虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました

たくわん

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それから五年が過ぎた。

リオンとエリアは八歳になり、家庭教師のもとで勉強を始めていた。二人とも優秀で、特にリオンは薬草学に、エリアは芸術に才能を見せていた。

セラフィーナの事業は、王国最大の医薬品メーカーへと成長していた。新型鎮痛剤は全国の病院で使われ、多くの命を救っている。さらに、様々な新薬の開発も進められていた。

春の朝、セラフィーナは薬草園を散歩していた。八年前に再生を始めたこの場所は、今や王国随一の薬草園として知られている。

「ママ!」

リオンが走ってきた。手には薬草の図鑑を持っている。

「この薬草、見つけたよ!」

少年は興奮気味に報告した。図鑑で読んだ珍しい薬草を、薬草園の隅で発見したのだ。

「本当ね、よく見つけたわ」

セラフィーナは息子の頭を撫でた。リオンは母親の研究を熱心に観察し、自分でも勉強している。

「将来は薬草学者になりたい」

リオンが真剣な顔で言った。

「それは素敵ね。でも、焦らなくていいのよ」
「でも、ママみたいに多くの人を助けたいんだ」

セラフィーナは胸が熱くなった。息子が自分の仕事に誇りを持ってくれている。

「ママー!」

エリアが呼ぶ声がした。娘は屋敷の方から走ってきた。手には絵を持っている。

「見て、薬草園を描いたの」

八歳とは思えない繊細なタッチで、薬草園の風景が描かれていた。色彩豊かで、生命力に満ちた絵だ。

「素晴らしいわ、エリア」

セラフィーナは娘を抱きしめた。エリアの芸術的才能は、すでに評判になっていた。

午後、セラフィーナはエドウィンと研究室で新しいプロジェクトについて議論していた。

「この抗炎症剤、臨床試験の結果が良好です」

エドウィンが報告書を見せた。

「それは良かったわ。これで関節炎の患者さんたちを助けられる」

二人の研究は、常に患者のことを第一に考えていた。利益ではなく、人々の健康のために。

「次はアレルギー治療薬に取り組みたいと思っています」

エドウィンが提案した。

「いいわね。アレルギーで苦しんでいる人は多いもの」

二人は夢中で研究計画を立て始めた。結婚から八年経っても、この情熱は変わらない。

夕方、家族全員で食卓を囲んだ。これが日課になっていた。どんなに忙しくても、夕食は家族で取る。

「今日学校で何があった?」

エドウィンが子供たちに尋ねた。

「数学の問題、全部解けたよ!」

リオンが誇らしげに報告した。

「先生が絵を褒めてくれた」

エリアも嬉しそうに言った。

「二人とも頑張っているのね」

セラフィーナは微笑んだ。健康で、明るく、好奇心旺盛な子供たち。これ以上何を望めるだろう。

食後、ロデリック侯爵が訪ねてきた。最近は孫たちとの時間を大切にしている。

「リオン、エリア、おじいちゃんと庭を散歩しよう」
「やったー!」

子供たちは喜んで祖父についていった。

セラフィーナとエドウィンは二人きりになった。

「父上、本当に孫たちを可愛がってくださるわ」

セラフィーナが言った。

「当然です。侯爵にとって、孫は宝物ですから」

エドウィンが微笑んだ。

その夜、セラフィーナは書斎で一人、過去を振り返っていた。婚約破棄から八年。あの日から、人生は激変した。

壁には、様々な表彰状が飾られている。王国医学勲章、学術院賞、慈善事業賞。すべてセラフィーナとエドウィンの業績を讃えるものだ。

でも、一番大切なのは賞ではない。家族の幸せ、研究の成果、そして多くの人々を助けられたこと。

「考え事ですか?」

エドウィンが入ってきた。

「ちょっと昔のことを思い出していたの」
「婚約破棄のことですか?」
「ええ」

セラフィーナは微笑んだ。

「今となっては、あれは祝福だったと思う」
「どういう意味ですか?」
「アレクシスと結婚していたら、今の幸せはなかった。あなたと出会えなかったし、リオンとエリアも生まれなかった」

エドウィンはセラフィーナの肩を抱いた。

「運命は不思議なものですね」
「本当に」

二人は窓の外を見た。月明かりに照らされた薬草園が、静かに佇んでいる。

翌朝、セラフィーナは慈善診療所を訪れた。彼女が設立した無料診療所は、今では王都に三箇所ある。

「先生!」

貧しい身なりの母親が、幼い娘を連れて駆け寄ってきた。

「この子の熱が下がりました。先生のお薬のおかげです」
「それは良かったわ」

セラフィーナは少女を診察した。確かに回復している。

「もう大丈夫よ。でも、あと二日は薬を飲み続けてね」
「はい!」

少女が元気に答えた。

母親は涙を流して感謝した。

「先生がいなければ、この子は...」
「大丈夫よ。それが私の仕事だから」

セラフィーナは母親の手を握った。

診療所を後にする時、セラフィーナは深い満足感を覚えていた。お金では買えない、心の充足。これが自分の求めていたものだ。

午後、セラフィーナは王立薬学院で講義をした。次世代の研究者たちを育てることも、重要な仕事だ。

「薬草学は、人々の幸せのためにあります」

セラフィーナは学生たちに語りかけた。

「利益ではなく、患者のことを第一に考えてください」

学生たちは真剣な表情で聞いている。

講義の後、若い女性研究者が質問に来た。

「先生、私も先生のように、多くの人を助けたいです。でも...」
「でも?」
「女性研究者として認められるのは難しいと言われました」

セラフィーナは微笑んだ。

「私も同じことを言われたわ。でも、実力を示せば必ず認められる」
「本当ですか?」
「ええ。性別ではなく、あなたの研究成果が評価されるの」

女性研究者の目に希望の光が宿った。

「頑張ります!」
「応援しているわ」

夕方、家に戻ると、リオンとエリアが薬草園で遊んでいた。二人とも泥だらけだが、楽しそうに笑っている。

「ただいま」

セラフィーナが声をかけると、二人が駆け寄ってきた。

「ママ、おかえり!」

泥だらけの手で抱きついてくる。セラフィーナは笑って二人を抱きしめた。

「お風呂に入りましょうね」
「はーい!」

その夜、家族全員で夕食を取った後、セラフィーナは薬草園を一人で散歩した。

星空の下、花々が静かに咲いている。八年前、ここから始まった人生の再建。今、それは完成している。

「復讐など必要なかった」

セラフィーナは静かに呟いた。

「ただ自分らしく生きること。それが最高の幸福だった」

遠くで、屋敷の窓々に明かりが灯っている。あそこに、愛する家族がいる。夫、子供たち、父。

そして明日も、研究が待っている。助けを求める患者たちが待っている。育てるべき次世代の研究者たちが待っている。

セラフィーナの人生は、まだまだ続く。でも今、この瞬間、彼女は完全に満たされていた。

健康な身体、愛する家族、意義ある仕事。かつて病弱で、婚約破棄された令嬢は、今や王国で最も尊敬される女性の一人になっていた。

でも、そんな地位や名声よりも大切なのは、心の平穏だ。毎日を幸せに生きること。愛する人たちと共にいること。

薬草園に優しい風が吹いた。花々が揺れ、甘い香りが漂う。

セラフィーナは深呼吸をして、屋敷に戻った。家族が待っている。明日が待っている。

希望に満ちた未来が、待っている。
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