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プロローグ
噂話
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「ねえ、知っとー? この辺に『はつ恋おわらせ屋』っていう変わったお店があるんだって」
「へえ、なんそれ。聞いたことないなー」
「去年ぐらいからやっとうらしいし、まだ新しいお店やけん、知らん人も多いっちゃない?」
「観光雑誌とかに載りそうな珍店やね」
「そのうちね。コンセプトが“忘れられない初恋を終わらせることができる”って、SNSで話題になっとったよ」
五月、連休明けの気だるい月曜日の夜、知る人ぞ知る福岡市博多区の中心街、中洲の路地で、千鳥足の男が酒瓶を片手に細い道を進んでいく。すれ違う男女のカップルと思われる二人の会話は男の耳を素通りし、吹き抜ける風が赤くなった耳をくすぐっていく。頭の中では祭囃子の音が陽気に流れていた。歓楽街の賑わいと路地裏の道の静けさの対比が心地よいな、なんて詩的なことを考える自分に酔っている。ちなみに身体はアルコールに酔いまくっていた。
「ああ~今日は~最高の月曜日~🎵」
妄想で流れる祭囃子に乗せて、口から勝手にオリジナルソングがこぼれ落ちる。
そう、歌いでもしなければ、十連休明けの身体はなかなか平日に馴染んでくれない。月曜日の夜から中洲で飲んでいたのも、身体を無理やり現実に引き戻すためだ。
「さあて、次はどこで飲もっかなー!」
男は知らぬ間に迷い込んでいた路地裏の道で、「焼肉」「スナック」「寿司」という看板を眺めながら、二軒目に入るお店を吟味する。「ここでいっか」とお寿司屋さんの木製の格子戸の前で立ち止まり、右手を取っ手の部分にかけたときだ。
すっと白っぽい何かが視界の片隅を通り過ぎるのを感じて、ぎょっと視線を足元に移す。
「は……、白……蛇……?」
白く細長い体躯をした蛇が、そろりと男の足元を通り過ぎて、お寿司屋さんの前の店の前で止まる。店の木彫りの看板に「はつ恋」と彫られているところまでは見えたが、それ以降は店名を読む余裕がなかった。緋色の目がぎょろりと男を見つめ、さらに薄桃色をした細い舌をちょろりと出してきた。威嚇をしているようには見えなかったが、あまりに場違いな生き物の存在に、男は「うわっ!?」と素っ頓狂な声を上げた。
酔っぱらっているせいで見間違えたのかもしれない、とゴシゴシと両目を擦る。けれど、目の前の白蛇は幻でもなんでもなく、依然として男を見つめている。やがて、「ウチ、来る?」とでも言いたげな官能的な視線で男を誘うように、再び舌を出した。
「で、で、で、出たーーーーっ!!」
まるで幽霊でも目にしたかの驚きっぷりで、男は元来た道を戻り、路地裏の道から走り去る。走って走って大通りまで出ると、ブオォォンという車のエンジン音を聞いてようやく心を落ち着けることができた。
「さ、さっきのは……なんだったんだ……」
独り言を言いながらふらふらと歩く男の頭はとっくに冴えていた。アルコールに対する粗治療だ。こんな治療、もう受けたくないと思いながらタクシーを拾って帰路につくのだった。
「へえ、なんそれ。聞いたことないなー」
「去年ぐらいからやっとうらしいし、まだ新しいお店やけん、知らん人も多いっちゃない?」
「観光雑誌とかに載りそうな珍店やね」
「そのうちね。コンセプトが“忘れられない初恋を終わらせることができる”って、SNSで話題になっとったよ」
五月、連休明けの気だるい月曜日の夜、知る人ぞ知る福岡市博多区の中心街、中洲の路地で、千鳥足の男が酒瓶を片手に細い道を進んでいく。すれ違う男女のカップルと思われる二人の会話は男の耳を素通りし、吹き抜ける風が赤くなった耳をくすぐっていく。頭の中では祭囃子の音が陽気に流れていた。歓楽街の賑わいと路地裏の道の静けさの対比が心地よいな、なんて詩的なことを考える自分に酔っている。ちなみに身体はアルコールに酔いまくっていた。
「ああ~今日は~最高の月曜日~🎵」
妄想で流れる祭囃子に乗せて、口から勝手にオリジナルソングがこぼれ落ちる。
そう、歌いでもしなければ、十連休明けの身体はなかなか平日に馴染んでくれない。月曜日の夜から中洲で飲んでいたのも、身体を無理やり現実に引き戻すためだ。
「さあて、次はどこで飲もっかなー!」
男は知らぬ間に迷い込んでいた路地裏の道で、「焼肉」「スナック」「寿司」という看板を眺めながら、二軒目に入るお店を吟味する。「ここでいっか」とお寿司屋さんの木製の格子戸の前で立ち止まり、右手を取っ手の部分にかけたときだ。
すっと白っぽい何かが視界の片隅を通り過ぎるのを感じて、ぎょっと視線を足元に移す。
「は……、白……蛇……?」
白く細長い体躯をした蛇が、そろりと男の足元を通り過ぎて、お寿司屋さんの前の店の前で止まる。店の木彫りの看板に「はつ恋」と彫られているところまでは見えたが、それ以降は店名を読む余裕がなかった。緋色の目がぎょろりと男を見つめ、さらに薄桃色をした細い舌をちょろりと出してきた。威嚇をしているようには見えなかったが、あまりに場違いな生き物の存在に、男は「うわっ!?」と素っ頓狂な声を上げた。
酔っぱらっているせいで見間違えたのかもしれない、とゴシゴシと両目を擦る。けれど、目の前の白蛇は幻でもなんでもなく、依然として男を見つめている。やがて、「ウチ、来る?」とでも言いたげな官能的な視線で男を誘うように、再び舌を出した。
「で、で、で、出たーーーーっ!!」
まるで幽霊でも目にしたかの驚きっぷりで、男は元来た道を戻り、路地裏の道から走り去る。走って走って大通りまで出ると、ブオォォンという車のエンジン音を聞いてようやく心を落ち着けることができた。
「さ、さっきのは……なんだったんだ……」
独り言を言いながらふらふらと歩く男の頭はとっくに冴えていた。アルコールに対する粗治療だ。こんな治療、もう受けたくないと思いながらタクシーを拾って帰路につくのだった。
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