金なし道中竜殺し

しのはらかぐや

文字の大きさ
29 / 63
3章 サマク商国

第28話 ゴミの活用

しおりを挟む

植物から葉っぱを確保し焚き火を焚いたたおかげで一行は比較的暖かな夜を過ごすことができた。
不寝番に抜擢されがちなアルアスルや等加ではなく、今日はタスクが火の番を任されている。
降ってきそうなほど眩い星空が白み始めても何かを叩き弄る音は絶えることがない。
涙でも浮かべれば睫毛ごと凍りそうなほど寒い夜でタスクは汗をかいている。

「どうや…?わかるか?」

地平線から昇ってきた真っ赤な朝日がタスクの後ろから差し込んでその漆黒の髪をなぞり弾ける。
薄く緑のかかった視界がはっきりするにつれて様々な情報が濁流のように流れ込んでくる。

「お…さ………」

「お!大丈夫か?」

タスクの期待した笑顔が眩しく逆光に消えていく。
タスクの手元に寝かされていた鉄塊は次の瞬間に物凄い勢いで立ち上がるとけたたましい警告音を鳴らした。

「ピーッピーッ!おはようございます!」

「な、な、な、なんや!?」

一行は日の出と同時にとんでもない音で強制的に起こされた。

「…で?これが昨日のゴミ?」

「えーすごい!」

敵襲かと大慌てで各々の武器を手に取り混乱を極めた一行をタスクが一喝して大人しく座らせる。
目の前には見覚えのないヒューマンが立っていた。

「すみません。記憶回路に混乱がありました」

恭しく頭を下げるそのヒューマンはよく見ると体がつぎはぎである。
指の関節、足の関節、フォーマルなスーツに見せかけた服のような部分、光る文字の流れる首、ヒューマンのような様子でありながら確実に生物ではない。
何もかもが鉄でできているそれは昨日の鉄塊だった。

「錆び取りして研磨して必要なパーツは入れ替えて…動くようになったわ!」

「ほんまにこれが人工物…?」

「機械族や。心は人工物やないで」

莉音はヒューマンを模した鉄塊に近づいてまじまじと見つめる。
昨日は汚れて溶けて何かもわからなかった頭部もタスクによって修復されかなり整った顔立ちになっている。
頬の触り心地や温かみ、短く切り揃えられた赤褐色の髪は人工のものとは思えない。
ただ、剥き出しの手足はどう見てもたてのりのプレートと同じような素材でできており、光を反射していた。
それどころか手足はぼんやりと怪しげな青い光を放っている。

「私は世話役のセバスチャン。ご登録を」

セバスチャンと名乗ったそれは莉音を見つめ返して手を取る。
左目には何か文字のようなものが浮かんでいた。

「と…登録?」

「俺も詳しくは知らんのやけど、確かこの型は子守りとか任せるボディーガードタイプのやつやと思う。登録したら守ってくれるんちゃうかな」

タスクはセバスチャンの背中を開いて何か設定をいじっている。

「はい、莉音様ですね。かしこまりました」

「え!なに登録してんねん!」

「まぁ試しや!たてのり!莉音のこと殴ってみい」

タスクはセバスチャンと等加、アルアスルに下がるようにと合図をする。
たてのりはため息をひとつつくと嫌そうな顔をしながら刀を抜いた。

「い、いやいや、せめて切られる側か切る側は俺とかのがええんとちゃう!?万が一のことがあったら…!」

アルアスルが焦るがタスクはなだめるだけで取り合おうとしない。
剣を抜いたたてのりに莉音はただ怯えて口をあんぐり開けたまま固まった。

「おい、本気でか?」

「大丈夫や!本気でいってくれ」

タスクの言葉が終わるのを待たずにたてのりは莉音に向かって踏み出し、大剣を振りかぶった。
莉音の目では到底追えない速さで振り下ろされた剣を等加とアルアスルが見守る。

「いや……!」

キィン!
金属同士が擦れる音が砂漠いっぱいに響き渡る。
莉音の前には風よりも速く飛んできたセバスチャンが立ってたてのりの剣を受け止めていた。

「え…わ…ほ、ほんまに…」

「ほぉ…?」

目を見開く莉音をよそにたてのりは目を細め高揚したように笑った。



技を付与していない単純な太刀筋とはいえ、攻撃力に特化したたてのりの剣を正面から受け止められる存在はほとんどいない。
やわな装備や中途半端な力では装備ごと斬られるか吹き飛ばされるのが普通だ。
セバスチャンは表情ひとつ変えずに赤く点灯する左腕一本でたてのりの剣を受け止めている。

「う、嘘やろ…どんだけ硬い素材でできてんねん…」

「あれは素材じゃないね。腕に上等の防御膜を張っているんだ」

等加は興味深そうに口元に笑みを湛える。
たてのりは鮮やかな緑の瞳いっぱいに喜びの狂気を滲ませて飛びすさり、最初の攻撃よりも素早く強く踏み込んでセバスチャンに再び斬りかかった。
セバスチャンは莉音の前から一歩も引かず堂々と剣を受け止めた。
金属が擦れて火花が散る。
セバスチャンは力一杯腕を払ってたてのりの剣を払い、よろめいたたてのりを蹴飛ばした。

「ふぅっ……」

「たてのん!」

プレートを身につけていないたてのりは鳩尾を抉られてうめきながら吹き飛ぶ。
受け身も取れずに砂埃を上げながら転がってそのまま池の中に落下した。

「…死んだんちゃうか?プレートつけてへんし、紙防御やぞ」

「…ぷあっ!ゲホゲホ!」

「無事みたいだね」

よろよろと岸に上がる姿は無事とは言い難い。
盛大に咽せたたてのりはそれでもどこか嬉しそうだった。

「…もしかして、そういうヘキの人?」

眉を顰める等加にアルアスルは笑いを堪えながら適当に頷いた。

「…ある意味そうやな。戦闘狂ってやつや…」

放っておけば何度でも斬りかかりそうなたてのりを制してタスクはセバスチャンを見る。
セバスチャンは顔色どころか相変わらず表情も変えずに莉音の前に立っていた。
胸の辺りにあるネクタイを模した場所から光が漏れ、どこからか排気音のような音がしている。

「すごいな、やっぱりそういう風に作られてるんや…」

「あ、あの、せ、セバスチャン…さん…?ありがとう…」

等加より少しだけ大きいくらいの小柄なセバスチャンを見上げて莉音は礼を言う。
そこで莉音に向けてセバスチャンは初めて表情を崩し完璧な笑顔を向けた。

「いえ。ご無事でなによりです」

「ひえ…」

あまりに眩しい笑顔に全員の目が釘付けになる。
しかし、顔を上げた次の瞬間にはもう表情筋が存在しないとでも言わんばかりの皺ひとつない無表情に変わっていた。

「こいつ、おもろない?俺が世話するし連れて行こうや」

「ボディガード…つまり盾役やろ?う~ん欲しいけど…これ以上人が増えたらもう養えへんぞ…」

アルアスルは頭の中でそろばんを弾いて計算している様子だ。
全身の水を絞ったたてのりは上機嫌でアルアスルの肩を組むと珍しくねだるような素振りを見せた。

「俺も連れて行きたい。ダメか?アル」

「……」

アルアスルは面白くなさそうにたてのりを睨みつけると据わった目でため息をついた。

「しゃあないな~!もう!ほな連れてこ!ちゃんと面倒見るんやぞ!」

「アルにゃん、子供が犬猫拾ってきたお母さんみたいなこと言ってるね」

「いやまさしくそうやろ…」

等加と莉音がアルアスルに聞こえないくらいの声量で内緒話をする。
たてのりとタスクは嬉しそうにセバスチャンの肩を掴んでついてくるようにと説得していた。

「セバスチャン、この後俺らパーティで世界巡るねん。一緒に来てや」

あまりにも簡単すぎる説明だが、セバスチャンは詳細も聞くことなく恭しく礼をした。

「はい、マスター。仰せのままに」

セバスチャンにとって修理と初期設定をいじったタスクは創造者である。
完全に主従関係が出来上がってしまっていた。

「皆様を登録されますか?」

「うーん、設定は便利やけどちょっと堅苦しすぎるよなぁ」

鍛冶屋で下っ端として育ったタスクは慣れない扱いに頬を掻いて困惑する。
無抵抗に背中を開いたセバスチャンの内部を弄りながらタスクは流れてきた汗を拭った。

「完全にリセットしてみるか」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! 仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。 カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

MP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 ファミ通文庫大賞 一次選考通過

熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)

MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜

奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。 パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。 健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

処理中です...