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5話 金鉱山 その3
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スミドロ山脈の麓に到着したアイリーン一行。鉱山の規模はそれなりに大きく、作業をしている人物の数は100人を軽く越えていた。
「ここが、ヴァルハーツ侯爵の金鉱山……」
金の採掘そのものは現在では陰りが見えているが、放棄するには勿体ないというのが、状況を見たアルガスの思いだった。
「アルガス様、どう思われます?」
今後、この鉱山から取れる金の量が凄まじいことになるのは彼女は知っている。しかしそのことは言わずに、敢えてアルガスに質問をしたのだ。
「外側からだけでは、確実に言うことは難しいですが……ここにはまだ、多くの金が眠っている予感がします」
「うわ、すごっ……」
アイリーンは一瞬、素で発言をしてしまう。彼にはそんな情報はないはずだが、いきなり言い当てたのだから。どういう感覚で感じ取ったのか興味すら出て来る。しかし、それだけ見抜いているなら話が早かった。
「ええ、実はここは……?」
「お? なんだ、お前ら?」
その時、現れたのは二人の筋肉質な男。日焼けをしており、一目で鉱山の従業員だとわかる。アルガス、アイリーン、ミランダで護衛を待機させて、先に様子を見に来ていたので、他の者達は周囲に居ない。
「申し遅れました。私はアイリーン・ヴァルハーツです。こちらの管理権を有している者でして。責任者の方とお会いできるかしら?」
アイリーンは丁寧にお辞儀をして彼らに言った。二人は多少驚いていたが、何やらいやらしい表情に
変わっている。
「おいおい、まさか本当に来るなんてな……へへへっ」
「ま、そりゃそうだろ。なんたってな」
「?」
アイリーンとしても意外な反応だ。もっと驚いてもおかしくない。なんせ、追放されたとはいえ侯爵令嬢が来ているのだから。二人の男の態度はまるで……
「なあ、アイリーンさんよ、ここに来たってことはわかってるよね?」
「ええ、この鉱山の管理でしょう? そちらについて、責任者と話したいんだけど」
「いやいやいや、管理してくれるのは俺達の性欲でいいからさ」
ある意味で予想通り。嫌な予感が的中した瞬間であった。
「うわ、おまえ直だな……! 不敬罪で投獄されるぞ?」
「でも、もう侯爵令嬢じゃないんだろ? あはははははっ!」
「おい、お前ら……」
「ん……?」
声を出したのは普段からは信じられない形相のミランダだ。男二人も動きが止まった。
「な、なんだよこの女」
「はは、冗談だっての、そんなに本気になるなよ。そっちの兄ちゃんもな?」
「本当に冗談ですかね?」
口調は冷静だが、アルガスの声も少し低くなっている。男二人は自然と後ずさりしていた。
「おい、お前ら! こんなところで何サボっていやがる!」
「げげっ!? デゴール班長!?」
後ずさりをした男達の前に現れたのは、人一倍大きな身体を持つ、屈強な男であった。
----------------------
その後、男二人は班長に怒号を浴びせられ、仕事場へと戻って行った。デゴールはアイリーンに頭を下げる。
「すまねぇ。あいつらの態度については申し訳なかった」
「いえ、私も急に来てしまって申し訳ありません。特になにもなかったのだから、お気になさらずに」
「ああ。管理についての話し合いだよな? 俺がこの鉱山を仕切っている班長のデゴールだ。ま、一応は責任者って感じか」
デゴールはアイリーンに握手を求める。彼女も快く承諾した。
「アイリーン・ヴァルハーツです。班長さん、よろしくお願いします」
「はは、可愛らしい嬢ちゃんだな。さすがは侯爵令嬢ってか? とにかく、頃合いを見てから中央にある宿舎に来てくんな。そこで詳しい話といこうや」
「ええ、わかりました」
デゴールは陽気に笑うと、もう一度深く頭を下げてその場から去って行った。
「アイリーン様に対する態度……あれは制裁するべきです」
男たちの態度を見て、ミランダは今にも飛び掛からんばかりの怒りの表情になっていた。勿論、デゴールは含まれていない。
「ちょっと、ミランダ。気持ちは嬉しいけど、そんなことしたら、止めてくれた班長の顔が立たないわ」
デゴールが男達を止めなければ、死人が出ていたかもしれない。それほどに、ミランダからは怒りが噴出していたのだ。そして、彼女の実力であれば簡単に成し遂げられる。アイリーンとしては嬉しかったが、それをやらせるわけにはいかなかった。
「アイリーン殿は慈悲深いお方だ。ご自分のみならず、ミランダ殿の身の危険も考えられたのですね」
「ええ……いきなり事を荒立ててもいい方向には進まないと思いましたし」
「なるほど、そうですね。それに、デゴール殿のような良い方もおられる。この鉱山の者全てがあのような輩ではないでしょう。しかし……」
「伯爵?」
アイリーンはその時に初めて気付いた。アルガスの雰囲気も大きく変わっていたことに。
「デゴール殿が仲裁に入っていなければ、私が手を出していたかもしれません。駄目だ……私がこのようなことではいけません。申し訳なかった」
「……は、はい……いえ」
「ですが、あなたの身に危険が降り注げば、何を置いてもお守りするでしょう。やはり、命が最優先ですからね」
「そ、そうですわね……ほほほほ……」
アルガスがどの程度、本気で言っているのかはわからないでいたが、アイリーンは彼の真面目な言葉と表情に頬をピンクに染めていた。それを悟られないように、彼から顔を逸らす。ミランダが空気を読まずに逸らした彼女を覗き込んでいたが。
「とにかく一度、班長から話を聞きましょう。どういう状況なのかを」
「それがいいですね。行きましょうか」
アイリーンはすぐに態度を戻した。あまり浮かれていられる状況ではないようだ。その後、彼女らは護衛たちを呼び、鉱山内に入って行った。
「ここが、ヴァルハーツ侯爵の金鉱山……」
金の採掘そのものは現在では陰りが見えているが、放棄するには勿体ないというのが、状況を見たアルガスの思いだった。
「アルガス様、どう思われます?」
今後、この鉱山から取れる金の量が凄まじいことになるのは彼女は知っている。しかしそのことは言わずに、敢えてアルガスに質問をしたのだ。
「外側からだけでは、確実に言うことは難しいですが……ここにはまだ、多くの金が眠っている予感がします」
「うわ、すごっ……」
アイリーンは一瞬、素で発言をしてしまう。彼にはそんな情報はないはずだが、いきなり言い当てたのだから。どういう感覚で感じ取ったのか興味すら出て来る。しかし、それだけ見抜いているなら話が早かった。
「ええ、実はここは……?」
「お? なんだ、お前ら?」
その時、現れたのは二人の筋肉質な男。日焼けをしており、一目で鉱山の従業員だとわかる。アルガス、アイリーン、ミランダで護衛を待機させて、先に様子を見に来ていたので、他の者達は周囲に居ない。
「申し遅れました。私はアイリーン・ヴァルハーツです。こちらの管理権を有している者でして。責任者の方とお会いできるかしら?」
アイリーンは丁寧にお辞儀をして彼らに言った。二人は多少驚いていたが、何やらいやらしい表情に
変わっている。
「おいおい、まさか本当に来るなんてな……へへへっ」
「ま、そりゃそうだろ。なんたってな」
「?」
アイリーンとしても意外な反応だ。もっと驚いてもおかしくない。なんせ、追放されたとはいえ侯爵令嬢が来ているのだから。二人の男の態度はまるで……
「なあ、アイリーンさんよ、ここに来たってことはわかってるよね?」
「ええ、この鉱山の管理でしょう? そちらについて、責任者と話したいんだけど」
「いやいやいや、管理してくれるのは俺達の性欲でいいからさ」
ある意味で予想通り。嫌な予感が的中した瞬間であった。
「うわ、おまえ直だな……! 不敬罪で投獄されるぞ?」
「でも、もう侯爵令嬢じゃないんだろ? あはははははっ!」
「おい、お前ら……」
「ん……?」
声を出したのは普段からは信じられない形相のミランダだ。男二人も動きが止まった。
「な、なんだよこの女」
「はは、冗談だっての、そんなに本気になるなよ。そっちの兄ちゃんもな?」
「本当に冗談ですかね?」
口調は冷静だが、アルガスの声も少し低くなっている。男二人は自然と後ずさりしていた。
「おい、お前ら! こんなところで何サボっていやがる!」
「げげっ!? デゴール班長!?」
後ずさりをした男達の前に現れたのは、人一倍大きな身体を持つ、屈強な男であった。
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その後、男二人は班長に怒号を浴びせられ、仕事場へと戻って行った。デゴールはアイリーンに頭を下げる。
「すまねぇ。あいつらの態度については申し訳なかった」
「いえ、私も急に来てしまって申し訳ありません。特になにもなかったのだから、お気になさらずに」
「ああ。管理についての話し合いだよな? 俺がこの鉱山を仕切っている班長のデゴールだ。ま、一応は責任者って感じか」
デゴールはアイリーンに握手を求める。彼女も快く承諾した。
「アイリーン・ヴァルハーツです。班長さん、よろしくお願いします」
「はは、可愛らしい嬢ちゃんだな。さすがは侯爵令嬢ってか? とにかく、頃合いを見てから中央にある宿舎に来てくんな。そこで詳しい話といこうや」
「ええ、わかりました」
デゴールは陽気に笑うと、もう一度深く頭を下げてその場から去って行った。
「アイリーン様に対する態度……あれは制裁するべきです」
男たちの態度を見て、ミランダは今にも飛び掛からんばかりの怒りの表情になっていた。勿論、デゴールは含まれていない。
「ちょっと、ミランダ。気持ちは嬉しいけど、そんなことしたら、止めてくれた班長の顔が立たないわ」
デゴールが男達を止めなければ、死人が出ていたかもしれない。それほどに、ミランダからは怒りが噴出していたのだ。そして、彼女の実力であれば簡単に成し遂げられる。アイリーンとしては嬉しかったが、それをやらせるわけにはいかなかった。
「アイリーン殿は慈悲深いお方だ。ご自分のみならず、ミランダ殿の身の危険も考えられたのですね」
「ええ……いきなり事を荒立ててもいい方向には進まないと思いましたし」
「なるほど、そうですね。それに、デゴール殿のような良い方もおられる。この鉱山の者全てがあのような輩ではないでしょう。しかし……」
「伯爵?」
アイリーンはその時に初めて気付いた。アルガスの雰囲気も大きく変わっていたことに。
「デゴール殿が仲裁に入っていなければ、私が手を出していたかもしれません。駄目だ……私がこのようなことではいけません。申し訳なかった」
「……は、はい……いえ」
「ですが、あなたの身に危険が降り注げば、何を置いてもお守りするでしょう。やはり、命が最優先ですからね」
「そ、そうですわね……ほほほほ……」
アルガスがどの程度、本気で言っているのかはわからないでいたが、アイリーンは彼の真面目な言葉と表情に頬をピンクに染めていた。それを悟られないように、彼から顔を逸らす。ミランダが空気を読まずに逸らした彼女を覗き込んでいたが。
「とにかく一度、班長から話を聞きましょう。どういう状況なのかを」
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