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婚約発表から一か月後、アリシアはルミエール王国への移住準備を進めていた。しかし、王都を離れる前に、彼女には成し遂げたいことがあった。
「女性の自立支援財団」の設立だ。
アリシアは『ローズ・アンド・ソーン』の利益の大部分を投じて、才能ある女性たちを支援する組織を作ることを決めた。教育機会の提供、起業資金の援助、技術訓練の場。それらすべてを包括する財団だ。
「お嬢様、素晴らしい計画です」
トーマスが賛同した。
「でも、運営は誰が?」
アリシアは微笑んだ。
「あなたにお願いしたいの、トーマス。あなたなら、私の理念を継いでくれると信じています」
トーマスは感動で声を震わせた。
「光栄です。必ず、お嬢様の想いを実現させます」
財団の設立式には、多くの人々が集まった。王太子妃も出席し、祝辞を述べた。
「アリシア様の行動は、この国の未来を変えるでしょう。女性が自分の可能性を信じ、挑戦できる社会。それこそが、真の進歩です」
式の後、一人の若い女性がアリシアに近づいてきた。
「アリシア様、私、あなたのように生きたいです」
彼女の目には、希望の光が宿っていた。
「あなたは、もう十分に素晴らしいわ。ただ、自分を信じて、一歩踏み出すだけ」
アリシアは優しく答えた。
「財団は、そんなあなたたちを支えるためにあります」
その日、財団には百人以上の申請があった。職人を目指す者、学者になりたい者、商人になりたい者。様々な夢を持つ女性たちが、新しい人生を始めようとしていた。
しかし、保守派からの反発も強かった。
「女性に教育など、秩序を乱すだけだ」
「女が男の仕事をするなど、自然の摂理に反する」
そんな声が、社交界の一部から上がった。
ある晩餐会で、保守派の重鎮であるフェルディナント公爵が、アリシアに詰め寄った。
「アリシア様、あなたのしていることは、伝統を破壊する行為だ」
「公爵、伝統とは何でしょうか?」
アリシアは冷静に問い返した。
「昔からあるもの、守るべきものだ」
「では、不当な慣習も、ただ古いという理由で守り続けるべきでしょうか?」
会場が静まり返った。
「かつて、女性は教育を受ける権利もありませんでした。財産を持つ権利も。それらは、勇気ある人々が変えてきたのです」
アリシアは続けた。
「私は、伝統を破壊したいのではありません。時代に合わせて、進化させたいのです」
その言葉に、多くの人が頷いた。特に若い世代は、アリシアの考えに共感していた。
フェルディナント公爵は何も言えず、その場を離れた。
財団の活動は順調に進み、最初の奨学生たちが学び始めた。アリシアは時間を見つけては彼女たちを訪れ、励ました。
「分からないことがあったら、いつでも聞いて。失敗を恐れないで」
彼女の言葉は、多くの女性たちの支えとなった。
ある日、アリシアは思わぬ訪問者を迎えた。マリアンヌだった。
ヴィクターの婚約者だった彼女は、やつれた様子だった。
「アリシア様、お話を聞いていただけますか?」
二人は静かな部屋で向き合った。
「実は、ヴィクター様と…うまくいっていないんです」
マリアンヌは涙を流した。
「私、何もできないんです。家計のことも分からないし、社交のことも。ヴィクター様は優しいけれど、どこか遠くを見ている気がして」
アリシアは静かに聞いていた。
「マリアンヌ様、あなたは何がしたいのですか?」
「私…分かりません。ただ、誰かに愛されたかった。それだけです」
マリアンヌの正直な言葉に、アリシアは共感した。
「マリアンヌ様、愛されるためには、まず自分を愛することが必要です」
「自分を…?」
「ええ。自分が何者で、何を望んでいるのか。それを知ることが、始まりです」
アリシアは続けた。
「もしよければ、財団のプログラムに参加してみませんか?新しい自分を発見できるかもしれません」
マリアンヌは驚いた表情を浮かべた。
「私のような者でも?」
「もちろんです。誰にでも、可能性はあります」
その日から、マリアンヌは変わり始めた。財団で絵画を学び、自分の才能を発見した。彼女は天性の色彩感覚を持っていたのだ。
数週間後、マリアンヌの描いた絵が、小さな展示会で評価された。彼女の目には、初めて自信の光が宿っていた。
「アリシア様、ありがとうございます。私、初めて自分に価値があると感じました」
アリシアは微笑んだ。
「それは、あなた自身の努力の結果です」
この出来事は、ヴィクターの耳にも入った。彼は複雑な思いを抱いた。
アリシアは、自分の元婚約者だけでなく、現在の婚約者までも救おうとしている。その懐の深さに、ヴィクターは改めて彼女の偉大さを感じた。
「俺は、本当に愚かだった」
ヴィクターは独りごちた。
マリアンヌが変わったことで、二人の関係も少し改善した。しかし、ヴィクターの心の中には、もうマリアンヌへの恋愛感情はなかった。
ある日、ヴィクターはマリアンヌに正直に話した。
「マリアンヌ、君は素晴らしい女性だ。でも、俺たちは合わないのかもしれない」
マリアンヌは静かに頷いた。
「私も、気づいていました。ヴィクター様は、私を見ていない。誰か別の人を見ている」
彼女は微笑んだ。
「きっと、アリシア様ですよね」
ヴィクターは否定できなかった。
「でも、もう遅いんだ。彼女には、アレクシス王子がいる」
「そうですね。でも、それでいいんだと思います」
マリアンヌは意外にも落ち着いていた。
「私たち、お互いのためにならない関係でした。それぞれ、本当に合う人を見つけるべきです」
二人は、静かに婚約を解消することにした。今度は、互いへの恨みも後悔もなく、ただ前を向くために。
マリアンヌは画家として生きる道を選び、ヴィクターは侯爵家の再建に専念することにした。
この出来事を知ったアリシアは、二人の成長を喜んだ。
「みんな、自分の道を見つけていくのね」
彼女は窓の外を見つめた。もうすぐ、王都を離れる。新しい人生が待っている。
しかし、ここで築いたもの、出会った人々、すべてが彼女の一部だ。それらを胸に、新しい冒険へと向かう。
アレクシスが訪ねてきた。
「準備は順調?」
「ええ、おかげさまで」
アリシアは微笑んだ。
「でも、少し寂しくもあるわ。この街で、本当の自分を見つけたから」
「でも、終わりじゃない。新しい始まりだ」
アレクシスが彼女の手を取った。
「君は、ルミエールでも、きっと多くの人に希望を与える」
アリシアは頷いた。そうだ、これは終わりではない。新しい章の始まりなのだ。
翌日、財団の最初の卒業生が誕生した。職人として独立する女性、商人として店を開く女性、学者として研究を続ける女性。
彼女たちは、アリシアに感謝の言葉を述べた。
「あなたのおかげで、夢を叶えられました」
「いいえ、あなたたち自身の力です」
アリシアは誇らしげに言った。
「これからも、自分を信じて進んでください」
その夜、アリシアは日記に書いた。
『明日、王都を離れます。ここでの日々は、私の人生で最も輝いた時間でした。完璧な淑女の仮面を捨て、本当の自分として生きることを学びました。多くの人に支えられ、多くの人を支えることができました。これからは、新しい場所で、新しい挑戦が待っています。でも、怖くありません。なぜなら、私は私だから』
窓の外では、星が輝いていた。明日への希望を照らすように。
「女性の自立支援財団」の設立だ。
アリシアは『ローズ・アンド・ソーン』の利益の大部分を投じて、才能ある女性たちを支援する組織を作ることを決めた。教育機会の提供、起業資金の援助、技術訓練の場。それらすべてを包括する財団だ。
「お嬢様、素晴らしい計画です」
トーマスが賛同した。
「でも、運営は誰が?」
アリシアは微笑んだ。
「あなたにお願いしたいの、トーマス。あなたなら、私の理念を継いでくれると信じています」
トーマスは感動で声を震わせた。
「光栄です。必ず、お嬢様の想いを実現させます」
財団の設立式には、多くの人々が集まった。王太子妃も出席し、祝辞を述べた。
「アリシア様の行動は、この国の未来を変えるでしょう。女性が自分の可能性を信じ、挑戦できる社会。それこそが、真の進歩です」
式の後、一人の若い女性がアリシアに近づいてきた。
「アリシア様、私、あなたのように生きたいです」
彼女の目には、希望の光が宿っていた。
「あなたは、もう十分に素晴らしいわ。ただ、自分を信じて、一歩踏み出すだけ」
アリシアは優しく答えた。
「財団は、そんなあなたたちを支えるためにあります」
その日、財団には百人以上の申請があった。職人を目指す者、学者になりたい者、商人になりたい者。様々な夢を持つ女性たちが、新しい人生を始めようとしていた。
しかし、保守派からの反発も強かった。
「女性に教育など、秩序を乱すだけだ」
「女が男の仕事をするなど、自然の摂理に反する」
そんな声が、社交界の一部から上がった。
ある晩餐会で、保守派の重鎮であるフェルディナント公爵が、アリシアに詰め寄った。
「アリシア様、あなたのしていることは、伝統を破壊する行為だ」
「公爵、伝統とは何でしょうか?」
アリシアは冷静に問い返した。
「昔からあるもの、守るべきものだ」
「では、不当な慣習も、ただ古いという理由で守り続けるべきでしょうか?」
会場が静まり返った。
「かつて、女性は教育を受ける権利もありませんでした。財産を持つ権利も。それらは、勇気ある人々が変えてきたのです」
アリシアは続けた。
「私は、伝統を破壊したいのではありません。時代に合わせて、進化させたいのです」
その言葉に、多くの人が頷いた。特に若い世代は、アリシアの考えに共感していた。
フェルディナント公爵は何も言えず、その場を離れた。
財団の活動は順調に進み、最初の奨学生たちが学び始めた。アリシアは時間を見つけては彼女たちを訪れ、励ました。
「分からないことがあったら、いつでも聞いて。失敗を恐れないで」
彼女の言葉は、多くの女性たちの支えとなった。
ある日、アリシアは思わぬ訪問者を迎えた。マリアンヌだった。
ヴィクターの婚約者だった彼女は、やつれた様子だった。
「アリシア様、お話を聞いていただけますか?」
二人は静かな部屋で向き合った。
「実は、ヴィクター様と…うまくいっていないんです」
マリアンヌは涙を流した。
「私、何もできないんです。家計のことも分からないし、社交のことも。ヴィクター様は優しいけれど、どこか遠くを見ている気がして」
アリシアは静かに聞いていた。
「マリアンヌ様、あなたは何がしたいのですか?」
「私…分かりません。ただ、誰かに愛されたかった。それだけです」
マリアンヌの正直な言葉に、アリシアは共感した。
「マリアンヌ様、愛されるためには、まず自分を愛することが必要です」
「自分を…?」
「ええ。自分が何者で、何を望んでいるのか。それを知ることが、始まりです」
アリシアは続けた。
「もしよければ、財団のプログラムに参加してみませんか?新しい自分を発見できるかもしれません」
マリアンヌは驚いた表情を浮かべた。
「私のような者でも?」
「もちろんです。誰にでも、可能性はあります」
その日から、マリアンヌは変わり始めた。財団で絵画を学び、自分の才能を発見した。彼女は天性の色彩感覚を持っていたのだ。
数週間後、マリアンヌの描いた絵が、小さな展示会で評価された。彼女の目には、初めて自信の光が宿っていた。
「アリシア様、ありがとうございます。私、初めて自分に価値があると感じました」
アリシアは微笑んだ。
「それは、あなた自身の努力の結果です」
この出来事は、ヴィクターの耳にも入った。彼は複雑な思いを抱いた。
アリシアは、自分の元婚約者だけでなく、現在の婚約者までも救おうとしている。その懐の深さに、ヴィクターは改めて彼女の偉大さを感じた。
「俺は、本当に愚かだった」
ヴィクターは独りごちた。
マリアンヌが変わったことで、二人の関係も少し改善した。しかし、ヴィクターの心の中には、もうマリアンヌへの恋愛感情はなかった。
ある日、ヴィクターはマリアンヌに正直に話した。
「マリアンヌ、君は素晴らしい女性だ。でも、俺たちは合わないのかもしれない」
マリアンヌは静かに頷いた。
「私も、気づいていました。ヴィクター様は、私を見ていない。誰か別の人を見ている」
彼女は微笑んだ。
「きっと、アリシア様ですよね」
ヴィクターは否定できなかった。
「でも、もう遅いんだ。彼女には、アレクシス王子がいる」
「そうですね。でも、それでいいんだと思います」
マリアンヌは意外にも落ち着いていた。
「私たち、お互いのためにならない関係でした。それぞれ、本当に合う人を見つけるべきです」
二人は、静かに婚約を解消することにした。今度は、互いへの恨みも後悔もなく、ただ前を向くために。
マリアンヌは画家として生きる道を選び、ヴィクターは侯爵家の再建に専念することにした。
この出来事を知ったアリシアは、二人の成長を喜んだ。
「みんな、自分の道を見つけていくのね」
彼女は窓の外を見つめた。もうすぐ、王都を離れる。新しい人生が待っている。
しかし、ここで築いたもの、出会った人々、すべてが彼女の一部だ。それらを胸に、新しい冒険へと向かう。
アレクシスが訪ねてきた。
「準備は順調?」
「ええ、おかげさまで」
アリシアは微笑んだ。
「でも、少し寂しくもあるわ。この街で、本当の自分を見つけたから」
「でも、終わりじゃない。新しい始まりだ」
アレクシスが彼女の手を取った。
「君は、ルミエールでも、きっと多くの人に希望を与える」
アリシアは頷いた。そうだ、これは終わりではない。新しい章の始まりなのだ。
翌日、財団の最初の卒業生が誕生した。職人として独立する女性、商人として店を開く女性、学者として研究を続ける女性。
彼女たちは、アリシアに感謝の言葉を述べた。
「あなたのおかげで、夢を叶えられました」
「いいえ、あなたたち自身の力です」
アリシアは誇らしげに言った。
「これからも、自分を信じて進んでください」
その夜、アリシアは日記に書いた。
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