婚約破棄令嬢、不敵に笑いながら敬愛する伯爵の元へ

あめり

文字の大きさ
18 / 52

18話 事前準備 その2

しおりを挟む
 
 アイリーンとミランダを乗せた馬車は、アランドロ女王国領に入っていた。目指しているのは、金鉱山から最も近い街、ラードタウン。一応は、アルガス伯爵の領地の中ではあるが、非常に国境に近いために、ゲシュタルト王国の者達の出入りも多い場所だった。


 アルガスには、ラードタウンに行くとは伝えてあるが、あまりにも急な事態にアイリーンも冷静さを失っていた。

 ミランダは現在、御者として馬車の操縦をしている。彼女の後姿をアイリーンは覗いていた。

「なんかいきなり決まったことだけど、楽しみな自分もいるのよね……変なの。わざわざ、ラードタウンに行くんだから、デートもそこでするのよね……」


 馬車はアイリーンの独り言の間にも猛スピードで街を目指していた。


--------------


「さて、到着しました、アイリーン様」

「うん、わかってるわ。ここは確か……」

「私はお仕事で何度か来たことがございます」


 女王国の街になるが、ゲシュタルト王国の者も多いラードタウン。乙女ゲーム「蒼き月のカンパニュラ」の中でも訪れたことはあった。もっとも、その時は主人公にしてヒロインのカンパニュラを操作してということになるが。

 ちなみに、カンパニュラはファミリーネームであり、ファーストネームは好きに変えられる。


「ここでお洒落な服探すの?」

「はい。アイリーン様は素材が良いので何でも似合うとは思いますが……」

 そう言いながら、ミランダはアイリーンを品定めし始めた。非常に真剣な表情で見つめている。

「美しい……露出度が控えめの冒険者のような格好でもというのは、流石でございます」

「嬉しいけど、照れくさいわ。なんか、変な感じ」

「うふふふふ」


 少しだけ、二人の間に怪しい空気が流れたのだった。


「とにかく、服を見に行くんでしょ? 早く行きましょ」

「はい。アイリーン様が乗り気になっていただいたようで、嬉しい限りでございます」

「まあ、女の子だしね。可愛い服を着ることが嫌なわけないじゃない」

「そうですね」

 笑顔を見せながら、二人はお店を探して歩き出した。その姿は仲の良い友人にも見え、姉妹のようにも映っている。特殊な一部の者からは、カップルのようにも映っていたという……。



---------------


「防具の店アルバタイト……明らかに違う気がするんだけど……」

「この街は冒険者の皆さんも多い街ですから。アクセサリーなども、防具屋が一括しているんです」

「全然意味わからないわね……」

 アイリーンもラードタウンの街並みを把握しているわけではなかったので、ミランダを信じてついて来たのだが……到着した場所は、鎧や盾が陳列されていそうな店だった。

 しかし、彼女が嘘を言うわけがない為、アイリーンは信じて中へと入った。内心、店の者たちに場違いな目線を、浴びせられることに怯えながら。


「……へえ」

「どうですか? アイリーン様」


 入ってみると店内は、大きく二つに分かれており、左側が冒険者たちの必需品。右側が一般人が使う小物や服などが豊富に揃えられていた。カップルの姿もあるくらいだ。

「ああ、中はこうなってるのね。それなら、外にちゃんと書いていてほしいところだけど」

「ふふ。それでは見ていきましょうか?」

「そうね」


 二人は右側に広々と並んでいる服の売り場に歩いていった。と、その時……。


「きゃっ!」

「あ、ごめん。大丈夫?」


 アイリーンは店の中を物色していた人物にぶつかってしまった。そのまま衝撃で座り込んでしまう。


「ホンマごめんな。立てる?」

「え、ええ……大丈夫……て」

「ん? なに? 私の顔になんかついてる? どっかで会ったことあるっけ?」


 一瞬、アイリーンの身体は硬直した。それもそのはず、彼女の前には「カンパニュラ」が居たのだから。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢の名誉を挽回いたします!

みすずメイリン
恋愛
 いじめと家庭崩壊に屈して自ら命を経ってしまったけれど、なんとノーブル・プリンセスという選択式の女性向けノベルゲームの中の悪役令嬢リリアンナとして、転生してしまった主人公。  同時に、ノーブル・プリンセスという女性向けノベルゲームの主人公のルイーゼに転生した女の子はまるで女王のようで……?  悪役令嬢リリアンナとして転生してしまった主人公は悪役令嬢を脱却できるのか?!  そして、転生してしまったリリアンナを自分の新たな人生として幸せを掴み取れるのだろうか?

結婚した次の日に同盟国の人質にされました!

だるま 
恋愛
公爵令嬢のジル・フォン・シュタウフェンベルクは自国の大公と結婚式を上げ、正妃として迎えられる。 しかしその結婚は罠で、式の次の日に同盟国に人質として差し出される事になってしまった。 ジルを追い払った後、女遊びを楽しむ大公の様子を伝え聞き、屈辱に耐える彼女の身にさらなる災厄が降りかかる。 同盟国ブラウベルクが、大公との離縁と、サイコパス気味のブラウベルク皇子との再婚を求めてきたのだ。 ジルは拒絶しつつも、彼がただの性格地雷ではないと気づき、交流を深めていく。 小説家になろう実績 2019/3/17 異世界恋愛 日間ランキング6位になりました。 2019/3/17 総合     日間ランキング26位になりました。皆様本当にありがとうございます。 本作の無断転載・加工は固く禁じております。 Reproduction is prohibited. 禁止私自轉載、加工 복제 금지.

婚約破棄までの168時間 悪役令嬢は断罪を回避したいだけなのに、無関心王子が突然溺愛してきて困惑しています

みゅー
恋愛
アレクサンドラ・デュカス公爵令嬢は舞踏会で、ある男爵令嬢から突然『悪役令嬢』として断罪されてしまう。 そして身に覚えのない罪を着せられ、婚約者である王太子殿下には婚約の破棄を言い渡された。 それでもアレクサンドラは、いつか無実を証明できる日が来ると信じて屈辱に耐えていた。 だが、無情にもそれを証明するまもなく男爵令嬢の手にかかり最悪の最期を迎えることになった。 ところが目覚めると自室のベッドの上におり、断罪されたはずの舞踏会から1週間前に戻っていた。 アレクサンドラにとって断罪される日まではたったの一週間しか残されていない。   こうして、その一週間でアレクサンドラは自身の身の潔白を証明するため奮闘することになるのだが……。 甘めな話になるのは20話以降です。

【完結】優雅に踊ってくださいまし

きつね
恋愛
とある国のとある夜会で起きた事件。 この国の王子ジルベルトは、大切な夜会で長年の婚約者クリスティーナに婚約の破棄を叫んだ。傍らに愛らしい少女シエナを置いて…。 完璧令嬢として多くの子息と令嬢に慕われてきたクリスティーナ。周囲はクリスティーナが泣き崩れるのでは無いかと心配した。 が、そんな心配はどこ吹く風。クリスティーナは淑女の仮面を脱ぎ捨て、全力の反撃をする事にした。 -ーさぁ、わたくしを楽しませて下さいな。 #よくある婚約破棄のよくある話。ただし御令嬢はめっちゃ喋ります。言いたい放題です。1話目はほぼ説明回。 #鬱展開が無いため、過激さはありません。 #ひたすら主人公(と周囲)が楽しみながら仕返しするお話です。きっつーいのをお求めの方には合わないかも知れません。

悪役令嬢の逆襲

すけさん
恋愛
断罪される1年前に前世の記憶が甦る! 前世は三十代の子持ちのおばちゃんだった。 素行は悪かった悪役令嬢は、急におばちゃんチックな思想が芽生え恋に友情に新たな一面を見せ始めた事で、断罪を回避するべく奮闘する!

【完結】婚約破棄された令嬢の毒はいかがでしょうか

まさかの
恋愛
皇太子の未来の王妃だったカナリアは突如として、父親の罪によって婚約破棄をされてしまった。 己の命が助かる方法は、友好国の悪評のある第二王子と婚約すること。 カナリアはその提案をのんだが、最初の夜会で毒を盛られてしまった。 誰も味方がいない状況で心がすり減っていくが、婚約者のシリウスだけは他の者たちとは違った。 ある時、シリウスの悪評の原因に気付いたカナリアの手でシリウスは穏やかな性格を取り戻したのだった。 シリウスはカナリアへ愛を囁き、カナリアもまた少しずつ彼の愛を受け入れていく。 そんな時に、義姉のヒルダがカナリアへ多くの嫌がらせを行い、女の戦いが始まる。 嫁いできただけの女と甘く見ている者たちに分からせよう。 カナリア・ノートメアシュトラーセがどんな女かを──。 小説家になろう、エブリスタ、アルファポリス、カクヨムで投稿しています。

「僕が望んだのは、あなたではありません」と婚約破棄をされたのに、どうしてそんなに大切にするのでしょう。【短編集】

長岡更紗
恋愛
異世界恋愛短編詰め合わせです。 気になったものだけでもおつまみください! 『君を買いたいと言われましたが、私は売り物ではありません』 『悪役令嬢は、友の多幸を望むのか』 『わたくしでは、お姉様の身代わりになりませんか?』 『婿に来るはずだった第五王子と婚約破棄します! その後にお見合いさせられた副騎士団長と結婚することになりましたが、溺愛されて幸せです。 』 『婚約破棄された悪役令嬢だけど、騎士団長に溺愛されるルートは可能ですか?』 他多数。 他サイトにも重複投稿しています。

「婚約破棄します」その一言で悪役令嬢の人生はバラ色に

有栖川灯里
恋愛
王太子との婚約破棄。それは悪役令嬢にとって、終わりではなく始まりだった。名を奪われ、社会から断罪された彼女が辿り着いたのは、辺境の小さな学び舎だった。そこには“名前を持たなかった子どもたち”が集い、自らの声と名を選び直していた。 かつて断罪された少女は、やがて王都の改革論争に巻き込まれ、制度の壁と信仰の矛盾に静かに切り込んでいく。語ることを許されなかった者たちの声が、国を揺らし始める時、悪役令嬢の“再生”と“逆襲”が静かに幕を開ける――。

処理中です...