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夏至祭の夜、王宮の大広間は煌びやかなシャンデリアの光に満ちていた。
セラフィーナが社交界に姿を現すのは、婚約破棄から半年ぶりのことだった。
「侯爵令嬢のお出ましです」
執事の声と共に、大階段の上にセラフィーナの姿が現れた。
淡い藤色のドレスに身を包んだ彼女は、かつての病弱な面影を微塵も感じさせなかった。血色の良い頬、生気に満ちた瞳、優雅な立ち振る舞い。まるで別人のようだと、広間中が息を呑んだ。
「あれが、あの病弱だった侯爵令嬢...?」
「信じられない。まるで女神のよう」
「薬草茶の効能は聞いていたけれど、ご本人がこれほどまでに」
囁き声が波のように広がる中、セラフィーナは静かに階段を降りた。
「セラフィーナ様、お久しぶりです」
最初に声をかけてきたのは、グレンヴィル伯爵夫人だった。
「伯爵夫人、お元気そうで」
「それは私の台詞ですわ。あなたの薬草茶のおかげで、私は何年ぶりかでよく眠れるようになりました」
夫人は感謝の眼差しを向けた。
「本当にありがとうございます。私の友人たちにも勧めて、皆大喜びしているんですよ」
次々と貴族たちが挨拶に訪れる。子爵夫人、男爵、辺境伯。皆、薬草茶への感謝の言葉を述べた。
「セラフィーナ様、私の妻は長年の頭痛から解放されました」
「娘の不眠症も改善して、家族一同感謝しております」
「是非、今後も薬草茶を購入させていただきたい」
セラフィーナは一人一人に丁寧に応対した。かつて同情と哀れみの目で見ていた人々が、今は尊敬と感謝の眼差しを向けている。
その時、広間の空気が微かに変わった。
公爵家の一行が入場してきたのだ。
先頭を歩くのは公爵夫妻、そしてその後ろにアレクシスと新妻のエリーゼが続く。
セラフィーナは平静を保ったまま、彼らの方を一瞥した。
アレクシスは相変わらず端正な顔立ちだったが、どこか疲れた様子だった。そして隣を歩くエリーゼは...
「まあ、暑いったら。なんでこんなに人が多いのよ」
エリーゼの不機嫌な声が聞こえた。顔色も優れず、額に汗を浮かべている。
「エリーゼ、少し休憩するか?」
アレクシスが心配そうに声をかけるが、エリーゼは苛立たしげに手を振った。
「大丈夫よ。これくらい...」
しかし、その顔色は明らかに悪かった。
「公爵令夫人、大丈夫ですか?」
近くにいた令嬢が心配そうに声をかけたが、エリーゼは無愛想に答えた。
「平気です。放っておいて」
その態度に、周囲の人々は戸惑いの表情を浮かべた。
一方、セラフィーナの周りには人々が集まり、和やかな雰囲気が続いていた。
「セラフィーナ様、次の薬草茶は何を作られるご予定ですか?」
「実は関節痛に効くブレンドを研究中なんです」
「まあ、それは素晴らしい!私の母がまさに関節痛で...」
会話が弾む中、セラフィーナはふと視線を感じた。
アレクシスが、遠くから彼女を見つめていた。
その目には複雑な感情が渦巻いていた。後悔、驚愕、そして何か言いたげな様子。しかし、隣のエリーゼの機嫌を損ねまいと、近づくことはできないようだった。
セラフィーナは静かに微笑み、再び目の前の人々との会話に戻った。
アレクシスのことなど、もはや気にする必要はない。自分の人生は、自分で切り開いていく。
「お嬢様、少々お疲れではありませんか?」
心配そうに声をかけてきたのは、王立薬学院の研究者だと名乗る男性だった。三十代半ばほどで、落ち着いた雰囲気を持っている。
「いえ、大丈夫です。あなたは?」
「失礼しました。私はエドウィン・グレイと申します。王立薬学院で薬草の研究をしております」
エドウィンは丁寧にお辞儀をした。
「実は、令嬢の薬草茶について、学院でも大変な話題になっておりまして。もし差し支えなければ、いつか研究について お話を伺えないかと」
「もちろんです」
セラフィーナは興味深そうに答えた。
「私も専門家の方のご意見を伺いたいと思っていました」
二人が話し始めると、自然と周囲の雑音が遠のいた。薬草の効能、調合の理論、最新の研究について。共通の話題は尽きることがなかった。
一方、広間の隅では、エリーゼがついに限界を迎えていた。
「もう無理...暑くて息苦しい...」
顔を真っ青にして、テーブルにもたれかかる。
「エリーゼ!大丈夫か?」
アレクシスが慌てて支えるが、周囲の視線は冷たかった。
「また体調不良ですか」
「結婚してまだ半年なのに、随分と多いわね」
「本当に健康な方だったのかしら」
囁き声が広がる中、アレクシスは妻を抱えて広間を退出した。
その様子を、セラフィーナはちらりと見たが、すぐにエドウィンとの会話に戻った。
「それで、ラベンダーとカモミールの相乗効果については...」
彼女の笑顔は自然で、心から楽しんでいるようだった。
夜会が終わり、馬車で帰る途中、セラフィーナは静かに窓の外を見つめた。
「お嬢様、今夜は大成功でしたね」
マリアが嬉しそうに言った。
「多くの方々がお嬢様を慕っていらっしゃいました」
「ええ、ありがたいことね」
セラフィーナは微笑んだ。
かつて婚約を破棄され、同情の目で見られていた自分が、今は尊敬される存在になっている。これは復讐ではない。ただ、自分らしく生きた結果だ。
そしてそれこそが、最高の「勝利」なのかもしれない。
セラフィーナが社交界に姿を現すのは、婚約破棄から半年ぶりのことだった。
「侯爵令嬢のお出ましです」
執事の声と共に、大階段の上にセラフィーナの姿が現れた。
淡い藤色のドレスに身を包んだ彼女は、かつての病弱な面影を微塵も感じさせなかった。血色の良い頬、生気に満ちた瞳、優雅な立ち振る舞い。まるで別人のようだと、広間中が息を呑んだ。
「あれが、あの病弱だった侯爵令嬢...?」
「信じられない。まるで女神のよう」
「薬草茶の効能は聞いていたけれど、ご本人がこれほどまでに」
囁き声が波のように広がる中、セラフィーナは静かに階段を降りた。
「セラフィーナ様、お久しぶりです」
最初に声をかけてきたのは、グレンヴィル伯爵夫人だった。
「伯爵夫人、お元気そうで」
「それは私の台詞ですわ。あなたの薬草茶のおかげで、私は何年ぶりかでよく眠れるようになりました」
夫人は感謝の眼差しを向けた。
「本当にありがとうございます。私の友人たちにも勧めて、皆大喜びしているんですよ」
次々と貴族たちが挨拶に訪れる。子爵夫人、男爵、辺境伯。皆、薬草茶への感謝の言葉を述べた。
「セラフィーナ様、私の妻は長年の頭痛から解放されました」
「娘の不眠症も改善して、家族一同感謝しております」
「是非、今後も薬草茶を購入させていただきたい」
セラフィーナは一人一人に丁寧に応対した。かつて同情と哀れみの目で見ていた人々が、今は尊敬と感謝の眼差しを向けている。
その時、広間の空気が微かに変わった。
公爵家の一行が入場してきたのだ。
先頭を歩くのは公爵夫妻、そしてその後ろにアレクシスと新妻のエリーゼが続く。
セラフィーナは平静を保ったまま、彼らの方を一瞥した。
アレクシスは相変わらず端正な顔立ちだったが、どこか疲れた様子だった。そして隣を歩くエリーゼは...
「まあ、暑いったら。なんでこんなに人が多いのよ」
エリーゼの不機嫌な声が聞こえた。顔色も優れず、額に汗を浮かべている。
「エリーゼ、少し休憩するか?」
アレクシスが心配そうに声をかけるが、エリーゼは苛立たしげに手を振った。
「大丈夫よ。これくらい...」
しかし、その顔色は明らかに悪かった。
「公爵令夫人、大丈夫ですか?」
近くにいた令嬢が心配そうに声をかけたが、エリーゼは無愛想に答えた。
「平気です。放っておいて」
その態度に、周囲の人々は戸惑いの表情を浮かべた。
一方、セラフィーナの周りには人々が集まり、和やかな雰囲気が続いていた。
「セラフィーナ様、次の薬草茶は何を作られるご予定ですか?」
「実は関節痛に効くブレンドを研究中なんです」
「まあ、それは素晴らしい!私の母がまさに関節痛で...」
会話が弾む中、セラフィーナはふと視線を感じた。
アレクシスが、遠くから彼女を見つめていた。
その目には複雑な感情が渦巻いていた。後悔、驚愕、そして何か言いたげな様子。しかし、隣のエリーゼの機嫌を損ねまいと、近づくことはできないようだった。
セラフィーナは静かに微笑み、再び目の前の人々との会話に戻った。
アレクシスのことなど、もはや気にする必要はない。自分の人生は、自分で切り開いていく。
「お嬢様、少々お疲れではありませんか?」
心配そうに声をかけてきたのは、王立薬学院の研究者だと名乗る男性だった。三十代半ばほどで、落ち着いた雰囲気を持っている。
「いえ、大丈夫です。あなたは?」
「失礼しました。私はエドウィン・グレイと申します。王立薬学院で薬草の研究をしております」
エドウィンは丁寧にお辞儀をした。
「実は、令嬢の薬草茶について、学院でも大変な話題になっておりまして。もし差し支えなければ、いつか研究について お話を伺えないかと」
「もちろんです」
セラフィーナは興味深そうに答えた。
「私も専門家の方のご意見を伺いたいと思っていました」
二人が話し始めると、自然と周囲の雑音が遠のいた。薬草の効能、調合の理論、最新の研究について。共通の話題は尽きることがなかった。
一方、広間の隅では、エリーゼがついに限界を迎えていた。
「もう無理...暑くて息苦しい...」
顔を真っ青にして、テーブルにもたれかかる。
「エリーゼ!大丈夫か?」
アレクシスが慌てて支えるが、周囲の視線は冷たかった。
「また体調不良ですか」
「結婚してまだ半年なのに、随分と多いわね」
「本当に健康な方だったのかしら」
囁き声が広がる中、アレクシスは妻を抱えて広間を退出した。
その様子を、セラフィーナはちらりと見たが、すぐにエドウィンとの会話に戻った。
「それで、ラベンダーとカモミールの相乗効果については...」
彼女の笑顔は自然で、心から楽しんでいるようだった。
夜会が終わり、馬車で帰る途中、セラフィーナは静かに窓の外を見つめた。
「お嬢様、今夜は大成功でしたね」
マリアが嬉しそうに言った。
「多くの方々がお嬢様を慕っていらっしゃいました」
「ええ、ありがたいことね」
セラフィーナは微笑んだ。
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