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第一章 噂の『はつ恋おわらせ屋』
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「それじゃ、儀式のやり方の説明をするけん、よく聞いてね。まず、姫華がこの『白蛇の鱗』を握って目を閉じる」
凪は、どこからともなく取り出した魚の鱗のようなものを姫華に見せた。大きさは手のひらサイズ。半透明の白色で、凪がひらひらと動かすと虹色の光がてらりと揺れた。名前の通り白蛇の鱗なのだろうと分かるが、それにしてはちょっと大きい気がする。
「目を閉じたら、初恋の人とのこれまでの過去を心に思い浮かべて、最後に『さよなら』と言うこと」
「……それだけ?」
「うん、それだけ」
予想以上あっさりとした儀式の説明に、姫華は拍子抜けしそうになった。
「それで本当にじ——初恋の人のことを忘れられるの?」
「忘れられるよ。この『白蛇の鱗』が握った人の未練を吸収するっちゃん。そしてその未練を浄化する」
「吸収して、浄化する……」
にわかには信じがたい話だが、凪が言うと本当にそうなのだろうと信じてしまうから不思議だった。
「大事なのは、初恋の人を必ず忘れられると信じること。本当にうまくいくか疑いながらやっても仕方ないけんね。じゃあさっそく始めよっか」
それ以上深い説明はせずに、凪は姫華に『白蛇の鱗』を握らせた。
それから唇を舌でペロリと舐める。その仕草にどきりとさせられる姫華だったが、次に凪が放った一言は、もっと信じられないものだった。
「今から儀式を開始するよ。言ってなかったけど、儀式の最中、私はシロヘビに変化するけんね」
「……は?」
今、凪は何て言った……?
姫華の頭に「?」が浮かぶ。
シロヘビに変化する?
シロヘビの着ぐるみか何かを着るということだろうか。
訝しく思う姫華の前で、凪は姫華が握った『白蛇の鱗』の端っこを握る。二人で『白蛇の鱗』を持つことになり、少々面食らう姫華。
「古より賜ひし神の御心よ。かの人に清らかなる心、与えたまへ」
凪が何かの呪文のような言葉を口にすると、ボフンッと鍋のお湯が突沸するような音がしたかと思うと、凪の身体がみるみるうちに白く長いものに変化していった。
「え、え、え——!?」
目の前で起こっている出来事が信じられず、姫華は何度も瞬きを繰り返す。
先ほどまで藤の着物を着ていた凪はもうそこにはおらず、代わりに緋色の目をしたシロヘビが姿を現していた。
白く艶やかな身体に、きらりと光る鱗。チロチロと口から出てくる赤い舌が特徴的だった。
「な、凪さん!? 凪さん、どこいったと!?」
きゃーっと叫びたい気持ちを抑えて、必死に凪の名前を呼ぶ姫華。
姫華は蛇が得意ではない。動物園に行くと見ることもあるが、ガラス壁の向こうで見る蛇と足元に普通に佇む蛇では、迫力が段違いだ。野生ではまだ見たことがないので、蛇と真正面から何の隔たりもなく向き合うのは初めての経験である。
「慌てるでない、姫華。私はここにおるやん」
「はい?」
シロヘビがにゅっと目を細めて笑いながら人間の言葉を口にしている。口調も声も凪そのもので、姫華はあっけに取られていた。
「実は私、あやかしなんですー! ふふ、知らんかったやろ?」
「“知らんかったやろ”って、当たり前やん! そんな噂なかったし! 今日初めて会ったばっかやし」
「あ、やっぱりそこまでは噂されとらんったいね。よかったー。この間酔っ払いのおじさんにこの姿見られたけん、やばいと思っとったっちゃん」
「酔っ払いのおじさんに……」
もう、なにもかもよく分からない。姫華はシロヘビの凪の話を聴きながら、頭の中がずっと混乱していた。
「この儀式を行う時は、シロヘビの姿やないとできんくて。やけん、姫華の儀式が終わるまではシロヘビさんのままでいくけんねー!」
「そ、そうなんだ」
正直まだあまり現実を受け入れきれていない姫華だったが、実際に目の前で人間がシロヘビに変化して、さらにそのシロヘビが人語を喋っているところを見せつけられると、嘘だと否定するほうが難しい気がした。
「それじゃ、『白蛇の鱗』をしっかりと握って。初恋の人とのこれまでの過去を思い浮かべて。大きく深呼吸をして。初恋の人のことを必ず忘れられると信じて。いくよ」
なにがなんだか分からないまま、姫華はシロヘビの凪に促されるようにして目を閉じ、真島仁のことを思い浮かべる。もちろん、『白蛇の鱗』は両手で握りしめて。
仁くんのことを忘れられますように。
何度も胸に浮かんでいた祈りを、再び心の中で叫んだ。
凪は、どこからともなく取り出した魚の鱗のようなものを姫華に見せた。大きさは手のひらサイズ。半透明の白色で、凪がひらひらと動かすと虹色の光がてらりと揺れた。名前の通り白蛇の鱗なのだろうと分かるが、それにしてはちょっと大きい気がする。
「目を閉じたら、初恋の人とのこれまでの過去を心に思い浮かべて、最後に『さよなら』と言うこと」
「……それだけ?」
「うん、それだけ」
予想以上あっさりとした儀式の説明に、姫華は拍子抜けしそうになった。
「それで本当にじ——初恋の人のことを忘れられるの?」
「忘れられるよ。この『白蛇の鱗』が握った人の未練を吸収するっちゃん。そしてその未練を浄化する」
「吸収して、浄化する……」
にわかには信じがたい話だが、凪が言うと本当にそうなのだろうと信じてしまうから不思議だった。
「大事なのは、初恋の人を必ず忘れられると信じること。本当にうまくいくか疑いながらやっても仕方ないけんね。じゃあさっそく始めよっか」
それ以上深い説明はせずに、凪は姫華に『白蛇の鱗』を握らせた。
それから唇を舌でペロリと舐める。その仕草にどきりとさせられる姫華だったが、次に凪が放った一言は、もっと信じられないものだった。
「今から儀式を開始するよ。言ってなかったけど、儀式の最中、私はシロヘビに変化するけんね」
「……は?」
今、凪は何て言った……?
姫華の頭に「?」が浮かぶ。
シロヘビに変化する?
シロヘビの着ぐるみか何かを着るということだろうか。
訝しく思う姫華の前で、凪は姫華が握った『白蛇の鱗』の端っこを握る。二人で『白蛇の鱗』を持つことになり、少々面食らう姫華。
「古より賜ひし神の御心よ。かの人に清らかなる心、与えたまへ」
凪が何かの呪文のような言葉を口にすると、ボフンッと鍋のお湯が突沸するような音がしたかと思うと、凪の身体がみるみるうちに白く長いものに変化していった。
「え、え、え——!?」
目の前で起こっている出来事が信じられず、姫華は何度も瞬きを繰り返す。
先ほどまで藤の着物を着ていた凪はもうそこにはおらず、代わりに緋色の目をしたシロヘビが姿を現していた。
白く艶やかな身体に、きらりと光る鱗。チロチロと口から出てくる赤い舌が特徴的だった。
「な、凪さん!? 凪さん、どこいったと!?」
きゃーっと叫びたい気持ちを抑えて、必死に凪の名前を呼ぶ姫華。
姫華は蛇が得意ではない。動物園に行くと見ることもあるが、ガラス壁の向こうで見る蛇と足元に普通に佇む蛇では、迫力が段違いだ。野生ではまだ見たことがないので、蛇と真正面から何の隔たりもなく向き合うのは初めての経験である。
「慌てるでない、姫華。私はここにおるやん」
「はい?」
シロヘビがにゅっと目を細めて笑いながら人間の言葉を口にしている。口調も声も凪そのもので、姫華はあっけに取られていた。
「実は私、あやかしなんですー! ふふ、知らんかったやろ?」
「“知らんかったやろ”って、当たり前やん! そんな噂なかったし! 今日初めて会ったばっかやし」
「あ、やっぱりそこまでは噂されとらんったいね。よかったー。この間酔っ払いのおじさんにこの姿見られたけん、やばいと思っとったっちゃん」
「酔っ払いのおじさんに……」
もう、なにもかもよく分からない。姫華はシロヘビの凪の話を聴きながら、頭の中がずっと混乱していた。
「この儀式を行う時は、シロヘビの姿やないとできんくて。やけん、姫華の儀式が終わるまではシロヘビさんのままでいくけんねー!」
「そ、そうなんだ」
正直まだあまり現実を受け入れきれていない姫華だったが、実際に目の前で人間がシロヘビに変化して、さらにそのシロヘビが人語を喋っているところを見せつけられると、嘘だと否定するほうが難しい気がした。
「それじゃ、『白蛇の鱗』をしっかりと握って。初恋の人とのこれまでの過去を思い浮かべて。大きく深呼吸をして。初恋の人のことを必ず忘れられると信じて。いくよ」
なにがなんだか分からないまま、姫華はシロヘビの凪に促されるようにして目を閉じ、真島仁のことを思い浮かべる。もちろん、『白蛇の鱗』は両手で握りしめて。
仁くんのことを忘れられますように。
何度も胸に浮かんでいた祈りを、再び心の中で叫んだ。
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