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36話 女王陛下 その2
しおりを挟むシエラ・レオネ……年齢不詳の美女、もとい見かけは美少女にさえ見える。銀髪のポニーテールに猫のような細い瞳孔……八重歯も口から出ている為に、獣娘のような印象があった。
しかし、レオネ家の現代の当主にして女王の名を冠する者、そこに間違いはなかった。
「あ~~お茶がおいしい!」
シエラは伯爵の屋敷の応接室でお茶を飲んでくつろいでいた。女王の御前である為、ソファーに他に誰も座っていない。彼女は手招きをして、座るように指示を出す。
「ほらほら、堅苦しい挨拶とかは苦手なの知ってるよね、アルガスちゃん?」
「はい、存じております」
「じゃあ、座って座って! そっちのアイリーンちゃんも早く!」
命令を下しているというよりは、まるで子供がはしゃいでいるようだ。アルガスとアイリーンは、シエラの対面に座る。タイネーブはとりあえずは立っていた。
「それで、陛下……ご回答の件ですが」
アルガスとしても、はっきりと女王陛下からの了解の言葉を聞いておきたかった。自らに決定権はないのだから。8割方成功するとは思っているが、100%の安心が欲しい。
「まあまあ、焦らないで。それよりも、金鉱山の件はお手柄だったよアルガスちゃん! 来年には侯爵の爵位与えて、さらに統括領地を増やすかも。アルガスちゃんの収入もどんどん増えるよ~~!」
「ありがとうございます」
王族、貴族の会話としては普通の内容ではある。しかし、隣に座るアイリーンは、どこか現実的な話になっているように感じられた。
ゲームを通して領地が減ったり増えたりといった会話は何度も見ていたが、こうして目の当たりにすると、また違ったものが見えて来る。転生した千里は、居心地の悪い気分になっていた。
「そのきっかけをくれたのが、アイリーンちゃんだよね? ありがと」
「い、いえ……とんでもないことです……」
千里の知るシエラよりもさらに無邪気になっている。ゲームの中の彼女も浮世離れした人物ではあったが、さらに加速していると言えるだろう。だが……彼女と目を合わせられない。なんとなく「恐怖」を感じているのだ。
「今は追放された身だって聞いたけど?」
「は、はい。元々はゲシュタルト王国のヴァルハーツの人間でした」
「ヴァルハーツって言ったら侯爵家系じゃん! アイリーンちゃんって凄かったんだ~~!」
「い、いえ……もう貴族の称号は剥奪されていますし……」
アイリーンはシエラに目を合わせずに話していた。本来であれば失礼に当たるが、シエラは気にしている様子はない。
「大丈夫だよ? アイリーンちゃんは、この女王陛下、シエラ・レオネの元に保護してあげるから! 心配する必要なんかないよ?」
「あ、ありがとうございます……陛下」
ここで初めてアイリーンはシエラの顔を直視した。猫を思わせる目は全てを見透かしているかのように、アイリーンの心の中に届いている。「恐怖」の度合いは増していたが、シエラ自身は屈託のない笑顔を彼女に向けていた。
そして、ここでアルガスは話を再び本題に戻した。
「それで……陛下。先日にお出ししたゲシュタルト王国の民衆たちの暴動は激化しています。王国側の圧政はさらに強まるばかり……それらへの対応案ですが」
「資料は全部目を通したから平気だよ~~~。まず、答えを聞きたい?」
シエラは飴玉をなめながら話しているが、その目は真剣だ。彼女の視線はアルガスやタイネーブではなく、アイリーンに向かっていた。
「どう? アイリーンちゃん」
「は、はい……では、ご回答をいただいてもよろしいでしょうか?」
真偽は不明だが、なぜかアイリーンに質問をしたシエラ。しばらくの間沈黙が続き、そして……
「残念だけど却下」
応接室に冷たい空気が流れていく……アイリーンとしても予想外の出来事が起きようとしていた。
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