虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました

たくわん

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王立薬学院の講堂は、研究者たちで埋め尽くされていた。

セラフィーナは演台に立ち、集まった学者たちを見渡した。彼らの視線には、好奇心と懐疑が混ざっている。若い女性、しかも貴族令嬢が学術発表を行うことは、前例がほとんどなかったからだ。

「皆様、本日はお集まりいただきありがとうございます」

セラフィーナの声は、緊張を感じさせなかった。前世で何度も患者や家族に説明してきた経験が、ここで活きていた。

「本日の講演題目は『伝統的薬草の科学的応用』です」

会場にざわめきが走った。「科学的」という言葉は、この世界ではまだ一般的ではない。

セラフィーナは準備してきた図表を示しながら、説明を始めた。それぞれの薬草に含まれる成分、その作用機序、最適な調合比率。前世の薬学知識と、この世界の伝統的な知恵を融合させた内容だった。

最前列に座るエドウィン・グレイが、熱心にメモを取っている。彼の推薦で、この発表の機会を得たのだ。

「例えば月光茶に使用するこの薬草ですが」

セラフィーナは実物のサンプルを掲げた。

「伝統的には『月の光を浴びた夜に摘むと効果が高い』とされてきました。しかし実際には、夜露に含まれる水分が薬草の成分を最適な状態に保つためです」

会場から驚きの声が上がった。迷信だと思われていたことに、科学的な理由があったのだ。

「つまり、夜露と同じ条件を人工的に作り出せば、いつ摘んでも同じ効果が得られます」

「それは伝統を否定することではないのか!」

後方から老学者が立ち上がった。白い髭を蓄えた彼は、保守派の重鎮として知られていた。

「伝統を否定しているのではありません」

セラフィーナは落ち着いて答えた。

「伝統の中に隠された真実を、明らかにしているのです。先人たちの知恵を理解し、それをより多くの人々に役立てる。それこそが、真の継承ではないでしょうか」

老学者は黙り込んだ。周囲の研究者たちが頷いている。

「質問があります」

若い研究者が手を挙げた。

「その方法で製造された薬草茶の効果は、実証されているのですか?」

「はい。過去一年間で三千人以上の方々に使用していただき、九十五パーセント以上の方が効果を実感されています」

セラフィーナはデータをまとめた表を示した。使用者の年齢、症状、効果の程度。すべてが丁寧に記録されている。

「これは……驚異的な数字だ」

研究者たちがざわめいた。通常、薬草の効果を数値化することは稀だった。ましてや、これほど大規模な調査は聞いたことがない。

「さらに、製造過程での衛生管理を徹底することで、副作用も大幅に減少しました」

セラフィーナは次々とデータを示していった。前世の経験から、エビデンスの重要性を知っていた。感覚や経験だけでなく、数字で示すこと。それが説得力を生む。

発表が終わると、会場は静まり返った。

そして次の瞬間、拍手が沸き起こった。最初は疎らだったそれが、やがて会場全体に広がっていく。

エドウィンが誇らしげに微笑んでいる。

「質疑応答に移ります」

その後一時間、セラフィーナは様々な質問に答え続けた。批判的な質問も多かったが、彼女はすべてにデータと理論で応答した。

発表会が終わると、多くの研究者がセラフィーナの元に集まってきた。

「共同研究をお願いしたい」
「私の研究にも助言を」
「王立病院での導入を検討したい」

申し出は次々と寄せられた。エドウィンが機転を利かせ、後日改めて対応することで了承を得る。

講堂を出ると、エドウィンが声をかけてきた。

「素晴らしい発表でした。あなたは歴史を変えるかもしれない」

「大げさですよ、エドウィン様」

「いいえ、本気です。今日の発表は、医学と薬学の新しい扉を開いた」

彼の真剣な眼差しに、セラフィーナは頬を染めた。

馬車で帰路につきながら、セラフィーナは窓の外を眺めた。王都の街並みが夕日に染まっている。

この世界に転生して、婚約破棄されて、それでも諦めずに歩き続けた。その結果が、今日の成功に繋がった。

復讐など、もう考えてもいない。

自分の道を歩むこと。それだけで十分だった。

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