虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました

たくわん

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初夏の薬草園は、色とりどりの花々で彩られていた。

セラフィーナは麦わら帽子を被り、新しい薬草の苗を植えていた。土の感触が心地よい。前世では決して味わえなかった、自然との触れ合いだった。

「セラフィーナ様」

エドウィンが呼びかけた。彼も軽装で、研究用の道具を持っている。

「この薬草の成長記録を取りたいのですが」

「もちろんです。一緒に見ましょう」

二人は並んで、薬草の観察を始めた。エドウィンが丁寧にメモを取り、セラフィーナが説明を加える。息の合った共同作業だった。

「それにしても」

エドウィンが顔を上げた。

「あなたの知識は本当に深い。どこで学ばれたのですか」

「独学です」

セラフィーナは微笑んだ。前世の記憶のことは、もちろん言えない。

「書物を読み、実践し、失敗から学びました」

「その探求心が、素晴らしい」

エドウィンの眼差しには、尊敬の念が宿っていた。

二人は午前中いっぱい、薬草園で過ごした。昼になると、東屋で休憩することにした。

侍女が運んできた軽食を前に、セラフィーナはお茶を淹れた。もちろん、自家製の薬草茶だ。

「この爽やかな香り……」

エドウィンが目を閉じて深呼吸した。

「気分が落ち着きますね」

「レモンバームとミントのブレンドです。集中力を高める効果もあります」

「なるほど」

静かな時間が流れた。庭園の木々がそよ風に揺れ、鳥のさえずりが聞こえる。

「セラフィーナ様」

エドウィンが真剣な表情で言った。

「お話ししたいことがあります」

「はい」

セラフィーナはお茶を置いた。彼の表情から、ただの雑談ではないと感じた。

「私は……あなたを尊敬しています」

「ありがとうございます」

「いえ、それだけではないのです」

エドウィンは深呼吸した。

「あなたと共に研究し、語り合う時間は、私にとってかけがえのないものです」

「私もです」

「セラフィーナ様」

彼は真っ直ぐに彼女を見つめた。

「私はあなたを、一人の女性として……愛しています」

セラフィーナは息を呑んだ。予想していたが、改めて言葉にされると、胸が高鳴る。

「私は公爵でも王子でもない、ただの学者です」

エドウィンは続けた。

「しかし、あなたと共に歩みたい。研究でも、人生でも」

「エドウィン様……」

「お答えは急ぎません」

彼は優しく微笑んだ。

「ただ、私の想いを知っていただきたかった。そして、傍らで研究を続けることを許していただけませんか」

セラフィーナは心が温かくなるのを感じた。

エドウィンは誠実で、知的で、何より彼女を一人の人間として尊重してくれる。前世でも、今世でも、こんな人に出会ったことはなかった。

「エドウィン様」

セラフィーナは彼の手を取った。

「私も……あなたと共に歩みたいと思っています」

エドウィンの目が輝いた。

「本当ですか」

「はい。あなたは私を、病弱な令嬢としてではなく、一人の研究者として見てくださった」

「当然です。あなたは素晴らしい研究者ですから」

「そして、あなたは私の心も理解してくださる」

二人の手が、しっかりと結ばれた。

「ありがとうございます」

エドウィンは感激で声を震わせた。

「私はあなたを幸せにします。必ず」

「私も、あなたと共に幸せになります」

風が吹いて、薬草の香りが東屋に漂ってきた。祝福のようだった。

その後、二人は改めて今後のことを話し合った。

「婚約の発表は、いつ頃がよろしいでしょうか」

「父に相談してからにしましょう。でも、そう遠くないうちに」

「分かりました」

エドウィンは嬉しそうに微笑んだ。

「共同研究も、これからさらに発展させたいですね」

「そうですね。次は鎮痛剤の改良を考えています」

「素晴らしい。私も力になります」

仕事の話をしている時の二人は、本当に生き生きしていた。共通の情熱を持つ者同士の幸せがあった。

夕方、エドウィンが帰る時、セラフィーナは門まで見送った。

「また明日」

「はい、また明日」

彼の背中を見送りながら、セラフィーナは深く息をついた。

幸せだった。

心から、幸せだった。

かつて婚約破棄され、絶望の淵にいた自分が、今はこんなにも幸せを感じている。

人生は不思議だと、改めて思った。

自室に戻ると、侍女のアニーが待っていた。

「令嬢様、お顔が輝いています」

「そうかしら」

「はい。とても幸せそうです」

セラフィーナは微笑んだ。

「幸せよ、アニー。本当に」

「良かったです」

アニーは心から喜んでいた。彼女は、セラフィーナの病弱だった頃から仕えている。その変化を、誰よりも近くで見てきた。

夜、ベッドに横になりながら、セラフィーナは天井を見つめた。

エドウィンとの未来を想像する。共に研究し、共に笑い、共に歩む日々。

それは、前世では決して得られなかった幸せだった。

この世界に転生して良かったと、初めて心から思った。
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