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13話
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ローレンの後ろ姿を見送ってからジャルさんは「行くぞ」と言ってさっさと歩きだしてしまう。
「あのっ、俺千裕っていいます!よろしくお願いします!」
「俺はよろしくするつもりはない」
慌てて後を追って自己紹介するも、そっけない返事だ。
この人ってもしかして....。
「もしかして人族嫌いですか?」
「....ああ。嫌いだね。仕事じゃなきゃ話もしたくない」
やっぱり!
「.....おい、なんで嬉しそうなんだよ」
「あ、いや、嬉しいっていうか、やっと会えたなって感じで...」
「は?」
「人族が嫌いな方にまだ会ったことなかったんです。たぶんローレンもヴィスも俺に会わせないようにしていたんじゃないかと....」
確信はなかったけど紹介される人みんなが偏見のない人だと意図的なものを感じでしまう。
「ふーん。ただの馬鹿ってわけでもなさそうだな」
....これは褒められてるのか?なんにせよ無視はされないので口は悪くても嬉しい。
「あの、参考までに人族のどこが嫌いか教えてくれませんか?」
「断る。話もしたくないと言っただろ」
そう言いながらもちゃんと答えてはくれるんだよね。根はいい人なんだろうな~。
「じゃあ俺が勝手に喋るんで気が向いたら答えてくれると嬉しいです」
「......ふん。勝手にしろ」
やっぱりいい人!
「ジャルさんはおいくつなんですか?俺は22なんですけど」
「は!?年上!?.....人族は平気で嘘をつくんだな」
思わず反応してしまったようだが後半は取り繕ったかのように憎まれ口をたたく。
ふむふむ。年下か。
「嘘じゃないですよ?この顔、こっちでは幼く見えるみたいでみなさんに驚かれるんですけど」
「.........」
こっちの人はほんとに年齢不詳だよなー。
ジャルさんも年上にも年下にも見えなくはない。
「ジャルさんはなんの獣人なんですか?」
「.........」
「ジャルさんも親に『いい子にしないと人族が来て奴隷にされちゃうよ!』って叱られたことあったんですか?」
「.........」
「けっこう親って酷いこと言いますよねー」
「.........」
「俺はよく『お化けに目ん玉抉られるよ!』とか言われてましたよ~」
「.........」
「今思うとアホらしって思いますけど子供のときは怖かったな~」
「.........お前、何考えてる」
また無視されるかと思いきやようやく反応があった。
「え?今ですか?ジャルさんが反応してくれる話題はなんだろう、って考えてます」
「.....やっぱただの馬鹿か?」
ひどい。
「何企んでるんだって聞いてるんだよ」
「別に何も企んでませんけど?」
「じゃあなんで取り入ろうとしてんだよ」
「えっ、取り入ろうとしてるつもりはないですよっ?ただ純粋に仲良く....」
「だから、それがおかしいだろ。メリットもないのにそんなこと」
「.....じゃあジャルさんはメリットがあるから友達になるんですか?」
「俺は違う!一緒にするな!」
「同じですよ。俺も同じです。フィレルさんに頼まれたのもありますけど、純粋に仲良くなりたいって思ってます。みなさん良い人なのでもっとよく知りたいんです」
「ふん!どうだか」
おー、見事な嫌いっぷりですな。
でもなぜか悲しいとかは思わなかった。
「俺」が嫌いというより、「人族」が嫌いだからかもしれない。
目的地に着くとジャルさんは仕事は終わったとばかりにさっさと行ってしまった。
まああの短時間で仲良くなれるとは思ってなかったけどさ。
扉の前で深呼吸をしてからノックをする。
「千裕です」
中から「入れ」と短い言葉が聞こえたので扉を開けた。
まず目に入ったのはリベルだ。
殺風景な部屋には大きめの机があるだけ。
リベルの執務室のようだ。
座っているのに圧がすごいんですけど。
気圧されないようにぎゅっと拳を握る。
「チヒロさん、ご足労頂いてしまって申し訳ありません」
あ、よかった。トリスさんいたんだ。
まだ2人きりだと緊張する。
気づかれないようにそっと息を吐いた。
「いえ。俺もお礼を言いたかったので」
「お礼?」
「はい。お2人には本当にお世話になってるので。ここ数日、お陰様でとても有意義な生活が送れています。本当にありがとうございます」
そう言って腰を折る。
よし!言えた!
心の引っかかりが取れた感じ。
顔を上げると2人ともぽかんとした表情をしている。
あれ?もしかして伝わってない?
「あの、なんで責任とか感じないでください。俺はもう十分感謝してますし、ここで生きていくって腹括ってます。そう思えたのもお2人のお陰ですから」
続けてそう言っても反応がない。
嘘ぉー...。なんか反応してぇ...?
俺そんなまずいこと言いました?
「あの....」
おずおずと話しかけるとようやく反応があった。
「あ、ああ。悪い。だけど、お人好しにもほどがないか?」
「....そうですよ。こちらはずっと恨まれる覚悟までしていたというのに....」
「お、大袈裟な....」
「あなたの人生を狂わせてしまったのですから。当然です」
「.....たしかに、そうですね。けど、それはお2人の所為ではなく、レムール国の所為ですから!むしろお2人が居なかったら俺とっくに死んでたと思います」
それに、と続ける。
「第二の人生だと思えばわくわくしないこともないんですよ?」
すると、リベルは盛大にため息をつきトリスさんは頭をかかえてしまった。
「どんな育ち方したらそんなこと言えるようになるんだよ....」
「救われたのは私たちの方ですね....」
「えーっと....?」
「いや.....」
リベルは椅子から立ち上がると机の前まで来た。
たったそれだけのことなのにまた反射的に身体が反応してしまう。
ただ、俺が怯えているのがわかっているのかリベルはそれ以上近づいて来ようとはしない。
しかもその場で片膝をつき、右手を左胸におく。
「ちょ、なにして....」
それは、敬意を表する礼式だ。
なぜ、それを俺に。
「あのっ、俺千裕っていいます!よろしくお願いします!」
「俺はよろしくするつもりはない」
慌てて後を追って自己紹介するも、そっけない返事だ。
この人ってもしかして....。
「もしかして人族嫌いですか?」
「....ああ。嫌いだね。仕事じゃなきゃ話もしたくない」
やっぱり!
「.....おい、なんで嬉しそうなんだよ」
「あ、いや、嬉しいっていうか、やっと会えたなって感じで...」
「は?」
「人族が嫌いな方にまだ会ったことなかったんです。たぶんローレンもヴィスも俺に会わせないようにしていたんじゃないかと....」
確信はなかったけど紹介される人みんなが偏見のない人だと意図的なものを感じでしまう。
「ふーん。ただの馬鹿ってわけでもなさそうだな」
....これは褒められてるのか?なんにせよ無視はされないので口は悪くても嬉しい。
「あの、参考までに人族のどこが嫌いか教えてくれませんか?」
「断る。話もしたくないと言っただろ」
そう言いながらもちゃんと答えてはくれるんだよね。根はいい人なんだろうな~。
「じゃあ俺が勝手に喋るんで気が向いたら答えてくれると嬉しいです」
「......ふん。勝手にしろ」
やっぱりいい人!
「ジャルさんはおいくつなんですか?俺は22なんですけど」
「は!?年上!?.....人族は平気で嘘をつくんだな」
思わず反応してしまったようだが後半は取り繕ったかのように憎まれ口をたたく。
ふむふむ。年下か。
「嘘じゃないですよ?この顔、こっちでは幼く見えるみたいでみなさんに驚かれるんですけど」
「.........」
こっちの人はほんとに年齢不詳だよなー。
ジャルさんも年上にも年下にも見えなくはない。
「ジャルさんはなんの獣人なんですか?」
「.........」
「ジャルさんも親に『いい子にしないと人族が来て奴隷にされちゃうよ!』って叱られたことあったんですか?」
「.........」
「けっこう親って酷いこと言いますよねー」
「.........」
「俺はよく『お化けに目ん玉抉られるよ!』とか言われてましたよ~」
「.........」
「今思うとアホらしって思いますけど子供のときは怖かったな~」
「.........お前、何考えてる」
また無視されるかと思いきやようやく反応があった。
「え?今ですか?ジャルさんが反応してくれる話題はなんだろう、って考えてます」
「.....やっぱただの馬鹿か?」
ひどい。
「何企んでるんだって聞いてるんだよ」
「別に何も企んでませんけど?」
「じゃあなんで取り入ろうとしてんだよ」
「えっ、取り入ろうとしてるつもりはないですよっ?ただ純粋に仲良く....」
「だから、それがおかしいだろ。メリットもないのにそんなこと」
「.....じゃあジャルさんはメリットがあるから友達になるんですか?」
「俺は違う!一緒にするな!」
「同じですよ。俺も同じです。フィレルさんに頼まれたのもありますけど、純粋に仲良くなりたいって思ってます。みなさん良い人なのでもっとよく知りたいんです」
「ふん!どうだか」
おー、見事な嫌いっぷりですな。
でもなぜか悲しいとかは思わなかった。
「俺」が嫌いというより、「人族」が嫌いだからかもしれない。
目的地に着くとジャルさんは仕事は終わったとばかりにさっさと行ってしまった。
まああの短時間で仲良くなれるとは思ってなかったけどさ。
扉の前で深呼吸をしてからノックをする。
「千裕です」
中から「入れ」と短い言葉が聞こえたので扉を開けた。
まず目に入ったのはリベルだ。
殺風景な部屋には大きめの机があるだけ。
リベルの執務室のようだ。
座っているのに圧がすごいんですけど。
気圧されないようにぎゅっと拳を握る。
「チヒロさん、ご足労頂いてしまって申し訳ありません」
あ、よかった。トリスさんいたんだ。
まだ2人きりだと緊張する。
気づかれないようにそっと息を吐いた。
「いえ。俺もお礼を言いたかったので」
「お礼?」
「はい。お2人には本当にお世話になってるので。ここ数日、お陰様でとても有意義な生活が送れています。本当にありがとうございます」
そう言って腰を折る。
よし!言えた!
心の引っかかりが取れた感じ。
顔を上げると2人ともぽかんとした表情をしている。
あれ?もしかして伝わってない?
「あの、なんで責任とか感じないでください。俺はもう十分感謝してますし、ここで生きていくって腹括ってます。そう思えたのもお2人のお陰ですから」
続けてそう言っても反応がない。
嘘ぉー...。なんか反応してぇ...?
俺そんなまずいこと言いました?
「あの....」
おずおずと話しかけるとようやく反応があった。
「あ、ああ。悪い。だけど、お人好しにもほどがないか?」
「....そうですよ。こちらはずっと恨まれる覚悟までしていたというのに....」
「お、大袈裟な....」
「あなたの人生を狂わせてしまったのですから。当然です」
「.....たしかに、そうですね。けど、それはお2人の所為ではなく、レムール国の所為ですから!むしろお2人が居なかったら俺とっくに死んでたと思います」
それに、と続ける。
「第二の人生だと思えばわくわくしないこともないんですよ?」
すると、リベルは盛大にため息をつきトリスさんは頭をかかえてしまった。
「どんな育ち方したらそんなこと言えるようになるんだよ....」
「救われたのは私たちの方ですね....」
「えーっと....?」
「いや.....」
リベルは椅子から立ち上がると机の前まで来た。
たったそれだけのことなのにまた反射的に身体が反応してしまう。
ただ、俺が怯えているのがわかっているのかリベルはそれ以上近づいて来ようとはしない。
しかもその場で片膝をつき、右手を左胸におく。
「ちょ、なにして....」
それは、敬意を表する礼式だ。
なぜ、それを俺に。
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