなかった。それよりも障の心を掴んだ言葉は。「元生徒」。
「そうか、君はもう俺の生徒ではない」
「え?うーんと、そうだよ?だから連絡先交換とか出来たりしない?勿論友達としてじゃなくて、えっと、恩師?みたいな!!?」
 障がゆっくりと席を立ちゆらゆらと近づいてくるのが少し怖くて桃は必死に言葉を放ったが。そんな事どうでもいい程に目を見開いて驚愕した。障にいきなり唇を奪われていたのだ。
「・・・ふぇ?」
「好きだ。俺と、結婚してくれ」
 
  ◇
「ひゅぅぅぅぅぅぅぅ!!!アッツー!!!!」
「む、これがやり手のやり方か。化け物じみてる」
 障が実に楽しそうに語る物語の結末にいろはは口笛を鳴らして歓喜。波留は一種の恐怖を感じていた。
「聞きたくない聞こえない聞こえてない!何なのさ両親の馴れ初めとかいう地獄を聞かせてくれちゃってさぁ!!!」
「恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい!!!ダメでしょこんな話!!!元生徒とか言ったって四月までは学生でしょうが!!!生徒に手を出した先生って事だよ!!!だから絶対ダメって言ったのに!!!」
 その横で母と娘が真っ赤な顔を手で隠しながらと真っ青な顔で耳を覆いながらゴロゴロと転がっていた。本当に似た物親子だ。
「それからはもうアプローチだ。桃は最初こそ俺を異性として見てくれなかったが、こちらから好意を見せると直ぐに顔を赤くしてくれてな。本当に愛らしかった」
「まだ続けるの!?やめてよ子供の前で!!しかも子供の友達の前で!!」
 これ以上喋らせまいと桃が障の口を防ごうとするがサラッと回避され、何故かお姫様抱っこの体制となった。
「「「何で!?」」」
「愛だ」
「もう、本当にやめて!!!」
 はい。今回は珍しく恋愛ものをお届けしました。少しでもいいなと思ったら作者の他の恋愛小説を読んで下さい。ガチで、お願いします。
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