勇者になるのを断ったらなぜか敵国の騎士団長に溺愛されました

文字の大きさ
15 / 37

13話

しおりを挟む
ローレンの後ろ姿を見送ってからジャルさんは「行くぞ」と言ってさっさと歩きだしてしまう。

「あのっ、俺千裕っていいます!よろしくお願いします!」

「俺はよろしくするつもりはない」

慌てて後を追って自己紹介するも、そっけない返事だ。
この人ってもしかして....。

「もしかして人族嫌いですか?」

「....ああ。嫌いだね。仕事じゃなきゃ話もしたくない」

やっぱり!

「.....おい、なんで嬉しそうなんだよ」

「あ、いや、嬉しいっていうか、やっと会えたなって感じで...」

「は?」

「人族が嫌いな方にまだ会ったことなかったんです。たぶんローレンもヴィスも俺に会わせないようにしていたんじゃないかと....」

確信はなかったけど紹介される人みんなが偏見のない人だと意図的なものを感じでしまう。

「ふーん。ただの馬鹿ってわけでもなさそうだな」

....これは褒められてるのか?なんにせよ無視はされないので口は悪くても嬉しい。

「あの、参考までに人族のどこが嫌いか教えてくれませんか?」

「断る。話もしたくないと言っただろ」

そう言いながらもちゃんと答えてはくれるんだよね。根はいい人なんだろうな~。

「じゃあ俺が勝手に喋るんで気が向いたら答えてくれると嬉しいです」

「......ふん。勝手にしろ」

やっぱりいい人!

「ジャルさんはおいくつなんですか?俺は22なんですけど」

「は!?年上!?.....人族は平気で嘘をつくんだな」

思わず反応してしまったようだが後半は取り繕ったかのように憎まれ口をたたく。

ふむふむ。年下か。

「嘘じゃないですよ?この顔、こっちでは幼く見えるみたいでみなさんに驚かれるんですけど」

「.........」

こっちの人はほんとに年齢不詳だよなー。
ジャルさんも年上にも年下にも見えなくはない。

「ジャルさんはなんの獣人なんですか?」

「.........」

「ジャルさんも親に『いい子にしないと人族が来て奴隷にされちゃうよ!』って叱られたことあったんですか?」

「.........」

「けっこう親って酷いこと言いますよねー」

「.........」

「俺はよく『お化けに目ん玉抉られるよ!』とか言われてましたよ~」

「.........」

「今思うとアホらしって思いますけど子供のときは怖かったな~」

「.........お前、何考えてる」

また無視されるかと思いきやようやく反応があった。

「え?今ですか?ジャルさんが反応してくれる話題はなんだろう、って考えてます」

「.....やっぱただの馬鹿か?」

ひどい。

「何企んでるんだって聞いてるんだよ」

「別に何も企んでませんけど?」

「じゃあなんで取り入ろうとしてんだよ」

「えっ、取り入ろうとしてるつもりはないですよっ?ただ純粋に仲良く....」

「だから、それがおかしいだろ。メリットもないのにそんなこと」

「.....じゃあジャルさんはメリットがあるから友達になるんですか?」

「俺は違う!一緒にするな!」

「同じですよ。俺も同じです。フィレルさんに頼まれたのもありますけど、純粋に仲良くなりたいって思ってます。みなさん良い人なのでもっとよく知りたいんです」

「ふん!どうだか」

おー、見事な嫌いっぷりですな。
でもなぜか悲しいとかは思わなかった。
「俺」が嫌いというより、「人族」が嫌いだからかもしれない。


目的地に着くとジャルさんは仕事は終わったとばかりにさっさと行ってしまった。
まああの短時間で仲良くなれるとは思ってなかったけどさ。

扉の前で深呼吸をしてからノックをする。

「千裕です」

中から「入れ」と短い言葉が聞こえたので扉を開けた。
まず目に入ったのはリベルだ。
殺風景な部屋には大きめの机があるだけ。
リベルの執務室のようだ。

座っているのに圧がすごいんですけど。
気圧されないようにぎゅっと拳を握る。

「チヒロさん、ご足労頂いてしまって申し訳ありません」

あ、よかった。トリスさんいたんだ。
まだ2人きりだと緊張する。
気づかれないようにそっと息を吐いた。

「いえ。俺もお礼を言いたかったので」

「お礼?」

「はい。お2人には本当にお世話になってるので。ここ数日、お陰様でとても有意義な生活が送れています。本当にありがとうございます」

そう言って腰を折る。
よし!言えた!
心の引っかかりが取れた感じ。

顔を上げると2人ともぽかんとした表情をしている。

あれ?もしかして伝わってない?

「あの、なんで責任とか感じないでください。俺はもう十分感謝してますし、ここで生きていくって腹括ってます。そう思えたのもお2人のお陰ですから」

続けてそう言っても反応がない。
嘘ぉー...。なんか反応してぇ...?
俺そんなまずいこと言いました?

「あの....」

おずおずと話しかけるとようやく反応があった。

「あ、ああ。悪い。だけど、お人好しにもほどがないか?」

「....そうですよ。こちらはずっと恨まれる覚悟までしていたというのに....」

「お、大袈裟な....」

「あなたの人生を狂わせてしまったのですから。当然です」

「.....たしかに、そうですね。けど、それはお2人の所為ではなく、レムール国の所為ですから!むしろお2人が居なかったら俺とっくに死んでたと思います」

それに、と続ける。

「第二の人生だと思えばわくわくしないこともないんですよ?」

すると、リベルは盛大にため息をつきトリスさんは頭をかかえてしまった。

「どんな育ち方したらそんなこと言えるようになるんだよ....」

「救われたのは私たちの方ですね....」

「えーっと....?」

「いや.....」

リベルは椅子から立ち上がると机の前まで来た。
たったそれだけのことなのにまた反射的に身体が反応してしまう。
ただ、俺が怯えているのがわかっているのかリベルはそれ以上近づいて来ようとはしない。

しかもその場で片膝をつき、右手を左胸におく。

「ちょ、なにして....」

それは、敬意を表する礼式だ。
なぜ、それを俺に。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

2度目の異世界移転。あの時の少年がいい歳になっていて殺気立って睨んでくるんだけど。

ありま氷炎
BL
高校一年の時、道路陥没の事故に巻き込まれ、三日間記憶がない。 異世界転移した記憶はあるんだけど、夢だと思っていた。 二年後、どうやら異世界転移してしまったらしい。 しかもこれは二度目で、あれは夢ではなかったようだった。 再会した少年はすっかりいい歳になっていて、殺気立って睨んでくるんだけど。

異世界に転移したら運命の人の膝の上でした!

鳴海
BL
ある日、異世界に転移した天音(あまね)は、そこでハインツという名のカイネルシア帝国の皇帝に出会った。 この世界では異世界転移者は”界渡り人”と呼ばれる神からの預かり子で、界渡り人の幸せがこの国の繁栄に大きく関与すると言われている。 界渡り人に幸せになってもらいたいハインツのおかげで離宮に住むことになった天音は、日本にいた頃の何倍も贅沢な暮らしをさせてもらえることになった。 そんな天音がやっと異世界での生活に慣れた頃、なぜか危険な目に遭い始めて……。

【完】心配性は異世界で番認定された狼獣人に甘やかされる

おはぎ
BL
起きるとそこは見覚えのない場所。死んだ瞬間を思い出して呆然としている優人に、騎士らしき人たちが声を掛けてくる。何で頭に獣耳…?とポカンとしていると、その中の狼獣人のカイラが何故か優しくて、ぴったり身体をくっつけてくる。何でそんなに気遣ってくれるの?と分からない優人は大きな身体に怯えながら何とかこの別世界で生きていこうとする話。 知らない世界に来てあれこれ考えては心配してしまう優人と、優人が可愛くて仕方ないカイラが溺愛しながら支えて甘やかしていきます。

異世界で勇者をやったら執着系騎士に愛された

よしゆき
BL
平凡な高校生の受けが異世界の勇者に選ばれた。女神に美少年へと顔を変えられ勇者になった受けは、一緒に旅をする騎士に告白される。返事を先伸ばしにして受けは攻めの前から姿を消し、そのまま攻めの告白をうやむやにしようとする。

触手生物に溺愛されていたら、氷の騎士様(天然)の心を掴んでしまいました?

雪 いつき
BL
 仕事帰りにマンホールに落ちた森川 碧葉(もりかわ あおば)は、気付けばヌメヌメの触手生物に宙吊りにされていた。 「ちょっとそこのお兄さん! 助けて!」  通りすがりの銀髪美青年に助けを求めたことから、回らなくてもいい運命の歯車が回り始めてしまう。  異世界からきた聖女……ではなく聖者として、神聖力を目覚めさせるためにドラゴン討伐へと向かうことに。王様は胡散臭い。討伐仲間の騎士様たちはいい奴。そして触手生物には、愛されすぎて喘がされる日々。  どうしてこんなに触手生物に愛されるのか。ピィピィ鳴いて懐く触手が、ちょっと可愛い……?  更には国家的に深刻な問題まで起こってしまって……。異世界に来たなら悠々自適に過ごしたかったのに!  異色の触手と氷の(天然)騎士様に溺愛されすぎる生活が、今、始まる――― ※昔書いていたものを加筆修正して、小説家になろうサイト様にも上げているお話です。

愛していた王に捨てられて愛人になった少年は騎士に娶られる

彩月野生
BL
湖に落ちた十六歳の少年文斗は異世界にやって来てしまった。 国王と愛し合うようになった筈なのに、王は突然妃を迎え、文斗は愛人として扱われるようになり、さらには騎士と結婚して子供を産めと強要されてしまう。 王を愛する気持ちを捨てられないまま、文斗は騎士との結婚生活を送るのだが、騎士への感情の変化に戸惑うようになる。 (誤字脱字報告は不要)

狼騎士は異世界の男巫女(のおまけ)を追跡中!

Kokonuca.
BL
異世界!召喚!ケモ耳!な王道が書きたかったので ある日、はるひは自分の護衛騎士と関係をもってしまう、けれどその護衛騎士ははるひの兄かすがの秘密の恋人で…… 兄と護衛騎士を守りたいはるひは、二人の前から姿を消すことを選択した 完結しましたが、こぼれ話を更新いたします

花街だからといって身体は売ってません…って話聞いてます?

銀花月
BL
魔導師マルスは秘密裏に王命を受けて、花街で花を売る(フリ)をしていた。フッと視線を感じ、目線をむけると騎士団の第ニ副団長とバッチリ目が合ってしまう。 王命を知られる訳にもいかず… 王宮内で見た事はあるが接点もない。自分の事は分からないだろうとマルスはシラをきろうとするが、副団長は「お前の花を買ってやろう、マルス=トルマトン」と声をかけてきたーーーえ?俺だってバレてる? ※[小説家になろう]様にも掲載しています。

処理中です...