婚約破棄令嬢、不敵に笑いながら敬愛する伯爵の元へ

あめり

文字の大きさ
5 / 52

5話 金鉱山 その3

しおりを挟む
 スミドロ山脈の麓に到着したアイリーン一行。鉱山の規模はそれなりに大きく、作業をしている人物の数は100人を軽く越えていた。


「ここが、ヴァルハーツ侯爵の金鉱山……」


 金の採掘そのものは現在では陰りが見えているが、放棄するには勿体ないというのが、状況を見たアルガスの思いだった。


「アルガス様、どう思われます?」


 今後、この鉱山から取れる金の量が凄まじいことになるのは彼女は知っている。しかしそのことは言わずに、敢えてアルガスに質問をしたのだ。


「外側からだけでは、確実に言うことは難しいですが……ここにはまだ、多くの金が眠っている予感がします」

「うわ、すごっ……」

 アイリーンは一瞬、素で発言をしてしまう。彼にはそんな情報はないはずだが、いきなり言い当てたのだから。どういう感覚で感じ取ったのか興味すら出て来る。しかし、それだけ見抜いているなら話が早かった。


「ええ、実はここは……?」


「お? なんだ、お前ら?」


 その時、現れたのは二人の筋肉質な男。日焼けをしており、一目で鉱山の従業員だとわかる。アルガス、アイリーン、ミランダで護衛を待機させて、先に様子を見に来ていたので、他の者達は周囲に居ない。


「申し遅れました。私はアイリーン・ヴァルハーツです。こちらの管理権を有している者でして。責任者の方とお会いできるかしら?」

 アイリーンは丁寧にお辞儀をして彼らに言った。二人は多少驚いていたが、何やらいやらしい表情に
変わっている。


「おいおい、まさか本当に来るなんてな……へへへっ」

「ま、そりゃそうだろ。なんたってな」

「?」


 アイリーンとしても意外な反応だ。もっと驚いてもおかしくない。なんせ、追放されたとはいえ侯爵令嬢が来ているのだから。二人の男の態度はまるで……


「なあ、アイリーンさんよ、ここに来たってことはわかってるよね?」

「ええ、この鉱山の管理でしょう? そちらについて、責任者と話したいんだけど」

「いやいやいや、管理してくれるのは俺達の性欲でいいからさ」


 ある意味で予想通り。嫌な予感が的中した瞬間であった。


「うわ、おまえ直だな……! 不敬罪で投獄されるぞ?」

「でも、もう侯爵令嬢じゃないんだろ? あはははははっ!」



「おい、お前ら……」

「ん……?」


 声を出したのは普段からは信じられない形相のミランダだ。男二人も動きが止まった。


「な、なんだよこの女」

「はは、冗談だっての、そんなに本気になるなよ。そっちの兄ちゃんもな?」


「本当に冗談ですかね?」


 口調は冷静だが、アルガスの声も少し低くなっている。男二人は自然と後ずさりしていた。


「おい、お前ら! こんなところで何サボっていやがる!」

「げげっ!? デゴール班長!?」


 後ずさりをした男達の前に現れたのは、人一倍大きな身体を持つ、屈強な男であった。



----------------------


 その後、男二人は班長に怒号を浴びせられ、仕事場へと戻って行った。デゴールはアイリーンに頭を下げる。


「すまねぇ。あいつらの態度については申し訳なかった」

「いえ、私も急に来てしまって申し訳ありません。特になにもなかったのだから、お気になさらずに」

「ああ。管理についての話し合いだよな? 俺がこの鉱山を仕切っている班長のデゴールだ。ま、一応は責任者って感じか」


 デゴールはアイリーンに握手を求める。彼女も快く承諾した。


「アイリーン・ヴァルハーツです。班長さん、よろしくお願いします」

「はは、可愛らしい嬢ちゃんだな。さすがは侯爵令嬢ってか? とにかく、頃合いを見てから中央にある宿舎に来てくんな。そこで詳しい話といこうや」


「ええ、わかりました」


 デゴールは陽気に笑うと、もう一度深く頭を下げてその場から去って行った。




「アイリーン様に対する態度……あれは制裁するべきです」


 男たちの態度を見て、ミランダは今にも飛び掛からんばかりの怒りの表情になっていた。勿論、デゴールは含まれていない。

「ちょっと、ミランダ。気持ちは嬉しいけど、そんなことしたら、止めてくれた班長の顔が立たないわ」


 デゴールが男達を止めなければ、死人が出ていたかもしれない。それほどに、ミランダからは怒りが噴出していたのだ。そして、彼女の実力であれば簡単に成し遂げられる。アイリーンとしては嬉しかったが、それをやらせるわけにはいかなかった。


「アイリーン殿は慈悲深いお方だ。ご自分のみならず、ミランダ殿の身の危険も考えられたのですね」

「ええ……いきなり事を荒立ててもいい方向には進まないと思いましたし」

「なるほど、そうですね。それに、デゴール殿のような良い方もおられる。この鉱山の者全てがあのような輩ではないでしょう。しかし……」

「伯爵?」


 アイリーンはその時に初めて気付いた。アルガスの雰囲気も大きく変わっていたことに。

「デゴール殿が仲裁に入っていなければ、私が手を出していたかもしれません。駄目だ……私がこのようなことではいけません。申し訳なかった」

「……は、はい……いえ」


「ですが、あなたの身に危険が降り注げば、何を置いてもお守りするでしょう。やはり、命が最優先ですからね」


「そ、そうですわね……ほほほほ……」


 アルガスがどの程度、本気で言っているのかはわからないでいたが、アイリーンは彼の真面目な言葉と表情に頬をピンクに染めていた。それを悟られないように、彼から顔を逸らす。ミランダが空気を読まずに逸らした彼女を覗き込んでいたが。


「とにかく一度、班長から話を聞きましょう。どういう状況なのかを」

「それがいいですね。行きましょうか」


 アイリーンはすぐに態度を戻した。あまり浮かれていられる状況ではないようだ。その後、彼女らは護衛たちを呼び、鉱山内に入って行った。

しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢の名誉を挽回いたします!

みすずメイリン
恋愛
 いじめと家庭崩壊に屈して自ら命を経ってしまったけれど、なんとノーブル・プリンセスという選択式の女性向けノベルゲームの中の悪役令嬢リリアンナとして、転生してしまった主人公。  同時に、ノーブル・プリンセスという女性向けノベルゲームの主人公のルイーゼに転生した女の子はまるで女王のようで……?  悪役令嬢リリアンナとして転生してしまった主人公は悪役令嬢を脱却できるのか?!  そして、転生してしまったリリアンナを自分の新たな人生として幸せを掴み取れるのだろうか?

結婚した次の日に同盟国の人質にされました!

だるま 
恋愛
公爵令嬢のジル・フォン・シュタウフェンベルクは自国の大公と結婚式を上げ、正妃として迎えられる。 しかしその結婚は罠で、式の次の日に同盟国に人質として差し出される事になってしまった。 ジルを追い払った後、女遊びを楽しむ大公の様子を伝え聞き、屈辱に耐える彼女の身にさらなる災厄が降りかかる。 同盟国ブラウベルクが、大公との離縁と、サイコパス気味のブラウベルク皇子との再婚を求めてきたのだ。 ジルは拒絶しつつも、彼がただの性格地雷ではないと気づき、交流を深めていく。 小説家になろう実績 2019/3/17 異世界恋愛 日間ランキング6位になりました。 2019/3/17 総合     日間ランキング26位になりました。皆様本当にありがとうございます。 本作の無断転載・加工は固く禁じております。 Reproduction is prohibited. 禁止私自轉載、加工 복제 금지.

婚約破棄までの168時間 悪役令嬢は断罪を回避したいだけなのに、無関心王子が突然溺愛してきて困惑しています

みゅー
恋愛
アレクサンドラ・デュカス公爵令嬢は舞踏会で、ある男爵令嬢から突然『悪役令嬢』として断罪されてしまう。 そして身に覚えのない罪を着せられ、婚約者である王太子殿下には婚約の破棄を言い渡された。 それでもアレクサンドラは、いつか無実を証明できる日が来ると信じて屈辱に耐えていた。 だが、無情にもそれを証明するまもなく男爵令嬢の手にかかり最悪の最期を迎えることになった。 ところが目覚めると自室のベッドの上におり、断罪されたはずの舞踏会から1週間前に戻っていた。 アレクサンドラにとって断罪される日まではたったの一週間しか残されていない。   こうして、その一週間でアレクサンドラは自身の身の潔白を証明するため奮闘することになるのだが……。 甘めな話になるのは20話以降です。

【完結】優雅に踊ってくださいまし

きつね
恋愛
とある国のとある夜会で起きた事件。 この国の王子ジルベルトは、大切な夜会で長年の婚約者クリスティーナに婚約の破棄を叫んだ。傍らに愛らしい少女シエナを置いて…。 完璧令嬢として多くの子息と令嬢に慕われてきたクリスティーナ。周囲はクリスティーナが泣き崩れるのでは無いかと心配した。 が、そんな心配はどこ吹く風。クリスティーナは淑女の仮面を脱ぎ捨て、全力の反撃をする事にした。 -ーさぁ、わたくしを楽しませて下さいな。 #よくある婚約破棄のよくある話。ただし御令嬢はめっちゃ喋ります。言いたい放題です。1話目はほぼ説明回。 #鬱展開が無いため、過激さはありません。 #ひたすら主人公(と周囲)が楽しみながら仕返しするお話です。きっつーいのをお求めの方には合わないかも知れません。

悪役令嬢の逆襲

すけさん
恋愛
断罪される1年前に前世の記憶が甦る! 前世は三十代の子持ちのおばちゃんだった。 素行は悪かった悪役令嬢は、急におばちゃんチックな思想が芽生え恋に友情に新たな一面を見せ始めた事で、断罪を回避するべく奮闘する!

【完結】婚約破棄された令嬢の毒はいかがでしょうか

まさかの
恋愛
皇太子の未来の王妃だったカナリアは突如として、父親の罪によって婚約破棄をされてしまった。 己の命が助かる方法は、友好国の悪評のある第二王子と婚約すること。 カナリアはその提案をのんだが、最初の夜会で毒を盛られてしまった。 誰も味方がいない状況で心がすり減っていくが、婚約者のシリウスだけは他の者たちとは違った。 ある時、シリウスの悪評の原因に気付いたカナリアの手でシリウスは穏やかな性格を取り戻したのだった。 シリウスはカナリアへ愛を囁き、カナリアもまた少しずつ彼の愛を受け入れていく。 そんな時に、義姉のヒルダがカナリアへ多くの嫌がらせを行い、女の戦いが始まる。 嫁いできただけの女と甘く見ている者たちに分からせよう。 カナリア・ノートメアシュトラーセがどんな女かを──。 小説家になろう、エブリスタ、アルファポリス、カクヨムで投稿しています。

「僕が望んだのは、あなたではありません」と婚約破棄をされたのに、どうしてそんなに大切にするのでしょう。【短編集】

長岡更紗
恋愛
異世界恋愛短編詰め合わせです。 気になったものだけでもおつまみください! 『君を買いたいと言われましたが、私は売り物ではありません』 『悪役令嬢は、友の多幸を望むのか』 『わたくしでは、お姉様の身代わりになりませんか?』 『婿に来るはずだった第五王子と婚約破棄します! その後にお見合いさせられた副騎士団長と結婚することになりましたが、溺愛されて幸せです。 』 『婚約破棄された悪役令嬢だけど、騎士団長に溺愛されるルートは可能ですか?』 他多数。 他サイトにも重複投稿しています。

「婚約破棄します」その一言で悪役令嬢の人生はバラ色に

有栖川灯里
恋愛
王太子との婚約破棄。それは悪役令嬢にとって、終わりではなく始まりだった。名を奪われ、社会から断罪された彼女が辿り着いたのは、辺境の小さな学び舎だった。そこには“名前を持たなかった子どもたち”が集い、自らの声と名を選び直していた。 かつて断罪された少女は、やがて王都の改革論争に巻き込まれ、制度の壁と信仰の矛盾に静かに切り込んでいく。語ることを許されなかった者たちの声が、国を揺らし始める時、悪役令嬢の“再生”と“逆襲”が静かに幕を開ける――。

処理中です...