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29話 人助け その1
しおりを挟むアルガスの屋敷の応接室。そこに招かれたのはタイネーブだ。他にも何人かの冒険者と思われる人物が連なっていた。
「久しぶり……でもないけど、アルガス伯爵。この人らは気にせんといて、冒険者仲間やから」
「ええ、わかりました。どうぞ、お座りください」
アルガスは特に気にすることなく、対面のソファにタイネーブ達を座らせた。アルガスの隣にはアイリーンとミランダの姿がある。彼女たちも同席することを許可されたのだ。
「さて、何か和みそうなお話から始めましょうか?」
「いや、そういう気遣いは不要やで。こっちの言いたいことは、この前のことと同じやし。協力してくれるん?」
タイネーブはいきなり本題から語り始めた。ゲシュタルト王国の貴族の圧政に対する対抗処置……その協力が求められているのだ。
「決定権は女王陛下にありますので、即答はできません。ただし、個人的には協力したいとは考えています」
「それはありがたいわ。アイリーンも同じ意見なん?」
「えっ、私……?」
タイネーブから急に振られたアイリーンは戸惑っていた。しかし、すぐにその意味を理解する。
「アイリーンはヴァルハーツの人間なんやろ? つまりは追放された令嬢……もう水臭いて、私がそんなことで態度変えるとか思ってたん?」
タイネーブはその後の調査などの過程で、アイリーンがヴァルハーツの人間であることを突き止めていた。しかし、彼女の態度は全く変わっていない。
「タイネーブ、ごめんね。はあ……なんの為に、ファミリーネームを言わなかったのかわからなくなってきたわ……」
「そうですね……さすがはタイネーブといったところでしょうか」
ミランダもあまりに屈託のないタイネーブの態度には驚いていた。それと同時に、彼女への尊敬の念が強まっていく。
さすがは「蒼き月のカンパニュラ」の主人公といったところか。アイリーンはそのように考えていた。
「しかし、我々は戦争を起こす気はない。多くの命は失われることは避けたいので」
「わかってるよ。正当防衛、弱者を助ける為に動いたっていう口実でええねん。それが上手くいけば、貴族連中は勝手に瓦解してくれるやろ。あとは……」
タイネーブはおもむろにアイリーンに視線を合わせた。その表情は真剣だ。
「追放されて貴族の称号も奪われたみたいやけど……ヴァルハーツ家には、実の親も居るやろ? アイリーンはその辺りどう思ってる?」
この場に出席していることからも、アイリーンにもそれなりの発言力があることをタイネーブは看破していた。そして、友人に対する気遣いも含まれている。
この時、アイリーンは俯いており、タイネーブとは顔を合わせてはいなかった。
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