魔王様は学校にいきたい!

ゆにこーん

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変乱の気配

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 続々と訪れる馬車や木炭車、慌ただしく行き交う騎士や兵士。のんびり平和な日々から一転、この日のロームルス城は異様な緊張感に包まれていた。
 ガレウス邪教団との大規模戦闘に備え、ロムルス王国、南ディナール王国、アルテミア正教国で合同軍事演習を行うのだ。三種の国章が入り乱れる様は、実に圧倒される光景である。

「ようやく着いたわ、久しぶりのロームルス城ね」

「ええ、いつ見ても立派な城で……ああっ、お待ちくださいエリッサ様!」

「ほら早く、置いていっちゃうわよ」

 南ディナール王国の王女エリッサ、護衛を務める騎士ハミルカル。二人は今回の合同軍事演習における、南ディナール王国の代表である。
 当然ながらハミルカルは張り詰めているが、一方のエリッサはどこか緊張感に欠けた様子。

「お気をつけください、私の傍から離れると危険です」

「あら大丈夫よ、ハミルカルは心配しすぎだわ」

「しかし……」

「さて、ウルウルとティアお姉様はどこかしら?」

 ウルリカ様やクリスティーナとの再会を期待し、エリッサは胸を躍らせすぎているよう。それにしても油断しすぎである、その結果──。

「えいっ、捕まえたっすー!」

「ひゃわ!?」

 いきなり背後から羽交い絞めにされ、ギュッと身動きを封じられてしまう。
 犯人はアルテミア正教会の教主アンナマリアだ。隙だらけのエリッサを見て襲い掛かりたくなったらしい、なんとも自由奔放な教主様である。

「もうっ、ビックリさせないでください!」

「やれやれっす、エリッサちゃんは油断しすぎっすよ。一人でフラフラ歩いてると、私みたいな悪人に捕まっちゃうっすよ?」

「アルテミア様は悪人ではないわ」

「ふーん……それはどうっすかね!」

「わひゃっ!? ちょっとやめて、くすぐった……はううっ」

 アンナマリアは蛇のような動きで、エリッサの服に手を入れてコチョコチョ。自由奔放を通り越し、もはや完全な奇行である。
 エリッサはくすぐったさを堪えるのに必死、ハミルカルは面食らい右往左往、そうこうしている間にアンナマリアは何かを発見した模様。

「やっぱり持ってたっす!」

「あっ、それは!」

「これはウルリカを釣るためのお菓子っすね? 油断しすぎの罰として、私が責任をもって……パクッす!」

「そんな、せっかく用意したお菓子を……だけど大丈夫よ、だってホラ!」

「むむっ、流石はエリッサちゃんっす!」

 ウルリカ様への貢ぎお菓子を食べられてしまうも、エリッサはすぐに気を取り直す。なぜなら服の中は貢ぎお菓子でいっぱい、ウルリカ様を喜ばせる準備は万端なのである。

「ところでフラム君はどうしたっすか? まさか王族はエリッサちゃん一人っすか?」

「ええ、お父様は風邪を拗らせて寝込んでいます」

「あららっす、相変わらずフラム君は虚弱体質っすねー」

「本当に困ったお父様です、私の元気を分けてあげたいです」

 南ディナール王国での課外授業以来、二人はすっかり仲よし小よし。そんな二人のお出迎えは、エリッサ大興奮のあの人だ。

「アルテミア様……エリッサ王女……、ようこそ……歓迎する……」

「きゃはんっ、ティアお姉様!」

「どうもっす、久しぶりっすー」

「こちらへ……案内する……」

 クリスティーナの案内で、アンナマリアとエリッサ、ハミルカルをはじめとする護衛の一団は城内へ。
 大好きなクリスティーナと手を繋いで、エリッサは幸せいっぱいだ。かと思いきや不意に足を止め、どこか不安そうにクリスティーナの顔を覗き込む。

「ティアお姉様、なんだか元気がありませんわ」

「そう……実はね……、ああ……理由は……お父様から説明するわ……」

 一行は謁見の間ではなく、大会議室へと到着する。扉の先ではゼノン王の他に、アルフレッドとエリザベスも待ち構えていた。

「アンナマリア、エリッサ王女、遠路遥々よくきてくれた」

「ゼノン君にアルフレッド君、エリザベスちゃんまでお揃いっすね。はて、ヴィクトリアちゃんとシャルロットちゃんは学校っすか?」

「いいや、ロームルス学園は休みに入っている……」

「まさか二人に何かあったのですか?」

「シャルロットは元気にしている、だがヴィクトリアは……ヴィクトリアは消息不明なのだ」

「「消息不明!?」」

「アルキア王国の動きに違和感を感じてな、数日前ヴィクトリアに調査を頼んでいた。しかし……」

 アルキア王国の動向および影響を調査するべく、ヴィクトリア女王は三日前にロームルス城を出立している。
 二名の聖騎士に護衛されながらの、非常に安全な調査であったはず。にもかかわらず消息を絶っているらしい、これは明らかな異常事態である。

「ヴィクトリアはロアーナ地方へ向かったはず、つまりロムルス王国から出ていないのだ。しかし連絡もなければ目撃証言もなくてな……」

「「……」」

 この上なく重い沈黙が流れる、とそこへ──。

「大変ですわぁ!」

 流れる沈黙を吹き飛ばし、汗だくのシャルロット乱入である。ウルリカ様にそっくりの、実に豪快で慌ただしい乱入っぷりだ。

「落ちつけシャルロット、今は会議中だぞ」

「大変ですの、ナターシャが行方不明ですのよ!」

「なんだと!?」

 平和な日々は過ぎ去り、迫りくる変乱の気配。
 消息を絶ったヴィクトリア女王の、そしてナターシャの安否は如何に──。
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