博多はつ恋おわらせ屋〜シロヘビさんの幸運結び〜

葉方萌生

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第一章 噂の『はつ恋おわらせ屋』

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***

 姫華が真島仁と出会ったのは、博多南高校の入学式の日のことだった。

「あの、これ落ちましたよ」

 通学途中に一人、校門へと続く坂道を登っていると、後ろから男の子に声をかけられた。

「え? あ」

 振り返ると、さらさらの短髪と綺麗な二重瞼が特徴的な男子が、右手にキーホルダーを握っていた。姫華がハマっているアニメ『メタルコート!』という、男子バスケ部を主役にしたアニメの推し——ミナトくんのアクリルキーホルダーだった。姫華はそのキーホルダーを今日、真新しい通学鞄につけていたのだが、何かの拍子で外れてしまったらしい。
 初対面の男子、それも自分と同じ新入生らしき人にオタク趣味がばれてしまったことの羞恥心と、拾ってくれた感謝の気持ちがごちゃごちゃになって、顔に熱が溜まっていくのを感じた。

「あ、ありがとうございますっ」

 ポンと彼から推しのキーホルダーを受け取ると、それを鞄のポケットの中へとしまい込む。ちらりと男子を見ると、「あのさ」とまだ話は終わっていないとばかりに姫華に話しかけてきた。

「もしかして、一年生? 俺も一年生なんだよね。学校まで一緒に行かない?」

「学校まで……? い、いいですけど」

 学校はもう目と鼻の先に迫っているのに一緒に行こうだなんて変だと思いつつも、彼の爽やかな微笑みを見ると、姫華の気持ちはぐらりと揺らいだ。
 この人……ミナトくんに似てるかも。
 爽やかな風貌と、初対面の人にも躊躇いなく話しかけて、たとえ異性だろうが一緒に学校に行こうと声をかけられる。そんな、物語の主人公のような彼に、同じく『メタルコート!』の主人公である推しの姿を重ねた。

「ははっ。なんで敬語なの。同級生ならタメでいいよ」

「そ、そうだね。うん、分かった」

 普段、引っ込み思案な性格をしている姫華は中学時代から学校では一人でいることが多かった。友達も、同じ『メタルコート!』を好きなオタク友達しかいない。クラスの華やかな女子たちが恋バナに色めきだっているのを見ても、自分とは関係のない世界線の話だと諦めていた。
 だけど、もしかしたら……。
 少し先を歩く彼の背中を見つめながら、姫華は思う。
 高校では、自分もあのキラキラした女子たちと同じように、青春時代を謳歌できるかもしれない。

「きみ、名前はなんていうの?」

「東雲姫華です」

「姫華かー、可愛い名前やな。俺は、真島仁。よろしく」

 初対面にもかかわらず“可愛い名前”だとさらりと褒めてくれる彼——仁を前にして、姫華は自分の頭が沸騰しそうになるのを感じていた。

「……仁くん、よろしくお願いします」
 
 姫華も思いきって下の名前で呼ぶと、仁はまんざらでもなさそうに嬉しそうに笑って坂道を登り始めた。置いていかれないように、彼の隣を歩いていく。
 キラキラした青春なんて、自分の人生には関係のない言葉だと思っていた。
 でも違うのかもしれない。
 彼の隣にいられるなら、自分にも“青春”の二文字がふさわしい三年間が待っているかもしれない。
 道に植えられた木々からこぼれおちる木漏れ日の光を浴びながら、胸にほんのりと希望を抱いていた。
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