勇者になるのを断ったらなぜか敵国の騎士団長に溺愛されました

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26話

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ご飯を食べ終わった後はようやくフィレルさんに会える!
ただ、今日の護衛はリベルがしてくれるそうでなんか緊張する。だって団長って暇じゃないよね?

フィレルさんのところに向かっている時もいつもより視線が痛い。あからさまに驚いた顔をして固まってる人もいたし、絶対異例だよね?


「フィレルさん!」

俺が名前を呼ぶといつも通りの微笑みで温かく迎えてくれる。
そのいつも通りに心底ほっとして思わず抱きつこうとするとリベルに肩を掴まれ止められた。

お?なんで?もしかして抱きつくのは失礼だったとか?

仕方なく握手にするとフィレルさんもしっかりと握りかえしてくれた。

「フィレルさん、怪我とかなかったですか?大丈夫でしたか?」

「それはこちらの台詞ですよ、チヒロ殿。いいですか?今後同じ事が起きても今回のような行動はしないでください」

「....すみません。リベルにも言われました。もう同じことはしません。...だからフィレルさんも...死んでもいい、みたいなことは言わないでください」

迷うことなく答えたあの時、生きることをあっさり手放すのかと怖かったのだ。

うっかり最悪の事態を想像してしまい、涙が滲んだ。
そんな俺を見てフィレルさんがくすりと笑った。

なんで笑ってるんですか!俺は怒ってるんですよ!

今口を開くと涙が溢れそうで必死に目で訴える。

「ふふっ、すみません。あまりにも可愛らしいことを仰るので」

ちゃんと話聞いてましたか!?可愛いことなんて一言も言ってませんよ!?耳鼻科行った方がいいんじゃないですか!?

「死んでもいいなどとは思っておりませんよ。あの時、殺される方を選んでもすぐに殺されることはないとふんでいたので」

「えっ!?そうなんですか?」

「ええ。死人に口無し、と言うでしょう?私が生きてチヒロ殿を犯人に仕立て上げたほうが他の貴族たちも重たい腰を上げるでしょうしね」

た、たしかに....!
わー!ちょっと!恥ずかしいじゃんか!
っていうかそんなことまで予測してたんすか!

べそまでかいてしまい顔が熱くなるのがわかる。
そんな赤くなっているであろう俺の顔にフィレルさんが指を滑らせた。

「今回は巻き込んでしまって申し訳ありませんでした。本当に無事でよかったです」

「....フィレルさんのお陰です。助けてくれてありがとうございました」

ああ、ずるい。なんでそんなにかっこいいんですか。

それから少しお茶をしてフィレルさんとは別れた。

ちなみに、誘拐の危険があるとフィレルさんが王様に抗議してくれたお陰で俺はまたこの砦での生活に戻れることになった。

あの近衛団員の男は捕まったが結局黒幕は分からずじまい。
ただ、フィレルさんは心当たりがあるとかないとか。
その時のフィレルさんの顔が少し怖くてそれ以上聞くのはやめた。



◇◇◇◇



「ヴィス!みんな!」

今度は走ってヴィスに抱きついたので止められることはなかったが、べりっとすぐに剥がされた。

トリスさんにも会いたかったんだけど、魔力をたくさん使ったので今は休んでいるらしい。
転移陣のある転送は少ない魔力で済むといっても一日に何度もやるものではないそうだ。

「...お前、いつもこんな軽々しく抱きついてるのか?」

「別にいつも抱きついてるわけじゃないけど...ダメなの?」

「...駄目ではないが....、もう少し警戒心を持て」

え?なんでヴィスたちに警戒心持たないといけないの?

「そんなに心配しなくても、団長が怖くて此処には手出す奴なんかいませんよ」

ケラケラと笑いながらライドが言うとリベルはため息をついた。

「そういう問題じゃない」

「まあ、気持ちはわかりますけどね。本人は自覚無しってのがまた。でも、あんまり縛ると嫌われちゃいますよ?」

「うるさい」

.....相変わらずこの2人はなにを話しているのかわからない。
よくわからないことで盛り上がっている2人を無視してヴィスとリュードにお礼を言った。

「ヴィス、リュード、助けに来てくれてありがとね。サムもローレンも心配かけてごめん」

「いや....、俺はなにもできなかった」

「え?でもヴィスが近衛団員の男の匂いを追ってくれたから居場所特定できたって聞いたけど」

「居場所はフィレル様の部下がすでに特定していた。俺がやったことといえばその援護くらいだ」

.....十分じゃね?ったく、リベルといいヴィスといい全部自分で解決しないと気が済まないのか?

「俺が助かったって言ってるんだからいーの!勝手に自己嫌悪しないで!」

「それだけじゃない。連れていかれる時でさえ何もできなかった」

.....それ、本気で言ってる?

「ヴィスは護ってくれたじゃんか!俺の前立って庇ってくれたじゃん!あれ、めちゃくちゃ助かったよ?だからそんなこと言わないで」

まったくもう、どれだけ俺がみんなに助けられてると思ってんの。あれでなにもできてないとか言われたら俺が惨めになるからやめてっ。

「ははっ、チヒロの勝ちだな、ヴィス」

「....ああ、悪かった。もう言わないよ」

ライドが笑いながらヴィスの背中をバシバシ叩く。
ようやく納得してくれたようでよかった。

「.....怪我は?」

サムがいつの間にか隣に来ていて心配そうに聞いてきた。

「かすり傷ひとつないよ!ありがとう」

笑顔で答えると頭へ手を伸ばされた手が置かれることなくぴたりと止まる。

あれ、いつもだったら撫でてくれるのに。

サムをみるとその視線はリベルへと向けられている。
結局、手は頭に置かれることなく降ろされてしまった。


「リベル団長」


その理由を聞く前にヴィスが驚くほど真剣な顔つきでリベルを呼んだ。
どことなく緊張した様子に、みんなヴィスの方を見て次に来る言葉を待つ。

「チヒロに護りの誓いを立ててもよろしいでしょうか」

その言葉にみんな同じような反応をした。
いや、反応という反応はライドが口笛を吹いたくらい。他のみんなは驚くわけでもなく、まるでわかっていたかのように静かにヴィスを見つめるだけ。

つまり、俺だけが素っ頓狂すっとんきょうな反応をしたのである。
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