博多はつ恋おわらせ屋〜シロヘビさんの幸運結び〜

葉方萌生

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第一章 噂の『はつ恋おわらせ屋』

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  ……が、現実はそう甘くはなかった。
 入学式の日、仁と奇跡的に同じクラスになったと知った時には驚いたし、嬉しかった。何度か席替えをするうちに隣の席になり、そこでさらに仁と打ち解けることができた。薙刀部に所属する彼は格好良いと評判で、さらに明るい性格のおかげで、彼の周りには男女関わらず、いつもたくさんの人がいた。

「仁ってさー、ほんとモテるよね」

「そんなことねえよ。五十嵐いがらしのほうがモテるっしょ」

「え~あたし? あたしはモテないってー!」

 その中でも、クラスで一番明るくて派手な女の子、五十嵐美優みゆうはとりわけ仁と仲が良かった。ショートボブの髪の毛を外ハネにして、いつも最先端のコスメを使ったメイクを施している。艶やかな髪には天使のツヤリングが輝き、ぱっちりとした二重瞼が仁とよく似ていた。

 仁くんってああいう“最先端キラキラ女子”が好きなんだ……。
 根暗なオタクの自分とは全然違う。

 そのことにショックを受けた姫華だったが、すでに仁への恋心を募らせていた姫華は、五十嵐美優を真似して、慣れないメイクやヘアケアを頑張った。学校では周りにオタクということがばれないように、好きなアニメ、漫画の話は一切しない。姫華と同じように『メタルコート!』が好きな友達もできていたが、その子たちとも距離を置くようになった。
 努力して努力して努力して、仁の視界に入れるように自分を変えていった。
 その甲斐あってか、仁はその後も姫華と仲良く会話をしてくれた。先生の悪口やはやりの映画、ドラマの話が一番盛り上がった。五十嵐美優が手を叩いて大口を開けて笑う仕草を見ながら、姫華も“屈託のない笑顔”を振りまけるように鏡の前で研究に研究を重ねた。表情筋のストレッチや、手足のむくみをとるマッサージ、毎日のメイク、いかに制服を“気崩すか”。仁に振り向いてもらうため、高校生活のすべてを賭ける覚悟と勢いで、仁の“理想の女”になれるように頑張った。
 ……だが。

「好きです、仁くん。私と……付き合ってください」

「……ごめん。俺、東雲とは良い友達やと思っとった」

 一年生の終わり、クラスが解散する前になんとか募らせた想いを口にした姫華だったが、結果はこの通り、玉砕。その場から逃げるように走り去って、仁が追いかけてくれない事実にまた傷つきながら、道端にへたりこんでわんわん泣いた。イヤイヤ期の幼児もびっくりの泣きっぷりに、通行人たちは気まずそうに姫華の横を通り過ぎていく。たまに、「大丈夫ですか?」と遠慮がちに尋ねてくる人もいたが、それはそれで逆に悲しくなって、姫華のほうからまた逃げ出した。

 姫華の初恋は音もなく崩れ去った。一年間、慣れないことをして努力したつもりだったのに、あんなにもあっさりと振られてしまうなんて……。
こんなことなら、仁くんのことなんか、好きにならなきゃ良かった。
と、その時は強がりなことを思ったが、四月に進級をし、再び仁と同じクラスになった時には心臓が止まりかけた。

「よう、東雲。また同じクラスやな」

 学年末に自分を振ったことを申し訳ないと思っているのか、逆になんとも思っていないのか分からないが、仁はまた爽やかに片手を上げて姫華に声をかけてきた。それが彼なりの優しさなのだと分かり、胸がつんと痛かった。
姫華は自分の胸に湧き上がってきたのが、悲しみではなく喜びなのだと気づいてはっとする。
私は、また仁くんと同じクラスになれて嬉しいんだ。
もしかしたらこれからもう一度彼を振り向かせることができるかもしれない。
愚かな女子高生は再び胸にほのかな希望を抱くと、一年生の時と同じように仁とまた仲良く話せるようになっていた。仁はやはり姫華を振ったことなんて忘れたかのように、今まで通り、優しい友人として普通に接してくれた。そんな仁の態度がありがたく、姫華の仁への恋心を余計に募らせた。

 さらに一年が経ち、三年生になると、再び仁と同じクラスになり驚きを隠せない姫華。と同時に、これは何かの運命ではないかと思い始めていた。
仁は二年生の時、数人の女子に告白されているようだった。でもその全部を断っている。もしかしたら、自分に振り向いてくれたのかも——と都合の良い妄想を頭の中で繰り広げていたのだ。最近の仁はとりわけ姫華と楽しそうに話してくれるし、バカ話も真剣な進路の悩みも全部打ち明けてくれた。だから本当に自分に気があるのではないか、だけど以前姫華を振った手前、仁のほうから気持ちを言い出せずにいるのではないか、と超ポジティブな思考がどんどん膨らんでいった。

 相変わらず“キラキラ女子”が好きそうなメイクや髪型にするのはもう慣れていた。適度に制服のスカートの丈を短くするのも、先生にばれない程度の綺麗めなネイルをするのも。全部、仁の視界に入るために努力してきたことだ。自分以上に仁を想って頑張った人間はいない、と姫華は思っていた。
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