35 / 36
最終話 ど近眼魔女と魔法使い
しおりを挟む
……ねぇ、コハク。あなたに話したいことがたくさんあるのよ、聞いてくれる?
特にルルーシェラと出会ってからは毎日が目まぐるしかったわ。でも、そのおかげでグリフォンを目覚めさせることが出来たんだと思うの。……そうね、もちろん大根も大活躍してくれたわ。
ふふっ、それからどうなったと思う?実はグリフォンが姿を現してからがまた大変だったのよ。だって周りの兵士たちから見たら、巨大な岩石が突然光って消えちゃったんだもの。そりゃあ驚くわよね。それでね、兵士たちが呆然としている隙をついてその場から逃げ出せたし……ルルーシェラの怪我も見た目より酷くなくて一安心だったの。いえ、酷く無かったというか……すでに塞がっていたというか……まぁ、無事だったんだからどっちでもいいわよね。
え、ルルーシェラ?もちろんルルーシェラは大根を連れて自分の国へ帰っていったわ。国に残してきた双子のお姉さんを救うんだって張り切っていたけど、きっと今のあの子なら全部やり遂げる気がするのよ。でも……もしも今後ルルーシェラが困っていることがあったら絶対に助けに行くって決めたの。だって私、あの子の師匠だもの。……え、その時は一緒に行ってくれるの?ふふっ、ありがとう!
うん、わかってる。私も同じ気持ちよ。もう二度とコハクと離れたりしない。コハクは、私にとって大切で特別な人だって……ちゃんと、気付いたから────えーと、だから……その、コハク?
「……そ、そろそろ離して?」
私は今の状況に戸惑いながらそっと視線を上にあげた。さっきからずっと、なんとか冷静を保とうと思考を巡らせて話し続けていたのだが……どうしても全身に感じるぬくもりが私の意識を引っ張ってしまう。
そして、私を正面から抱き締めて離さないこの手の持ち主が優しく笑みを浮かべた。その目には涙の跡が残っていて、光を反射してキラリと輝く度に私の心臓が大きく跳ねる。
「やっと、あなたを抱き締められるようになったのに……?それに、昔はアリア様の方がぼくを離してくれませんでしたよ?」
「そ、それは!コハクがまだ小さかったからで……。だって今は、私より大きくなっちゃったったから────」
視線が重なると、ずっと見たかった濃い蜂蜜色の瞳に私の顔がうつった。昔と変わらない瞳のはずなのに、自分の気持ちに気付いてからは胸の高鳴りが止まらなくなってしまうなんて考えもしなかった。どうしてこんな事になったのか……私は心を落ち着かせようと、さっきまでの出来事を思い出していた。
***
あれから、私はグリフォンを連れてシロと共に魔女の森へ帰ってきた。そして仮死状態のまま眠るコハクの傍にグリフォンを近づけた途端、グリフォンが大興奮してしまったのだ。
グリフォンは『この魔力は────ボクの……ボクの会いたかった“誰か”だぁぁぁぁぁ!!』と叫びながら、止める暇も無くコハクの顔面に突撃したのである。
なんとも言い表しようのない衝撃音が森に響いた。まさかコハクにめり込んだのではと心配するほどの音に、慌ててグリフォンを引き剥がそうとした瞬間……コハクを包んでいた魔力の膜が弾け飛び、コハクが目を覚ましたのだが……。
「────アリア様……」
「コ……ハク…………その姿は」
なんと目覚めたコハクの体が眩く光ったかと思うと、次の瞬間にはコハクは大人の姿へと成長していたのだ。
「……ぼく、夢の中でずっとアリア様の声を聞いていました……。それに森の魔女様の声も……。ぼくが目覚めた時に正しく力を使えるようにと教えてくださって────ああ、そうだ……ぼくのせいで魔女様の命が……」
そして、コハクの瞳から一粒の涙が溢れた。
「魔女様がおっしゃっていました。ぼくは“魔法使い”という存在で、力の使い方を覚えなさいと……。でも、そうすればずっとアリア様と一緒にいられるからって……」
コハクの腕が伸びてきて、その胸に包み込むように私を抱き締めてきた。体温と鼓動を感じて私も思わず涙が滲んでしまう。
「アリア様、ぼくはもう二度とあなたを離しません────」
コハクの心臓の音が早鐘を打つように鳴り響き、私は嬉しくてその胸に顔を埋めた。
「……ねぇ、コハク。あなたに話したいことがたくさんあるのよ、聞いてくれる?」
コハクが急に成長してしまった事には驚いし、もう子供の頃のコハクに会えないのは少し寂しい。でもなによりもコハクがこうして生きていることが嬉しくて……私にとってコハクがどれだけ大切な存在なのかを改めて思い知ったのだった。
ただ、話している間にだんだんと今の状況が恥ずかしくなってきたのである。だって、これまでは私の腕の中にすっぽりと収まっていたコハクが逆に私を包みこんでいるのだ。急成長したせいかコハクの着ていた服は胸元がはだけていて、その素肌に私はぴったりとくっついていることに急に気づいてしまった。
……もうコハクは男の人なんだ。
そしてそのたくましくなった腕に力が込められてさらに密着すると、なんだか目眩がしそうになったのである。
しかし、その恥ずかしさを誤魔化すように離してくれるよう懇願してもコハクは離してくれない。このままでは私の心臓が保たない気がしてきた時、コハクが少しだけ手の力を緩めて私の名前を呼んだ。
「コハク……?」
「アリア様……ぼくはあなたを愛しています」
もはや、その意味がわからないわけじゃない。
真っ直ぐにこちらを見つめる濃い蜂蜜色の瞳に再びうつった私の顔は、眼鏡をしていてもわかるくらいに真っ赤になっていたのだった。
「私も────」
そして私の眼鏡の隙間から涙が溢れるのを見たシロが、とっさに羽でグリフォンの顔を隠したらしいのだが……私もコハクもそれを目にすることはなかった。
この世界には、魔女の森と呼ばれる不思議な森がある。願いを持つ者がその森に迷い込むと分厚い眼鏡で顔を隠した魔女が現れてその願いを叶えてくれるのだとか……。
でも気を付けて。魔女の隣には魔女を守護する魔法使いと白い鳥の姿をした聖霊がぴったりと寄り添っているそうだ。もしも魔女の眼鏡を奪って顔を見ようとしたり、さらに害そうとなんてすればどうなるかわからない。
だってその魔女は、不思議な森と聖霊たち……それに魔法使いに愛されたど近眼魔女なのだから。
終わり
特にルルーシェラと出会ってからは毎日が目まぐるしかったわ。でも、そのおかげでグリフォンを目覚めさせることが出来たんだと思うの。……そうね、もちろん大根も大活躍してくれたわ。
ふふっ、それからどうなったと思う?実はグリフォンが姿を現してからがまた大変だったのよ。だって周りの兵士たちから見たら、巨大な岩石が突然光って消えちゃったんだもの。そりゃあ驚くわよね。それでね、兵士たちが呆然としている隙をついてその場から逃げ出せたし……ルルーシェラの怪我も見た目より酷くなくて一安心だったの。いえ、酷く無かったというか……すでに塞がっていたというか……まぁ、無事だったんだからどっちでもいいわよね。
え、ルルーシェラ?もちろんルルーシェラは大根を連れて自分の国へ帰っていったわ。国に残してきた双子のお姉さんを救うんだって張り切っていたけど、きっと今のあの子なら全部やり遂げる気がするのよ。でも……もしも今後ルルーシェラが困っていることがあったら絶対に助けに行くって決めたの。だって私、あの子の師匠だもの。……え、その時は一緒に行ってくれるの?ふふっ、ありがとう!
うん、わかってる。私も同じ気持ちよ。もう二度とコハクと離れたりしない。コハクは、私にとって大切で特別な人だって……ちゃんと、気付いたから────えーと、だから……その、コハク?
「……そ、そろそろ離して?」
私は今の状況に戸惑いながらそっと視線を上にあげた。さっきからずっと、なんとか冷静を保とうと思考を巡らせて話し続けていたのだが……どうしても全身に感じるぬくもりが私の意識を引っ張ってしまう。
そして、私を正面から抱き締めて離さないこの手の持ち主が優しく笑みを浮かべた。その目には涙の跡が残っていて、光を反射してキラリと輝く度に私の心臓が大きく跳ねる。
「やっと、あなたを抱き締められるようになったのに……?それに、昔はアリア様の方がぼくを離してくれませんでしたよ?」
「そ、それは!コハクがまだ小さかったからで……。だって今は、私より大きくなっちゃったったから────」
視線が重なると、ずっと見たかった濃い蜂蜜色の瞳に私の顔がうつった。昔と変わらない瞳のはずなのに、自分の気持ちに気付いてからは胸の高鳴りが止まらなくなってしまうなんて考えもしなかった。どうしてこんな事になったのか……私は心を落ち着かせようと、さっきまでの出来事を思い出していた。
***
あれから、私はグリフォンを連れてシロと共に魔女の森へ帰ってきた。そして仮死状態のまま眠るコハクの傍にグリフォンを近づけた途端、グリフォンが大興奮してしまったのだ。
グリフォンは『この魔力は────ボクの……ボクの会いたかった“誰か”だぁぁぁぁぁ!!』と叫びながら、止める暇も無くコハクの顔面に突撃したのである。
なんとも言い表しようのない衝撃音が森に響いた。まさかコハクにめり込んだのではと心配するほどの音に、慌ててグリフォンを引き剥がそうとした瞬間……コハクを包んでいた魔力の膜が弾け飛び、コハクが目を覚ましたのだが……。
「────アリア様……」
「コ……ハク…………その姿は」
なんと目覚めたコハクの体が眩く光ったかと思うと、次の瞬間にはコハクは大人の姿へと成長していたのだ。
「……ぼく、夢の中でずっとアリア様の声を聞いていました……。それに森の魔女様の声も……。ぼくが目覚めた時に正しく力を使えるようにと教えてくださって────ああ、そうだ……ぼくのせいで魔女様の命が……」
そして、コハクの瞳から一粒の涙が溢れた。
「魔女様がおっしゃっていました。ぼくは“魔法使い”という存在で、力の使い方を覚えなさいと……。でも、そうすればずっとアリア様と一緒にいられるからって……」
コハクの腕が伸びてきて、その胸に包み込むように私を抱き締めてきた。体温と鼓動を感じて私も思わず涙が滲んでしまう。
「アリア様、ぼくはもう二度とあなたを離しません────」
コハクの心臓の音が早鐘を打つように鳴り響き、私は嬉しくてその胸に顔を埋めた。
「……ねぇ、コハク。あなたに話したいことがたくさんあるのよ、聞いてくれる?」
コハクが急に成長してしまった事には驚いし、もう子供の頃のコハクに会えないのは少し寂しい。でもなによりもコハクがこうして生きていることが嬉しくて……私にとってコハクがどれだけ大切な存在なのかを改めて思い知ったのだった。
ただ、話している間にだんだんと今の状況が恥ずかしくなってきたのである。だって、これまでは私の腕の中にすっぽりと収まっていたコハクが逆に私を包みこんでいるのだ。急成長したせいかコハクの着ていた服は胸元がはだけていて、その素肌に私はぴったりとくっついていることに急に気づいてしまった。
……もうコハクは男の人なんだ。
そしてそのたくましくなった腕に力が込められてさらに密着すると、なんだか目眩がしそうになったのである。
しかし、その恥ずかしさを誤魔化すように離してくれるよう懇願してもコハクは離してくれない。このままでは私の心臓が保たない気がしてきた時、コハクが少しだけ手の力を緩めて私の名前を呼んだ。
「コハク……?」
「アリア様……ぼくはあなたを愛しています」
もはや、その意味がわからないわけじゃない。
真っ直ぐにこちらを見つめる濃い蜂蜜色の瞳に再びうつった私の顔は、眼鏡をしていてもわかるくらいに真っ赤になっていたのだった。
「私も────」
そして私の眼鏡の隙間から涙が溢れるのを見たシロが、とっさに羽でグリフォンの顔を隠したらしいのだが……私もコハクもそれを目にすることはなかった。
この世界には、魔女の森と呼ばれる不思議な森がある。願いを持つ者がその森に迷い込むと分厚い眼鏡で顔を隠した魔女が現れてその願いを叶えてくれるのだとか……。
でも気を付けて。魔女の隣には魔女を守護する魔法使いと白い鳥の姿をした聖霊がぴったりと寄り添っているそうだ。もしも魔女の眼鏡を奪って顔を見ようとしたり、さらに害そうとなんてすればどうなるかわからない。
だってその魔女は、不思議な森と聖霊たち……それに魔法使いに愛されたど近眼魔女なのだから。
終わり
38
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢発溺愛幼女着
みおな
ファンタジー
「違います!わたくしは、フローラさんをいじめてなどいません!」
わたくしの声がホールに響いたけれど、誰もわたくしに手を差し伸べて下さることはなかった。
響いたのは、婚約者である王太子殿下の冷たい声。
わたくしに差し伸べられたのは、騎士団長のご子息がわたくしを強く床に押し付ける腕。
冷ややかな周囲のご令嬢ご令息の冷笑。
どうして。
誰もわたくしを信じてくれないまま、わたくしは冷たい牢の中で命を落とした。
もう何も奪わせない。私が悪役令嬢になったとしても。
パリパリかぷちーの
恋愛
侯爵令嬢エレノアは、長年の婚約者であった第一王子エドワードから、公衆の面前で突然婚約破棄を言い渡される。エドワードが選んだのは、エレノアが妹のように可愛がっていた隣国の王女リリアンだった。
全てを失い絶望したエレノアは、この婚約破棄によって実家であるヴァルガス侯爵家までもが王家から冷遇され、窮地に立たされたことを知る。
悪役令嬢に転生したので地味令嬢に変装したら、婚約者が離れてくれないのですが。
槙村まき
恋愛
スマホ向け乙女ゲーム『時戻りの少女~ささやかな日々をあなたと共に~』の悪役令嬢、リシェリア・オゼリエに転生した主人公は、処刑される未来を変えるために地味に地味で地味な令嬢に変装して生きていくことを決意した。
それなのに学園に入学しても婚約者である王太子ルーカスは付きまとってくるし、ゲームのヒロインからはなぜか「私の代わりにヒロインになって!」とお願いされるし……。
挙句の果てには、ある日隠れていた図書室で、ルーカスに唇を奪われてしまう。
そんな感じで悪役令嬢がヤンデレ気味な王子から逃げようとしながらも、ヒロインと共に攻略対象者たちを助ける? 話になるはず……!
第二章以降は、11時と23時に更新予定です。
他サイトにも掲載しています。
よろしくお願いします。
25.4.25 HOTランキング(女性向け)四位、ありがとうございます!
誰からも愛されない悪役令嬢に転生したので、自由気ままに生きていきたいと思います。
木山楽斗
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢であるエルファリナに転生した私は、彼女のその境遇に対して深い悲しみを覚えていた。
彼女は、家族からも婚約者からも愛されていない。それどころか、その存在を疎まれているのだ。
こんな環境なら歪んでも仕方ない。そう思う程に、彼女の境遇は悲惨だったのである。
だが、彼女のように歪んでしまえば、ゲームと同じように罪を暴かれて牢屋に行くだけだ。
そのため、私は心を強く持つしかなかった。悲惨な結末を迎えないためにも、どんなに不当な扱いをされても、耐え抜くしかなかったのである。
そんな私に、解放される日がやって来た。
それは、ゲームの始まりである魔法学園入学の日だ。
全寮制の学園には、歪な家族は存在しない。
私は、自由を得たのである。
その自由を謳歌しながら、私は思っていた。
悲惨な境遇から必ず抜け出し、自由気ままに生きるのだと。
悪役令嬢がヒロインからのハラスメントにビンタをぶちかますまで。
倉桐ぱきぽ
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢に転生した私は、ざまぁ回避のため、まじめに生きていた。
でも、ヒロイン(転生者)がひどい!
彼女の嘘を信じた推しから嫌われるし。無実の罪を着せられるし。そのうえ「ちゃんと悪役やりなさい」⁉
シナリオ通りに進めたいヒロインからのハラスメントは、もう、うんざり!
私は私の望むままに生きます!!
本編+番外編3作で、40000文字くらいです。
⚠途中、視点が変わります。サブタイトルをご覧下さい。
婚約破棄で、おひとり様になれるはずだったのに!?
パリパリかぷちーの
恋愛
主人公ルシアン・ヴァイオレットは、「悪役令嬢」として振る舞う孤独愛好家の公爵令嬢。念願だった第一王子アランとの婚約破棄を言い渡されると、内心では歓喜し、大都会の喧騒から逃れて森の奥の廃墟同然の別荘へと引きこもる。ルシアンの目的は、誰にも邪魔されない至高の静寂ライフを満喫することだった。
しかし、彼女の理想郷にはすでに先客がいた。それは、無口で無愛想だがハイスペックな謎の男、キース。実は彼は、王国の裏社会を統べる『影の英雄』と呼ばれる辺境伯であり、ルシアンの孤高の姿に心奪われた重度の隠れファンだった。
ヒロインだと言われましたが、人違いです!
みおな
恋愛
目が覚めたら、そこは乙女ゲームの世界でした。
って、ベタすぎなので勘弁してください。
しかも悪役令嬢にざまあされる運命のヒロインとかって、冗談じゃありません。
私はヒロインでも悪役令嬢でもありません。ですから、関わらないで下さい。
断罪中、味方が多すぎて王子が孤立している件について
夏乃みのり
恋愛
バーンスタイン伯爵家の令嬢ラミリアは、魔力も剣の才能もない「ごく普通」の地味な女性。
ある日のパーティーで、婚約者であるジェラルド第二王子から「地味で無能で嫉妬深い」と罵られ、身に覚えのない罪で婚約破棄を突きつけられてしまう。
しかし、断罪劇は予想外の展開へ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる