虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました

たくわん

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社交界の季節が始まった。

セラフィーナは久しぶりに夜会に出席していた。淡い青のドレスに身を包んだ彼女は、かつての病弱な令嬢の面影を微塵も感じさせなかった。

「まあ、セラフィーナ様!」

伯爵夫人が驚きの声を上げた。

「本当にお美しい。以前とは別人のよう」

「お褒めに預かり光栄です」

セラフィーナは優雅に一礼した。周囲の貴婦人たちも、彼女を称賛する声を惜しまない。

「薬草茶、愛用させていただいています」
「あの傷薬のおかげで、息子の怪我がすぐに治りました」
「学術発表のお話、伺いましたわ。素晴らしい」

次々と声をかけられる。かつて彼女を哀れんでいた人々が、今は敬意を込めた視線を向けている。

ホールの片隅で、アレクシス・ヴァンダイン公爵が立っていた。彼の隣には、妻のエリーゼがいる。豪華なドレスに身を包んでいるが、その表情は不機嫌そうだ。

アレクシスの視線が、セラフィーナを捉えた。

彼女は気づいたが、特に反応することなく、会話を続けた。もう彼に何の感情も抱いていない。ただの過去の一部でしかなかった。

「セラフィーナ様」

エドウィンが現れた。彼は学者らしい控えめな礼服を着ているが、その知的な雰囲気が魅力的だった。

「次のダンスをお願いできますか?」

「喜んで」

二人が舞踏室に向かうと、周囲がざわめいた。

「あれは王立薬学院のグレイ氏では?」
「セラフィーナ様と親しいのね」
「お似合いだわ」

音楽が始まり、二人は踊り始めた。セラフィーナの動きは優雅で、以前の弱々しさは微塵もない。

「皆さんの視線が集まっていますよ」

エドウィンが小声で言った。

「気にしません。踊ることに集中します」

「その姿勢、素敵です」

曲が終わり、二人は軽く息を整えた。

「お飲み物を」

エドウィンがシャンパンを取りに向かった間、セラフィーナは一人でテラスに出た。夜風が心地よい。

「……セラフィーナ」

背後から声がした。振り返ると、アレクシスが立っていた。

「公爵様」

セラフィーナは冷静に挨拶した。

「お元気そうで」

「ありがとうございます」

沈黙が流れた。アレクシスは何か言いたげだったが、言葉が出てこないようだった。

「私は……」

彼が口を開きかけたとき、甲高い声が響いた。

「アレクシス! どこにいたの!」

エリーゼが険しい表情で現れた。セラフィーナを見ると、さらに顔を歪める。

「あら、あなたは……」

「失礼いたします」

セラフィーナは二人に一礼すると、テラスを離れた。エドウィンがシャンパンを持って待っていた。

「大丈夫でしたか?」

「ええ、何でもありません」

本当に何でもなかった。もう心は揺れない。

ホールでは、公爵夫妻の様子が話題になっていた。エリーゼの不機嫌な表情、アレクシスの疲れた様子。社交界の鋭い視線は、すべてを見逃さない。

「公爵夫人、最近体調がすぐれないそうよ」
「それなのに夜会には毎回出席されるわね」
「見栄を張っているのでは?」

囁きが広がっていく。

一方、セラフィーナとエドウィンの評判は高まる一方だった。

「学者と令嬢。知的なカップルだわ」
「セラフィーナ様は本当に立派になられた」
「婚約破棄されて良かったのかもしれない」

皮肉なものだと、セラフィーナは思った。かつて自分を哀れんだ人々が、今は元婚約者を哀れんでいる。

でも、それは自分が望んだことではない。ただ、自分の人生を生きただけだ。

夜会が終わり、馬車で帰路につく。

「今日は疲れたでしょう」

エドウィンが気遣ってくれた。

「いいえ、楽しかったです」

「公爵と話していたようですが……」

「過去のことです。もう何も感じません」

「そうですか」

エドウィンは安堵したように微笑んだ。

馬車の窓から、月が見える。満月の夜。

かつて婚約破棄された日も、こんな月だった。

でも今は違う。自分の足で立ち、自分の道を歩いている。

それで十分だった。
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