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17話 事前準備 その1
しおりを挟む「すげぇ! ラークス伯爵を追い払うなんて! 流石はアイリーンさんだぜ!」
「まさに、俺達の女神様だな! 家事はできるし、料理も旨いし!」
ラークス伯爵とその取り巻きが去って行った後、宿舎内はお祭り状態になっていた。一斉にアイリーンコールが鳴り響く。嬉しいことではあるが、あまりのうるささに思わずアイリーンは耳を塞いだ。
「まったく調子いいんだから。私のこと慰み者にしようとしてたのはだれだっけ?」
「うぐっ!!」
とても心当たりがあったのか、一番最初に鉱山で出会った二人組が直立不動になっていた。マルコとオルゴの二人だ。
「姐さん、ホント済まねぇ……なんとお詫びを言ったらいいのか……」
「誰が姐さんよ……別に怒ってないから気にしないで。それに、私のことそういう風に見てたのは、この二人だけじゃないでしょ?」
と、言いながらアイリーンは可愛らしく振り返ってみせた。デゴールはそうでもなかったが、宿舎内の人間の多くが心当たりがあるのか、視線を彼女から離している。それだけで、彼らの心の中を見ることが出来たわけだ。
みんな汗だくになりながら、目線を合わせないテンプレのノリ……アイリーンからしては、分りやす過ぎた。
「まあまあ、アイリーン殿。これも、あなたの美しさと考えれば如何ですか?」
「えっ、は、はい……そ、そうですね! うん! 私、可愛いですもんね!」
突然、アルガスから声をかけられ、ドキドキしてしまったアイリーンは、自分でも何を言っているのか理解出来ていなかった。顔を紅潮させながら、なぜかオーバーリアクションになっている。
「はははっ、あなたは面白い人だ。ええ、アイリーン殿は非常に美人だと思いますよ」
「あ、はははははは……」
アルガスから送られる、直線的な誉め言葉。嘘偽りのないものとすぐに理解でき、彼女の動きは止まった。
「……アイリーン様、少しよろしいでしょうか?」
「え、な、なに……? ミランダ……?」
「すぐに済みますので、こちらへどうぞ」
丁寧な口調ながらも、有無を言わせない気迫でアイリーンはミランダに連れて行かれてしまった。
--------------
「アイリーン様、これはチャンスです」
「な、なにが……?」
宿舎の隅まで移動したミランダは、目を輝かせながら彼女に話し出した。アイリーンは意味がわかっていない。
「アルガス伯爵の心を射止めるチャンスということです」
「ああ……そういうこと。うん、確かにそうよね……で、デートすることになったんだし」
改めて考えるとデートをするのだ。アイリーンはそれを考えるだけで、頭が変になりそうだった。とてもまともな思考ではいられないとは、このようなことを言うのだろうか。
「はい、デートです。そこで提案なのですが、アルガス伯爵を確実に射止める為にも、お洒落な格好はひ必要でしょう?」
「ま、まあそうかもしれないわね……付き合いとかで、女性は見慣れてるだろうし」
「では、街に繰り出して、あの方を射止める服装をチョイスいたしましょう。善は急げです」
「ええ? 今から!?」
「当然です」
そう言いながら、ミランダは強引にアイリーンを、近くの馬車まで引っ張って行った。
来るべき「デート」の為の、事前準備が開始されたのだ。
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