4 / 52
4話 金鉱山 その2
しおりを挟むアランドロ女王国とゲシュタルト王国……北方の境界域に位置するスミドロ山脈。その麓にアイリーンの金鉱山は存在していた。現在は複数の馬車を引き連れて、向かっている最中である。
アイリーンの提案はアルガス・モンバール伯爵にもすぐに受け入れられたのだ。
「本当に、よろしいのですか?」
「ええ、もちろんです。どのみち、私程度では持て余すことは間違いがないので。そこで働いている方々にとっても、伯爵に管理をされた方が幸せかと」
「わかりました。アイリーン殿のご期待に添えるようにいたします。ありがとう」
「はい」
アルガスは即答してみせた。周囲の者達は驚きを隠せないでいたが、アイリーンからすれば普通のことだ。彼がすぐに答えをだし、行動に移すことは昔から知っている。その行動力の早さが彼の魅力の一つであったのだ。その日の内に準備は進められ、数日と経過しない内に護衛とアルガス、アイリーンにミランダは出発することになった。
「ところで……」
「はい、なんでしょうか?」
「アイリーン殿はお幾つですか?」
「はい、今年で18になります」
唐突な質問だったが、アイリーンはすぐに答えた。千里の年齢と同じだからだ。
「なるほど、私とは4つ違いですね。お若いのに大胆なお方だ、金鉱山の管理をお譲りくださるとは」
アルガスはさわやかに笑ってみせた。アイリーンはついつい見とれてしまう。
「どうかしましたか?」
「い、いえなにも。まあ、これでも元々は侯爵令嬢でしたので……ほほほほ」
ほんのささいなやり取りでしかないが、彼女はどきどきしていた。なんだか変な気分だ。そんなアイリーンの様子に、ミランダが何かを悟った。
「私は外から向かいましょうか?」
「こほん、ミランダ。余計な気を遣わなくていいから。外に出たら馬車から出ちゃうでしょ」
「私の速度であれば、走りながらでも問題ありません」
ミランダは自信満々だ。確かに彼女の護衛としての能力から言えば、高速で走っている馬車群に置いて行かれないことは容易だろう。その間、アルガスとアイリーンを二人きりに出来るというわけだ。
「なかなか面白い会話ですね。ミランダ殿はお幾つなんですか?」
「私は19になります。アイリーン様とは昔から、姉妹のように育ってきました」
「どうりで……仲がよろしいわけだ」
伯爵はまだ22歳と若いが、大きな器を持っているような態度を見せている。話し方ひとつとっても雰囲気が違うのだ。アイリーンの取り乱した態度は、彼のそんなしぐさにあったと言える。
「アイリーン様」
「な、なに? ミランダ」
次に出て来るミランダの言葉が怖いアイリーンは、おそるおそる返事をした。
「金鉱山をお渡しするのです。アルガス様はアイリーン様に逆らえませんよ。チャンスです」
「あんた……聞こえるように言ってどうするのよ……」
「はっはっはっ。確かにこれ程の褒美……私はあなたに逆らえませんな。なんなりと、お命じください」
アルガスは本気なのかどうなのか、大きく笑ってみせた後、深々と頭を下げた。勿論、冗談の類ではあるが、彼女が何かを命令したなら可能な範囲で彼は応じただろうと思える態度だ。
アイリーンは苦笑いをしながら、ミランダを見つめる。彼女も笑みをこぼしていた。
金鉱山に向かうまでの小さなやり取り……彼らの中が進展する一つの雫でしかないが、小さな一歩は生まれたのだった。
11
あなたにおすすめの小説
その神子は胃袋を掴まれている
成行任世
恋愛
とある事情で辺境の館に暮らす盲目の公爵令嬢と心優しい盗賊がゆっくりと愛を育み共に生きる道を選ぶお話。
※この物語は、身体に障害を持つ方を差別するような表現がありますが、そのような意図は一切ありません。
ご了承下さい。
4/15 作品情報修正
婚約破棄? 国外追放?…ええ、全部知ってました。地球の記憶で。でも、元婚約者(あなた)との恋の結末だけは、私の知らない物語でした。
aozora
恋愛
クライフォルト公爵家の令嬢エリアーナは、なぜか「地球」と呼ばれる星の記憶を持っていた。そこでは「婚約破棄モノ」の物語が流行しており、自らの婚約者である第一王子アリステアに大勢の前で婚約破棄を告げられた時も、エリアーナは「ああ、これか」と奇妙な冷静さで受け止めていた。しかし、彼女に下された罰は予想を遥かに超え、この世界での記憶、そして心の支えであった「地球」の恋人の思い出までも根こそぎ奪う「忘却の罰」だった……
【完結】破滅フラグを回避したいのに婚約者の座は譲れません⁈─王太子殿下の婚約者に転生したみたいだけど転生先の物語がわかりません─
江崎美彩
恋愛
侯爵家の令嬢エレナ・トワインは王太子殿下の婚約者……のはずなのに、正式に発表されないまま月日が過ぎている。
王太子殿下も通う王立学園に入学して数日たったある日、階段から転げ落ちたエレナは、オタク女子高生だった恵玲奈の記憶を思い出す。
『えっ? もしかしてわたし転生してる?』
でも肝心の転生先の作品もヒロインなのか悪役なのかモブなのかもわからない。エレナの記憶も恵玲奈の記憶も曖昧で、エレナの王太子殿下に対する一方的な恋心だけしか手がかりがない。
王太子殿下の発表されていない婚約者って、やっぱり悪役令嬢だから殿下の婚約者として正式に発表されてないの? このまま婚約者の座に固執して、断罪されたりしたらどうしよう!
『婚約者から妹としか思われてないと思い込んで悪役令嬢になる前に身をひこうとしている侯爵令嬢(転生者)』と『婚約者から兄としか思われていないと思い込んで自制している王太子様』の勘違いからすれ違いしたり、謀略に巻き込まれてすれ違いしたりする物語です。
長編ですが、一話一話はさっくり読めるように短めです。
『小説家になろう』『カクヨム』にも投稿しています。
義妹がやらかして申し訳ありません!
荒瀬ヤヒロ
恋愛
公爵令息エリオットはある日、男爵家の義姉妹の会話を耳にする。
何かを企んでいるらしい義妹。義妹をたしなめる義姉。
何をやらかすつもりか知らないが、泳がせてみて楽しもうと考えるが、男爵家の義妹は誰も予想できなかった行動に出て―――
義妹の脅迫!義姉の土下座!そして冴え渡るタックル!
果たしてエリオットは王太子とその婚約者、そして義妹を諫めようとする男爵令嬢を守ることができるのか?
終わりから始まる恋――冷徹公爵に婚約破棄された令嬢は、愛されすぎて逃げられません!
nacat
恋愛
婚約者である公爵に公衆の面前で婚約破棄を宣言された伯爵令嬢リディア。
失意の中、国外で実力を発揮し、社交界に新星として返り咲く。
ところが――今度はあの冷徹だった公爵が、過去の過ちを悔い必死に彼女を追い始めて!?
「一度捨てた女を、二度も愛せると思わないでください」
皮肉にも、“ざまぁ”と“溺愛”が巡る愛の逆転劇が、今ここに始まる。
侍女は婚約が内定している俺様属性の男と縁を切りたい。
彩柚月
恋愛
リリアは侯爵令嬢。オスカーとは、婚約予定。あくまでも予定で、まだ結んでいません。オスカーは何故かリリアにだけ、威圧的な態度を取るらしい。嫌で仕方がないので、オスカーの兄とプレ婚約期のやり直し。
今が幸せなので、あなたのことは助けてあげられません。
※ご都合主義満載
※細かい部分はサラッと流してください。
【完結】猫を被ってる妹に悪役令嬢を押し付けられたお陰で人生180度変わりました。
本田ゆき
恋愛
「お姉様、可愛い妹のお願いです。」
そう妹のユーリに乗せられ、私はまんまと悪役令嬢として世に名前を覚えられ、終いには屋敷を追放されてしまった。
しかし、自由の身になった私に怖いものなんて何もない!
もともと好きでもない男と結婚なんてしたくなかったし堅苦しい屋敷も好きでなかった私にとってそれは幸運なことだった!?
※小説家になろうとカクヨムでも掲載しています。
3月20日
HOTランキング8位!?
何だか沢山の人に見て頂いたみたいでありがとうございます!!
感想あんまり返せてないですがちゃんと読んでます!
ありがとうございます!
3月21日
HOTランキング5位人気ランキング4位……
イッタイ ナニガ オコッテンダ……
ありがとうございます!!
【完結】ちょっと、運営はどこ? 乙女ゲームにラノベが混じってますわよ!?
綾雅(りょうが)要らない悪役令嬢
恋愛
「俺は、セラフィーナ・ラファエル・スプリングフィールド公爵令嬢との婚約を解消する」
よくある乙女ゲームの悪役令嬢が婚約を破棄される場面ですわ……あら、解消なのですか? 随分と穏やかですこと。
攻略対象のお兄様、隣国の王太子殿下も参戦して夜会は台無しになりました。ですが、まだ登場人物は足りていなかったようです。
竜帝様、魔王様、あら……精霊王様まで。
転生した私が言うのもおかしいですが、これって幾つものお話が混じってませんか?
複数の物語のラスボスや秘密の攻略対象が大量に集まった世界で、私はどうやら愛されているようです。さてどなたを選びましょうかしら。
2021/02/21、完結
【同時掲載】小説家になろう、カクヨム、アルファポリス、エブリスタ
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる