虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました

たくわん

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初夏の雨が薬草園を優しく潤す午後、セラフィーナは温室で新しい調合の実験をしていた。

様々なハーブを組み合わせ、最適な配合を探る。前世の薬学知識と、この世界の文献から得た情報を統合し、より効果的な薬草茶を作り出すことが目標だった。

「お嬢様、侯爵様がお呼びです」

マリアが息を切らせて温室に入ってきた。

「書斎にすぐお越しくださいとのことです」

セラフィーナは手を洗い、急いで父の書斎へと向かった。扉をノックすると、低い声で「入れ」と応答があった。

書斎に入ると、父ロデリック侯爵が大きな机の前に座り、何枚もの書類を広げていた。その表情は真剣そのものだった。

「父上、お呼びでしょうか」
「ああ、座りなさい」

侯爵は椅子を勧めた。セラフィーナが腰を下ろすと、父は書類の一枚を彼女の前に置いた。

「これを見てくれ」

それは様々な貴族家からの注文書だった。薬草茶の依頼が、想像以上の数に上っている。

「こんなに...」

セラフィーナは驚きを隠せなかった。

「ああ。グレンヴィル伯爵家からの口コミで、瞬く間に評判が広がった。子爵家、男爵家、さらには辺境の領主たちからも注文が来ている」

侯爵は別の書類を取り出した。

「これは王都の薬舗からの問い合わせだ。『侯爵家の薬草茶を店で扱いたい』と」
「王都の薬舗が...」
「そうだ。お前の作った薬草茶は、もはや単なる貴族の間での評判だけに留まらない。一般の人々にも必要とされているのだ」

侯爵は娘をまっすぐ見つめた。

「セラフィーナ、お前に聞きたい。これをどうしたいのだ?」
「どう、とは?」
「趣味として続けるのか。それとも、本格的な事業として発展させるのか」

セラフィーナは少し考えてから、静かに答えた。

「父上、私は多くの人を助けたいのです。貴族だけでなく、一般の人々も。病に苦しむ人、眠れない夜を過ごす人、痛みに耐えている人。そういう人たちに、少しでも楽になってもらいたい」

侯爵は深く頷いた。

「そうか。では、本格的に事業として立ち上げよう」
「よろしいのですか?」
「ああ。実を言うと、私も考えていたのだ。侯爵家の財政は決して悪くはないが、新しい収入源があれば、領地の人々のためにもっと多くのことができる」

侯爵は立ち上がり、窓辺へと歩いた。

「お前の薬草事業は、利益を生むだけでなく、人々の健康と幸福に貢献する。これほど素晴らしい事業はない」
「父上...」
「ただし、条件がある」

侯爵は振り返った。

「無理をするな。お前の健康が第一だ。事業のために身体を壊すようなことがあれば、私は即座に中止させる」
「承知しました」

セラフィーナは深く頭を下げた。

「もう一つ。適切な人材を雇い、お前一人に負担が集中しないようにする。セバスチャンに事務方の責任者を探させる。トマスには栽培の統括を任せる」
「ありがとうございます」
「礼を言うのは私の方だ」

侯爵は娘の肩に手を置いた。

「お前は、自分の力で立ち上がった。病弱だった身体を健康にし、新しい道を切り開いた。父として、これほど誇らしいことはない」

その言葉に、セラフィーナの目に涙が浮かんだ。

その夜、侯爵家の食堂では久しぶりに家族揃っての夕食となった。

「セラフィーナ、聞いたわよ。薬草事業を本格化させるそうね」

母のイザベラ侯爵夫人が優しく微笑んだ。

「はい、母上。父上のご理解をいただきまして」
「素晴らしいことだわ。あなたの作った薬草茶、私も愛用しているのよ。ローズヒップとハイビスカスのブレンド、とても美味しいし、肌の調子も良くなったわ」
「お役に立てて嬉しいです」
「ところで」

侯爵夫人は少し声を落とした。

「先日の社交界で、公爵夫人にお会いしたの」
「...そうですか」

セラフィーナは平静を保った。公爵夫人とは、アレクシスの母のことだ。

「夫人は、とても複雑な表情をしていらしたわ。あなたの評判を耳にして、『あの時の判断は正しかったのか』と」
「過ぎたことです」

セラフィーナは静かに言った。

「私は今、自分の道を歩んでいます。それで十分です」

侯爵が満足そうに頷いた。

「その通りだ。過去を振り返る必要はない。前を向いて歩き続けることだ」

食事の後、セラフィーナは自室のバルコニーに立ち、夜空を見上げた。

星々が静かに輝いている。かつて婚約を破棄され、絶望の淵にいた時には見えなかった美しさだった。

「ありがとう、父上、母上」

彼女は静かに呟いた。

両親の理解と支援があってこそ、今の自分がある。病弱だった身体を健康にし、新しい道を見つけることができた。

そして、これから先も、多くの人々を助けていく。それが自分の使命だと、セラフィーナは確信していた。

薬草園から、初夏の風が優しいハーブの香りを運んでくる。その香りに包まれながら、セラフィーナは未来を見つめた。

明日からまた、新しい一歩が始まる。
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