厄介払いされてしまいました

たくわん

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エリアーナの妊娠から二ヶ月が経った頃、久しぶりに実家から手紙が届いた。

セバスチャンが持ってきた封筒を見て、エリアーナは少し緊張した。

フォンティーヌ家の紋章が押されている。

「実家からですか」

ルーカスが心配そうに尋ねた。

「ええ。結婚してから、初めてです」

エリアーナは封を切り、手紙を読み始めた。

内容は短く、事務的だった。

「姉ロザリンドが公爵家に嫁いだ」という報告だけだった。

おめでとうの言葉もなく、エリアーナの近況を尋ねる言葉もなく、ただ事実だけが書かれていた。

エリアーナは手紙を閉じた。

「どうだった?」

「姉が、公爵家に嫁いだそうです」

「それは、良縁だね」

「ええ。姉にとっては」

エリアーナの声には、感情がなかった。

かつてなら、姉の成功を聞いて傷ついただろう。自分と比べて、惨めに思っただろう。

でも、今は違った。

姉がどこに嫁ごうと、もう関係ない。エリアーナには、愛する夫がいる。お腹の中には子供がいる。豊かな領地があり、慕ってくれる領民がいる。

「エリアーナ」

ルーカスが優しく肩を抱いた。

「大丈夫か?」

「ええ、大丈夫です」

エリアーナは微笑んだ。

「もう、あの家のことは過去です。私の家族は、ここにいます」

彼女はルーカスの手を取り、自分のお腹に当てた。

「ルーカス様と、この子が、私の家族です」

ルーカスは、優しくエリアーナを抱きしめた。

手紙は、そっと机の上に置かれた。

もう、返事を書く必要もない。

数ヶ月後、エリアーナは無事に男の子を出産した。

難産ではなく、比較的スムーズなお産だった。

赤ん坊の産声が響き渡ると、ルーカスは涙を流した。

「ありがとう、エリアーナ。君は本当に強い」

「私たちの子供です」

エリアーナは疲れた顔で微笑んだ。

赤ん坊を抱くと、小さな命の温かさを感じた。

「この子に、名前をつけましょう」

「何がいいかな」

「アレクシス。光をもたらす者、という意味です」

ルーカスは頷いた。

「良い名前だ。この子が、領地に更なる光をもたらしてくれるように」

「ええ」

出産の知らせは、すぐに領中に広まった。

領民たちは大喜びで、城に祝福の品を届けた。

村で作った籠、手編みの毛布、木で作った玩具。

質素だが、心のこもった贈り物だった。

村長のハンスは、娘のマリアを連れてきた。

「奥方様、おめでとうございます」

「ありがとう、ハンス。マリアも来てくれたのね」

マリアは、小さな花束を差し出した。

「赤ちゃんのために、摘んできました」

「ありがとう。とても綺麗よ」

エリアーナは、マリアを部屋に招き入れた。

「赤ちゃん、見てもいいですか」

「ええ、どうぞ」

マリアは、ベッドの脇に立ち、眠っている赤ん坊を見つめた。

「小さい...」

「そうね。でも、すぐに大きくなるわ」

「私も、赤ちゃんのお姉さんになれますか」

「もちろんよ、マリア。アレクシスの大切なお姉さんよ」

マリアは嬉しそうに微笑んだ。

産後の一ヶ月間、エリアーナは休養した。

ルーカスは、彼女が無理をしないよう、仕事を調整した。

「君が元気になることが、一番大切だ」

「でも、薬草園が」

「大丈夫。庭師たちが世話をしてくれている。村の人たちも順調だ」

エリアーナは安心して、育児に専念した。

アレクシスは健康で、よく泣き、よく飲んだ。

夜中に泣くこともあったが、ルーカスは嫌な顔一つせず、一緒にあやしてくれた。

「父親として、当然だよ」

そう言って、赤ん坊を抱くルーカスの顔は、幸せそうだった。

ある夜、エリアーナは窓から月を見ながら、これまでの人生を振り返った。

侯爵家で冷遇されていた日々。

厄介払いのように辺境に送られたこと。

そして、ルーカスと出会い、領地を豊かにし、今は母親になった。

全ては、あの時辺境に来たからだった。

もし王都に残っていたら、こんな幸せは得られなかっただろう。

ルーカスが部屋に入ってきた。

「まだ起きていたのか」

「ええ。少し、考え事を」

「アレクシスは?」

「ぐっすり眠っています」

ルーカスは、エリアーナの隣に座った。

「何を考えていたんだ」

「これまでのことを。私がここに来たこと、ルーカス様と出会ったこと、全てが奇跡のようだと」

「僕もだよ」

ルーカスは、エリアーナの手を取った。

「君に出会えたことが、僕の人生最大の幸運だ」

「私もです」

二人は手を握り合い、静かに微笑んだ。

部屋の隅では、アレクシスが安らかに眠っている。

この子が大きくなる頃には、グレンフォード領はもっと豊かになっているだろう。

そして、この子も、両親の愛をたっぷり受けて育つだろう。

エリアーナは、かつて自分が受けられなかった愛を、この子には与えたいと思った。

温かい家庭、優しい言葉、心からの抱擁。

全てを、この子に。

窓の外では、星が輝いていた。

新しい家族の、新しい人生が、静かに続いていく。
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