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第一章・望まない形で
1・私が死んだ夜
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私はたった今死んだ…誰にも見送られずに。
一体私が何をしたと言うの?家族や夫や友人、そして他人にだって迷惑をかけた覚えなんてない。それなのに…どうしてこんな孤独な死を迎えなくてはならなかったの?
悲しみで涙が溢れるけど、本当に流れ落ちたりはしない。だって死んでしまっているから…
私は死んだらそこからの記憶なんてなくて、幕を下ろすようにプッツリと終わるんだと思ってた。その瞬間からは苦しみや悲しみから解放され、ただ静かに眠るだけ…
それからどうなる?そんなの私が知る訳ない。新しい生を得るのか、そのまま永久に眠り続けるのか…だけどそんなのは所詮死んだ後のこと。死後の世界には色んな説があるけど、結局は自分が体験してみないと本当がどうかなんて分からない。それなのに…
私は今、プカプカと宙に浮かんでいる。空気中に漂っていると言うのが正解なのか…
そして真下には自分の死体が横たわる。幸か不幸かベッドの上で倒れたから、まるで眠っているように見える死体。だけどその身体をひとたび触ったら分かる…冷たくなっていることを。
──ガチャリ。
突然のその音に振り返ると、そこには勤務を終えた夫が立っていた。その姿に死んでもなおドキリとする心を恨めしく思う。帝国騎士団の副団長を務める夫エズラ・ロウレン。騎士らしく立派な体格に、それに似つかわしくないほどの端正な顔立ち。艶のある黒髪にどこまでも蒼い瞳…そんなこの人を愛していた。だけどそれももう、終わりなんでしょうね。
音も聞こえることが分かった私は、移動も出来るのかと思い切って空を蹴ってみる。するとスーッと横滑りする身体。目の前には夫の顔…心なしか疲れているように見える。そして家に帰り着いたというのに、相変わらずの冷たい表情を浮かべていて…
ベッドで横たわる私の身体は布団すら掛けていない。今は春先だけど、毛布も掛けずに寝るなんて考えられない時期。なのに夫はチラリと一度視線を送っただけで、声も掛けずに部屋の奥のクローゼットへと消えて行った。私になど一切の興味もないように…
『私は死んでいるのよ?早く気付いて!』
そんな夫の態度に哀しくなり、声にならない叫びを上げる。予想はしていたけど声は出せない…そして夫の反応から知ったのは、やはり姿も見えてはいないってこと。
だけどこの胸の痛みは何?私は死んでしまったけど、心は確かにここにある。苦しい!結婚して既に二年が経っているというのに、露とも愛されていない私が憐れ過ぎる!そこまで夫は私を疎んでいるのかしら…
哀しみと苦しみで震える身体を自分で抱き締めていると、奥から夫が戻ってくる。軍服を脱ぎ、ラフな服装に着替えた夫の姿。そんな姿を見ているとある既視感が。
三年ほど前…まだ伯爵令嬢だった私は、この人に一目惚れをした。私は家族と一緒にデビュタントのドレスを注文にに来ていて、それを終え店の前で馬車を待っていた。父と兄が先に馬車止めに向かい、義妹のシンシアと二人で立っていると、そこに現れたのは引ったくりの男。私の持っていた鞄が奪われ、走り去る男の背中を唖然と見ていることしか出来なかった私達。そこに居合わせたのは、偶然プライベートで街に来ていたエズラ。騎士らしく鮮やかに泥棒を捕まえる姿に目を奪われる。返ってきた鞄を受け取り、お礼を言ってその場は別れたけど、私の胸は密かに弾みっぱなしだった。それから暫くして、何とエズラから婚約の申し込みをされて…
私がどれだけ嬉しかったか分かる?いつも愛らしいシンシアと比べられて自信を失っていた私。それなのに私を選んでくれた…それも一目惚れした相手に。それでとんとん拍子に婚約し、デビュタントを終えて直ぐに結婚した。なのに…幸せの絶頂な筈の新婚生活は、当初から冷え切っていた。望まれて結婚したのにどうしてかしら…
──私が悪いの?私が思っていたのとは違っていたってこと?
そんなことをくどくどと考えていたけど、答えなんて出る筈がない。それでも何とか愛されようと努力してきた。だけど跡継ぎにもなかなか恵まれなかったこともあって、どんどんロウレン侯爵家で肩身が狭くなっていった。それもとうとうこれで終わり…愛されないと嘆くのも、あなたを求めて泣き明かすのも終わりなんだわ。
「どうしてそんな格好で寝ているんだ。ロウレン家の夫人として、有るまじき姿だとは思わないのか?」
今日初めて聞いた夫の声…それが私をなじる言葉だなんて。確かに着ているスカートの裾はまくれて、ふくらはぎがほんの少し覗いている。だけど…突然の胸の痛みで何とかベッドまで辿り着いて、それからバタリと倒れ込んでいた。そしてそのまま死!
そんなの構っている場合じゃないし、胸だけでなく全身を刺すような痛みに耐えるのがやっとだった。おまけに自室で、人の目だって皆無。たった一人で寂しい死を迎えた、妻に対する言葉がそうだなんて…もう嫌!
「聞こえているのか?夫が勤務を終えて帰って来たというのに出迎えもせずに。おい!」
夫からの最後の言葉が『おい』だなんてね。だけどもう、どうでもいい…私は最期まで夫から愛されなかったというだけのこと。それから諦めの先に思うのは、私がここにこうやっている意味。
──もしかしたら、これまでの人生に未練を残さないため?
一般的によく言われるのは、死んだら死神や天使が迎えに来るということ。鎌を振り上げる死神…光に包まれている天使?だけど残念ながらそんな姿は見えない。『どっちでもいいから早く私を連れて行って!』と叫びたいくらいだけど…
もしもこれが未練を捨てさせようという意図だとしたら、成功なんだと思う。自分の心を守る為になるべく考えないようにしてきたけど、私達の結婚は失敗だったから…
そんなことを思って再び見下ろすと、エズラがやっと何かおかしいことに気付いたよう。ベッドに近付いて…
「フ、フレデリカ?」
私はぎゅっと強く目を閉じた。もう見ていられない…きっとエズラは、私が死んだことに気付いたとしても変わらない。最初は流石に驚くだろうけど、それからは淡々と…それが分かっているから。
フッ…と笑いを漏らした私は、心残りと言えるのかどうかは別だけど、うってつけの場所がもう一軒あることを思い出す。私の実家であるノートン伯爵家を。
──念じてみようか?そうなるとは限らない…だけど早くこの場から離れたい。
そして私は静かに目を閉じ、今となっては相当遠くになってしまった実家を思い浮かべる。まだ離れて二年しか経っていないというのに、心の上では果てしなく遠い…複雑な感情が渦巻く場所を。
──ブゥン!
一瞬、物凄い勢いで飛ばされる感覚。ほんの僅かな時間だったと思うけど、逆に永遠に続くかとも思えた不思議な感覚。そして恐る恐る目を開けると…そこには懐かしいリビングが広がっていた。結婚してから実家には寄り付きもしなかったから、およそ二年ぶり…驚くほど変わっていない。そしてそこには…
「そういえばお父様にお兄様、もうじきお姉様の誕生日ではありませんか?随分長くお会いしていないし、こちらで用意して誕生会を開いて差し上げたらいかがでしょう」
今となっては一番聞きたくない声…義妹のシンシアだ。一見優しいことを言われているようだけど、そうじゃないのを私は嫌と言うほど知っている。
「うーん…フレデリカの誕生日はあっちでやるだろう。それよりも大事なのは、その後のシンシアの誕生日ではないか。今年は盛大に開くとしよう。招待客も大勢呼んで…そうだ!その時にフレデリカも呼んでやろうか?」
懐かしいお父様…だけどそれで私が喜ぶとでも?相変わらず私のことは頭にもない。だけど私が死んだ今、その誕生会を開くのは難しいでしょうね。愛していない娘だったとしても…
「そうだぞ?シンシアの誕生日の方がずっと大事だ。だけどシンシアは…本当に優しいな?どこの誰かは、結婚してから挨拶にも来やしない。ホント冷たい奴だ」
その誰かは死んだのです…お兄様。結婚して直ぐ夫の仕打ちに耐え兼ねて、実家に帰りたいと言った私を拒絶したのはお兄様です。お前が帰る場所はない!と言って…なのに?
ほら、うってつけでしょう?この人達は私を傷付ける天才なんです。私がこの家にいる時から弱いフリをして、私を陥れるのが得意だったシンシア。そして二人はそれを疑うこともなく、一方的に私だけを責める…だからこの生まれ育ったノートン家でさえも、味方など一人もいなかったから。そうなると…
私の人生は何の為にあったの?実家の家族からも夫からも愛されず、ずっと孤独の中だった。最後に愛された思い出は、八歳の時で終わってしまっている。大好きだったお母様が亡くなって…
それから二年もの間、死んだように過ごしていた私達家族の前に、突然現れたのがシンシア。母親同士が従兄弟で、両親が亡くなった為にノートン家にやって来た男爵家の一人娘。そこで心底驚いたのは、顔立ちがお母様にソックリだったこと。希少なピンク色の髪に翡翠色の瞳。そして誰から見ても可愛らしい。お父様とお兄様は当然、シンシアに夢中になった。お母様が帰って来たかのように喜ぶ二人。それからはいつだって私などそっちのけで、シンシアを優先しどっちが本当のノートン家の令嬢なのか分からない始末。それから直ぐお父様は、ノートン家の籍にシンシアを入れた。当初は後見という形だった筈なのに…
シンシアには私も最初は驚いたものの、所詮は違う人…そう客観的に見ていた。きっと二人もそのうち現実を見るだろうと思いながら。それが…今でも続いているなんてね?そしてこの三人は、私が死んだと知っても悲しまないのでしょう。
私はそう悟り一筋の涙を流して、再び目を閉じて祈った。もう思い残すことなんてないと…
それからどれくらいの時が経ったのだろう。再び目覚めると白い空間の中にいた。ここが天国かなと思った時、グラリと世界が揺れる。目を閉じていて本当に揺れているのかは分からないけど、相当強い横揺れに眉間に皺を寄せて耐える。それから閉じている瞼の裏に眩しいほどの光を感じると…
「フレデリカはどうして黙っているんだ?お前のドレスをシンシアに譲れと言ったのが気に入らないのか」
──お、お父様の…声?
「そうなのか?お前よりもシンシアの方が似合うからそう言っているんだぞ。恥をかく前に親切でそう言ってやっているのに」
──次はお兄様?それにどこか聞き覚えのあるこの会話…
もしかしてあの世かしら?だけど二人の声が聞こえるなんて有り得ない。
困惑しながらパチリと閉じていた目を開くと…私を覗き込む三人の顔が見える。お父様とお兄様、そしてシンシアの驚いている顔がある。こ、これは…どうしたというの!?
一体私が何をしたと言うの?家族や夫や友人、そして他人にだって迷惑をかけた覚えなんてない。それなのに…どうしてこんな孤独な死を迎えなくてはならなかったの?
悲しみで涙が溢れるけど、本当に流れ落ちたりはしない。だって死んでしまっているから…
私は死んだらそこからの記憶なんてなくて、幕を下ろすようにプッツリと終わるんだと思ってた。その瞬間からは苦しみや悲しみから解放され、ただ静かに眠るだけ…
それからどうなる?そんなの私が知る訳ない。新しい生を得るのか、そのまま永久に眠り続けるのか…だけどそんなのは所詮死んだ後のこと。死後の世界には色んな説があるけど、結局は自分が体験してみないと本当がどうかなんて分からない。それなのに…
私は今、プカプカと宙に浮かんでいる。空気中に漂っていると言うのが正解なのか…
そして真下には自分の死体が横たわる。幸か不幸かベッドの上で倒れたから、まるで眠っているように見える死体。だけどその身体をひとたび触ったら分かる…冷たくなっていることを。
──ガチャリ。
突然のその音に振り返ると、そこには勤務を終えた夫が立っていた。その姿に死んでもなおドキリとする心を恨めしく思う。帝国騎士団の副団長を務める夫エズラ・ロウレン。騎士らしく立派な体格に、それに似つかわしくないほどの端正な顔立ち。艶のある黒髪にどこまでも蒼い瞳…そんなこの人を愛していた。だけどそれももう、終わりなんでしょうね。
音も聞こえることが分かった私は、移動も出来るのかと思い切って空を蹴ってみる。するとスーッと横滑りする身体。目の前には夫の顔…心なしか疲れているように見える。そして家に帰り着いたというのに、相変わらずの冷たい表情を浮かべていて…
ベッドで横たわる私の身体は布団すら掛けていない。今は春先だけど、毛布も掛けずに寝るなんて考えられない時期。なのに夫はチラリと一度視線を送っただけで、声も掛けずに部屋の奥のクローゼットへと消えて行った。私になど一切の興味もないように…
『私は死んでいるのよ?早く気付いて!』
そんな夫の態度に哀しくなり、声にならない叫びを上げる。予想はしていたけど声は出せない…そして夫の反応から知ったのは、やはり姿も見えてはいないってこと。
だけどこの胸の痛みは何?私は死んでしまったけど、心は確かにここにある。苦しい!結婚して既に二年が経っているというのに、露とも愛されていない私が憐れ過ぎる!そこまで夫は私を疎んでいるのかしら…
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私がどれだけ嬉しかったか分かる?いつも愛らしいシンシアと比べられて自信を失っていた私。それなのに私を選んでくれた…それも一目惚れした相手に。それでとんとん拍子に婚約し、デビュタントを終えて直ぐに結婚した。なのに…幸せの絶頂な筈の新婚生活は、当初から冷え切っていた。望まれて結婚したのにどうしてかしら…
──私が悪いの?私が思っていたのとは違っていたってこと?
そんなことをくどくどと考えていたけど、答えなんて出る筈がない。それでも何とか愛されようと努力してきた。だけど跡継ぎにもなかなか恵まれなかったこともあって、どんどんロウレン侯爵家で肩身が狭くなっていった。それもとうとうこれで終わり…愛されないと嘆くのも、あなたを求めて泣き明かすのも終わりなんだわ。
「どうしてそんな格好で寝ているんだ。ロウレン家の夫人として、有るまじき姿だとは思わないのか?」
今日初めて聞いた夫の声…それが私をなじる言葉だなんて。確かに着ているスカートの裾はまくれて、ふくらはぎがほんの少し覗いている。だけど…突然の胸の痛みで何とかベッドまで辿り着いて、それからバタリと倒れ込んでいた。そしてそのまま死!
そんなの構っている場合じゃないし、胸だけでなく全身を刺すような痛みに耐えるのがやっとだった。おまけに自室で、人の目だって皆無。たった一人で寂しい死を迎えた、妻に対する言葉がそうだなんて…もう嫌!
「聞こえているのか?夫が勤務を終えて帰って来たというのに出迎えもせずに。おい!」
夫からの最後の言葉が『おい』だなんてね。だけどもう、どうでもいい…私は最期まで夫から愛されなかったというだけのこと。それから諦めの先に思うのは、私がここにこうやっている意味。
──もしかしたら、これまでの人生に未練を残さないため?
一般的によく言われるのは、死んだら死神や天使が迎えに来るということ。鎌を振り上げる死神…光に包まれている天使?だけど残念ながらそんな姿は見えない。『どっちでもいいから早く私を連れて行って!』と叫びたいくらいだけど…
もしもこれが未練を捨てさせようという意図だとしたら、成功なんだと思う。自分の心を守る為になるべく考えないようにしてきたけど、私達の結婚は失敗だったから…
そんなことを思って再び見下ろすと、エズラがやっと何かおかしいことに気付いたよう。ベッドに近付いて…
「フ、フレデリカ?」
私はぎゅっと強く目を閉じた。もう見ていられない…きっとエズラは、私が死んだことに気付いたとしても変わらない。最初は流石に驚くだろうけど、それからは淡々と…それが分かっているから。
フッ…と笑いを漏らした私は、心残りと言えるのかどうかは別だけど、うってつけの場所がもう一軒あることを思い出す。私の実家であるノートン伯爵家を。
──念じてみようか?そうなるとは限らない…だけど早くこの場から離れたい。
そして私は静かに目を閉じ、今となっては相当遠くになってしまった実家を思い浮かべる。まだ離れて二年しか経っていないというのに、心の上では果てしなく遠い…複雑な感情が渦巻く場所を。
──ブゥン!
一瞬、物凄い勢いで飛ばされる感覚。ほんの僅かな時間だったと思うけど、逆に永遠に続くかとも思えた不思議な感覚。そして恐る恐る目を開けると…そこには懐かしいリビングが広がっていた。結婚してから実家には寄り付きもしなかったから、およそ二年ぶり…驚くほど変わっていない。そしてそこには…
「そういえばお父様にお兄様、もうじきお姉様の誕生日ではありませんか?随分長くお会いしていないし、こちらで用意して誕生会を開いて差し上げたらいかがでしょう」
今となっては一番聞きたくない声…義妹のシンシアだ。一見優しいことを言われているようだけど、そうじゃないのを私は嫌と言うほど知っている。
「うーん…フレデリカの誕生日はあっちでやるだろう。それよりも大事なのは、その後のシンシアの誕生日ではないか。今年は盛大に開くとしよう。招待客も大勢呼んで…そうだ!その時にフレデリカも呼んでやろうか?」
懐かしいお父様…だけどそれで私が喜ぶとでも?相変わらず私のことは頭にもない。だけど私が死んだ今、その誕生会を開くのは難しいでしょうね。愛していない娘だったとしても…
「そうだぞ?シンシアの誕生日の方がずっと大事だ。だけどシンシアは…本当に優しいな?どこの誰かは、結婚してから挨拶にも来やしない。ホント冷たい奴だ」
その誰かは死んだのです…お兄様。結婚して直ぐ夫の仕打ちに耐え兼ねて、実家に帰りたいと言った私を拒絶したのはお兄様です。お前が帰る場所はない!と言って…なのに?
ほら、うってつけでしょう?この人達は私を傷付ける天才なんです。私がこの家にいる時から弱いフリをして、私を陥れるのが得意だったシンシア。そして二人はそれを疑うこともなく、一方的に私だけを責める…だからこの生まれ育ったノートン家でさえも、味方など一人もいなかったから。そうなると…
私の人生は何の為にあったの?実家の家族からも夫からも愛されず、ずっと孤独の中だった。最後に愛された思い出は、八歳の時で終わってしまっている。大好きだったお母様が亡くなって…
それから二年もの間、死んだように過ごしていた私達家族の前に、突然現れたのがシンシア。母親同士が従兄弟で、両親が亡くなった為にノートン家にやって来た男爵家の一人娘。そこで心底驚いたのは、顔立ちがお母様にソックリだったこと。希少なピンク色の髪に翡翠色の瞳。そして誰から見ても可愛らしい。お父様とお兄様は当然、シンシアに夢中になった。お母様が帰って来たかのように喜ぶ二人。それからはいつだって私などそっちのけで、シンシアを優先しどっちが本当のノートン家の令嬢なのか分からない始末。それから直ぐお父様は、ノートン家の籍にシンシアを入れた。当初は後見という形だった筈なのに…
シンシアには私も最初は驚いたものの、所詮は違う人…そう客観的に見ていた。きっと二人もそのうち現実を見るだろうと思いながら。それが…今でも続いているなんてね?そしてこの三人は、私が死んだと知っても悲しまないのでしょう。
私はそう悟り一筋の涙を流して、再び目を閉じて祈った。もう思い残すことなんてないと…
それからどれくらいの時が経ったのだろう。再び目覚めると白い空間の中にいた。ここが天国かなと思った時、グラリと世界が揺れる。目を閉じていて本当に揺れているのかは分からないけど、相当強い横揺れに眉間に皺を寄せて耐える。それから閉じている瞼の裏に眩しいほどの光を感じると…
「フレデリカはどうして黙っているんだ?お前のドレスをシンシアに譲れと言ったのが気に入らないのか」
──お、お父様の…声?
「そうなのか?お前よりもシンシアの方が似合うからそう言っているんだぞ。恥をかく前に親切でそう言ってやっているのに」
──次はお兄様?それにどこか聞き覚えのあるこの会話…
もしかしてあの世かしら?だけど二人の声が聞こえるなんて有り得ない。
困惑しながらパチリと閉じていた目を開くと…私を覗き込む三人の顔が見える。お父様とお兄様、そしてシンシアの驚いている顔がある。こ、これは…どうしたというの!?
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